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Public/image. |「Talk Session: 七尾旅人 × 津田大介」| PUBLIC/IMAGE.SESSION Vol.5

Public-image.orgが企画する対談形式のマンスリートークイベント「Public/image.Session」。去る8月5日に行われたイベントでは、先日待望のオリジナルアルバム『billion voices』をリリースした七尾旅人氏と、『Twitter社会論』などの著作で知られるメディアジャーナリスト津田大介氏が登場。七尾氏がスタートさせたアーティスト主導型の音楽流通システム『DIY STARS』、TwitterUstreamが変えた新しい音楽体験、そして、これからの音楽の可能性などについて語り合って頂きました。そんな熱いトークの模様を、ダイジェスト版でお送りします。

Text:原田優輝

七尾旅人×津田大介

津田:僕が最初に旅人さんを知ったのは、『エンゼルコール』だったんです。たまたま深夜のミュージックチャンネルを見ていて、「何だこの曲は!」って。そしたら最後に「七尾旅人」と名前が出て、すぐ次の日にCDを買いに行ったんですけど、なかなかCDも売ってないし、アルバムも出なかったですよね。

七尾:2000年に『エンゼルコール』をリリースした後、2枚組の『ヘヴンリィパンク・アダージョ』というアルバムを作っていたんですけど、8割方仕上がった頃に、突然自分とは関係のない理由でレコード会社をクビになったんです。僕は高校を中退して上京をして、19の時にデビューしたんですが、入ってからはずっと修羅場の連続でしたね。その後二転三転して、結局インディーズから2002年に『ヘヴンリィパンク・アダージョ』を出せたんですが、その後しばらくは、何をやるにしても告知すらろくにできず、どうしたらいいか分からない状態が続きました。音楽でやっていく決意は固かったのですが、当時は非常に苦しかった。そのなかで、「いつか巻き返してやる」と思っていましたね。

津田:その暗黒の時代から脱したきっかけは何だったんですか?

七尾:2003年頃、ネット音痴だった自分に公式サイトを作ってくださった方がいて。そこで告知をしたり、日記に自分の考えを書いたりしているうちに、お客さんからフィードバックをもらえるようになって、メチャクチャ勇気づけられたんです。

津田:それが旅人さんにとってのインターネットの原体験というものなんですね。それがその後のインディーズの活動、そして今回のDIY STARSにもつながっていったと。

七尾:そうですね。DIY STARSの構想自体はその2003年くらいからあって。当時、携帯型MP3プレーヤーを買ったんですよ。それで、こうやってファイルで音楽を聴くっていう行為が一般化するのであれば、ミュージシャン本人が直接曲を売るという選択肢も出てくるんだろうなと。インディーズでやっている人間にとっては、物スゴく希望の持てる話になるのではないかと思った。収入源の選択肢が増えれば、その分余計な仕事は減らして、音楽に時間をかけられるわけですからね。

津田:当時はまだそれを具現化するようなプラットフォームはなかったですよね。日本ではまだiTunes Storeもなかった。

七尾:でもその当時は、機械オンチの自分がやることじゃないなと思っていたんですね。今回のDIY STARSの実現も、本当に偶然だと思っているんです。今年に入ってから、これは早急に形にしちゃった方がいいのかなと思うことがいくつかあったので。それで仲間と相談していたら、わりととんとん拍子で完成までいってしまったんです。

七尾旅人

テクノロジーが変えた音楽体験
津田:去年の年末くらいに、旅人さんがUstreamでライブをやっているのをたまたま見ていて、スゴく感動したんです。あれはなぜやろうと思ったんですか?

