
Luvits! | 「リアル系アイドルの写真には写らないリアル」 |「TOKYO STOCK」Vol.7
アイドル、アニメ、アニソン、マンガなど世界的に注目を集める”ジャパンコンテンツ”を、ニュース、インタビュー、コラムなどによって多角的に紹介するWebサイト「Luvits!」と「Public-Image.org」によるコラボレーション新連載「TOKYO STOCK」。
毎回「Luvits!」の人気記事をピックアップし、その中から特に気になるトピックについて、『東のエデン』や『交響詩編エウレカセブン』の脚本を手がけた佐藤大氏率いるStoryRidersが独自の視点で掘り下げていきます。
連載7回目となる今回は、4月11日に発売となる総勢30組のアイドルをコンパイルした写真集『アイドル図鑑』発売のトピックを取り上げ、StoryRiders所属のライター・武田無我氏が、アイドル写真集制作の舞台裏について寄稿してくれました。
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「リアル系アイドルの写真には写らないリアル」
Text:武田無我
Photo:川本史織
「リアル系アイドル」というものをご存じだろうか。「リアル系アイドル」とは、かつてスクリーンの向こう側の遠い存在だったアイドルたちが、路上やライブハウスなどで直に会え、“身近に感じることができる”という意味で、“リアルに近いアイドル”を意味する言葉だ。こういったリアル系アイドルは、今、秋葉原を中心に続々と生まれており、アイドル界でも熱い注目を浴びている。例えば、秋葉原のLIVE&BAR「秋葉原ディアステージ」に所属し、ほぼ毎日のようにステージに立ちながら、活発なライブ活動を展開する「でんぱ組.inc 」や、吉本興業の子会社であるS.A.B.カンパニー内に作られた「なにわっく@みゅーじっく」に所属、主に関西を拠点に活動する『Osaka翔Gangs』など、リアルにストリートから生まれ、徐々に人気を博しているアイドルたちが後を絶たない。彼女たちは毎日、ファンの目に届くところで活動し、ファンの身近なところから生まれてくる。
そんな次世代のアイドルたちだが、実は彼女たちをフィーチャーした企画として、面白いコンセプトが持ち上がっている。それはこの春、4月11日に発売される『リアル系アイドル図鑑』というものだ。その名の通り、リアル系アイドルを集めた写真集なのだが、登場するのは、秋葉原などを中心に活躍する全15組のアイドルユニットと全10組のソロアイドル、さらに全5組のマルチアイドルたち。総勢30組のリアル系アイドルが一冊の写真集におさめられるという、まさにアイドルの図鑑なのだ。リアルに会えるアイドルだけを集めた写真集という意味でも、これはなかなか画期的な企画と言える。
というのも、かつてこのようなコンセプトの写真集はありそうでなかった。普通、写真集と言えば、ひとつのユニットなり、ソロアイドルなどを単体として写真集におさめて発売される。フィーチャーされるのは常に単体で、写真集の中で見られるのは、その単体のアイドルだけだ。しかし、総勢30人ものアイドルたちがひとつの写真集に収まるのが今回の企画。まさに図鑑という名の通り、非常に珍しいものであるということは言うまでもない。実は私も、かつてアイドル写真集を制作していたことがあった。その経験からしてもこういったコンセプトはかなり珍しく、そういう意味でも、この『リアル系アイドル図鑑』に非常に興味を持った。そこで、この写真集についていろいろリサーチしてみたのだが、その中で、私はこの写真集の裏側をまざまざと見せつけてくれる貴重な映像にぶつかった。
