loading...

PUBLIC-IMAGE.ORG

Creators Dictionary for Realtime Culture

  • PUBLIC-IMAGE.STORE
  • PUBLIC-IMAGE.3D

KEIJI ITO | 伊藤桂司 | Art Director / Graphic Designer

伊藤桂司の描く作品は、麻薬のように脳内を浸食し、観る者を異次元の世界へとトリップさせる。カラフルな色彩とアナログテイスト漂うコラージュによって生み出されるファンタジックな伊藤ワールドにひとたび迷いこむと、実はそこが楽しく美しいだけの場所ではなく、時として強烈な毒をも発する一筋縄ではいかない世界であることに気付くハズだ。作品に描かれるこの摩訶不思議な世界は、彼がまだ見ぬ理想郷の風景なのだろうか? はたまた幼少期に見た原風景か? それとも…? 長いキャリアのなかで身軽にスタイルを変えながら、独自の世界観を獲得し、近年になっても、映像、立体と活動のフィールドを広げ続ける彼に改めて話を聞いた。

Text:原田優輝

創作活動を始めたきっかけを教えてください。

中学、高校の頃から、海外のレコードジャケットのアートワークなどに興味を持つようになったんです。また、その当時国内はイラストレーションの隆盛期でもあって、田名網敬一さんや横尾忠則さん、宇野亜喜良さんらが活躍していて、少し後になると湯村輝彦さんや河村要助さんなども出てきていた。そんな時代背景のなかで、無意識のうちにいろいろな情報がインプットされていった気がします。その頃一緒に住んでいたいとこが、グラフィックデザイナーを志していたこともあって、何となくデザインの仕事について知ることもできた。そうした状況がミックスされて、漠然とこういうことをやりたいというものが出来ていきました。

ご自身で絵を描くようになったのもその頃からなのですか?

絵を描くこと自体は幼稚園の頃からずっと続けていました。中学の頃には、夢にうなされたような変な絵を描いていた記憶がありますね(笑)。

それは抽象画のようなものだったのですか?

当時はまだ知らなかったのですが、いわゆるシュルレアリズムのような絵だったと思います。シュルレアリズムにはもちろん影響を受けているのですが、それを知る以前から自分のなかに近い感覚があったのだと思います。

そのような感覚はどのように培われていったのでしょうか?

子供の頃、東京の郊外に住んでいたのですが、家から少し離れた所に、雑木林などがあって、自分の身近に“暗闇”があったんですよね。今振り返ってみると、そうした風景がバックボーンになっているような気がします。あと、母親が霊感が強かったこともあって、よく怖い話を聞かされていた(笑)。そういう非日常の世界が、絶えず現実と地続きの所にあったことは潜在的に影響しています。当時、よく放送されていたアメリカのTVドラマやアニメーションなども、明らかに東京郊外の日常とはかけ離れた別世界であった(笑)という点で、同様に強い刷り込みになったのではないかと思います。

伊藤桂司

伊藤桂司

伊藤さんの作風の大きな特徴のひとつである「コラージュ」に興味を持ったきっかけを教えてください。

学生の頃に、ロバート・クラムなどのアンダーグラウンドコミックの影響で、友達とローテーションで「回し描き」をしていたんです。そのなかで、ある時友達のひとりがコラージュを作ってきた時があって。それは、それまでに見たことがあった(マックス・)エルンストのコラージュなどとは全然違う、粗雑でノイジーなものだった。でも、それを見て目から鱗が落ちたんです。「これはスゴいぞ!」と(笑)。

何がそこまでの衝撃を伊藤さんに与えたのでしょうか?

まだ未熟だったこともあって、それまではコラージュと言うと、エルンストのように完成度の高い整然とした作品のイメージしかなかったんです。でも、友人が作ったものは、自分たちが旅行に行った時に撮影していた写真を使ったり、ガムの銀紙が貼られていたりしていて、その雑さと汚さが衝撃だったんですよね。それまでの自分のフォーマットになかったものだった。

伊藤桂司伊藤桂司

そこから一気にコラージュに傾倒していったわけですね。

そうなんですが、これまでずっとコラージュばかりをやってきているワケでもなくて、実は10年近く(コラージュを)辞めていた時期もあったんです。これだけ長くやっているとスタイルもどんどん変わりますからね。

これまでのそうした変化は、ある程度自覚的なものだったのですか?

パターン化された同じスタイルでやっていることで固定してしまうマスイメージに息苦しさを感じてしまったんです。どんどん膨らんでいくアイデアに忠実であろうとすると、当然多様化して、変化せざるを得ないわけです。

その葛藤は現在も続いているのですか?

