
Luvits! | 「僕らの不謹慎な物語に出来ること、いま」|「TOKYO STOCK」Vol.8
アイドル、アニメ、アニソン、マンガなど世界的に注目を集める”ジャパンコンテンツ”を、ニュース、インタビュー、コラムなどによって多角的に紹介するWebサイト「Luvits!」と「Public-Image.org」によるコラボレーション新連載「TOKYO STOCK」。
毎回「Luvits!」の人気記事をピックアップし、その中から特に気になるトピックについて、『東のエデン』や『交響詩編エウレカセブン』の脚本を手がけた佐藤大氏率いるStoryRidersが独自の視点で掘り下げていきます。
連載8回目となる今回は、6位にランクインした『ヤシマ作戦』のニュースをピックアップ。先の震災を受け、多くの人々がこれからについて暗中模索の中、アニメ、マンガに関わる者にできることとは何か、StoryRiders代表・佐藤大氏が寄稿してくれました。
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「ヤシマ作戦」
「僕らの不謹慎な物語に出来ること、いま」
Text:佐藤大
3月11日。テレビ画面に広がったのは言葉を失うような圧倒的な力。見たことなどある筈のない風景。でも、それは僕らにとって何処かで見た覚えのある「何か」だ。そして今から約10年前に起こったNYの出来事をみた時と同じ感覚を今一度、思い出させた。「まるでアニメやマンガ、映画のような」という表現。その言葉を呟けば「不謹慎」と言われる感覚だということぐらい、僕らも(実写は除く)再選知事に規制してもらわなくてもよくわかっている。でも、現実にその力を前にした僕らの無力感を表現する現実の言葉でもある。それは、何処までも何時までも不安定な現実の報道を続けるテレビ画面の前で何時か何処かで見た物語のように、報道という名の下で編集と演出の施された現実として僕らに襲いかかった。
日本というこの国に生まれ育った僕らにとって未曾有の大災害という言葉。それは作られた物語のセカイでは当たり前の出来事であり「いつか起こる」と僕らが子供の頃から、頭の片隅にずっと巣くっているもやもやとした「何か」だった。そして3月11日。僕らは心の何処かで「またか」と思っていた。と同時に「今度こそ」とも思っていた…。
そう、70年代から90年代のアニメやマンガのセカイでは、何度も日本は大きな災害や戦争をくぐり抜けていた。そこで生き残った少年少女たちが強く生きていく様は、何処かで僕らの現実感となって、今も心の奥底で生き続けていた。ある意味、僕たちはいつでも、この現実を破壊するような圧倒的な力に「何か」の物語性を感じていた。不謹慎だと思われても僕たちが好きな物語では、何度も破壊と再生を繰り返していた。まるで、それ自体が現実で起こる「何か」へ向けた準備であるかのように…。
小さい頃からヒーローが活躍して悪者を圧倒的な力で決まった時間に倒してしまう物語の中に紛れ込んでいる、不穏な物語に惹かれていた。そうヒーローが悪者によってピンチに陥る。あの瞬間にどきどきした。何処かで圧倒的な力を誇ったヒーローが、倒されてしまうのを期待している自分がいた。小さい頃には、その意味に気づくことなどなかったけれど、あのどきどきのことなら覚えている。
(左)鳥山明氏、(右)浅田弘幸氏
ヒーローなどいない現実。セカイ征服を考えるような悪者などいない現実。そんなことは誰もが、もうわかっている。そんなあらかじめ語られつくした「何か」の正体。そして3月11日の午後。僕のような物語の語り部たちは、現実を前に再びの無力感を何処かできっと感じていた筈だ。あの「何か」に対抗することなど出来ない。人間は自然の力に逆らうことなど出来ない。だから物語に出来ることなんて、「何か」が襲いかかった後のセカイでは、何の力も発揮することなど出来やしないのだろう。いつものように…と。
でも僕らは目の当たりにした。アニメの物語という不謹慎な「何か」が紡ぎ出した言葉。その力が、現実の「何か」に抗う力を生み出すこともあるのだ、ということを…。その言葉の名は、『ヤシマ作戦』。
ネット上で自然発生した現象は、僕らの中で不謹慎な言葉として、現実と物語の境界線がわからない若者たちの気分を紡ぐ気持ちとしてどきどきを内包しながら繋がった。単純な『節電』という言葉だけでは動くことの出来ない僕らよりずっと下の世代が、その言葉が連想させる不謹慎な想像力によって、現実を動かすことが出来た。そう。例えば、そんな現実を物語にしたとしたら「ご都合主義」とすら言われそうな現実が、僕らの眼前、何処かしらのタイムライン上で発生した。
当然だが物語上の『ヤシマ作戦』とは、ただの『節電』でも計画停電のことでもない。作中に登場する敵、第五使徒ラミエルを倒すため、大きな電力を消費する陽電子砲を使用した作戦名に由来。電力徴用のため、作中では日本全国が一時的に停電状態に陥ったことから、今回の計画停電に対する『節電』の行為自体がそう呼ばれるようになった。
