
植本一子 + 南波一海 | 松井えり菜 | 「お忙しいところ失礼します。」Vol.13
写真家・植本一子氏と、ライター南波一海氏が、毎回気になるクリエイターの仕事場に突撃する連載コラム「お忙しいところ失礼します。」。
今回お邪魔したのは、海外でも高い評価を受ける、アーティストの松井えり菜氏のアトリエ。エネルギッシュな彼女の作品が生まれる場所とは…?
Photo:植本一子
Text:南波一海

壁にはいくつかのキャンバスが立てかけられ、足元には無造作に絵具や筆が転がっている。それからおそらく彼女の血肉となっているであろう、ロココ調のグッズやメルヘンチックなものがいくつも並んでいる。画家・松井えり菜という人をよく表すアトリエと言っていいだろう。
以前はアトリエ兼住居に住んでいたが、アトリエと住まいを分けることにした。
「(以前の部屋は)思った以上に油絵具の匂いがして。私は慣れているので良かったんですけど、家族とかが来た時に“これ死ぬよ!”って言われて(笑)。そんなこと言われてるうちに体に悪いような気がしてきて、分けた方がいいかなと思ったんです」
ほぼ毎日、昼前にここを訪れて制作をしている。「むしろ家に食べものがない」ので、ここが生活の基盤になっているところもある。帰らずにそのまま泊まることもあるという。
松井えり菜と言えば自画像。あらためてなぜ自画像を描き続けるのか尋ねてみた。
「迫りやすいモチーフなんです。自分の肌って一番触っているものじゃないですか。質感にフォーカスして絵を描いているので、何より身近で触りやすいし、内面も知っているので描きやすい。すごくリアリティがあるんですね。そこが一番大きいと思います。あと、本当に絵を描くことが好きなので、自分がモデルだと描きたいと思った時にすぐ描けるんです」
ウーパールーパーをモチーフにした作品が多いのも特徴だろう。これには非常に納得のいく一貫性のある答えが返ってきた。
「私の中では違う側面の自画像として描いてます。子供の頃によく似ていると言われていて。だからウーパールーパーは自分の幼少期と重ね合わせた自画像なんです」
「来年は辰年じゃないですか。ウーパールーパーってちょっと恐竜っぽいので竜に見立ててツノを生やしてみました」ということで、2012年に倉敷市の大原美術館で展示する予定の立体作品も制作中(写真参照)。作品が絵画だけに留まらないのは何故だろう。
「私は絵を描くフレッシュな気持ちを保っていたいので、絵を描きながら作品がどんどん派生していくんです。絵は完成するのに長い時間がかかるんですね。だからだれることもあって、そういう時に描くと結局消さないといけなくなる。だからだれそうだなと思った時に他の作品にパッとシフトする。なので、このアトリエはそんなものがいっぱいなんです」
こうして、このスペースから日々様々な作品が生まれていくのだ。

アトリエ。キャンバスを直接壁に立てかけて描いていく。キャンバスの他に制作途中の立体作品なども。奥にはフランス大使館で行われた国際展覧会「NO MAN’S LAND」(2009-10)で着用したドレスが。

制作中の作品。次回の展示に向けて内容がどんどん変化している最中。完成していないものを載せてもいいのか尋ねると「過程を楽しんでるので大丈夫」とのこと。そんな松井えり菜は用意していたウィッグを着用!



修復中の陶器の人形。こういった修復作業も行っているというのは驚き。
Favorite Item


(左)洗浄オイルの『ブラシクリーナーデラックス』。「筆を洗う油なんですよ。筆の油絵具って水じゃ取れないので、専用のクリーナーで落とすんですけど、これは洗った後、放置しといて大丈夫なんです。普通のだと油が残るので石鹸で洗わないといけないんです。これだと油が蒸発するので次の日そのまま使えるんです」
(右)いくつもの筆。「筆を本当によく使うんです。絵具よりも消費が激しいんです。描いてる途中にすぐダメになるので。一番大事なのは筆の鮮度なんです」ひとつの絵に20本以上消費することも

フナオカのキャンバス。「社長さんがすごく豪気な方で。丸いのを作って欲しいと言えば作ってくれるし、襖みたいな大きな絵を描きたいと伝えたらモーターボードとかの看板を作る工場に直接足を運んで、パネルを作ってキャンバスを張って下さって。キャンバスのたるみが好きだというとパネルを少しへこませてたるみまで作ってくれるんですよ。だからすごい好きです」

Creator Profile
松井えり菜1984年岡山生まれ。美術予備校の文化祭で大賞を受賞した作品『えびちり大好き』が同校の広告として美術雑誌に掲載され、同作品でGEISAI#6の金賞を受賞。それをきっかけにカルティエ現代美術でのグループ展「私はそれを夢見る」に参加し堂々の国際デビューを果たす。2007年に初個展となる「わたしの小宇宙(コスモ)」を山本現代にて開催。同年11月にバルセロナのジョアン・ミロ財団で個展、モスクワビエンナーレなど精力的に活動中。
2012年1月より大原美術館にて、個展「松井えり菜 サンライズえり菜~大原美術館をおもちゃ箱~」を開催。
Posted by:植本一子
84年広島県生まれ。写真家。02年、高校生の生活フォトコンテスト受賞。03年、日本写真芸術専門学校在学中に、キャノン写真新世紀で、審査員の荒木経惟氏らから賞賛を受け、優秀賞を受賞する。2009年11月よりA/M所属。
南波一海
ライターなど。音楽誌『ヒアホン』編集の他、各専門誌で音楽や映画などについて執筆中。
近況:ototoyさんで『OTOTOYアイドル研究室』という短期講座を開きます。よろしくお願いします!
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