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小野田雄 | クロアチア「ELECTRIC ELEPHANT」 レポート | 「WORLD CULTURE REPORT」Vol.20

PUBLIC-IMAGE.ORGにゆかりのある様々なクリエイター、編集者、ライターなどがコントリビューターとなり、世界各地から旬なクリエイティブ情報を届けてくれる「WORLD CULTURE REPORT」。
今回は、以前にもノルウェーの音楽コンペティションについてレポートしてくれた音楽ライター・小野田雄氏が、この夏クロアチアで開催されたミュージックフェス「エレクトリック・エレファント」のレポートを寄せてくれました。

Text:小野田雄


夏のクロアチアで行われているダンス・ミュージック系の音楽フェスが面白いらしいという噂を聞いたのは今から4年前のことだ。その話を聞いて、まず思い浮かんだのは「クロアチアってどこ?」という疑問。そこで調べてみると、クロアチアは東欧に含まれ、バルカン半島に位置する共和制国家とある。東にボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、西にスロベニア、南はアドリア海、北はハンガリーと国境を接していて、もっと分かりやすくいうなら、アドリア海を挟んで、ブーツの形をしたイタリアのふくらはぎあたりにある国といえば何となくイメージして頂けるだろうか?

1991年に社会主義体制が敷かれていたユーゴスラビアから独立し、1995年まで紛争が続いていたが、2005年にEU加盟交渉がはじまり、今年6月に2013年7月の正式加盟がほぼ決定という流れのなかで、ヨーロッパの格安航空会社の路線に組み込まれ、未開の観光地としての魅力が広く知られつつあるということらしい。
また、近年のヨーロッパでは、格安航空会社の発達もあり、国をまたいで遊びに出掛ける、いわゆるイベント・ジェットセッターが特別なものではなくなってきている一方で、イギリスを中心としたヨーロッパにおけるパーティ避暑地として有名なスペインはイビザが、観光産業に取り込まれてしまったこともあり、観光国家としてはまだまだ素朴なクロアチアがフェス開催の地として脚光を集めているのだという。

Electric Elephant

Electric Elephant

そして、さらに調べてみると、首都ザグレブにつぐ、クロアチア第二の都市、スプリットから車で2時間半の距離にあるペトルチャネという900年前から続く小さな漁村、その村唯一のリゾート・ホテル敷地内に設けられたザ・ガーデンという会場で様々な音楽フェスが行われていることが分かった。また、その会場は、2003年にツアーで訪れたイギリスのレゲエ・バンド、UB40の元ドラマー、ジェームス・ブラウンとそのプロデューサー、ニック・コルガンがこの地に惚れ込み、2006年に彼らの出資によりラウンジ・バーとイベント・サイトを兼ね備えた会場としてオープンしたのだという。

ここで行われているフェスの主立ったものを挙げると、ザ・ガーデン主催で国際色が色濃く、最長8日間開催される「ザ・ガーデン・フェスティヴァル」、ディスコ/ハウスやバレアリック中心の「エレクトリック・エレファント」、ブレイクビーツ寄りの「サウンドウェーヴ」、幅広いジャンルをカヴァーした「ストップ・メイキング・センス」、日本でもローンチ・パーティが行われたベース・ミュージック中心の「アウトルック」、ジャズ系の「サンスビート」といったところだろうか。一つのイベントが終わると翌日から同じ会場で別のオーガナイザーによる別のイベントがまた始まり、それが夏中続いていく。さらに先に述べたザ・ガーデンのオーナーが英国人ということもあってか、それらフェスのオーガナイザーはイギリス人が中心で、出演者も多くはイギリス人アーティスト。地元クロアチアのアーティストがラインナップに見受けられなかったのは少々残念だったが、現地の音楽チャンネルではアメリカ、イギリスの音楽が終日流れ続けており、現地の音楽シーン発展はこれからというのが正直なところなのだろう。

Electric Elephant

Electric elephant

こうしたクロアチアのフェス情報を海外のウェブサイトでピックアップしつつ、行くことに決めたフェスは、マンチェスターのDJデュオ、ユナボマーズ主催の「エレクトリック・エレファント」だ。このフェスティヴァルはアンディ・ウェザオールデリック・カーターホース・ミート・ディスコといったビッグ・ネームをフィーチャーしつつ、イギリスのローカルDJ/パーティ色を押し出したラインナップに大きな特徴がある。そして、5日間開催のイベント入場料は85ポンド、日本円で約11000円。さらにイギリス発の格安航空会社を利用したクロアチアの渡航費は往復で1万円前後、宿泊はこの地で主流のキッチン付き短期貸しアパートメントを同行者とシェアするスタイルで、開催5日間をフルで滞在するとしたら高くてもトータルで一人2万円くらい。テント・サイトもあり、その場合はもっと安く泊まることができる。会場のドリンクはミネラル・ウォーターが230円、ビールが300円、ワインのボトル一本2400円といったところ。ちなみにイビザの場合、クラブの入場料が4500円から9000円、ミネラル・ウォーターが1200円、お酒が一杯2250円程度だというから、クロアチアの物価やのフェスにおける値段設定がいかに破格であるかお分かり頂けるのではないかと思う。

