
KAORU INOUE | 井上薫 | Musician / DJ
スピリチュアルでトライバル、聴いていてとても心地良いハウスミュージックを中心に、野外パーティやクラブなどでDJを続ける井上薫。最近では、AURORAやSILVERSTONEなど、バンドでの活躍も目立っている。AURORAのライブアルバム、新ユニットFUSIKの活動開始など、ますます活動の幅を広げている原動力は何か? また、彼の音楽性に大きな影響を与えたワールドミュージックへの想いとは? まずはDJ活動を始める前の話にまでさかのぼる。
Text:大草朋宏
子供の頃は、どんな音楽を聴いて育ったんですか?
DJカルチャーに首を突っ込む前は、完全にバンドだったんですよ。それまではクラブとか、ディスコとには行ったことがなくて、ライブハウスのみ。中学生でYMOとかを聴いていて、それからパンク、ニューウェーブですね。でもハードロックのバンドをやったり、サイケロックをやったり。総じてノイジーですけど(笑)。ずっとギターメインの音楽を聴いてきたんですが、ある日、友だちの電話の留守電を通して聞こえてきたBGMが、あるアフリカのバンドの音楽だったんです。それがスミスのギターの元ネタみたいだったので、「コレ、何?」って友だちに訊いたのが、ワールドミュージックが好きになった始まりですね。
DJを始めたのは、いつ頃からですか?
20代の頃、4年間くらいWAVEというレコード屋で、ワールドミュージックのバイヤーをしていました。その頃からDJをやっていたんですけど、当時はまだ、グラウンドビートとアフリカ音楽を混ぜたり、その後は「ボブ・マーリーをかけてくれ!」ってリクエストされるような箱でレギュラーで回したり(笑)、一時ドラムンベースをかけていたり。99年にファイルレコードからChari Chari名義でCDを出した頃から、いわゆるハウスがベースになりました。でも、BPM120くらいのテンポ感に何でも放り込んだりして、今考えるとDJがやることじゃないような、アバンギャルドなこともやっていましたね(笑)。当時は、それが自分のオリジナリティの表現だったのかもしれないです。

何年もDJをやってきて、自分のなかで変わってきたことはありますか?
エッジな部分を突き詰めようというのは、なくなってきていますね。その場に100人にいたとして、その100人全員で共有することは難しいかもしれないけど、それを目指したい。良くも悪くも仕事になっているんですよね。例えば地方にDJで行く場合、過去に出した作品とかを聴いてくれた人たちが、期待を膨らませて遊びに来てくれる。それにまったくそぐわないDJプレイで、ドン引きされたことも以前は何回かありました。でもそれって、何にも意味がないなと。「今はコレなんだよ!」って説明できないですしね。
インストギターユニットAURORAを始めるようになったきっかけを教えて下さい。
何年か前のメタモルフォーゼに行った時に、一晩ミニマルなテクノやハウスで遊び倒して放心状態になっている朝方、天気が良くて爽やかで、この感覚をアコースティックな音に落とし込めないかなと思ったのが、AURORAの始まりです。DJミュージック的なミニマリズムとDJの時間の積み重ね方、それが発想の原点なんです。ダンスミュージックの上澄みみたいなものをアンビエント的にやってみたいと思っていたんですけど、アコギ2台、タブラ1台っていうのに落ち着いたのは、ここ1年半くらい前ですね。
DJもAURORAも、共通する部分があるってことですね。
ビルドアップの仕方は共通していますね。徐々に高めていって、そしてまた別の場面にトリップするというのは似ています。僕はそういうDJ的な感覚を持ち込んで、一方パートナーのDSKはバークリー音楽院を出ていて、音楽理論もしっかりしている。そういう人と一緒にやるのが面白いんですよね。