それは、USTREAMの映像配信で流されていた『リアル系アイドル図鑑』の撮影現場のメイキング映像だ。私はこの映像を見た瞬間、自分が写真集を作っていた頃の現場の風景をありありと思い出した。普通、メイキング映像というのは、カットを割って編集し、その上にSEで音楽を乗せるなどPV風に仕上げて配信する。しかし、『リアル系アイドル図鑑』のメイキング映像は、全くの未編集だ。そのため、テンポもカット割りもなく、言い方は悪いが、ただの垂れ流し映像になってしまっている。だが、この垂れ流し映像、実はここにこそ、リアルな現場の雰囲気がみなぎっている。未編集だからこそ、私はこの映像からかつての現場の風景を思い起こすことができたのだ。つまり、ここにはリアル系アイドルたちの“写真には写らないリアル”が隠されているということだ。
まこぷり(フルーツ☆パンチ)
私がこの映像でまず注目したところ、それは現場の部屋で音楽が流れているということ。おそらく、ラジカセか何かで流しているのだろうと推測されるが、実はこれは、アイドルの撮影現場の1つ目のリアルだ。音楽を流すことは、別に普通のことだし、だからなんなのかと思われるかもしれない。しかし、ここには様々な意図が込められている。写真撮影の現場では、演出側がアイドルにいろんな表情を要求する。楽しい表情、怒った表情、悲しい表情など喜怒哀楽を通し、写真集を見る側がシュチュエーションを想起できるような表情を引き出していく。その時、演出側では、いろいろな指示の出し方をする。
例えば、「大好きな人に会いに行く時みたいな表情で笑って」とか、「親友とケンカしてしまった後のような悲しい表情で」など、具体的なシーンを思い浮かべられるような指示を出す。アイドルたちはその指示に従い、自分の頭の中でイメージした表情を作り出していく。もちろん、彼女たちはプロなので、その指示だけで事足りることもある。しかし、様々な表情を要求される中で、イメージが曖昧になり、うまく表情を作り出せなくなる時も出てくる。この時、役に立つのがまさに音楽なのだ。演出側が、「大好きな人に会いに行く」イメージに合った音楽を現場で流してあげる。そうすると、その音楽からイメージを想起しやすくなり、アイドルの彼女たちの表情がガラリと変わる。その結果、演出側の要求通り、ものすごく表情豊かな写真が撮られることがしばしばあるのだ。
さらに、現場で音楽が流れていると、やはり気持ちがノリやすいということもある。写真撮影では、朝から晩まで何百枚もの写真を撮り続け、その度に彼女たちはメイクの直し、衣装の交換を行わなければならない。体力的にも精神的にも緊張状態が続く。そんな中、リラックスできる音楽が流れていれば、心が休まる。そういう意味でも、音楽を流し、現場で雰囲気を作ってあげるというのは非常に効果的なのだ。ちなみに、私もかつて現場で演出をしていた時、音楽を流していた。その際、良かれと思ってノリノリのヒップホップをかけていたのだが、途中でアイドルの子から申し訳なさそうに、「すいません、こういう音楽、苦手なんですが・・・」と言われ、慌てて撮影スタジオ近くのCD屋に駆け込み、ルクプルのCDを買ってスタジオに戻ったというのは今では良い思い出だ。
ところで、先ほど私は「体力的にも緊張状態にある」という表現を使った。それで言うと、メイキング映像の中には、まだまだ現場のリアルがある。それは、写真撮影では欠かせないレフ板だ。私も現場の撮影では必ずレフ板を使った。レフ板の役目は、周囲の光を反射させ、被写体を明るく照らすという意図を持っている。特に表情が命であるアイドル写真集などでは、キャッチアイはかかせない。キャッチアイとは、瞳の中に光を映し込むこと。よく漫画などで目がキラキラしている絵があるが、あれを実際の瞳の中で作り出し、表情を豊かにするのだ。
しかし、このレフ板、端から見ている分にはどうってことはなさそうだが、実際に当てられるとかなり眩しいことがある。周囲の光を1点に集め、キャッチアイを作り出すため、瞳に光を集中させるのだ。私も屋外撮影をしている際、太陽の光をレフ板で反射させてアイドルの瞳に照射していた。しかし、あまりにも眩しすぎたのか、彼女は途中で目を開けられなくなり、撮影が中断したことがあった。レフ板は、被写体の立場からするとかなり辛く、きつい場合もあるのだ。しかし、良い写真を取るためには、眩しい表情などはできない。さらに、顔をあまり大きく動かすと、瞳に映り込むキャッチアイがずれてしまうことがあるので、それに注意しながら表情を変えなければならない。まさに、良い表情を作るために、アイドルの彼女たちは並々ならぬ苦痛に耐えているのだ。
