
和田真文|青森アートレポート|「WORLD CULTURE REPORT 」番外編
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今回は番外編として、日本は青森県のアート・スポットや展覧会について、PUBLIC-IMAGE.ORG編集部の和田がレポートをお届けします。
Text:和田真文
ここ数年はコンテンポラリー・アートの世界でも何かと話題になっている青森県。一度でいいからあのロン・ミュエックが作ったおばさんに会いたい、あおもり犬の足下まで行ってみたい。かねてからそう思っていたもののなかなかチャンスが巡って来ないまま日々が過ぎていった。そんなとき、八戸在住であり、青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)で行われる【再考現学 / Re-Modernologio】pahse1:衣食住から社会をまなざす 展に出品する作家・飯田竜太氏のことを知る機会があった。彼の言う「本や紙を彫る」とはどういうものなのか。写真やインタビューでは飽き足らず、だったら実際に見に行こう、一緒に十和田市現代美術館や青森県立美術館も回ってみようと思いたち、いざ青森へ。
今回のレポートでは先に挙げた「再考現学展」と十和田市現代美術館で開催されていたマイケル・リン「ミングリング ―ふれあい―」展、そして、VIデザインや制服も話題の青森県立美術館と、周辺のおすすめスポットをご紹介します。
1日目
青森空港に着いてから車を走らせること40分、第一の目的地、十和田市現代美術館に到着。

美術館の設計は西沢立衛。入口ではチェ・ジョンファ作「フラワー・ホース」がお出迎え。青森名産のリンゴの樹がペイントされた部屋は、カフェ兼ミュージアムショップになっている。
さて、お目当てはマイケル・リン「ミングリング ―ふれあい―」展。パッチワークを主題とした展覧会。
台湾の伝統的な柄を作品に用いることで知られるマイケル・リン。本展はいつもの色鮮やかな花柄を用いた作品とは趣が異なり、作家が展覧会打ち合わせの際に受け取った「おみやげ」の包装紙がきっかけとなり構想が生まれた。包装紙に付いた折線のあとの美しさに惹かれた氏は、これをもとに青森の市民と共同でパッチワークを制作するワークショップを開催。その折線を忠実に再現したパッチワーク作品や枕、布団などを作り上げていった。
ワークショップには、針を持つのも初めてという人からパッチワークを趣味とする人、近所の叔母樣方、美術館の学芸員、ワークショップ当日にたまたま愛知から美術館を訪れ興味を持った人まで、実に50人程が集まったという。3ヶ月ほどあった制作期間で、参加者のほとんどが女性だったそうだ。
パッチワークと言えば通常は、型紙からサイズや型が多少ずれたとしてもあまり問題はない。だが、キャンバス地にぴっちりと貼られた状態を見てもわかるように、リン氏が作った型紙通り細かく再現する、忠実な針仕事が求められていた。針目の細かさや角の縫い目に出る線の几帳面さにその跡を伺うことができる。

マイケル・リン「ラッピング・コンポジション(海老煎餅)」photo:Wakaki Michio
これが、マイケル・リン氏が受け取った日本のおみやげとその包装紙。おみやげはもう一種類あり、その写真も展示されている。

(左)「ラッピング・コンポジション#5」(2011)、(右)「ラッピング・コンポジション#1」(2011)
包装紙の折り目が忠実に再現されている。左が、上の写真にある包装紙を再現したもの。

マイケル・リン「ミングリング ―ふれあい―」展 展示風景 photo: Wakaki Michio
こちらは、入口すぐに展開されている空間。

「ラッピング・コンポジション#1(枕)」(2011)
ソファに置かれている枕。こちらも作品のひとつ。

「アフター・ソニア・ドローネ アフター草間彌生(緑)」(2011)
ソニアは20世紀を代表する前衛芸術家。彼女が息子のためにパッチワークで作ったブランケットへのオマージュに、ドット柄で知られる草間弥生への尊敬の念を重ねた作品。リン氏も、小学生の息子さん用にと考えているそうだ。かなりインパクトのある敷き布団。夢の中にまで入りこんできそう。

「アフター・ソニア・ドローネ アフター草間彌生(赤)」(2011)
これも草間氏へのオマージュ作品。ちなみに美術館を挟んだ向かいの通りには、直島や妻有にあることでも有名なドット柄のかぼちゃが置かれている。
十和田市美の企画展は、常設展に収蔵されている作家から選ばれており、企画展ごとに市民や周囲の商店街との共同企画を運営しているのだという。マイケル・リン展では、市民が参加する作品制作と共に、商店街で同氏がデザインした花柄を利用した包装紙を採用し、協力商店で買い物をするとその包装紙でラッピングしてもらえるプロジェクトや、地元の酒造会社と共に、オリジナルのお酒のラベルを作ったりする街ぐるみのプロジェクトが展開されていた。

