
Isao Nishigori | 西郡勲 | Music Video Director / Motion Graphic Creator
「見えないものを見てみたい」。これは、西郡勲がオリジナル映像を担当した「MEGASTER- II cosmos」用コンテンツ『暗やみの色』のコンセプトだ。そして、このフレーズほど西郡の映像表現への欲求を言い得ているものは他にないだろう。“見えないもの”の美しさを想像し、その奇跡のような瞬間を連続させることで生まれる色彩豊かな西郡ワールド。若くして映像制作の魅力に取りつかれ、以来VJ、MV、CM制作など幅広く活躍し、近年では『彩-SAI-(前篇)/廻る、巡る、その核へ』(ACIDMAN shortfilm)が文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門で優秀賞に選ばれるなど、各界で高い評価を得る稀代の映像作家の素顔に迫った。
Text : 原田優輝
映像制作を始められたきっかけを教えてください。
もともとはデザイナーになりたかったんですけど、高校1年の時に遊びに行ったクラブで、VJのようなものを初めて目にしたんです。’90年頃だったんですが、当時はまだVJという言葉すらなかったような時代。音楽に合わせて絵が動いていて、その絵を動かしている人がいたんです。それを見た瞬間に「これじゃん!」と思って。すぐにその人に駆け寄って、作り方を教えてもらいました。そこで、AMIGAというコンピュータを使っていることを聞いて自分で購入したんですよ。当時は相当高かったので借金をして、学校に行きながらバイトもしてお金を返していく生活でしたね(笑)。
最初の出会いが相当衝撃だったんですね。
そうですね。それまでも映画とかは好きで良く見ていたんですが、自分で映像を作りたいと思ったのはその時が初めてでした。音楽が大好きだったので、音楽と(映像が)合わさっていたということが僕にとっては重要でしたね。
そこからは独学で学ばれたのですか?
そうですね。結構大変でした。手に入れたコンピュータもソフトも海外のものだったので、解説書や説明書も全然充実してなくて。英和辞書を片手に勉強してましたね。今思うと、若いって素晴らしいなと思います。映像を作りたいという執念が英語をも訳してしまうというか(笑)。
実際にVJを始められたのはいつ頃からですか?
高校2年生くらいからですかね。当時は(VJの)絶対数も少なかったので、重宝がられていたこともあって、毎週のようにビデオや機材を持ってどこかに行っていました。

日本科学未来館で行われたイベント「4%」でVJを務めた西郡氏。
その後、VJだけに留まらず、映像表現の幅を広げていったと思うのですが、その間にはどういう経緯があったのですか?
高校卒業後、CG制作会社に所属して、しばらくはテレビ用のCGなんかを作ったりしながら、VJも引き続きやっていました。20歳の時にMTVのStation-IDコンテストというのがあって、そこで初めてVJ用ではない映像作品を作ったんです。
それはどういう作品だったのですか?
映像と音が気持ち良くシンクロする数十秒程度の作品だったのですが、その時は起承転結も意識して作ったんです。それまでに制作していたVJ用の素材などは、ただ単にインスパイアされるがままに絵を動かしていた感じだった。ストーリー性のある映像は、この時に初めて制作したんです。
それまでは作品にストーリー性を持たせることに興味がなかったのですか?
あまりなかったんですよ。でも、それまでは作品を人に見せたりした時に「カッコ良いね」というリアクションしかなくて、それが少し不満だったんです。もちろんそれはそれで嬉しいんですが、「じゃあどこがどうカッコ良いの?」というか。作品を通じて、特定のメッセージを伝えたいというわけでもなかったんですが、周りの人の意見に納得できない部分があって、カッコ良いだけで終わらない何かをしたいという想いは漠然とあったんです。

