
Public/image. | 「Talk Session:伊藤直樹 × 川村真司」| PUBLIC/IMAGE.SESSION Vol.2
Public-image.orgが企画する対談形式のマンスリートークイベント「PUBLIC/IMAGE.SESSION」。2月5日に開催されたイベントでは、国内外で数々の広告賞受賞歴を誇り、先日ワイデン+ケネディ東京のエグゼクティブ・クリエイティブディレクターに就任した伊藤直樹氏と、YouTubeを中心に世界中で話題となったSOURのミュージックビデオ「日々の音色」で脚光を浴びたBBH NEW YORKのシニアアートディレクター川村真司氏が登場。物づくりのプロセスや現在の制作環境、そして、先日の話題になったあの問題まで、様々なトピックが飛び交ったトークの模様を、再編集してお届けします。
Text:原田優輝

おふたりが現在のようなお仕事をされるようになるまでの経緯は?
伊藤:僕はもともと映画が大好きで、大学にもあまり行かずに、高田馬場や池袋、神田、渋谷などの映画館に通っていました。自主映画を8mmで撮ったりもしていて。そうやって映画に没頭していた頃に、大学で実験的にインターネットが引かれるようになったんです。当時は、映像を編集したいという理由でMacを買ったのですが、映像編集をやりつつ、インターネットも使うようになりました。SF小説で読んだようなサイバーな世界が実現したことに本当に驚いて、それから映像とインタラクティブの関係性を考えるようになっていき、今に至っているという感じです。
川村:僕も映像は好きですが、プログラミングを専攻していたこともあって、もう少しストラクチャを考えていくことへの興味が強かった。大学では、佐藤雅彦研究室で学んだのですが、そこでもともと好きだった絵を描くことや映画を見ることなども含めて、モヤモヤと頭の中に浮かんでいた色々なことがカチっとはまって、今のような仕事に行き着いたんだと思います。
NIKE「TASUKI TWITTER」
核となるアイデアの強度、映像とインタラクティブ、言語に頼らない表現など、おふたりの作品には共通点も多いですよね。
川村:僕は、シンプルな表現がスゴく好きなんです。どんどん周囲のものを削いでいって、アイデアのピュアな部分を残したいというのが自分のなかにあって、そこを突き詰めていった結果、言葉に頼らないものになっている気がします。それが一番コミュニケーションのスピードが速いと思っていて。自分の理想は、どの国のどの年代の人が見ても、同じように面白いと思える表現なんです。
伊藤:僕は、もともと文字や言葉は大好きなんですが、自分が何かを作る上では、川村さんと同じで、あまり言葉で表現することは好きではないんです。逆に、小説一冊分くらいの語る力を、言葉なしで出すことができたらスゴいなと思っています。僕はずっとスポーツをやってきた人間で、途中から本を読むようになったんです。そういうバックグラウンドがあるから、身体性と文学性の融合みたいなテーマをスゴく大切にしています。そういう意味でも、川村さんが作られた「日々の音色」には、共通する部分をスゴく感じるんです。
川村:身体性とは言葉が違いますが、僕は人間の存在感や温かさだったり、人の手が加わることの面白さを大切にしています。「日々の音色」にしても、そういうものをむき出しに表現したかったんです。
SOUR「日々の音色」 Music Video
伊藤:僕は、人の表情や仕草から発露する感情のようなものを、演出としてうまく取り込めないかといつも考えています。一つひとつの仕草をつなげていくことで、有機的なひとつの意味が生まれてくるんです。でも、「日々の音色」を見た時は、自分が一世代前の人間なのかもしれないという気がしてならないくらい驚きました。昔からずっと広告をやっている人間は、いわゆるトラディッショナルな4大メディアにとらわれていたり、タイムラインに縛られた発想というのが基盤になっているんです。でも、川村さんは、映像というものにもインタラクションを介在させて、構造そのものを再構築しているように感じます。
川村:インタラクションを介在させるというのは、自分の趣味的な部分もあるかもしれないですが、体験まで考えてアイデアを考えるというのは、意識しているところです。僕も伊藤さんも、アイデアを考えることが好きで、そこをコアにアウトプットの形態を考えていくという部分は共通しているように感じます。僕は、伊藤さんの作品を見ると、悔しいと感じることが多いんです。悔しいと思えるかどうかが、自分のなかでの良い作品の基準なのですが、伊藤さんには自分が考えたかったものを先に出されたりすることも多いですね。
