
えぐちりか | 対談:諏訪綾子 | 「PRIVATE ROOM」Vol.4
今最も注目を集める若手若手アートディレクターえぐちりかが、毎回「今会いたい女性クリエイター」のもとを訪れ、もの作りのスタンスから、女性同士だからこそ明かせるプライベートの話題までを語り合う対談連載企画「PRIVATE ROOM」。
今回は、食をテーマにした独創性あふれる作品で注目を集めているfood creationこと諏訪綾子氏が登場。もともと料理好きだというえぐち氏とどんな対話が展開されるのでしょうか?

えぐち:諏訪さんが現在のような活動をするようになったきっかけは何だったのですか?
諏訪:デザイン会社に勤めていた友人から連絡があったのがきっかけです。最初は、「社長の誕生日にスゴく大きなケーキを作りたくて、パティシエを探しているから知っている人がいたら教えてほしい」という話だったんです。特に心当たりがなかったので、そう答えようと思ったのですが、なぜかその時に「自分でやってみようかな」と思ったんですね。当時私は食とは全く違ったショップのMDの仕事をしていたのですが、思いつきでそう言ってみたら、なぜか友人も私に任せてくれて(笑)。
えぐち:それまではよくお料理をされていたのですか?
諏訪:あまりしていませんでした。ケーキの作り方すらわからなかった(笑)。でも、ひらめきみたいなものがあったので、それに従ってやってみたら、作れてしまいました。その時は、お花見も兼ねていたこともあり、プリン、ティラミス、そしておはぎの三種をクリア容器一面にびっちり詰めて、重箱の様に重ねて持って行くことにしました。実際お花見の場で蓋を開けたら、それがかなり好評で! それをきっかけに知り合いなどから声をかけられるようになったんです。私自身もスゴく面白かったし、色々引き受けては楽しんでましたね。
えぐち:なんか運命的ですね。でもケーキの作り方を知らない状態で、まず「やってみよう!」と思ったことがスゴい(笑)。
諏訪:今考えると、最初に私に任せてくれたその友達もスゴいですよね(笑)。そんな感じのスタートだったので、はじめは自分にとっては遊びみたいな感覚で、仕事にしようとは全く考えてなかったんですね。でも、それだけじゃなくていろんな責任としっかり向き合ってやっていこう、今まで私に頼んでくれた人達がこんなに喜んでいるのなら、私がやっている事を望んでいる、頼みたいと思ってる人がいるんじゃないかと。だったらそれに応えていきたいと感じ、本格的に活動するようになったんだと思います。今思い返すと。

フードクリエイション 食欲のデザイン展 at 金沢21世紀美術館
えぐち:現在は主にどんな活動をされているのですか?
諏訪:私の活動は大きく分けて2つになります。ひとつは主に「food creation」としての活動で、企業やブランドからの要請を受けて、パーティーやイベントでのコンセプチャル・ケータリングを行なっています。コンセプトから、フードのメニュー、それをサーブするシチュエーション、キャスティングまでをトータルにディレクションしています。最近では、食品メーカーと新商品の開発なども行なっています。もうひとつは、私自身の原点でもある表現活動です。美術館やアートギャラリーにとどまらず「食」の表現やパフォーマンスを行っています。普段はあり得ない場所やタイミングで突如出現する「ゲリラレストラン」は、今までにパリや香港、福岡などで開催しています。「悲しみのテイスト」や「痛快さのテイスト」といったオリジナルメニューを実際に味わうことができる、といったものです。金沢21世紀美術館で2008年に発表したものが原点になっていますね。
えぐち:「食」がテーマの展覧会で、美術館でその場で実際に注文して食べることができる展覧会ってあまりないですよね。美術館でも初めての試みだったんじゃないですか?
諏訪:金沢21世紀美術館では、展示室の壁がすべてガラス貼りになっていたので、「感情のメニュー」をおそるおそる食べている参加者を、たくさんの観客達がガラス越しにじ〜っと眺めるといった、ちょっと異様な状況が出現しました。普段たくさんの人に見つめられながら食べるなんてないですよね? 好奇心で味わってみようと思っていらしたお客さんが、実は観客たちに味わわれている。結果的に「食べること自体」について向き合い、思いを巡らす、そんな二重の構造の仕掛けになりました。もともと「フード」というのは、それぞれの人がそれを食べるか食べないかを自主的に判断するものだと思うので、私は来た人に食べたいと思わせる状況を作るということを心がけています。でも、ビジュアルとメニューを見て想像するだけで終わらせる人がいてもいいですし、その辺はそれぞれの人に委ねたい。ただ、その選択の結果、食べることを選んだ人がいたら、体内に入ってその人の一部にもなり得るということを考えると、「食」は表現の素材としてスゴく可能性があるなと思うんです。