いえ、今はスタイルを変えるというよりも、選択肢が広がり続けているという感じです。こういう姿勢で制作に向かえるようになったのは、自分のスタイルというものを無化して、沸き上がってくるインスピレーションに、よりダイレクトに呼応していけるようにニュートラルなスタンスを取っていることが大きいと思います。転換の際にポイントになったのも、実はコラージュやサンプリングといった音楽的方法論でした。自分の手癖から逃れるための有効な手法になったんです。

伊藤桂司

コラージュの素材選びはどのようにされているのですか?

結構いい加減ですよ(笑)。漠然とジャンル分けもせずに色々ストックしているので、その時々に応じて、あちこちひっくり返したりしていますね。そうしていると、これを使ってくれと言わんばかりに、ポロッと何かが落ちてくる時があるんです。たまにそういうマジックが起こりますね(笑)。

コラージュの素材は、普段からいろいろ探されているのですか?

最近はだいぶ少なくなりましたが、古本屋さんとかにハンティング目的で行くことがあります。そういうモードの時は、普段より感覚が研ぎすまされている気がしますね。

では、普段から常に素材を探し歩いている感じではないんですね。

そうですね。昔は何にでも貪欲でしたが、さすがに最近は少し落ち着いてきました(笑)。ただ、探しに行く時も、特定の何かに使うための素材を探すことはほとんどないんです。それよりも単に刺激を受けたいという想いが強い。僕は、普段何気なく写真を撮ることも多いのですが、それも同じような感覚なんです。その場では面白いから撮っているだけで、後からそれが“何なのか”が分かってくるんです。

気になったグラフィックや風景を収集して手元に残しておきたいという気持ちが強いのでしょうか?

収集癖はありませんが、例えば料理人が新鮮な食材をストックそておくのと同じようなことかもしれませんね。

伊藤桂司

その時々で気になるものというのは変わってくるのですか?

はい。例えば、LOMOにハマっていた時もありましたね。『MOTORWAY』という作品集は、LOMOで撮り貯めた高速道路の写真がきっかけになっています。最初は何となく気持ち良いと思って、撮り始めたら、あるタイミングで臨界点に達して爆発が起こって、出来ちゃいました(笑)。

最近は何に興味を持っているのですか?

絵に関して言えば、改めて身体感覚と皮膚感覚の重要性を感じています。

伊藤桂司

お仕事では、最近どのような活動をされているのですか?

オレンジペコーのニューアルバムのアートディレクションとビデオクリップ、HOYAクリスタルとの共同プロジェクト、11月に放送予定のNHKのハイビジョン番組他、いくつかのプロジェクトが同時進行しています。

グラフィックに限らず、活動の場がどんどん広がっていっているようですね。

これは、自分の作品や考え方に対して、興味や理解を示してくれる人たちが年々増えてきているということでもありますから、ありがたいし、とても嬉しく思っています。

伊藤桂司

他のクリエイターとのコラボレーションも積極的ですよね。

コラボレーションは、グラフィックの活動を続けていく上で、とても大切な行為だと思っています。エゴを必要以上に押し出さないという点でもね。ある意味、浄化作用であって、エネルギー補充でもあります。特に付き合いも長い生意気との共同作業の場合は、音楽でいうジャム・セッションのようなもの。内側の狂気に火が付くような体験とも言えます。

やはり伊藤さんにとっては、アーティスト活動よりもクライアントワークへの意識が根本にあるのですか?

ありますね。今まで影響を受けてきたものも、メディア上で展開されてきたものですしね。ただ、受注システムとはいえ、自分の思考やセンスも、どうメディアと対峙させていくかという意識がないと、結局面白いこともできないし、残っていくこともできないと思っています。

確かに長期に渡り、第一線で活躍されているクリエイターの方々は皆、そのような活動をされてきているし、今も若いクリエイターたちからリスペクトされている人がほとんどですよね。

そうなんですよね。70歳や80歳になっても若い人と一緒にやっていきたいですよね。続けているといろいろな出会いもあるし、楽しいこともたくさんある。今までも実際そういうことが確かに起こってきていますしね。僕は、タイプとしては基本的に受動的な人間で、特に最近は「成り行き」「受け身」「偶然」の三位一体をテーマにしています(笑)。でも、内側は常にフルスロットル状態ですけどね。

伊藤桂司伊藤桂司

創作活動を通して、一貫して伝えたいことは何かありますか?

何かを伝えようとして創っているのではありませんが、ポジティヴィティは人間を良い方向に導いてくれるということに、もし気付いていない人がいたら、耳元でこっそり伝えたいかな。

最後に今後の予定を教えてください。

成り行きと偶然にまかせています(笑)。

DICTIONARY

RELATED