
HIROKI TSUKUDA | 佃弘樹 | Artist
デジタルコラージュと手描きによるドローイングを使い分ける独自の平面表現で注目を集め、新進気鋭のグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせた佃弘樹。そんな彼が近年、ペインティング作品の制作に力を注いでいる。活動のメインフィールドを従来のグラフィックから、キャンバスへと広げつつある彼の変化は、NANZUKA UNDERGROUNDとDIESEL DENIM GALLERY AOYAMAで開催されている2つの個展により、いよいよ決定的なものになりそうだ。この2つの展覧会は、佃弘樹にとって、ペインティングの世界への本格的な参入を宣言する決意表明とも取れる重要な転機だ。展覧会を直前に控え、作品制作真っただ中の彼を、NANZUKA UNDERGROUNDで取材した。
Text:原田優輝
表現活動を始めるようになったきっかけを教えてください。
昔から絵を描くことが好きで、自然な流れで美大に入り、自然にグラフィックデザインなどを始めるようになりました。多くの人がそうだとは思いますが、活動を始めてからしばらくは、その時代が求めるヴィジュアルを作りたい、という目先のカッコ良さに捕われる部分が大きかったですね。
これまでにどんなものに影響を受けてきたのですか?
小さい頃に出会った「スターウォーズ」や「ブレードランナー」を通して知ったシド・ミードには、大きな衝撃を受けたことを覚えています。「スターウォーズ」や「ブレードランナー」が直接作品に出てくる事はないですが、そういうものが脳に焼き付いたまま大人になってしまった気はします(笑)。それらと、日本の田舎の田園風景や文学などといった多種多様なものがミックスされ、今の作風があるのだと思います。

確かに佃さんの作品の世界観からは、それらに通じるものが感じられますね。
ただ、今興味があるのは、ゴヤやカラヴァッジオ、クールベなど近代絵画なんです。昔から好きだっし、父親に美術館に何回も連れられて、多くの美術作品を観た経験はあったんですが、自分には関係ない世界だと思っていた。でも最近は、それらの作品を見る視点が変わってきました。「どういう精神状態でこの作品を描いたのか?」などを考えながら見るようになりましたね。
それはご自身の表現がグラフィックからペインティングに広がりつつあることとも関係があるのですか?
そうですね。昨年、NANZUKA UNDERGROUNDで開催されたFINAL HOMEの展覧会に参加した時に、初めてキャンバス作品を制作したのですが、それがスゴく楽しかったんです。初めての挑戦だったし、素人のような出来だったとは思っているんですが、手でキャンバスに描いていく作業の、「終わりがない感じ」が良かったんですよね。クオリティを上げていこうとすればいくらでも描き続けていけるような気がしたんです。
それをきっかけにペインティングの魅力に目覚めたということですね。最近はグラフィックデザインはあまりやられていないのですか?
そもそもこんな作品ばかり作っていたら、あまり仕事なんかこないですよね(笑)。それに、今はペインティングに専念したいから,個展まではデザインをお休みしています。最終目標は後世に残る作品を創るということなので、そういう時期があってもいいのかなと思っています。


「デザイン」「アート」というフィールドの違いだけではなく、「グラフィック」と「ペインティング」の手法の違いも感じますか?
絵の具で描いている人も、PCを使ってグラフィック作品を作っている人も、その“熱量”みたいなものは基本的には一緒だとは思います。ただ、どうしてもデジタルで作られた出力作品はアートマーケットでは評価されにくいし、なかなか売れるものではない。また、完全に二次元の世界であるグラフィックとは違い、キャンバス作品は、絵の具で厚みを出すことができる三次元の世界というところも大きな違いです。キャンバス作品の場合、絵の具の盛り方ひとつとっても、同じものは二度と再現できない。だからこそ、描いた時の精神状態がより反映されるメディアだと思います。
今回NANZUKA UNDERGROUNDで開催中の個展は、油彩のキャンバス作品がメインということですが、油絵は以前から描かれていたのですか?
個展として発表するのは今回が初めてです。油彩を始めてからもまだ半年しか経っていないんです。それまでは、キャンバス作品もアクリルを使って描いていました。でも、アクリルは扱いやすいんですが、油に比べると発色が弱いし、出来ない表現がたくさんあって…。最終的には油をやりたいというのはずっとありました。ただ、当たり前ですが、やってみたらそんなに簡単なワケもなく…(笑)。

