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ECD + 植本一子 | ECD + 1 = くらし | 「WE ARE ECD+1」Vol.12(最終回)

無事誕生した娘くらしといちこは、5日間を産院で過ごした後、家にやってきた。

Text:ECD
Photo:K先生




ECD

くらしを家のベビーベッドに寝かせると、猫たちが興味津々の様子でベビーベッドに飛び乗って、くらしの顔に鼻先を近づける。ひっかかれでもしたら大変なので、近づけないように部屋の襖を閉めて猫たちを閉め出した。

しばらくすると、くらしが泣き始めた。その泣き声に応えるように襖の向こうのターちゃんが鳴き声をあげる。それだけではなく、ターちゃんは襖に体当たりをして、ついには外してしまい、隙間から部屋に入って来ると、くらしを抱いてあやしているいちこのまわりを鳴き声をあげながらぐるぐるまわりはじめた。そんな風にくらしの泣き声に反応するのは年長のターちゃんだけで、子猫のニーニとネーネは黙っている。
それにしても産院でミルクを飲ませてからまだ2時間も経っていない。お腹が空いて泣き出すにはまだ早いはずだった。先生からはミルクを欲しがって泣いても、3時間経つまでは我慢させるように言われているのだった。いちこがおむつを見るとうんちをしていたのでおむつを替えてあげる。それでもまだ泣き止まない。なんで泣くのかわからない。
「先生に電話して聞いてみようか?」
と不安げないちこだったが、すぐにこういう時は砂糖水をあげればいいと言われていたことを思いだし、哺乳瓶に入れた砂糖水を与える。くらしはぐいぐいと飲み始める。

追い出したはずなのにいつの間にかまた部屋に入って来たターちゃんが、くらしの頭に猫パンチを繰り出す。そんなてんてこ舞いのなか砂糖水を飲み終えたくらしは、さっきまで泣いていたのが嘘のように眠りこけた。それから今度は4時間眠り続けてみたり、夜中になると寝たと思ったら1時間で泣き出し、ミルクをあげても泣き止まなかったりと、寝入っても泣き出してもこちらの思うようにはいかなかった。
いちこは、くらしが大人しく寝ているあいだも休めるわけではなかった。搾乳といって母乳を搾って哺乳瓶に貯め、次に目を覚ました時のために備えるのである。自分の手が疲れると、いちこは僕にもその乳絞りを手伝わせた。僕もいちこもほとんど眠れないまま、家での第一夜は過ぎた。

翌日は広島からいちこのお父さんお母さんがやってきた。やがて僕の父も現れて、初めてふたりの親同士が対面した。もともと僕と違い話し好きで気さくな父は、すぐにいちこの両親と打ち解けた。
心配なのはいちことおかあさんのことだった。いちこは妊娠を告げた際に、お母さんから「裏切られた。」と言われて以来、自分の母親に対して強いわだかまりを持つようになっていた。そのお母さんが産後の母体を休ませるために、最低一週間は家でいちこに代わって家事全般をしてくれることになっていた。
出産前にいちこを苦しめた不安にも、実は出産そのものだけではなく、自分の母親と一週間とはいえ暮らさなければならないことが大きな影を落としていた。お父さんは日帰りで帰ることになっていた。
やがて父が帰り、お父さんも広島に帰るためひとり羽田に向かった。家には僕といちことくらしとお母さん、それに猫たちが残った。

いちことお母さんの関係は、想像以上に険悪だった。台所用品の使い方をめぐる行き違いから、ついにいちこは泣き出した。そして布団から出てこない。夕食の食卓を囲んでも黙ったまま泣いている。そうかと思えば、この日、乳の出が急によくなったいちこは、自分の乳首からクロスを描いてほとばしり出るお乳を見せて、さっきまで泣いていたのが嘘のように声を出してケラケラ笑った。僕もゲラゲラ笑いながら乳房を搾った。夜遅くなって、まだ1時間も寝ていないのにくらしが泣き出した。様子をみるためにベビーベッドをのぞきこみ、うしろを振り返ると布団の上に座ったいちこはまた涙を流している。

「いちこ、おむつ!」

そう僕がうながして、やっといちこは立ち上がった。
この2日間僕は仕事を休ませてもらっていたのだが、翌朝は仕事のため8時には家を出なければならなかった。くらしが泣くたびに目を覚ましていると、朝が来るのはあっという間だった。朝食を済ませ家を出る前に寝室を覗くと、布団の上では寝付かないくらしをお母さんがあやしているところだった。

職場に着いて携帯を見ると、いちこからメールが入っていた。

「お母さんが寝かせてくれたよ」

2時間後またメールがあった。

「お母さん買い物行ってる時に私うんこしてたらくらしが泣き出しちゃって、そしたらターちゃんが鳴いて知らせに来てくれたよ」

1年前に起きた波紋は、収まるどころかますます激しく大波となって僕たちを翻弄している。しかし、その波の乗り心地は思いのほか悪くないのだった。(終)


ECD

植本一子

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