フードクリエイション 食欲のデザイン展 at 金沢21世紀美術館
えぐち:企業やブランドのパーティなどの場合は、どのような感じで作っていくのですか?
諏訪:そういう場合は、クライアントの希望やコンセプトをもとに考えていきます。だから、広告を作るということに近いかもしれないですね。えぐちさんは、個人の作品作りと、仕事での広告制作の間に境界線はありますか?
えぐち:あると言えばあるし、ないと言えばないという感じです(笑)。アイデアを出すところは私のなかでは同じなのですが、広告の場合はクライアントのコンセプトがあって、それを多くの人たちに届けるというのが自分の役割なので。でも、表現自体は自由にやらせてもらえることが多いので、既成概念にはとらわれずにやっています。
諏訪:私も最初は分けていたのですが、だんだん境界が曖昧になってきていますね。
えぐち:作品を作る時にどんなことを大切にされていますか?
諏訪:私の場合、おいしさの追求はしないんです(笑)。もちろん、企業やブランドのパーティだと、おいしさが求められることもありますが、そういう場合はそこも意識しながらも、まずはコンセプトを伝えることを優先します。だから、必要であれば大量に胡椒が入っていてもよくて、それがベストのことだってあるんです。
えぐち:なるほど。私だったら、どうしても美味しくしようと思っちゃいそうです(笑)。諏訪さんは普段食べる料理もご自分で作られるんですか?
諏訪:普段はあえてしないように心がけているんですよ。作るものに良くない影響を与えるのを避けたくて。既成概念みたいなものとか。でも実験みたいなことはしますよ。

スワロフスキー・銀座 オープン1周年記念パーティでのパフォーマンス「ALICE in the Crystal Forest」
えぐち:確かにその方が作品作りの時に自由に食材を使えそうですね。諏訪さんの作品は、独特の色彩や世界観があって、作品の写真やアートワークもしっかり作られているし、見た目もスゴく美味しそうで、どんな味か想像しちゃいます。
諏訪:本当ですか? 「何これ?」という反応は多くても、「美味しそう!」という人は少ないんですよ(笑)。でも、そうやって好奇心を持ってくれる人はたくさんいますね。食べ物って、まず見た目で味を想像して、舌も視覚から入る情報でその準備をする。だからね、私思うんです。食べ物は、食べる前の時点で半分ほどすでに味わっているようなものだって。
えぐち:料理を運んでくる人が仮装をしていたり、パーティの状況も楽しそうですね。
諏訪:パーティの状況という話だと、レストランでとる食事と、パーティーでとる食事って、全く違いますよね。パーティーには大勢の人がいますから、その方たちの衣装に目を奪われたり、会場のディスプレイや人々の会話などがあったり、さらにスタンディングで落ち着く状況でないことがほとんどな上に、情報量が普段よりかなり多いんです。そういう状況を加味して、一番心に響くアプローチの方法を練るんです。ある意味「刺激」「印象」としての提案というか。以前にあるパーティで、手も届かないような高いところに観葉植物があったので、枝に生ハムを引っ掛けておいたんですね。もちろんディスプレイの一部だったんですが、始まって10分ほどでその生ハムが全部なくなっちゃっていて、ビックリしました。でも、実際にその生ハムを食べた人は、迷った挙げ句知恵を絞ってその取りづらい生ハムを取って食べたんだと思うと、抑えがたい食欲の魅力についても考えたし、何よりその食べた本人たちの印象にとても残ったんじゃないかな、と思うんですよね。

スワロフスキー・銀座 オープン1周年記念パーティでのパフォーマンス「ALICE in the Crystal Forest」
諏訪:えぐちさんはよくお料理をされるんですか?
えぐち:プロを前にして言うのもなんですが(笑)、料理は好きですね。本当に家庭的なものですけど(笑)。
諏訪:作品でも料理をテーマにしているものがありますよね。
えぐち:そうですね。以前に、自分の料理を乗せるために、卵をモチーフにしたガラス食器を作ったことがあります。あと、クリエイティブ・ディレクションを担当した「HOW TO COOK DOCOMODAKE?」という展覧会では、16人のアーティストにドコモダケを自由に料理してもらうというコンセプトを考えました。もともと子供の頃から、家にあった料理本を見るのが好きだったので、その展覧会の作品集は料理本形式にして、作品の制作工程をレシピブックのように紹介したりもしました。
「EGG DISH」