伊藤:あと、川村さんが素晴らしいのは、表象の部分とアイデアの部分が高次元で融合させているところです。なかなかそのバランスを上手く取れる人はいないんですよね。ヴィジュアルをアイデアのなかに取り込んでいけるかというのは、自分も重視しているところです。
アイデアをアウトプットしていくまでの流れを教えてください。
川村:思いついた時にメモを取ったり、クライアントワークなら色々解決方法を考えたりしながら、アイデアを出しては狭めて、また広げるみたいなことを繰り返して、納得できるアイデアにたどり着く感じです。繰り返し検証しないと納得できないタイプなので、良いと思えるものがパッと浮かんでも、本当にこれでいいのかと結構悩んだりしますね。
伊藤:僕も検証はスゴくします。思いついたままの状態で人前に出すことはないですね。「今の技術でどれだけ実現できるのか?」「ヴィジュアルに落とし込んだ時に良い感じになるのか?」「人が見たらどう思うのか?」など、色んな角度から検証して、そこでボツになるアイデアも多いです。アイデアを考えるという部分にも、匠の技があるんです。ただ思いつくだけではなく、職人が木を削るのと同じように、アイデアを削って磨きをかけたりするんです。
川村:細部のディテールまでは想像がつかないところもありますが、アイデアのインパクトという部分は、計算ができていないとダメな気がします。アイデアレベルで落書きしたものが一番面白くて、そこから先どこにも落とし込めなかったりするものもありますからね。「日々の音色」にしても、多少仕上がりに誤差があったとしても、アイデアの質的にイケるという読みがあったので、作り始めたんです。あと、多少の誤差くらいだったら、結果としてさらに面白くなったりもしますよね。
伊藤:「日々の音色」も、少しずつ人の動きがズレていますよね。そこに人間味を感じたりすると思うんですけど、そういうゆらぎのデザインは日本人が得意とするところだと思うんです。二枚目すぎても鼻につくというか、どこかほころびが見えるものがいいんです。そのほころびを残していくのが、日本人はうまい。そういう「間」に目が利く人種だと思うし、自分も意識しているところです。
川村:例えば、宗教にしても、欧米の教会だったら石造りで天高くビッチリ積み上げていくところを、寺の場合は、あえて隙を作ることで壊れにくくしたりする。パッと見完璧ではないけれど、結果として不完全な部分も含めて完全にするというメンタリティは、日本のアイデンティティやデザインを考えていく上で、ポイントになっていくような気はします。
「RAINBOW IN YOUR HAND」
先日、「日々の音色」のパクリ問題が話題になりましたが、こうしたアイデアの盗用を巡る話題について、おふたりはどのように捉えていますか?
伊藤:表現にはコンテクストというものがあるので、それを知った上でまだ空いているゾーンを攻めているところが自分にはあります。人と同じだと絶対にイヤだから。そのためには、他を知るしかない。広告の場合、短いタームでものを作ることが多いので、例えば、「3日以内にアイデアを持ってこい」と言われて焦ると、参考資料をもとにアイデアを出してしまって、それがそのまま通ってしまうことも結構ある。でも、誰もが容易にものが作れるようになった時代に、プロのクリエイターに問われてくるのはオリジナリティで、そこはプライドにかけても守らなくてはいけないところだと強く思います。インターネットなどによって、情報を簡単に手に入れることになったいま、知らなければやっても良いという考え方は許されないと思います。
川村:僕も同感です。何かを発想する上で原点になるのは、「知ること」だと思います。新しいものを作るためには、「いま何が流行っているか?」とか「これまでにどういう表現の実験がなされてきたのか?」というところを知っておく必要はある。僕も伊藤さんと同じで、人と同じことはしたくないから、色々リサーチをするし、そこで自分が面白いとか悔しいと感じたものを、別の方法で超えたいと思うんです。僕がやりたい表現は、同じ文脈で測られるものではなく、発想からして違うもの。さらに、それを真似できないクオリティでやることを目指しています。「日々の音色」に関しては、たくさんのフォロワーが生まれたこともある意味光栄だと思っています。だから、怒ったりはしてません(笑)。
一部で話題となったPEPSI「Refresh Project」の映像。
それぞれの制作環境についてもお伺いしたいのですが、伊藤さんはワイデン+ケネディ東京のエグゼクティブ・クリエイティブディレクターに就任されましたね。それによって変わったところはありますか?
