
NANZUKA UNDERGROUND | FRIEZE ART FAIR |「NANZUKA AGENDA」Vol.5
従来の現代アートの枠組みにとらわれない活動を展開するユニークな作家たちを擁するNANZUKA UNDERGROUND。白金にあるメインギャラリーに加え、以前のホームグラウンドだった渋谷の地下スペースに新コンセプトスペース「NANZUKA AGENDA」を開設するなど、今後の展開も注目される同ギャラリーのギャラリスト・南塚真史氏が、自身の体験をもとにしたアートシーンにまつわる回想録を綴っていきます。
Text:南塚真史
今回は、先月ロンドンで行われたFRIEZE ART FAIRについて。
このフェアは、「FRIEZE」というアートマガジンを母体に、2003年からスタートした比較的新しいアートフェアだ。にも関わらず、約100年の歴史を持つNYのArmory Showなどを押しのけ、今やART BASEL/ BASEL MIAMIに次ぐ重要度を持つフェアとされている。これには、Tate Modernを筆頭に、Hayward Gallery、Serpentine Gallery、White Chapel、ICA galleryといった最新のアートを紹介する気鋭の美術館の存在や、今や世界的に大きな影響力を持つようになったターナー賞の成功、あるいはダミアン・ハーストらをいち早くコレクションしたチャールズ・サーチ氏によるサーチ・コレクションの成功などの要因が少なからず関係している。国を挙げての環境整備の成果といえるであろう。

イギリスは、ゴッホの「ひまわり」やダヴィンチの「岩窟の聖母」を収蔵するNational Galleryやエジプトからの強奪品などを展示する大英博物館を無料開放するなど、文化芸術に高い関心を持ち続けている国だが、実は美術の歴史上その中心地となり得たことは一度もない。ギリシャから始まるヨーロッパの芸術史は、ローマ帝国時代から15世紀のルネッサンス期まではイタリアがその中心だし、16世紀から20世紀初頭にかけてその地位はフランスに受け継がれた。ゴッホ、ゴーギャン、マチス、ピカソ、シャガールなど19世紀末~20世紀初頭の現代美術の歴史を彩るスターは、いずれもパリにその拠点を置いていた。その後世界大戦で欧州が荒廃すると、今後はアメリカがその地位を担い、ダダやポップアート(※)を華咲かせた。(※ポップアートは、元々イギリスのエドゥアルド・パオロッツィやリチャード・ハミルトンといった若手アーティストたちと批評家ローレンス・アロウェイによる運動であったが、リキテンシュタインやウォーホルといったカリスマの存在によって、その中心地はNYに取って代わられた)。
イギリスは、非常にプライドの高い国なので、ダミアン・ハーストらやトレイシー・エミンといったYBAと呼ばれる世代のスターアティストの力を借りて、今度こそ21世紀における世界の文化芸術の中心地としての地位を国家的なプロジェクトとして取りにきている可能性は高い。国営の美術館であるTate Modernが、Frieze Art Fairに毎年購入予算を付けているという点は、そのひとつの証拠だろう。

少し話がそれるが、このアートの覇権争いは、それだけで非常に興味深いテーマかもしれない。なぜなら、この争いには明らかに中国が参戦しているし、フランスやドイツも虎視眈々とその地位を伺っているからだ。偶然かもしれないが、今回のFrieze Art Fairはルーブル美術館での村上隆の展覧会と同タイミングという絶好の機会に開催されたにもかかわらず、会場では1点も村上の作品が出品されていなかった。所属ギャラリーのペロタンやガゴシアンが大きなブースを構えていたにもかかわらずだ。そうした背景に、イギリス人のフランス人に対するライバル意識を読み解くのは、やや飛躍し過ぎだろうか。

今回、私は観るのも参加するのも初めてづくしで、Frieze初体験を満喫した。会場は、王立の公園であるRegent Park内に、わざわざ仮設で巨大なテントを張って作られている。このテントの費用だけでおそらく軽く億は超えるだろう。スポンサーがなくては、とても出展ギャラリーの参加費だけではまかなえない。ちなみに、Friezeのメインスポンサーはドイツ銀行が務めていた。
私は公園の北東側のカムデンタウンに宿を取っていたので、公園を歩いてフェアに行っていたのだが、毎朝会場の外には開始前から長蛇の列ができていて、その盛況ぶりには驚くばかり。イギリスも深刻な不況に苦しんでいるが、アートへの関心はかなり復活してきていると現地の新聞も伝えていた。10月13日のオープニングには、ロンドン市長の他、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズなどのセレブも駆けつけ、それにつられてメディアの数も非常に多かった。