(左)ミュージアム・ショップ兼カフェ。床にはマイケル・リンの常設作品が敷かれている。(右)商店街とのコラボレーション企画を紹介するスペース。

数ある協力店舗の中でも目立っていたのは、お茶や食器を取り扱っている松本茶舗。リン氏デザインによる包装紙で店そのものをラッピングする気の入れよう。

商店街にある「ふれあいホール」。子供が遊ぶスペースにも、マイケル・リン作品が。
美術館を堪能したあとは、地図を片手に商店街を回ってみるのも楽しい。お店の人から美術館とのコラボレーションの裏話や、地元の人が集まる食堂、ご家族の話など、実に色々な話しを聞くことができた。美術館と共に、地元そのものの良さを伝えたいという意気込みが伝わる展覧会だった。

十和田市現代美術館から青森市街へ向かう国道の途中には睡蓮沼がある。八甲田山など青森の名山を一望できるスポット。
2日目
今度は奥入瀬渓流を後にして、青森市街に近い国際芸術センター青森へ。目当ては西尾美也氏、飯田竜太氏、mamoru氏の3名のアーティストによる「再考現学展」。
同センターは青森公立大学が運営する施設で、すぐそばに国道があるとは思えないほど静かで新緑豊かな場所に位置している。建物に行くまでの道には、青木野枝らアーティストによる野外彫刻作品が展示されている。

坂道を下っていくと、広いエントランスが見えてくる。

いよいよ建物の中へ。細く長く広がる入口が高揚感を誘う。設計は安藤忠雄。
再考現学展は、青森出身の建築家・今和次郎が提唱したフィールドワークの手法「考現学」に焦点を当てた企画展だ。ACACは、収蔵作品を持たず、作家が滞在制作を行い展示する「アーティスト・イン・レジデンス」のかたちをとる美術館だ。
展覧会は3期に分かれて構成されており、今回のPhase1では、日常生活の基盤となっている衣食住について作品を通して考察するものになっている。
まずは、西尾氏の作品、「1000 coordinates」。
西尾美也は、アートとしての衣服を、一般から参加した市民と共同で制作するアーティストだ。
今回の作品は、青森を中心に募集された古着で作られている。日本人が一年のうちに購入する服の量が平均して約10キロという調査結果を平均寿命の約80年分に換算した場合、一生分は800キロ程度(約4000着分)に当たると考え、市役所や美術館の広報を通じ募集を始めた。目標の4000着はあっという間に集まったという。
大震災が起こったとき、避難所では服が足りないというのに古着を作品にしていいのか?と作家自身やスタッフで議論が行われた。だが、避難所に届けられた服も、古着よりは、汚れの少ない新しいものが必要とされる事情や季節外れという理由から廃棄される服も少なくない現状を鑑み、このプロジェクトを決行する結果が下された。
作家やボランティアの人々が集まった4000着からできる組み合わせ1000コーディネート(1コーディネートを4、5着で構成)を考え、それらの服を大きさやえりの形、、匂いなどの項目ごとに分析を行った。組み合わせに決まりはなく、中には、子供用の短パンと大人用のパンツをコーディネートしたものもあった。
西尾氏の作品は全部で5点出品されている。解体した服から出てきたボタンのカーテン、花柄の布を組合わせた花、袖でできた滝、セーターの毛糸を解いてできた雲、それらの条件をクリアした残りの服、そして、集まった服からコーディネートを考え、服の特徴を分析した表と、作家自らその組合わせ通りに着用し、記録に残したスライドショー。
作家主導でパッチワークを行う点はマイケル・リン展と同じだが、こちらは基準が緩く、条件は「花柄の布」で作るということのみ。作家が作った約10センチ角の型紙をもとに、参加者が好きに組合わせを考えミシンで縫い合わせ完成させた。

(左)ボタンを繋げて作られているカーテン。ACACにはテクニカル・スタッフとよばれる専門職員がおり、展示ごとに、作品の見せ方を技術面からサポートしている。天井から吊るしたボタンを止める金具を、電化製品などの電線を束ねる留め具で応用したのも彼らのアイデア。(右)作品全体像。広く横に伸びた空間をどう利用するか、6mある天井をどう見せるかもみどころの一つ。
壁面には、1000枚の分析表と、1000着のコーディネートを写真に収める西尾氏のスライド上映が行われている。コーディネートは、サイズや性別に関係なく構成されているため、時に本来の目的で纏えないものも出てくる。スライドショーには、子供ものの短パンを頭から被ってコーディネートする姿も登場。ユーモアもたっぷり。