「SOL(ACIDMAN MV)」/Dir.+CG / 西郡勲, 米澤拓也, Pro./ 松居秀之 Production by P.I.C.S. (c)東芝EMI/2005
そういう想いをきっかけに、ご自身のスタイルや作家性を追求するようになっていったんですか?
そうですね。そこを突き詰めていくと、やはり僕にあるのは音楽だった。音にシンクロしたテンポや動き、色彩を作りたいというね。ミュージックビデオよりもさらに音と絵が交じり合った映像を作りたいと思ってましたね。頭の中で鳴っていた音楽と目にしている風景が完全にリンクしてゾクっとする瞬間ってあるじゃないですか。映画のワンシーンに完璧にマッチしている音楽とかでもいいんですけど、そういう瞬間に訪れる言葉に出来ない感覚を映像で作りたいなというのがあるんですよ。
文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞された『彩-SAI-』などからもそういう感覚は伝わってきます。「映像と音楽のリンク」という次元を超えたエモーショナルな瞬間の連続というか。
それは常に考えています。自分が思い浮かべる風景を絵にして、それを時間軸に沿って動かすことで人と対話をしたいという欲求があるんです。

「彩-SAI-(前篇)/廻る、巡る、その核へ(ACIDMAN Shortfilm)」/Dir.+CG / 西郡勲, CG Design / 米澤拓也, 伊藤まゆみ Pro./ 松居秀之
Production by P.I.C.S.
(c)東芝EMI/2004
作品制作のインスピレーションになるものを教えてください。
日常のなかにある“一瞬”に影響を受けることは多いですね。例えば、水がゆらめいてグニャグニャしている感じとかに魅き付けられたりするし、風が吹いていると、その動きを想像したりしますね。空間の中を風がどう動いているのかとか、その風に色を付けてみたらどうなるかとかをスゴく想像しちゃうんですよ(笑)。

「暗やみの色」オープニング/Dir.+CG / 西郡勲 CG Design / 米澤拓也 Music / レイハラカミ(Sublime Records) Narration / 原田郁子(Clammbon) Pro./ 寺井弘典 Production by P.I.C.S.
(c)Miraikan/2004
やはり西郡さんの中には、映像的な感覚や思考回路があるのですね。
そうですね。美しいと感じる“一瞬”の連続を作り出していくことが面白い。『彩-SAI-』の時も、ああいう映像を作るきっかけとなったのは、花火の光で照らされる街や水の美しさに気づいたからだったんです。だから街がいろんな色に変わったりするでしょ? ショートフィルムとして作っている割には、特にストーリーがあるという作品ではなかったんですけどね。

「彩-SAI-(前篇)/廻る、巡る、その核へ(ACIDMAN Shortfilm)」/Dir.+CG / 西郡勲, CG Design / 米澤拓也, 伊藤まゆみ Pro./ 松居秀之
Production by P.I.C.S.
(c)東芝EMI/2004
でも、言葉によって語られる筋書きにはない、極めて映像的なストーリー性は感じました。
『彩-SAI-』の時もそうだったんですが、動物のような言葉を持たないモチーフで何かを伝えようという試みはよくしているんです。映像には展開が絶対必要だとは思うんですが、それが別に台詞である必要はないし、僕自身、言葉ではなく感覚で訴えかけることを大切にしています。
これまでに影響を受けたクリエイターを教えてください。
ニック・フィリップというデザイナーに一番影響を受けました。彼の絵が大好きで、そこから受けた影響は今でも僕の根本にあります。あとはCGアーティストの河口洋一郎さん。さっき話した一瞬のゆらぎの美しさを見抜いている人だと思います。やはり、自分が若い頃に見ていた人たちに影響を受けています。最初の頃は、その2人の作品を真似したりもしてました。
コピーから入ることも大切ですよね?
そう思います。彼らの作品を自分の中でどう消化していくかということは、色々チャレンジしましたね。自分のフィルターを通すことでより良いものになるんじゃないかと思っていたし。最初はやっぱり真似から入ると思います。そこから自分の色やオリジナリティを磨いていけばいいわけですからね。
最近の活動を教えてください。
ACIDMANの『Walking Dada』という曲のミュージックビデオを作りました。マクロとミクロの世界を行き来する違和感のある映像が作りたくて、それを表現することが出来たと思います。
今後やりたいことを教えてください。
将来はミュージカルをやりたいんです。台詞や歌詞がない、音楽と映像だけのミュージカル。『彩-SAI-』も自分の中ではミュージカルみたいなものだと思ってるんですが、要は音楽と映像が、時間軸に沿ってどんどん進行していく作品が作りたいんです。1時間弱の間、音楽と映像だけで見せるっていうね。それが成功したときに伝わるものはスゴく大きいと思うんです。演出がメチャクチャ大変だとは思いますけどね(笑)。