アトリエに置かれていた個展「幻視力」に出品される作品。
展覧会のテーマ「幻視力」について、お話を聞かせてください。
以前、シュルレアリスムの作家であるマックス・エルンストの本を読んだことがあったのですが、作品を作る“きっかけ”みたいものが彼と似ていることに気付いて。彼もまったく作品と関係のない家電のカタログとかをパラパラめくりながら、それらのフォルムのユニークさを元に、全く別のものを描いたり、コラージュ作品を作っていた。僕自身もそういう感覚はスゴくあって、あるモノを見ているとそれがまったく別のものに見えてくることがよくあるんです。「幻視力」というのも、彼の著書に出てくる言葉なのですが、“自分が見た幻覚を人にも見せる力”のことなんです。「幻覚を見る」と言うと危ない人のように思われるかもしれないけど、別にそういう意味ではなくて(笑)。あるモノから見えてくるまったく別の何かを表現することなんです。
次に、現在DIESEL DENIM GALLERY AOYAMAで同時開催中のもうひとつの個展「DOCTRINE」についても教えてください。
こっちは立体作品などもありますが、基本的にはグラフィックによる出力作品がメインの展示となっています。今回は会場構成等も考えて、アートワークを出力したキャンバスの上に、OHPを使って別の画像を投影したり、グラフィックをフィルムにプリントし、後ろから光を当てたりと、光と影を効果的に用いた表現になっています。
こちらのテーマについて教えてください。
「DOCTRINE」とは、「教義」という意味です。 芸術を探求していくことは、真理を追求しようとする宗教の姿勢に似ていると感じる事があります。では、「美の教義」とは何なのか? 普遍的な美とは一体? といった問いを、架空の宗教史を連想させる作品を通して問いかけています。

DIESEL DENIM GALLERY AOYAMAで開催中の個展『DOCTRINE』の展示風景より。
なるほど。それにしても、2つの展覧会の作品制作を同時進行していくことは相当大変だったと思います。今回の制作を通して感じた事や、今後の目標などを教えてください。
今回最も痛感したことは、どの時点をもって作品を完成とするかというジャッジをしていくことの難しさですね。足し算や引き算をしながら、シュミレーションを重ねた挙げ句、何回もボツを出してしまいました。PhotoshopやIllustratorと違い、描いた後に色調補正とかできないですからね(笑)。今はとにかく油絵をもっと勉強したいですね。学生の時に全く学んでこなかった事もあるので、学校に通いたいくらいです(笑)。
ここ数年、NANZUKA UNDERGROUNDでの作品発表などが続き、アートの世界に本格的に身を置くようになってきたと思いますが、日本のアートシーンについて感じている事を教えてください。
これまではアートへの意識はあまりなかったんですが、最近はナンちゃん(NANZUKA UNDERGROUND南塚氏)といろいろ話すようになったりして、だいぶ考えるようになりました。それはやはり、アートが身近にないという日本の環境も大きかったんだと思います。個人的には、日本はデザインのレベルは世界一高いと思っています。でも、アートは別。今、若くて感度の高い人たちはデザインや映像、ウェブなどに流れていってしまっていると思うんです。それは、アートがカッコ良く見えない。アーティストが憧れの職業ではないんですよね。
そういう環境のなかで、佃さんはどのような活動をしていきたいと考えていますか?
その環境自体を変えたいとは思いますが、自分一人の力でどうこうできるものでもないかもしれません。でも、自分が身を置いてる世界なので、どこかのタイミングでそういう動きはやっていかないととは思っているし、若く感度の高い人に憧れられるような存在になっていきたいと思っています。あと、先ほども話しましたが、自分の制作に関して言えば、やはり自分が死んだ後も残るような作品を作っていきたいですね。
『幻視力』展はNANZUKA UNDERGROUNDで、10月14日まで開催中。『DOCTRINE』展は、DIESEL DENIM GALLERYで、11月18日まで開催中。
展覧会レポートはこちらから。