(左)大河原邦男氏、(右)いとうのいぢ氏
そして、この言葉を用意した『新世紀エヴァンゲリオン』という作品は、90年代を代表するアニメだ。同じく社会現象を起こした70年代を代表する『宇宙戦艦ヤマト』、80年代を代表する『機動戦士ガンダム』と結果的に同軸で語られることになった作品でもある。そして00年代を超えて、現在も進行形の作品として、日本中のパチンコ屋やコンビニ、箱根の町興しにビジネス的に展開している面を持つ「いまも生き続ける」作品でもある。そこで描かれたのは、閉じられた現実に絶望し、他者とのコミュニケーションを拒絶してしまったかの様な少年少女たちが、ヒーローも悪者もいない現実を模倣するようなセカイに襲いかかる無意味にすらみえる破壊のために生まれたような存在たちに立ち向かい…、いや、逃げ続ける様をみて僕たちが共感していた筈の不謹慎なアニメだった。
こうした現象もひとつの例に過ぎない。このようなタイムライン上で発生した物語の言葉から発芽した僕らの想像力は、不謹慎の向こう側で厳しい現実としっかり向かい合う準備をしてくれていた。物語の持つ力は僕らの不謹慎な想像力は、いまこの瞬間も現場で誰かを助ける多くの無名なヒーローを作り出し続けているのだろう。
そんな自分自身、アニメに携わる脚本家として物語を紡ぐ仕事を選んだ後に感じていた無力感。自らの手で作り出したセカイを圧倒的な力で破壊した後、このセカイにヒーローなど不在であることをたたきつける様な物語を紡いでいた。しかし、そんなセカイで生きるために必要なのは大きな力ではなく、あくまでたった一人の愛する人を守るために生み出される、小さな力からはじまることもあると心の何処かで信じてもいた。
そして東北に住む青年たちから連絡をもらったのは、そんな『ヤシマ作戦』が行われている頃のことだ。彼らは、僕の関わったひとつの作品で語られた「言葉/台詞」を自分たちが現実のセカイで復興活動するための力にしたいと語ってくれた。その作品は放送当時、日曜の朝に放送するには表現的に不謹慎な作品だと視聴者からも言われたことのある物語だった。

『ねだるな。勝ちとれ。さすれば与えられん』。急遽、組織された復興支援組織ハンド・イン・ハンドの代表を務める佐藤学くんが、呟いた言葉は、僕にとって懐かしくも馴染みのある物語の主人公が叫ぶ台詞だった。
「自分たちが生まれ住む故郷に「何か」したいという気持ちが、『交響詩篇エウレカセブン』を好きだということで知り合ったメンバーたちの間で自然に始まったんです。だから、その作品の言葉を自分たちが作るシャツにプリントした商品を自分たちで売って復興活動資金にしたいと考えています」
彼らにとって復興とは、現場以外のセカイから「あたえられるのを待つものではない」と学くんたちは話してくれた。募金や義援金という彼らにとって「ねだる」ものでも一時的に「あたえられる」ものでもなく彼ら自身が「勝ちとる」ための力を自分たち自身で生み出したい、と語る彼らの瞳を見たとき、僕は自分たちの作り出した不謹慎なアニメという物語が持つ想像力を秘めた「何か」の力を知ることが出来た。
もちろん、彼らの活動はまだ「何も」始まってはいない。きっと理想と現実の壁は、僕らが紡いだ物語の主人公がぶち当たったこととは違い物語になどならない些末な「何か」に阻まれることも多いだろう。それでも彼らも僕ももうアニメやマンガを不謹慎な物語にすぎないと無力感に囚われて諦めることはないだろう。僕らは知っている。《ヤシマ作戦》という何気ない不謹慎な言葉の一つがどれだけの人々の気持ちを動かしたかを…。そしていま僕に出来ることは、まだ「何も」始まっていない彼らの活動をこうして物語ることで現実のセカイに伝えることだ。そこからきっとまだ「何も」始まっていないセカイで新しい「何か」が、始まるのだろう。そう『逃げちゃダメだ』と彼も呟いていた。このセカイは僕らの現実なのだから…。
ProfileStoryRiders『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『サムライチャンプルー』、『交響詩篇エウレカセブン』、『エルゴプラクシー』、『FREEDOM』、『東のエデン』など、数多くのアニメーションの脚本を手がける脚本家・佐藤大が中心となり、2007年に設立したシナリオライターズオフィス。主な業務内容としては、映像コンテンツ及びインタラクティヴコンテンツ(ビデオゲーム等)の企画・設定・脚本の制作。その他、出版物の企画・編集・執筆なども手がける。
Posted by:Luvits!アイドル、アニメ、アニソンといった現在盛り上がりを見せる”ジャパンコンテンツ”をサブカルチャー目線で紹介するカルチャーサイト。ドキュメント形式の動画インタビューや、Luvits!が注目するキーパーソンのコラムなど、様々な角度からこのシーンを捉えて、その他にも最新ニュースの配信やリポートなど、ライトな情報も発信している。公式Twitterアカウントはこちらから。