伊藤:そうですね。今までは、割とひとりでアイデアを考えてきたところがあったのですが、今はみんなでやっていく方向に切り替わりつつあります。集団でやる以上、僕が良いアイデアを考えて、「これでいくぞ!」というやり方は成立しない。いかにみんなが持っている才能を高みに持っていけるかが大切になってきます。チームを盛り上げていくキャプテンシーみたいなものも、クリエイティブディレクターとして発揮していかなきゃいけないと思っています。だから今は、集団制作におけるプロセスをどうデザインしていくかということにスゴく興味があります。どういう言葉をかけたら上手くアイデアを引き出せるかとか、デザイナーにどういう伝え方をすれば良いのかとか、スタッフのモチベーションを管理していくこともスゴく大切にしています。
川村:僕の場合は、まだもうちょっと勝手にやらせてもらっている感じですね。自分のなかに、まだあまりマネジメント的な視点がないことは自覚していて、そこは目下の課題でもあると思っています。完璧主義者じゃないですけど、自分が納得するまでアイデアを考えて、しっかり最後までやりたいという思いがあるんです。最近は、自分がボールを蹴り込むだけじゃなくて、パスを回していった方が良いんじゃないかという気持ちになれてはいますが、まだまだマネジメントとかをするポジションにもいないので、もう少し好き勝手にやらせてもらおうかなと思っています(笑)。
伊藤:僕も川村さんくらいの時は暴れたいというか、表現欲求が強かったんです。でも、今のポジションだとそれだけではいけない。ただそれだけの違いです。でも、ワーキングプロセスをデザインするとか、アイデアの作り方の構造を明らかにするとか、そういうところでももっとやれることはあると思っているので、チャレンジしていきたいですね。
最後に、今後の予定などを教えてください。
川村:いくつか作っているものがあって、もうすぐ発表できると思います。映像だったり、Webサイトだったり、それぞれ全然毛色が違うものになると思います。
伊藤:普段の仕事とは別に個人的にやっているものなのですが、Twitterを使った「VOICE OF AWARENESS」というプロジェクトがスタートします。Twitterの投稿にハッシュタグ「#kizuku」をつけることで、みんなの気付きをシェアできるようなサイトを、Twitterとは別に作っています。色々なクリエイターやアーティストの人たちにも参加を働きかけているところです。一般の方もハッシュタグを付けるだけで参加できるので、みんなの気づきもぜひ教えてほしいと思っています。
「VOICE OF AWARENESS」
Artist Profile
伊藤直樹
クリエイティブディレクター。メディアにとらわれないハイブリッドなプランニングと、広義な意味での「デザイン」を実践している。アサツー ディ・ケイ(ADK)を経て、2006年7月より、ハイブリッド・クリエイティブエージェンシーGTに所属。NYADC会員。2007年には、東京インタラクティブ・アド・アワード(TIAA)2007でベストクリエーター賞を受賞。ここ2年では、カンヌ国際広告祭で3つの金賞(GOLD LION)を含む7つのライオンを獲得するなど、主要な賞で60以上の受賞を誇る。また、2008年には、クリオ賞にて、プリント・アウトドア・イノベーティブ・インテグレイティッド部門審査員を、カンヌ国際広告祭ではサイバー部門審査員を務めた。代表作として、マイクロソフトXbox360のインタラクティブOOH 「 BIG SHADOW 」、NIKE iD「NIKE COSPLAY」、、ユニクロ「 UNIQLO MARCH 」リアルタイム・インタラクティブ・ドキュメンタリー「LOVE DISTANCE」などがある。2009年、ワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ・クリエイティブディレクター就任。
インタビューはこちらから。
川村真司1979年東京生まれ。慶応大学佐藤雅彦研究室にてモノ作りの考え方を学び、「任意の点P」「ピタゴラスイッチ」といったプロジェクトに携わる。その後、博報堂、BBH Japan、180 Amsterdamを経て、現在シニアアートディレクターとしてBBH New Yorkに勤務。Nissan、Playstation、Adidas、AXEといったブランドのグローバルキャンペーンを制作する傍ら、SOUR「日々の音色」といったミュージックビデオの企画・演出や、フリップブック「Rainbow in your hand」のブックデザインなど多岐にわたって活動している。主な受賞歴はNYADC、D&AD、TDC賞、東京メディア芸術祭大賞、等。
