1560本の袖でできた滝(手前)。よく見ると、コートやジャージ、シャツなど元の姿を想像することもできる。

(手前)毛糸を解いてできた雲。網の目の間に解いた毛糸を通しひっかけ、天井に吊るす構造。今回は青森県内での募集を中心に行ったこともありセーターが多く集まった。気候や風土にあわせた特徴が見えたことも、分析を通しわかったことのひとつだと言う。(奥)ボタン、袖、花柄、毛糸4つの条件を取り除いた後、残った布をミルフィーユ状に積み上げたもの。隣り合う飯田氏の作品と境目を作る役割も果たしている。
この建物は天井の高さに加え、横に広く広がる作りも特徴。ここで展示する作家は、隣り合う作品がどのようなコンセプトやかたちを持つ作品なのかを考え、ときに作家同士で話し合いながら展示内容を決めていく。今回でいえば「今は使われなくなったもの」を解体することが、西尾氏と飯田氏が用いた素材が持つ共通点であり、作品を上から吊るしている点が、この建物の特徴を利用した共通点である。
古着作品の隣には、飯田竜太氏による古本/古雑誌を解体、彫刻したが作品が展示されている。
まず目に入ってくるのが、古雑誌を解体し、短冊型に細く切り裂き天井から吊るした作品。雑誌は、サンデー毎日や週刊朝日、文春など。

近づくと、かすかに古本独特の紙の匂いがする。展覧会がオープンしたばかりの頃は、古着と古本の匂いが会場全体に漂っていたという。私が訪れた8月下旬は、意識して嗅いでわかる程度の匂いだった。
これが、古本を彫って制作された作品、「I see, I can’t see. [Ito]」。
本の年代や彫り方や文字のサイズ、写真集か小説かなどのジャンルの違いによって見え方違う。宮部みゆきによる著作など、本の背表紙が見えるものもあったが、ジャンルや作家には特定のルールは決められていない。

作品は全部で198冊。

本によって切り方が違う。何が書かれていたのかはほとんどわからない。音響アーティストのmamoru氏の作品を展示した空間は、建物の池に面して作られている。ここは、普段はわざわざ聞くための時間を作ったりはしないような物ものが奏でる、ごく小さな音のための空間。
展示作品「etude for everyday life/日常のための練習曲」には、観客が、そこに置かれた身近な用具を使って自ら作業を行い、それを作品として楽しんでもらう仕組みがそこここに仕掛けられている。
私も実際に、ラップを切ってまるめ入れたコップを両耳に当てて、徐々に膨らむ音を楽しんだり、氷から滴る水滴の音を聞いたり、ワックス・ペーパーの間を八の字に走って棚引く音を聞いたりして、小さな音たちを存分に楽しんだ。

ソファに座って氷から滴り落ちる雫の音を聞く。このソファは建具屋さんが作った、使われなくなったものを運んで使用している。氷を製氷するための冷蔵庫は本展を担当した学芸員、服部さんの家にあったもの。たまたま家に2台あったため、ここに寄付された。このように、会場にある家具や家電はすべて持ち寄り品が使われている。

(左)釣り糸にセットされた氷は、毎朝、開館時にスタッフがフックに引っ掛け準備を行っている。(右)ソファの後ろに見えるオーブン用のワックス・ペーパーも作品。6mの天井から吊られた3枚の紙の間を小走りで歩き、ピラピラと鳴る音を聴く仕組み。これがなかなか難しい。「再考現学」展では、古着に古本、使われなくなった家具や家電、改めて聴く機会のない音など、「必要のないもの」をあえて持ち出し、元のままの使い道から視点をずらして新鮮な感覚を体中に与える作品が集められていた。身近な物を作品に用いる作家らの展示と言ってしまえば、それほど珍しくない内容かもしれない。だが、それを首都圏から離れ、青森市の中心街や十和田市からも車で3、40分ほどかかる場所で行うことに大きな意味があるように思う。
ACACは通りがかりに訪れるには少々難しい立地にあることもあり、前々からこの展示を見たい(あるいは安藤忠雄建築を見たい)と思っていた人々が展示鑑賞のために時間をつくり、建物の外の状況から切り離された空間で注意深く作品と向き合うための環境が整っている。小さな音や微かな匂い、本の黄ばみ方やわずかな柄の違いなど、神経を集中させてやっと見える微細なしるしやズレを全身で感じることができるのは、ここならではの発想である。
3日目
最終日の今日は、青森市街をまわって夕方に空港へ向かうプランをたてて出発。早起きして青森港を散策した後は、バスで青森県立美術館に向かった。ガイドブックに登場する青森の二大美術館といえば、先に訪れた十和田市現代美術館と、この青森県立美術館。
青森県立美術館は、三内丸山遺跡から歩いて10〜15分のところにある。遺跡が点在する公園からは、ちらりと美術館のすがたをかいま見ることもできた。