七尾:iPhoneのUstアプリを落として、試しているうちに自然とああいうライブになったんです。自分がやっているのは、何万年も前からある「歌」というオーソドックスな表現じゃないですか。それが最新のテクノロジーと出会った瞬間に、新しい距離を獲得した。もともと歌なんて、肉声だったらすぐそばにいる相手にしか届かないのに、マイクロフォンが発明されたことでフェスができるようになりましたよね。それが2010年になると、海外の友人とリアルタイムでやり取りしながら、語り弾きライブをしている。これは革命だなと感じましたね。最近Ustをするたびに、四国にいる家族からメールが入るんです。今まで家族にはほとんどライブを観てもらったことがないので、この距離の獲得というのはうれしいことなんですよね。

津田:Ustのソーシャルストリームには、見ている人たちの感想もリアルタイムで出てきますよね。だから、四国にいる旅人さんの家族も、ライブだけじゃなく、それを見ているお客さんの反応も見れているということになるんですよね。

七尾:一秒一秒の感想が全て可視化されていくんですよね。自分たちが必死に演奏している間、お客さんがこれだけのことを感じて思っててくれたんだということが初めてわかりました。ある先輩ミュージシャンは、タイムラインを見て、「これをプリントアウトして、つらいときに読み返すわ」と(笑)。

津田:今までは「アウラ」というのは「場所」に限定された話だったけど、いまはそれが「時間」になっていますよね。その場にいなくても、UstやTwitterを通して、物事が動く瞬間に立ち会える感じがあって、そこにみんな興奮するんですよね。

七尾:Twitterは、時間とともに立ち現れては消えていったり、ある瞬間に突発的なセッションが始まったりするというところでは、音楽に近いグルーブ感がありますよね。Twitterをやっていると、色んな命が存在しながら並走していくダイナミズムを日夜感じることができて、ますます人間をいとおしく思えるようになったし、音楽への考え方も少し変わりました。デジタルって、人間的なものを遠ざけていくと思われがちだけど、最近のテクノロジーは、人間を新たな角度から見せてくれるところがありますよね。

津田:Twitterの本を出したりしていると、「Twitterなんてやっている暇があったら、もっと現実を大切にしろ」と言ってくる人もいるんですよ。でも、それは逆で、Twitterで色んな人の日常を見ることによって、その人に対する興味が増すんですよね。だから、実際に会ったその日から深い話ができたりする。リアルを楽しくするのがTwitterなんだと思います。

DIY STARSの可能性
津田:去年くらいから、TwitterやUstreamによって、ミュージシャンとリスナーの間に新しいコミュニケーションが生まれてきていますよね。そのなかで、DIY STARSは本当に良いタイミングだったと思います。

七尾:自分のサーバーを使って、自分の判断でポンポン作品を出せたらなという思いがあったんです。その感覚をたくさんの才能豊かな友人たちとも共有したいと思いました。新しい身体性の獲得は、新しい音楽の活性化に繋がるからです。いろいろな使用動機が考えられますが、インディーズでCDを出しても1000枚くらいしか売れないなら、自分の家から売った方がいいというヤツもいるかもしれないですしね。

津田まつき(あゆむ)くんとかも良い例ですよね。それまではインディーズで数百枚しか売れなかったのに、ダウンロードでほぼ100%自分の収入になるような形で売ったら、今までよりもはるかに売れた。それまで週5で入れていたバイトが、今では週1らしいですよ。

七尾:TwitterやUstreamなどのパーソナルメディアが発達した今であれば、例えば、島根県にいる子が努力を続けるうちにいつか100万ダウンロードとかいって、世界中に影響力を持つ可能性だってある。「まだまだいくらでも夢を見れるんだよ」というのを若い人たちに言いたいというのもありました。あと、最近「積極配信」という言葉を使うようになったんです。今までの音楽配信というのは、パッケージが売れなくなったから、その穴を埋めるためにデータを売って補填しようとする「消極配信」が基本だったと思うんです。でも、データ配信でしかできない作品もあるんじゃないかと。例えば、wavを超える超高音質ファイルで7時間ぐらいあるとか。音楽以外でも動画やソフトウェア、マンガなど何でも同梱できる。実際、そういうレコード会社には相談しづらいようなアイデアも、ミュージシャンたちはたくさん抱えているんですよね。

津田:僕もDIY STARSで旅人さんの曲を買わせて頂いたんですが、登録するまでのプロセスはiTuens Storeに比べて正直面倒くさいんですよね。でも、Zipファイルを解凍すると、「買ってくれてありがとう」という旅人さんが手書きしたJPG画像も入っていて、こういうコミュニケーションもあるんだなと感じました。あの画像を見ただけで、買って良かったと思いますもんね。