Electric Elephant

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そして、実際に足を運んだ会場のペトルチャネは、20分で歩けてしまう海沿いの小さな漁村だった。地中海風の白壁の家が美しく並び、庭先で咲く花にまじって、野菜や果物が栽培され、そこで採れたものが軒先でタダ同然の価格でのんびり売られている。店らしい店はコンビニ程度のスーパーマーケットやカフェ、レストランが3、4軒ほど。スーパーの品揃えはもちろん日本のように何でも揃っているわけではないし、レストランにしても、外食産業がそこまで発達していないこともあって、味の方はあまりオススメできないが、魚介類や野菜は新鮮だし、観光地特有の過剰な便利さや何でもかんでもお金がかかる、そんな窮屈さは全く感じられなかった。

Electric Elephant

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さらにこの街には降り注ぐ太陽と美しい海がある。7月の日没は21時すぎということで日照時間が長く、遠浅の海岸も足下が少々ごつごつしているが、波は穏やかで透明度はかなり高く、赤ちゃんからお年寄りまで3世代家族でのんびり海水浴をしている光景が頻繁に見受けられた。また、そんなゆるやかな街で開催される数々の音楽フェスに対して、地元民はおおむね好意的なようだ。もちろん、そこには少なくない経済効果があるからだろうし、それ以上に「この村は冬になると誰もいなくなるの。だから、こうやって夏になって、みんながやってきてくれるのが嬉しいわ」と語っていた地元のおばさんの言葉が心に残っている。

肝心のフェスティヴァルはというと、ホテル敷地の林を抜けると、水を抜いた円形プールをフロアに、簡易ステージが設けられたメイン・ステージ、そしてすぐそこが波打ち際というビーチ・ステージ、ミッドセンチュリー・モダンな内装の屋内ディスコが現れる。さらにこの街の小さな港からは4時間のパーティ・クルーズが楽しめるボートが1日2便。別途チケットの購入が必要だが、洋上でのライヴやDJのプレイが楽しめる。また、林のなかにはベットやソファーがあちらこちらに置かれて休むことも出来るし、会場内のバーやトイレも並ぶことがない、というよりも、こぢんまりした会場に客を詰め込みすぎないよう充分配慮されている。動員は5日間トータルの目算で1000人から1500人くらいだろうか。音楽フェスは規模が大きくなればなるほど増す楽しみもあるが、期間中、ぶらぶらしていれば、顔なじみが増えて、イベントの親密さが増してゆくのは、中小規模のイベントならではの魅力であるように感じられた。また、その客層も20代中盤から40代前半くらいと幅広く、イギリス人を中心に、ヨーロッパ各地からオーディエンスが集結。オーストリアからやってきたとある10代の少年は1年かけて滞在費を貯め、夏にこの地で1ヶ月遊ぶのだと語っていたのが実に印象的だった。

Electric Elephant

Electric Elephant

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そんな5日間の体験を通じて考えていたことは、国を超えたEUという連合体が新たなカルチャーを育みつつあるということだ。なかでも圏内の移動を容易にしている格安航空会社の発達は、こと音楽に限っていえば、フェスと観光業の魅力的な融合が新たな経済を生み出しているように感じられたし、そうした空の往来が音楽それ自体の活性化や進化に繋がる可能性も大いにあるだろう。もちろん、その反動として、移民排斥などに象徴される右傾化の問題や欧州経済危機においてはダメージの連鎖化などが指摘されていることからも、もちろんすべてが順調というわけではないが、「融合」によってもたらされるアドバンテージには未来の明るさが感じられた。日本もヨーロッパにならって、国内外の格安航空会社が今後発展していきそうな、そんな流れのなかで、国や地域をまたいで、どんな面白いことができるだろうか? 話がいささか大きくなってしまったが、今回、ご紹介したクロアチアの一例は夢ではなく、2011年の現実だ。

Electric Elephant

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小野田雄

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