歩いて美術館へ移動。これが外観。設計は青木淳が手がけた。壁面に付いているマークは、菊地敦己のデザイン。
県美で一番楽しみにしていたのは、奈良美智による「あおもり犬」。JR東日本「青森デスティネーションキャンペーン」の広告でも有名。会うには少し時間がかかった。建物は地下に向かって伸びる構造。地下2階から地上2階までフロアがあり、あおもり犬は地下2階に設置されている。地下からスロープを通って地上に上がり、そこからまた階段を下ると、犬の足下にたどりつく。

(左)一旦地上に出てから階段を下る。(右)サインもかわいい!

ご対面。周りを囲む土壁にも注目。展示室の壁面や床にも、同じ素材が使われている。
美術館は遺跡に着想を得て設計されている。白い外観に土でできた壁面の組み合わせは、小さい頃から刷り込まれてきた「美術館=スタイリッシュ」というイメージが切り崩される。
美術館のシンボルマークやロゴなどのVIはアートディレクター/グラフィックデザイナーの菊地敦己が担当している。木と「a」がモチーフとなったマークは、「青い木が集まって森になる」というコンセプトのもと、 エントランスにも、一つのマークがパターンとなって展開されている。
もう一つイメージを切り崩されたものが、ミナ・ペルホネンがデザインした制服だ。職員は、ミナのテキスタイルでは馴染みの深いタンバリン(開館時から着用)とチョウチョの模様(2011年4月29日から着用)が刺繍された空色と土色のチュニック・ワンピース姿で接客しているのだが、内壁や床の土と制服の色や柔らかさとの馴染みが良く違和感を感じさせない。美術館では、黒いスーツや個々人の私服で監視や受付を行う場合が多いが、それに慣れた目には建物と制服の組合わせが新鮮だった。そこで働く人々の姿も含めた景色を楽しむのも、この美術館の楽しみ方かもしれない。
美術館を一通り見終わり、空いた時間で友人が勧めてくれた「ねぶたの家 ワ・ラッセ」を訪れた。ここは青森の名物「ねぶた祭り」に使うねぶたを一同に集めた会館で、ねぶたの作り方や名人が作ったねぶたのアーカイヴ展示、お囃子の実演などが行われている。最近まで、ねぶたをそれぞれ別の場所で作り保管していたが、現在ではワ・ラッセが毎年使用するねぶたを管理する保管庫の役割も果たしている。

ワ・ラッセ外観。青森駅からすぐ、海に面した赤い建物が目印。今年1月にオープンしたばかり。

千葉作龍 作 四神降臨「白虎と青龍」
2011年のねぶた大賞を獲得した作品。

今回訪れた3つの美術館は、週末などを使って、企画展と関連したワークショップやイベントを頻繁に開催している。地方都市では、県外からいかに観光客を集め来場者数を伸ばすかの工夫も必要とされるのが現状だ。だが担当者のみなさんから話を聞くにつれ、美術館は、そこに住む人々に長く関心を持ち続けてもらうための策を練る工夫にも力を入れることで、まずは地域住民自らにとっての心地よい場所になろうとしているのではないかと考えるようになった。毎日通り過ぎる場所に良い思い出が増えるにつれ、住民自らも、そこを訪れた観光客に対してその場所の良さを伝えやすくなるだろう。
双方に利益のある、そして金銭的/時間的にも負担の少ないプロジェクトを継続していくことで、息の長い活動を目指そうとする一面を覗き見ることができた。
Exhibition Information
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マイケル・リン「ミングリング ―ふれあい―」
会期:2011年5月28日(土)~8月28日(日)
場所:十和田市現代美術館
【再考現学 / Re-Modernologio】
pahse1:衣食住から社会をまなざす
会期:2011年7月23日(土)~ 9月19日(月)
場所:国際芸術センター青森
青森県立美術館開館5周年記念
光を描く 印象派展-美術館が解いた謎-
会期:2011年7月9日(土) – 10月10日(月)
場所:青森県立美術館
















