
えぐちりか | 対談:福井利佐 | 「PRIVATE ROOM」Vol.2
今最も注目を集める若手クリエイター、えぐちりかが、毎回「今会いたい女性クリエイター」のもとを訪れ、もの作りのスタンスから、女性同士だからこそ明かせるプライベートの話題までを語り合う対談連載企画「PRIVATE ROOM」。
連載第2回目となる今回は、えぐち氏がキュレーションからアートディレクションまでを手がけた「How To Cookdocomodake?」展以来の再開になるという切り絵作家・福井利佐氏との対談です。昨年9月に第一子を出産したばかりの彼女が、仕事、妊娠、子育ての話などを、ざっくばらんに語ってくれました。

えぐち:福井さんが切り絵を始めたのはいつ頃からなんですか?
福井:本格的に始めたのは大学時代です。中学の時に、たまたま学校に切り絵クラブがあって、そこで切り絵をやって楽しかった思い出があったんです。その後、大学2年の終わりに、手法を問わず自由に表現をしていいという課題があって、その時に切り絵のことを思い出して、やってみることにしたのがきっかけです。
えぐち:私も小さい頃にやった技法をもう一度やるのが大好きなので、そういう感じはよく分かります。でも、福井さんのような切り絵という手法で作品を作っている人は、当時ほとんどいなかったんじゃないですか?
福井:大学ではグラフィックデザインを専攻していたんですけど、周りで切り絵をやっている人は誰もいなかった(笑)。その頃は私も切り絵作家としてやっていこうとは思っていなかったんだけど、卒業制作の時に、自分のなかで納得するものが切り絵で作れて、これならやれるんじゃないかと思うようになりました。
えぐち:私は、切り絵は苦手だったんです。小学校の授業でやっても、切るのが下手で、糊もはみ出しちゃったりして(笑)。手先がスゴく器用じゃないとできないし、集中力もスゴく必要ですよね。
福井:「ここまで」という目標を決めて、そこまでは集中して頑張るという感じですね。そこを越えると、集中力がなくなりますね(笑)。


福井氏の卒業制作作品。
えぐち:最近はどんなお仕事をされているのですか?
福井:「婦人画報」の表紙のアートワークを1年間担当することになったんです。毎回、女優さんの洋服やポーズ、季節などに合わせて、切り絵を作っていくという仕事です。まず撮影現場に立ち会って、そこで写真を見てから、どういう絵にするかを想像をしていくんです。
えぐち:上がった写真を見て、そこからインスピレーションを受けて作っていく感じなんですね。スゴく面白い仕事だと思います。
福井:そうですね。まず、写真があがると女優さんにも見て頂いてセレクトをします。そこに私がラフで切り絵の絵柄を何枚か提案し、編集長やアートディレクターが協議して絵柄を決定します。そして、切り上がったものを改めて撮影して合成するという流れです。この仕事は、出産ギリギリまでやっていた「婦人画報」の別の仕事がきっかけで始まったんです。こないだやった最初の号(2010年1月号)も、出産して1ヶ月経たないうちに打ち合わせに行ったりしていました(笑)。

(左)「婦人画報」(アシェット婦人画報社)2010年1月号、(右)「婦人画報」(アシェット婦人画報社)2010年2月号
えぐち:スゴイですね(笑)。それにしても、2008年の10月に「How To Cook Docomodake?」の日本展でお会いした時は、まだ妊娠もされていなかったですよね。それがもうお子さんが産まれているというのが信じられないです。妊娠前と髪型しか変わってないから、全然お母さんに見えない(笑)。
福井:あの頃は全然産む気配なかったですもんね(笑)。今年(2009年)の1月に妊娠していることがわかって、9月に出産しました。
えぐち:ホントにビックリです。実は、私も今妊娠しているんです。4ヶ月目に入りました。
福井:えー、そうなんですか? おめでとうございます!
えぐち:ありがとうございます(笑)。だから、今日は子供の話とかを色々お聞きしたいなと思っていて。福井さんは、妊娠されてからもお仕事をされていたんですよね?
福井:私は9ヶ月目くらいまで、子供向けの造形美術関連の仕事で、週3日会社に通っていたんです。それが逆に良かったのか、普段はつわりが全然なくて。仕事から帰ってきてからとか、休みの日の方が辛かったですね。今のえぐちさんと同じ妊娠4ヶ月くらいの時は、「宝生流 和の会」の公演のために、長絹(ちょうけん)という能衣装に日本画の技法で手描きするというまったく新しい仕事をやったりもしていましたね。その後も、出産予定日の1週間前くらいまで、さっきも少し話した「婦人画報」の仕事でずっと作品を作っていましたね。もし予定日よりも早まっちゃったら途中で一旦中止して、産後に持ち越しという感じで相当ギリギリまでやっていました。間に合った時は、「あー、まだ出なくて良かった」って(笑)。
「宝生流 和の会」手描き鳳凰