そして、何と言っても体力的にきついこと、それはポージングだ。メイキング映像の中では、被写体のアイドルがベッドの上でうつぶせになり、顎に手を置くポーズを取っている。端から見れば、誰でもできると思うだろう。しかし、これを実際にやるとなると至難の業だ。自分でやってみるとよくわかるが、このポーズを撮影の間じゅうキープし、さらに演出側の細かい指示に従って逐一態勢を変え、笑顔を絶やさず、にこやかにカメラ目線を送る。普通の人ならば3,4分で限界がくる。実際、映像の途中でも、アイドルが「辛い」と言って、ポーズができなくなってしまうシーンがある。これはまさに、演出側の要求に対し、彼女の態勢キープ力が限界を超えたことを証明するいち場面なのだ。
この点に関して言えば、私にも苦い思い出がある。かつて海で撮影している時だった。水着を着たアイドルの子の大腿筋を美しく撮りたい一心で、うつぶせにさせて何度も砂浜を膝歩きしてもらった。しかし、撮影が終わった後、彼女の膝は真っ赤になっていた。砂の上を何度も歩いたため、膝がすりむけてしまったのだ。私は良い絵を撮りたい一心で要求した動きだったが、彼女にとってはとても辛いことだったに違いない。それでも彼女は「だいじょうぶですよ~」と冗談めかして笑っていた。私はあの時、彼女のプロ根性を見ると同時に、実際にそのポーズを行っているアイドルの見えない努力というものを感じた。
このように見てくると、写真撮影とは、良い絵を取ろうとするためにイメージを具現化しようとする演出家と、そのイメージを実際に身体で具体化するアイドルとの戦いとも言える。私がこのメイキング映像を見て、かつての自分の撮影現場を思い出したのも、まさにこの未編集映像の中に演出家とアイドルとの見えない戦い、現場のリアルが存在していたからだ。ひとつの写真集を作るために、彼女たちは“写真には写らないリアルな努力”を行っている。そして、その努力はもちろん、いつもファンの目の届く場所で活動している時でも同じように行われている。彼女たちがリアルな努力をしてくれるからこそ、彼女たちは身近なリアルとして成立し、リアルなアイドルとして私たちの眼前に存在してくるのだ。そのリアルな努力が生んだ結集、それが『リアル系アイドル図鑑』。この図鑑を見て、現代の新しいスタイルとして生まれたリアル系アイドルに注目してみると、もしかしたら、私たちの日々のリアルな生活も一層充実したものになるかもしれない。
Release Information
「リアル系アイドル図鑑」
出版社:リイド社
発売元:K’s PROJECT
リリース日:Apr.11th 2011
ProfileStoryRiders『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『サムライチャンプルー』、『交響詩篇エウレカセブン』、『エルゴプラクシー』、『FREEDOM』、『東のエデン』など、数多くのアニメーションの脚本を手がける脚本家・佐藤大が中心となり、2007年に設立したシナリオライターズオフィス。主な業務内容としては、映像コンテンツ及びインタラクティヴコンテンツ(ビデオゲーム等)の企画・設定・脚本の制作。その他、出版物の企画・編集・執筆なども手がける。
Posted by:Luvits!アイドル、アニメ、アニソンといった現在盛り上がりを見せる”ジャパンコンテンツ”をサブカルチャー目線で紹介するカルチャーサイト。ドキュメント形式の動画インタビューや、Luvits!が注目するキーパーソンのコラムなど、様々な角度からこのシーンを捉えて、その他にも最新ニュースの配信やリポートなど、ライトな情報も発信している。公式Twitterアカウントはこちらから。
