今回リリースされるAURORAの新譜は、ライブアルバムですね。
AURORAは、シンプルな編成で、他で聴くことのできないような音を出したいと思ってやっていて、ほとんど即興なんですよ。曲という概念がなくて、例えば30分2セットとか。ここで終わりとか、ここで盛り上がるとかいう決め事がないんです。スゴく自然発生的で偶発的。人の気分やアップダウン、体調が左右する。それで、今まで録っていたライブ音源を、客観的に聞き返したら、面白い音が出ていたんですよ。偶発的にきれいなアンサンブルとか、ちょっと歪んでいたりとか。それがすごく興味深かった。スタジオレコーディングではできるものじゃないと。ライブ録音でそれを提示するのは、この形態においては面白いんじゃないかなと。だからこのまま出そうということになりました。
CDにはお客さんの咳払いとかも入っていますよね。
そうですね。ライン入力で撮っているものももちろんあるし、客席にマイクを置いてレコーダーにしてるのもある。雰囲気とか、その場の空気感とか、シチュエーションが封入されていると思います。録音物としても面白いですよね。
確かに、場所ごとパッケージしている感じがします。
音が鳴る場所っていうのにはこだわりがあって、ライン上ですべてが完結しているのでは飽き足らないんです。何かを封じ込めたいというのは昔からあった。ステレオ2チャンネルの世界より幅広く、360°の世界というか。もちろん演奏者がそういうところに行って録音するのが最高なんだけど、それは簡単にできないので、フィールドレコーディングしたものを重ねたりするようになったんです。

それで、井上さんの音楽にはある種の土着性や、ワールドミュージックのエッセンスが込められているんですね。
音楽を尋ね歩く旅をよくやっていまいたからね。よくインドネシアなどに行って、フィールドレコーディングしていました。WAVEでワールドミュージック、伝統音楽を取り扱っていたからよく調べていたんですけど、伝統的な音楽って宗教性と共にあることが多いから、そういう社会においては日常なんですよね。その関係性に憧れがあって。現代社会では、音楽は娯楽じゃないですか。そうじゃなく「衣・食・住・音楽」みたいな。
岩城健太郎(Dub Archanoid Trim)さんとユニットで開催されているレギュラーパーティ『FLOATRIBE』では、来場者ひとりにつき、木を1本植えるという活動をしていますが、エコにも興味がありますか?
5月のFLOATRIBEから始めました。元はと言えば、屋久島に行って、フィールドレコーディングする「ファイナルドロップ」というプロジェクトがきっかけなんです。そのメンバーだった明鏡止水の松田くんが、いま環境保護活動を熱心に行っていて。彼がアップリンクでエコイベントをやっていたんですけど、その1周年パーティをやりたい、という話をもらったのがきっかけです。エコというと、なんだかうさんくさいものが多くて、実際そういうパーティにDJとして呼ばれたこともあるんだけど、お金の行き先が不透明なんですよね。でも身近な人間が、お金の行き先も明示された状態でやってくれていると、スゴく協力できますよね。僕たちが手助けしたのは、タイの津波でやられてしまったマングローブ林。クラブ遊びなんて、イメージ的にエコと結びつかなかったけど、説教くさくならずにできるなら、続けていきたいですね。

i-depのサックス奏者、藤枝伸介さんとの新しいユニット、Fusikもリリースしたばかりですが、こちらのきっかけも教えて下さい。
彼とは去年知り合ったばかりなんですが、彼がi-dep以外のこともやってみたいということで、僕が彼をプロデュースするような感じでスタートしました。
制作はどのように行われたんですか?
お互いの家が近いので、彼を家に呼んで一緒に音を聴いたり、パーティに遊びに来てもらったりして、ダンスミュージックを感じてもらいながら進めていきましたね。僕がDJとして経験してきたものを土台にしつつ、もっと曲として成り立たせようとは考えました。今回はなんと言っても藤枝くんのサックスありきですね。スゴくうまいし、自分の手癖みたいなのもちゃんとある。パフォーマンス慣れもしていますね。ちょうどリードボーカルがサックスに変わったような感じです。
DJ、プレイヤーの後は、“プロデューサー井上薫”としての活動も見られそうですね。
確かに新しい体験で、面白かったです。今までは自分主体でやりとりしていたんで、いい勉強になりました。機会があれば、プロデュース業も興味がありますね。
井上薫とDSKによるユニットAURORAの初ライヴアルバム『Feast』は、9月26日リリース予定。また、I-dep藤枝伸介との新ユニットFUSIKの1stアルバムは現在発売中。