「How To Cook Docomodake?」
諏訪:そういえば、妊娠すると味覚が変わるという話をよく聞きますが、えぐちさんはどうでしたか? とても興味があるんです。
えぐち:もう大変でしたね。つわり中の3ヶ月は何を食べても美味しくなかったです。本当に食べられるものが限られてしまうので、食べ物のことばかり想像しちゃうんですよ。私の場合は、なぜか種無しぶどうしか食べられない日々が続いて、種ありではダメなんです(笑)。旦那さんが近くのスーパーを3つくらいはしごして探してくるんですが、時期が冬でほとんどなくて、見つけると買い占めていました(笑)。匂いがダメになるので、自分で料理することもできなかったですね。しかも、1週間くらいで味覚が変わったりするので、本当に大変でした。
諏訪:妊娠すると普段より感覚が鋭くなるんでしょうね。
えぐち:そうですね。特に嗅覚が鋭くなると思います。諏訪さんも体験としてはいいかもしれないですよ(笑)。その時期は作品を作れなくなっちゃうかもしれないですけど。
諏訪:今度研究してみます(笑)。


(左)香港・ワールドトレードセンターでのパフォーマンス、(右)”AUDI RED PASSION PARTY” アウディフォーラム東京/フランス映画祭レセプションパーティ
えぐち:今後やってみたいことなどはありますか?
諏訪:近いうちにスーパーマーケットをやりたいんです。世の中にあるようなスーパーとは全然違うものになるとは思いますけど(笑)。いま私がやっている仕事は、関係者を招いたパーティなど、クローズドなイベントが多いので、一般の人にはあまり届けられていなんです。もともと私は、食べ物の味やヴィジュアルで何かを伝えるということよりも、もっと感覚や刺激など、見えないものを伝えていきたいと考えています。そういうグルメでも栄養でもない新しい食の価値を、多くの人に提案したいと思った時に、日常生活に溶け込んでいるスーパーというのがいいんじゃないかなと。
えぐち:それは期間限定ではなく、ずっと続いていくものとして考えているのですか?
諏訪:はい。私は、自分の活動を完全に「アート」とは言いたくないんです。アートとか映画とか、非現実になった途端、何でもアリになってしまう感じがイヤなんです。もっと社会的に機能している表現のなかで、新しさや面白さを追求していくことに魅力を感じているので、美術館とか非日常的な場所だけでは終わらせたくないんです。
えぐち:どんなスーパーなのかとても気になります。絶対行ってみたいです!
諏訪:例えば、「今日はムカついたから、怒りのテイストの晩ご飯を夫に作ってやろう」というようなこともできると思うんです。プロの人から一般の人まで、そこに行けば何か作ってみたくなるような場所で、売り場にはプロの知識を持った人もいて、色々教えてくれるという、みんなのインスピレーション源になるような東急ハンズみたいな「食」のスーパーができたらいいなと思っています。
えぐち:スーパーに行くと、キノコを使った料理のレシピなんかがよく売り場に置いてありますけど、諏訪さんのスーパーに置いてあるレシピ通りに料理を作ると、スゴくクリエイティブなものができちゃったりして面白そうですね(笑)。ぜひやってほしいです。楽しみにしています!

Creator Profile
諏訪綾子food creation主宰/フードアーティスト。1976年石川県生まれ。金沢美術工芸大学 商業デザイン学科卒業。広告や編集の仕事を経て、D&DEPARTMENT PROJECTのショップディレクターに。ホテル・グランドハイアット東京勤務の後、2006年「そのコンセプト胃まで届けます」というコンセプトのもとfood creation開始。「コンセプチュアルケータリング」というスタイルで企業やブランドとのコラボレーションワークを行う。近年は食品メーカーとのコラボレーションによる新商品開発やメニュー考案も手がけるなど活動の範囲を広げている。また、表現活動としてのインスタレーション、パフォーマンス、フォトグラファーとのセッションで作り上げた写真展などを行い、新たな食の価値を提案し続けている。本年10月、東京での初個展・パフォーマンスを予定。
Posted by:えぐちりか
1979年北海道帯広生まれ。電通にてアートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外の美術館で作品を発表。自身のジュエリーブランド「RIKKA」のデザインや、ラフォーレ原宿、Coppertoneなどのグラフィック、さらにドコモダケアート展「How To Cook Docomodake? 」ではキュレーションも手がけるなど、平面から立体、広告から展覧会の企画まで幅広い活動を展開。JAGDA新人賞、ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎現代芸術大賞優秀賞受賞他。