会場では毎朝「Art news paper」というアート専門の新聞が無料配布されていて、オープニングの翌日には前日のセールスの内容を細かく報告する。一面は「展示は派手でも価格は冷静」といったようなタイトルで、各ギャラリーがコンスタントに500万円程度のセールスを堅調に行っていたといった内容が書かれていたが、唯一White Cubeのダミアン・ハーストの新作(エポキシ樹脂に固めた大量の魚の剥製をキャビネットに陳列した作品)が、3~5億円で売れたいうニュースが高額取引として紹介されていた。それでも、バブル期には10億円を超えるのが当たり前になっていたハーストのマーケットからすると、「冷静な」価格らしい…。
興味深かったのは、ある大物ギャラリストのインタビューで、「2008年は最悪、去年はまあOK、今年はバッチリ」といったコメントが紹介されていて、同時期に開催されたSotheby’sのオークション結果も好調だったようで、ロンドンのアートマーケットの復活を印象付けた結果になったようであった。私も初参加ながら、田名網敬一の新作の大作を初日にsoldし、かなりリラックスしてフェアを楽しむことができた。この感じはアートバブル崩壊前の2008年春以降約2年半ぶりで、長い冬の終わりを期待させてくれる結果となった。

作品に関しての個人的な感想を少し加えさせてもらうと、欧州の最先端のアートの動向と日本ないしはアジアのアートの原状との大きな開きに、改めてショックを受けてしまった。アジアでは中国アートの影響もあって、未だに写実的な絵画の大作、それも肖像画の占める割合が圧倒的に多い。一方、欧州の現在はその逆で、コンセプチャルな抽象画や立体の占める割合の方が圧倒的に多く、リーマンショック後の一時期に多かった政治色の強い作品も影を潜め、より力強くポジティヴでフレッシュな作品が多かった。大御所ギャラリーであっても”これから”のアーティストの最新の作品を持ってきていることが多く、その結果展示されているアーティストが複数のギャラリーで被っていることが少なかったことも印象的だった。2006〜2007年当時は、売れ線のアーティストの作品が、複数のギャラリーで大量にリリースされるという光景が数多く観られたので、こうした変化は欧州のアートシーンが新しいサイクルに入ろうとその動き出しを開始しているものと私は解釈したのだが、私の予想が正しければ、すでにトップギャラリーたちは今後10年間のトレンドを理解しているということだろうか…。
とはいえ、もちろん別に話し合って決めているようなことではないので、ギャラリスト特有の嗅覚でそうしたセレクションを行っているのだろう。小山登美夫ギャラリーも抽象的でコンセプチャルな風能奈々さんという若手アーティストの作品を持ってきていてほぼ完売していたのは流石だった。
欧州のアートシーンの奥深さを痛感した今回のFrieze Art Fairだったが、果たして田名網敬一以外のアーティストがどのような評価を受けるのか、それは個人的に非常に興味深いチャレンジだと思った。例えば、真逆のコンセプトを持つ空山基は果たしてウケるだろうか? 次回またチャンスがもらえるようであれば、大いに試してみたい。
Exhibition Information12月4日まで、白金・NANZUKA UNDERGROUNDで黒川知希による個展「Sirius」が開催中。11月19日〜1月29日まで、渋谷・NANZUKA AGENDAで横山裕一「カラー土木 オープンスタジオプロジェクト」が行われる。また、12月14日〜23日まで、白金・NANZUKA UNDERGROUNDで、西武アキラ「Washed ashore」が開催予定。

Posted by:NANZUKA UNDERGROUND
2005年、南塚真史によって設立。田名網敬一や空山基といった戦後日本の美術制度の中で埋もれてきた才能を国際的な枠組みの中で再評価する仕事に努めている。その一方で、国内外の若手及び中堅作家の育成と紹介を行っている。2009年4月、白金アートコンプレックスにメインスペースを移転。2010年6月より渋谷の旧スペースをNANZUKA AGENDAとして再起動。ファッション、音楽、デザインとの交流も積極的に行い、アートとデザイン、商品とアート、日常と美の関係といった現代美術の主要な問題に対して実験的な挑戦を試みている。