(左)「宝生流 和の会」パンフレット、(右)現代能楽集「鵺」ポスター
えぐち:相当仕事しちゃってますね…。
福井:妊娠がわかったばかりの頃は、ちょうど仕事が落ち着いていた時期で、時間に余裕があったんです。だから、それまでにないくらい睡眠も取れていました。でも、その後に色々入ってきちゃって。出産した後も、「婦人画報」の編集長から「出産されたタイミングでちょうどいいから」ということで、その表紙の仕事をお願いされて(笑)。
えぐち:普通、妊娠直後に仕事をお願いするのって遠慮しちゃいそうだけど、福井さんなら大丈夫な気がしたんじゃないですか(笑)。私は、妊娠してから仕事のありがたみが分かったところがあるんです。妊娠すると今までのように仕事だけに思いっきり打ち込むこともできなくなってしまって。そんな時、今までやりたいだけ仕事に没頭できた自分がとても幸せな状況だったということに初めて気がついたんです。できなくなってみて、自分がとれだけこの仕事が好きで、どれだけそれに救われていたのかがわかりました。やっぱり妊娠すると相手が気を使うじゃないですか。でも、余計な気を使わせたくないし、できる限り今まで通り仕事をやりたいんですよね。
福井:やれる範囲の仕事ならやった方がいいと思いますよ。私も妊娠している時は、「この仕事できるんだろうか?」と思いながらやっているところはありました。人によっては、予定日より2ヶ月くらい早く出産しちゃう人なんかもいるみたいだし、予定が立てづらいところはやっぱりあって、後半は毎回ビクビクしながらやっていた記憶はあります。でも、後になって「あの時は子どもがいたからやらなかった」ということを言い訳にしたくなくて。やっぱりやれるうちはやった方がいいと思うんです。
えぐち:私も妊娠がわかった頃は、ひとつの大きな仕事が終わって、次に向けてまたスタミナを蓄えようという時期だったんです。結婚は決まっていたのですが、ロケ続きであまりに忙しかったので、結婚準備すら先延ばしにしていて。で、やっとお休みが取れたので新居に越したり、入籍をすませたり。結婚が一段落して少し落ち着いたら、これからもっと働こうと燃えていたんですよ。そんな矢先の妊娠だったので、「あれ?」って感じで(笑)。普通に、仕事と家庭を両立させるだけでもスゴく大変じゃないですか。まずはそのふたつをがんばってやっていこうと自分のなかでプランを立てていただけに、もうひとつ子育てという試練まで一気に始められるか正直不安もありました。
福井:私は妊娠がわかった途端、カウントダウンが始まる感じがスゴくしました。1月に妊娠したことがわかって、そこから9月の出産予定日までにやらなきゃいけないこととか、出産後の産休のこととかを考えると、2009年の予定がすべてそこで決まっていった感じはありましたね。
「How To Cook Docomodake?」
えぐち:実際にお子さんが産まれてからは、仕事もだいぶ制限されてしまうところはありますか?
福井:私もそうなるかなと思っていたんだけど、旦那や母親とか周りの協力体制を整えておけば、結構できるなと感じています。旦那とお互いに予定を把握し合って、どちらかは家に居られるように毎日予定を調整しています。
えぐち:旦那さん(※イラストレーター 今井トゥーンズ氏)は家では仕事をしていないんですか?
福井:家でもするんですけど、やっぱり私がいない時は、子供の世話で仕事にならないので、普段は事務所で仕事をしています。でも、私がいない時は家にいてくれますね。最初はどうやっていくのかなと思っていたけど、お互いのリズムがちゃんとできていくもんなんですよね。
えぐち:今井さん本当に優しそうな方だから、子育てにも協力的なんですね。逆に赤ちゃんがいるからこそ、時間をキッチリ決めてやっていけるようになるものなんですか?
福井:そうはいっても、赤ちゃんは時間通りにならないですからね(笑)。妊娠している時は身体が不自由だから、早く出てきてほしいって思っていたけど、当然出てきてからはこっちの都合とは関係なく泣いたりするから、スケジュールの管理は私主導にはならなくなる。だから、子供にミルクをあげて、その合間に「起きないかな?」と思いながら、ワーって仕事をしてという感じにはなっちゃいますね(笑)。

(左)作品集「KI RI GA」、(右)「鳩時計コレクション」
えぐち:そうですよね。でも、常に赤ちゃんを見ながら、家で仕事をできるという環境は理想的な気がします。わたしはつわりがひどい方だったので、この時期は体の変化に色々考え込んでしまったりしてたんですが、今日は福井さんのお話を聞いて、いろいろな不安がふっ飛んじゃいました(笑)。私もできれば福井さんみたいにギリギリまでお仕事して、すぐに復帰して、楽しく子育とお仕事を両立できたら素敵だなぁと思いました。
福井:私も妊娠している時は長く感じたけど、終わってみたらあっという間でした。今考えると、子供がお腹のなかにいて一緒にいられるのというのは、とても大事な期間だったんだなと思います。
えぐち:そうですよね。今日は本当に色々参考になりました。どうもありがとうございました。
福井:ありがとうございました。

Creator Profile
福井利佐切り絵アーティスト。1975年静岡県出身。精緻な観察による描写のきめ細やかさと、大胆な構図で、観る者を圧倒させるような生命力のある線の世界を描き出す。Reebokとのコラボレーションスニーカーや、アーティスト中島美嘉のジャケット・ステージ装飾、手塚治虫×福井利佐byUNIQULOでのTシャツデザイン、桐野夏生氏の小説への挿画など、多方面で活躍中。最近の仕事として、雑誌「婦人画報」表紙への切り絵での参加や、宝生流 和の会のメインビジュアル制作などがある。
Official Blog
Posted by:えぐちりか
1979年北海道帯広生まれ。電通にてアートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外の美術館で作品を発表。自身のジュエリーブランド「RIKKA」のデザインや、ラフォーレ原宿、Coppertoneなどのグラフィック、さらにドコモダケアート展「How To Cook Docomodake? 」ではキュレーションも手がけるなど、平面から立体、広告から展覧会の企画まで幅広い活動を展開。JAGDA新人賞、ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎現代芸術大賞優秀賞受賞他。








