
MAKIBISHI | マキビシ | Web Creator
画面のあちこちに隠されたヒントを手がかりに、世界中に散らばった5人の忍者を探し出すというロールプレイングゲームのような設定と、アナログ感覚が残されたマンガタッチのヴィジュアルが話題となり、瞬く間に国内外に広がったエンターテインメントサイト「マキビシコミック」。今年4月に公開されたこの作品によって、一躍Web界の“時の人”となったのがマキビシだ。“オモシロイ”を徹底して追求することで生まれる斬新な発想と、従来の受注システムを覆すようなアプローチで、業界に旋風を巻き起こす熊沢新之助と内山慎太郎の2人にを取材した。
Text:原田優輝
マキビシが結成された経緯を教えてください。
熊沢(以下K):僕は元々Web制作会社で働いていたのですが、クライアントと自分がやりたいことにギャップを感じることが多くて、独立することにしたんです。その時に、ひとりでやるのもどうかと思い、小学校からの幼なじみだった内山を誘ったんです。
内山(以下U):僕は紙媒体をメインにしているデザイン事務所で仕事をしていたのですが、割と突然誘われたんです(笑)。それまでは仕事でWebに触れることはまったくなかったのですが…。
熊沢さんはなぜ内山さんと一緒にやろうと思ったのですか?
K:それまでに自分が見てきた日本のWebサイトには、個性的な世界観を持っているものが少ないと感じていたんです。だから、自分たちがやるにあたって、「こういうのもアリなんじゃないか?」と提案できるような個性を持ったものを作りたいという想いがまずあったんです。彼とは、小学校から一緒にいたのですが、そういう個性を出せる人間だと思っていました。また、彼が紙のデザインをやっていたこともあり、Webに固定せずに幅を広げていけるんじゃないかというのもありましたね。
U:彼は昔からオモシロイことをやっていて、良い意味で「天才とバカは紙一重」を地で行くような人間だったので、一緒に何かやったらオモシロイことができるんじゃないかと思ったんです。

クライアントワークが一切入っていないマキビシの自社サイト。彼らの制作したアートワークがバナーのように延々と並べられた極端なほど横に長い構成になっている。
おふたりの役割分担を教えてください。
K:Web上の技術的な部分は僕が担当し、内山はグラフィック関係を主に担当しています。
作品のアイデアはおふたりで考えていくことが多いのですか?
K:だいたい僕が一方的に、こういうことをやったらオモシロイんじゃないかということを内山に話して、そこから始まることが多いですね。
U:オモシロイことを考えることに関しては、彼は天才的な気がします。ただ、たまに的外れなアイデアも出てくるので、そこを僕が最終判断しているんです(笑)。
やはりマキビシの作品においては、「オモシロイ」が最重要テーマなのですか?
K:そうですね。自分たちの作品でも、クライアントワークにしても、「エンターテインメント」であることには一番こだわっています。見た目的な部分もそうですし、企画面もそこを基準に詰めていくようにしていますね。僕たちのなかには3つのバランスがあるんです。「企画」「デザイン」「技術」の3つのオモシロさのバランスが良い時にみんなが見てくれる作品になるんじゃないかと思っています。どれかが欠けてもダメだし、多過ぎてもダメなんです。

「マキビシコミック」より。
どういうものに「オモシロイ」を感じることが多いのですか?
K:奇抜でシュールなものに魅かれますね。元来、一見普通なようで、実は“異常”だったりするものが好きなので、そういうものを見つけて、提案していきたいんです。
「シンプルさ」や「分かりやすさ」も重要なポイントになっているように感じます。
K:そうですね。常々「パンチはひとつでいい」と思っています。「オッ」と思うところがひとつの作品のなかに何個もあると、それは驚きではなくなってしまうんです。ズバ抜けたものを作るのではなく、良きところで止めた方がいいかなと思ってます。「ちょっと前からあったよね」という感じがするような作品をあえて作るように意識している部分はあります。
「ABCランド」のサイトも、まさにあの“名作ゲーム”を思い出させてくれるような遊び心溢れる作品ですよね。おふたりがこれまでに影響を受けてきたものがストレートに反映されている感じがします。
K:やはりゲームやマンガ、映画などのエンターテインメント全般から影響を受けていますね。逆に、インスピレーションソースをWebや雑誌から得ることはほとんどないですね。
U:自分のなかに生まれたヴィジュアルのイメージを絵に落とし込んでいく時にも、マンガの構図なんかを参考することは多いですね。

