
黒田潔 | アラスカ紀行 | 「TO THE FOREST」Vol.1
独自の線画イラストレーションを武器に、様々なメディアで活躍するアーティスト/イラストレーター黒田潔。Public/imageとも親交の深い彼が、2010年初頭に、作品集の出版ならびに東京都現代美術館で開催されるグループ展「MOTマニュアル2010」へ参加することが決定!! そこで、Public/imageでは、年明けに向けた短期連載企画として、黒田潔氏に密着し、作品集/展覧会ができるまでを追いかけていきます。
連載第1回目となる今回は、作品集のテーマに決定した「森」にインスピレーションを求め、憧れの地・アラスカを訪れた黒田氏によるアラスカ紀行をお届けします。
Photo & Text:黒田潔
先日、念願叶いずっと行きたかった場所だったアラスカに行くことができた。
そもそもアラスカに興味を持ったのは、星野道夫さんの本と出会ってからだろう。その写真集に収められている壮大なアラスカの風景や、生き生きとした動物たちの姿に感動した。東京では見ることの出来ない荒削りの自然の風景がそこにはあった。
来年、初の作品集を出版することとなり、ずっと描いてきた自然の世界を一冊の本にまとめたくて、「森」をテーマにアイデアを練っていた。そんな中、アラスカの森が自然と作品集のテーマに決まり、今回のアラスカ行きが決まったのだ。
今までは、自然の風景や動物を描く時、図鑑やWeb等からの資料を参考にして描くことがほとんどだった。今回の旅では、東京で過ごす世界とは真逆の壮大な自然が広がる非日常的な環境へ行き、その場所に行って感じたことや感動したこと、新たに発見したこと等を作品に表現できたらと考えている。初めての場所に行く時の、期待と不安が混ざる気持ちを楽しみながら空港に向かった。

成田空港からシアトルまで飛び、そこからアラスカ航空に乗り、シトカへ向かった。シトカは星野さんが愛した場所だ。雲を抜けると、そこにはツンドラ地域ならではの深い針葉樹林の森が茂っている。上空から観る景色にアラスカに来た実感がわく。
久しぶりの長旅で疲労感があったが、ホテルに着いて早速、森を探索することにした。
アラスカに行った事のある友人から色々話は聞いていたのだが、全くの未知の土地であるアラスカの森に、一人で行くのは勇気のいることだった。アラスカの森には多くの動物が棲息しており、一番凶暴な熊といわれるグリズリーにでも会ってしまったら…。想像しただけでも恐ろしかった。でも、そうした不安要素がありながらも、アラスカの森を歩いて確かめたいという気持ちの方が強かった。
星野さんの本の中に、森を歩いていたら、熊の糞が道にあり、そこに存在している怖さを改めて感じながらも、さらに森の奥深くに進みたくなったという心境が綴ってあった。アラスカの森を歩いて行くと、好奇心と恐怖心がせめぎ合うことが分かった。


森の木々は10メートル近くもある大木ばかりで、その存在感に圧倒される。どこまでも続く森を一人で歩いていたら、緑に吸い込まれそうになる。森の中では、たまに聞こえる鳥の鳴き声と、風に揺れる木々の音と、自分の歩く足音しかしない。音のない世界は自分が一人であることを感じさせ、突然恐怖心が生まれてくる。しかし、その緊張感もアラスカの森に来た醍醐味だと思う。ときおりカメラを構えてその風景を収めながら、どんどん森の奥深くへと進んで行く。
最初に行った森は、SITKA NATIONAL HISTORICAL PARKという国立公園で、トーテムポールが多く存在していることから、「TOTEMPARK」とも呼ばれている森だった。
自分の知識の中にあったトーテムポールと、実際にシトカの森にあるものとではだいぶ違い、迫力があってものスゴく怖いというのが第一印象だった。10メートル近いトーテムポールには、人間や動物のどちらとも取れる顔をしたものがたくさんついていて、人間を食べていたり、大きな目を見開いていたりする。森の精霊が宿っているとされているトーテムポールは、巨大な彫刻として森に存在している印象を受けた。


次の日には、足をのばしMosquito CoveTrailを探索した。ダウンタウンからは少し離れた深い森で、最近熊が出たと地元の人から聞いた森だった。
ハクトウ鷲がたくさん飛んでいて、リスが木々の合間から顔を出している。豊かな自然が広がるこの場所には、多くの雨が降り、苔がたくさん育ち、澄んだ空気と綺麗な水が流れている。森の緑は、太陽の光を受け、キラキラと光っている。ここの深い緑は、今まで見たことがないほど輝いていた。時折、雨が降り出しては晴れたりと、天気の移り変わりが激しい。苔が多くの水分を含んでいるのは、この雨の多さがあるからだろう。歩くとふかふかしていて絨毯のようだ。
地面には、根っこが絡み合い、折れた大木には苔がびっしり張りついていて、そのまま森の土へと変化していく様が分かる。太古の昔から同じことを繰り返し、この場所は存在しているということに感動した。自然はただそこに存在しているだけなのに、東京では気づかなかったたくさんのことを与えてくれる。
森の風景を堪能した後は、何を描こうか色々と想像することに没頭した。


Posted by:黒田潔
1975年東京生まれ。イラストレーター/アートディレクター。多摩美術大学大学院美術研究科グラフィックデザイン専攻修了。2003年より独立。新宿サザンビートプロジェクトで2005年グッドデザイン賞受賞。2010年2月より東京都現代美術館「MOTマニュアル2010」参加。2010年3月4日より「@btf」にて個展開催。現在、大阪成蹊大学で客員教授を務めている。
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