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KEITA FUKAZAWA 深沢慶太 | Film『ボラット』 | 「NEWハイプ研究所2」連載第1回


アメリカ南部、ロデオ大会の会場を埋め尽くす観衆を前にして、ヒゲの男が珍妙な訛りの英語で叫ぶ。「私は、アメリカの”テロ戦争”を支援します! アメリカはイラクに勝利するでしょう」やんやの拍手。続いて、「イラクの生き物を、一匹たりとも残らず焼き尽くすのです! ブッシュ大統領はイラクの女子供全員の生き血を飲み尽くすでしょう!!」。
銃砲店では「ユダヤ人を撃つのに最も適した銃はどれですか?」、フェミニスト団体との対談では「女の脳は男よりも小さい。我が国の科学者が証明していることだ」と言い放つーー。

Borat

ボラット・サカディエフ。カザフスタン情報省の命でアメリカの民主主義を調査すべく派遣された国営テレビのリポーター。往来で会う人すべてに挨拶のキスを迫り、水洗便所の使い方がわからず会食の席に雲古を持ち帰る。この映画は、アメリカを旅する彼の姿と、彼に接するアメリカの一般市民たちが困惑する様子を生々しくとらえたドキュメンタリー映画だ。しかし、今どきエレベーターの乗り方すら知らないジャーナリストなど世界のどこにもいるはずがない。つまりこれは偽ドキュメンタリーであり、主人公ボラットのお下劣極まりない行動を通して、ポリティカル・コレクトネスに縛られながら実は社会に充満する差別意識を浮かび上がらせた、超過激な爆笑ドッキリ映画なのだった。

「我が国では同性愛者刈りをして、奴らを絞首刑にします」という言葉を受けたカウボーイは、「我々もそうしようとしているところです」と答え、ヒッチハイクで出会った大学生たちはまんまと女性差別的な発言を繰り返す。後にこの大学生たちが映画配給会社を相手に訴訟を起こし、それが今作を巡る訴訟祭りの引き金を引くことになった。世界に冠たる米国民にしてみれば、わけのわからない第三世界の田舎者相手に、うっかり気が緩んで本音が漏れてしまった、ということなのだろう。

Borat

その映画が本邦でも奇跡の公開を果たした。事実、お蔵入りしかけたそうで、それはあまりに過激で下品ゆえだそうなのだが、じつは自分が最も気になったのはそこである。さらに加えるならば、「アメリカの実態を痛烈に暴き出している!」という評価はいいとして、反響のほとんどがアメリカ社会の意識レベルをあげつらって喜んでいる。まさに灯台もと暗し。マイケル・ムーア監督の『華氏911』公開時にも感じたことだが、この映画が米国の興行成績で記録的な成功を収め、受賞も多数という時点で、同様の作品の成立はおろか、発表もままならない我が国よりもよほどメディア的に見習うべき点がまだまだあり、そこを看過して「アメちゃんは民度が低い」と悦に入るだけで思考が停止してしまう。これぞアメリカにくしゃみをさせて日本の慢性感冒を照らした、本作の効用だと思うがいかがだろうか。

祖国でボラットがリポートする「ユダヤ人追い祭り」では、ユダヤ人を表しているというハリボテの怪物や、その怪物が産んだタマゴを子供たちまでもが寄ってたかってボコボコにして、唖然。しかし、主演のサシャ・バロン・コーエンはじつはれっきとしたユダヤ系英国人なのだ。彼はFBIからマークされてまで、社会が触れてはいけないとしている禁忌を暴き出すことに徹していたのだった。これぞまさにコメディの真髄であり、それを笑いとして受容できるかどうかにこそ、その国の批評精神、メディアリテラシー的な成熟度、ひいては民度が表れてくるはずで、この映画はずばり、その部分を問うているのである。お下劣だけど。

そう考えるとボラットはある意味、ミシュランの調査員のようなもので、隣国のパクリ遊園地報道を眺めてDQN国家だと溜飲を下げるだけが能と化した”美しい国”にこそ来てほしい……! そう息巻きながら深夜、会田誠がビン・ラディンに扮して茶の間で「探さないでくれ」と語るビデオ作品の真似をして遊んでいたところ、隣家の子供がテロリストと間違えて通報、社会的信用が失墜し、連載開始当初より霞を喰って生きている。法治国家とは報知国家。嗚呼、呆痴国ッ苦搾家ーブルース。

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深沢慶太

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