
JUNYA SHIGEMATSU | 重松淳也 | Artist / Graphic Designer
例えば、美術館に足を運び、思わず触れたくなるような魅力的な彫刻作品に出会ったとしよう。だがその時、99%の確立で「作品には手を触れないでください」という注意書きを発見し、歯がゆい思いをすることになるだろう。今回紹介する重松淳也が作り出す作品は、そんな観賞用の崇高(?)な造型芸術とは対極にある。作品を「人と人」「人と出来事」をつなぐコミュニケーションツールと捉え、アートやデザインという枠にとらわれず活動する彼が生み出すのは、時に楽しく、時に美しく、そして時々皮肉めいた、ユーモアたっぷりの魅力的なアートピースだ。
Text:原田優輝
まず始めに、現在の活動について教えてください。
3名のメンバーで構成されたHRHデザインアクティヴィティ(以下、HRH)の活動と、個人名義による作品制作をしています。HRHでは、統計学的なアプローチを立体やグラフィックに落とし込んでいくプロジェクトなどを展開し、個人活動では幅広くいろいろな作品やデザインを提案しています。
制作を始めたきっかけは何ですか?
学生の頃、クラスメイトとBMXチームを組もうとしていたのですが、なかなか上手にならなかったので、徐々にTシャツやユニフォームを作る側に向かっていったんです(笑)。もともとデザインやアートに興味はあったのですが、本格的に志すようなったのはその頃からですね。その時に友人と始めたのがHRHです。
HRHで統計学的要素を取り入れているのはなぜですか?
マクドナルド主催の企画で、様々なクリエイターが「マクドナルドのクオリティ」を提案するというプロジェクトがあったんです。ウェイトレスのユニフォームデザインや、新しいロゴの提案など、多くの作品があった中で、僕らはマクドナルドの膨大な店舗数に着目して、各店舗が存在する地点をマーキングし、グラフィックに落とし込むというアプローチを試みたんです。その制作過程で、統計をヴィジュアル化する面白さを見出していきました。

「マトリョーシカ」もまさに統計学的アプローチによる作品ですよね?
そうですね。世界各国のさまざまな統計を、フォルムとサイズで表現しているのですが、これらの作品は本物のマトリョーシカ人形同様、すべて木で作られています。誰が見てもそれと分かる素材で制作することで、より広いコミュニケーションができると思っています。HRHでは、グラフィックデザインからモノの提案まで、トータルでデザインしていくことを目指しているんです。

重松さん個人の活動としてはどのような制作をされているのでしょうか?
作家活動とデザイナーとしての仕事をしています。大学を卒業した後、会社勤めをしている時期があったのですが、その頃から仕事の合間にマスクの作品などを制作したりしていました。
『JUNYA SHIGEMATSU(HRH) EXIBITION』(05)/モリハナエギャラリー
マスク作品の延長線上で制作されたマスクモチーフのiPodケース。このほかにも、マスクをブレスレットにしたアクセサリーやペンケースなどのグッズも制作した。
その後の「His Royal Highness」というシリーズ作品では、自分の周りにいる知人のクリエイターたちにモデルになってもらい、彼らの作品や人間性からイメージした王冠を制作し、ポートレート撮影をしています。この作品のためにトランプの絵札をモチーフにしたタイポグラフィも作っていて、いずれはこのシリーズで展覧会をやりたいと思っています。モデルとして登場してくれている彼らは、自分が影響を受けた人たちなんです。それぞれが各分野で素晴らしい仕事をしているのですが、人間的にも魅力があるし、彼らに会うとパワーをもらえる。そんな彼らのヴィジュアルを作りたいと思うようになったのがそもそものきっかけでした。

友人のカメラマン、メイクアップアーティストとチームを組み、重松氏ディレクションのもと、スタジオ撮影をしている。写真は、「Public/image.」でもおなじみのイラストレーター黒田潔氏。Photo : Kenshu Sannohe Hair & Make-up : Kenji Toyoda Model : Kiyoshi Kuroda
「His Royal Highness」のために作られたタイポグラフィ
様々な作品を製作されていますが、制作を通して一貫して伝えたいことはあるのですか?
毎回表現のスタイルが変わってしまうクセがあるのですが(笑)、HRHにしても、個人作品にしても、自分たちの作品に接することがきっかけで、世の中で起きている出来事や身の周りの人たちのことが伝わっていけばいいなと思っています。美しい作品やカッコ良い作品を作りたいという欲求は当然ありますが、まずは自分たちの作品をコミュニケーション・ツールとして機能させたい。表現したい事柄が先にあって、それを作品というカタチで発信していくという事と、既成の事柄をモノに落とし込むための方法論を考える事の両方が好きですね。
コミュニケーションが重要なポイントなんですね。
そうですね。でも、スゴいと思ってもらえるような洗練されたセンスやスキルは絶対必要で、それはしっかり磨いていくべきポイントだと思っています。そこを入り口に、「じゃあこの作品はなぜこうなっているの?」と考えてもらえることからコミュニケーションは始まるわけですからね。
そういう意味でも実際に手に取れる作品が多いのですか?
そうですね。立体作品の方が存在感があるし、個人的に「欲しい!」と思えるものだったりもするので。例えば「マトリョーシカ」のような実際に触って遊べる作品が、子供の勉強道具としてあったらいいなとかを考えたりしています。あまり(作品を)わかりにくくしたくないというのはありますね。単純に面白いと思える作品を作りたい。

BBS TOKYOで開催した『MATRESHKA!!』展のために制作されたDM。破っていくと中から新しい情報が取り出せるような作りになっている。jima Yoshihiro(HRH)
HRHと個人の活動は、しばらく平行して続けていくのですか?
自分のなかでは、2つをそんなに分けて考えているわけではなく、将来的には個人の活動もHRHの中で発表できるスタイルに移行していきたいです。また、それは必ずしもアートワークである必要はないと思っています。例えば、それがラーメン屋というカタチでも良いのかもしれないし(笑)。お店を作品として捉えれば、また新しいことができるだろうし、作品は展覧会場だけで発表するものという考えはあまり持っていないかもしれないですね。
ADAPTERとH.P.FRANCEとのコラボレーションによるセレクトショップ「Revelations/」で開催された「FOURTEEN」展に参加した時の展示風景。スクールをテーマにした展示会だったため、会場を架空の中学校と想定し、その校章をデザインし立体作品として表現した。