七尾:DIY STARSは、作り手の体臭がにじみ出てくるようなものがいいと思っています。利便性を追求していくなら、やっぱりiTunes Storeが一番だと思うんです。でも、DIY STARSは、そういうビジネス効率的な部分ではなく、普通の市場には並ばない特別な作品を、作り手の自宅から直接買う。そういう楽しさが肝だと思います。

七尾旅人七尾旅人

音楽の未来
津田:インターネットやテクノロジーによって色々状況が変わってくるなかで、ミュージシャンにとっては良い状況と悪い状況が生まれてきたと思うんですが、これから先どうなっていくと思いますか?

七尾:音楽業界が衰退を続けているというのは揺るぎない事実ですが、個人的には今すごくポジティブなんです。才能のある若いミュージシャンもどんどん出てきていて、日本の音楽は活気づいています。ただ問題なのは、そういう才能を、昔のようにフックアップして、有名にしていく機能がないこと。だから、若い人たちが活路を見出せないままあぶれちゃっているんですよね。

津田:最近は、UstをやるDJやミュージシャンも増えていますよね。ファンのフィードバックが可視化されることで、アーティストのモチベーションは保たれるし、リスナー側にしても、もっと具体的にアーティストをサポートしていこうという動きにつながりつつあるという意味では、新しい可能性が見えてきた感じはありますよね。

七尾:10年前にはどれほど頑張ってもどうしようもならないことがたくさんあった。でも、今なら努力次第で、音楽を続けていくことはできる状況があります。

津田:今まではレコード会社と契約することがプロミュージシャンの唯一の道だったけど、今は色んな道ができているんですよね。僕もこないだ「Twitter社会論」の電子書籍版を、自分なりに新しいコンテンツなどを追加して作ったんですけど、これも旅人さんがライブをやって、CDを売って、DIY STARSもやるというのと同じことなんです。編集者と一緒に本を作ることもやりたいし、自分主導で自分にしかできないコンテンツをパッケージするということもやりたい。もしかしたら、著者にとってのライブというのは、Twitterでつぶやくことや、こういうトークイベントだったりするかもしれない。その全部を試したいんですよね。結局そういう事例や結果の積み重ねが重要だと思うんです。

七尾旅人  津田大介

七尾:既成事実を作ることは大切ですよね。面白いことって、はじめは全部禁じられるんです。でも、いくら音楽業界のえらい人が「NO」といったところで、カウンターカルチャーはそう簡単に潰せない。もはや「音楽」と「音楽業界」の乖離は凄まじいです。例えば、DOMMUNEにもグレーな部分はありますが、実際的な力となって文化を下支えしているのはああいうものですよね。DIY STARSを始めたときには、「レコード会社や小売店はもう必要ないのか?それら全てを敵に回すつもりか?」と言われることもありましたが、それは全然違うんです。新たな夢の萌芽からしか音楽界は再生できません。音楽の一つひとつをきっちり生かしていくことを考えたい。個人でやれることは増えていますが、逆に今ほどミュージシャンがサポートを求めている時代はない。

津田:そういう意味では、今はファンの人たちもミュージシャンをサポートしていける時代だと思うんです。ミュージシャンがTwitterでファンの人とやり取りしてるのって、ライブで客席に降りてギターを弾いたりしている感じに近いなと感じるんです。そんな時代だから、お客さん一人ひとりがメディアになって、自分の好きなミュージシャンをTwitterなどでプロモーションしていくことだってできる。

七尾:それは、ネット時代のミュージシャンの実感としてもありますね。やっぱりお客さんが一番の理解者だったし、勇気をくれましたからね。今の音楽業界って、どっぷりその中に漬かっている人の力だけではどうにもならない部分があると思うんです。僕はある意味そこからずっとはじかれてきたからこそ、いま身軽に動けている部分がある。だからこそ、僕は津田さんのような存在は本当に頼もしいなと感じています。今日はこうしてお会いできてよかったです。ありがとうございました。

津田:どうもありがとうございました。

七尾旅人 × 津田大介

Artist Profile
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