あの“名作ゲーム”のような操作感を楽しめるABCランドのサイト。登場するキャラクターたちは、同社の女性社員がモデルになっており、サイト上を行き来している彼女たちに話しかけると、各社員のブログを見ることができる。
おふたりの趣味・志向はかなり近い部分がありそうですね。
U:そうですね。細かい部分まで見ていくと違うとは思うんですが、おおまかな方向性はほとんど同じだと思います。
K:例えば、ゲームであれば、レトロでアナログ感が残っているものが好きですね。最先端技術を駆使したものよりも、『シーマン』のような奇抜な作品や、昔のファミコンゲームなどに魅力を感じます。ゲームのオモシロさは操作感にあると思うんです。ムービーが美しいから良い作品とは限らないし、むしろそれがユーザーの妄想や想像力を殺してしまっている気がするんです。
国内外で話題になった『マキビシコミック』は、そういったマキビシの志向が反映された作品だと思います。この作品もすべて手描きで描かれたそうですね。
U:そうですね。いつも始めは僕が手描きで原画を作るところから始まります。着色はPhotoshopでやっているのですが、最近は色も筆で塗ろうかと考えているところです。PCには良い面ももちろんあるのですが、デジタルですべてをやってしまうと絵の勢いや生っぽさがどうしても死んでしまう。今はなんでもデジタルでできてしまう時代になりましたが、それで少しつまらなくなっている部分もあると思うんです。
K:確かに昔の方がオモシロかったかもしれない。昔はできることが少なかったからこそ、そのなかでいかにオモシロイものを作るかということで競っていたように思います。コンピュータによってダメになってしまっている面もあると思いますね。

「マキビシコミック」より。
『マキビシコミック』は、壮大な世界観のものにストーリーが展開される作品ですが、制作にはどのくらいの期間を要したのですか?
K:4ヶ月半くらいかかりましたね。マキビシを立ち上げた最初の1ヶ月で、自分たちのサイトを作って、その後は仕事もせずに『マキビシコミック』の制作に没頭していました。これでダメだったらやめようというくらいの気持ちでやっていましたね。自分たちがやりたいことはこういうものだという作品をどうしても最初に作りたかったし、もし今後自分たちがダメになりかけたときに、初心に立ち帰れる場所として、この作品はとても重要だったんです。
そもそもこの作品はどういうところから発想されたのですか?
K:僕たちが作品を作る上でいつも大切にしているのは、コミュニケーションツールとしての機能なんです。この作品に関してもそれは同じでした。本来ゲームとは、プレイヤーが主人公になりきる1人称的なメディアで、一方でマンガは、主人公と周りのキャラクターを傍観するような3人称のメディアだと思うのですが、マキビシコミックではその中間を狙いたかったんです。世界を傍観しつつも、自分が操作しているような感じというか。それを2人称と呼べるのかはわかりませんが、キャラクターとユーザーの間に“私とあなた”の関係を築きたかった。あと、『マキビシコミック』の攻略法などをユーザー同士で話し合ったりすることで、二次的なコミュニケーションが生まれることも期待していました。
実際にこの作品は人から人へと広がっていきましたよね。
K:そうですね。特に大々的な宣伝もしなかったのですが、海外からもいろんなメールが届きました。その辺はWebならではだし、オモシロイところですよね。やはりWebの場合、作品を見た人とどうつながりあえるのかということは意識していないといけないと思うんです。見た目的な美しさももちろん重視していますが、コミュニケーションが取れるカタチには常に落とし込んでいきたいと思っています。

「マキビシコミック」より。
『マキビシコミック』から実際の仕事につながっていったプロジェクトはありますか?
K:最近手掛けた「ABCランド」などはそうですね。ちょうどその頃、このサイトの原型となるようなものを、自分たちの作品として作っていたんですよ。それをクライアントに提案したら、その方向でいくことになって。元々は今のようにメルヘンチックなものではなかったのですが、クライアントが女性のための不動産屋だったので、ターゲットに合わせて調整していったんですけどね。
クライアントワークでも、普段作られている作品のアイデアを提案することは多いのですか?
K:そうですね。どちらかというと仕事を貰うのではなく、作品を売るカタチに持っていきたいというのはあります。まずあるものを出してみて、それをターゲットに合わせて調整していくような仕事ができればと思っています。あとは自分たちが発信できるプロジェクトを積極的にやっていきたいというのはありますね。

それは『マキビシコミック』のような作品ということですよね?
K:そうですね。最近『トレカレプロジェクト』というのを始めました。これは表面がトランプになっている計54枚の名刺サイズのカレンダーを、渋谷・代官山近辺のショップなどに置いてもらい、スタンプラリーのようにそれをすべて集めるとトランプとしても遊べるというものなんです。ヨーロッパでは、各企業が名刺サイズのカレンダーを作る習慣があるそうなのですが、それ日本でも広めてみたいというのがきっかけで始まったプロジェクトです。こういうコミュニケーションを誘発するような自社発信のプロジェクトには力を入れていきたいし、最終的にはクライアントワークにもつながっていけば理想なんですけどね(笑)。
オモシロそうなプロジェクトですね。今後の展開にも期待しています。
K:今後は、もう少し高い年齢層にもアピールできる作品を作れたらなと思っています。昨年の『マキビシコミック』で付いてしまったイメージを払拭していきたいんです(笑)。




