
TGB design. | TGB デザイン. | Design Unit
クラブカルチャーが盛り上がる90年代前半、CDジャケットやイベントフライヤーなどの音楽関連のデザインを数多く手掛け、新進気鋭のデザインユニットとして注目を集めたTGB design。趣向、仕事内容、採算面、さらには仕事場まで別という関係を保つ石浦 克、小宮山秀明、市古斉史の3名の独立したクリエイターたちの集合体として、カルチャーシーンと密接にリンクしながら、映像、プロダクトデザイン、展覧会・イベント企画など、多岐に渡る活動を続けてきた彼らは、近年、Webや携帯電話のインターフェイス・デザインなどにまで、その領域を広げている。インディペンデントな活動を続けるデザインユニットの良心的存在として、常に時代の先端を走り続けている印象が強い彼らだが、取材した石浦 克の口から発せられたのは、少し意外なデザイン哲学だった。
Text:原田優輝
まずは、TGB design.が結成された頃のお話から聞かせてください。
小宮山と僕は幼稚園の頃からの友人で、一緒にマンガを描いたりしていました。市古とは高校の予備校の時に知り合いました。小宮山と僕は高校の頃、グラフィティライターの集団にいて、スプレーやマジックでグラフィティを描いていたのですが、ヒップホップの世界はかなりハードコアな感じで、悪い先輩とかもたくさん見てきたし、それこそ「人を刺せないヤツはダメだ」みたいなノリがあって(笑)、ここは自分たちの場所じゃないなと感じるようになったんです。なんかピースじゃなかったんですよね。
そこからグラフィックデザインに向かった経緯は?
ヒップホップには、ウエストコーストとかイーストコーストという流派みたいなものがあって、スタイルがかなり固定されていたのですが、もっと色んなヴィジュアル表現がやりたいと思っていました。当時すでに市古はMacを使っていて、色々なことができることがわかって、デザインの方に移っていきました。ちょうどその頃、ドラムンベースDJのDJ FORCEなんかと知り合って、イベントのフライヤーやCDジャケットのデザインをするようになったり、雑誌の『Relax』なんかも出てきて、カルチャー関連の仕事を色々手掛けるようになっていきました。

『TURBOSONIC VOL.1』(2006/Turbosonic, lastrum)
TGB design.としての明確なスタートのきっかけは何かありますか?
19歳の頃に、タワーレコードの『Bounce』のデザインと、パルコの広告がやりたくて、売り込みにいったのが始まりですかね。当時はちょうど写植からMacに移行する時期だったのですが、早くからPCを使って作っていた自分たちのことを珍しがってくれる人たちも結構いて、自然発生的に仕事が広がっていきました。
TGB design.結成当時は、どのようなヴィジョンを描いていたのですか?
僕はもともとCMなどの映像を作りたいと思っていたんです。グラフィックを先にやっていたのは、ベース作りとして手っ取り早かったからというのがあります。その後、映像、プロダクト、ファッション、イベント企画などをやらせてもらったり、さらに最近では携帯を作ったりと、やりたいと思っていたことは、デザインを通してだいたい一周できたかなと感じています。それはもちろん極めたということではなくて、色々なスペシャリストに出会って勉強させてもらったという意味で、ようやく自分たちなりのアウトプットができるようになってきたかなという感じです。

Basement Jaxx Live Opening Movie for UK Tour
TGB design.の3名は現在、それぞれ別々の仕事場で、各々のお仕事をされているようですが、その関係性は当初から変わらないのですか?
昔から、一緒にやることはほとんどなかったと思います(笑)。アートディレクターを3人も投入できるほどの予算がある仕事なんかほとんどなかったですからね。最近ようやく、大きなプロジェクトにも関われるようになってきたので、時によっては3人がADとして入れる仕事も発生するようになりました。だから、やっとスタート地点に立ったというか(笑)。でも、誰かが社長になることで上下関係が生まれてしまうこととかがイヤで会社にはしていませんし、どちらかというと肉親のような関係ですね。
ユニットという形態を取っている最大のメリットを教えてください。
特に19とかだったスタート当時、一人分のデザインでは一人前にならないわけですよ。でも、3人いれば色々なアイデアを出せて、やっと一人前になる。結成当初はそれが固まってやる一番の理由だったかもしれません。今は、ようやく3人それぞれが一人前のプロとしてのクオリティを出せる状態になってきたんじゃないかと思います。やっぱりデザインというのは、30を超えてからじゃないと難しいと感じますね。

DoCoMo MPX project
幅広い分野で仕事をされていますが、デザインをする上で一貫して大切にしていることはありますか?
「あまり行き過ぎず、普通に」ということは意識しています。10年経ってからも見れるデザインということは昔からずっと考えて作ってきています。そのためには、時代に合わせすぎないことも大切だと思うんです。その時代の雰囲気を前面に出しすぎてしまうと、その時はいいかもしれないけど、10年後には見れないと思うんです。だから、長期間使えるベーシックなデザインを心がけています。
なるほど。音楽やファッション関連を中心に、カッティングエッジなデザインを数多く手掛けている印象があるので、その発言は少し意外な気もします。
もちろんそれは、デザインの用途によって微妙に変わってきますけどね。例えば、TシャツのデザインやCDジャケットなどは、一部のカッティングエッジな人たちがターゲットになるから、トガッたデザインでも良いし、それはそれで面白いのですが、企業のロゴやCIなどを作る場合は、当然もっと多くの人たちに向けなくてはいけないですよね。旬で最先端のものというのは、将来的には確実に時代遅れになる運命にあると思うし、基本的にグラフィック・デザインというのは、ファッションなどとは違って、もう少し長い期間を見越して作るべきものだと思っています。
近年のTGB design.の活動は、カルチャー関連の仕事が目立った結成当初に比べ、携帯やWebなど、より幅広い層に向けられた仕事が増えてきているように感じます。
そうですね。ただ、『Relax』で「Relax Boys」などのキャラクターを作った頃なんかでも、自分たちとしてはそれらをCIと考えて作っていたし、エッジーなものを作っているように見えても、基本的にはずっとベーシックなものをベースにしてきているんです。昔はまだ、Photoshop やIllustrator などが出始めて間もない頃だったので、作り方自体が新しく見えた部分もあったと思います。あと、もし意識の変化があるとすれば、カルチャー的なムーブメントというものは、結局すぐになくなっていくものなんだということを実感したというのも関係しているかもしれません。それよりももっと息の長いものを、という意識になっているのかもしれないですね。

『Relax Boys』Relax Magazine Advertising Icon
TGB design.が変わったというわけではなく、時代とともに周囲がより理解を示してくれるようになってきたということなのかもしれないですね。
そうかもしれないです。もうひとつ僕たちが意識してきたこととして、消費されたくないという考えがありました。特に若い頃は、自分たちの作品がまだまだだとわかっていたし、時代の流れに安易に乗っかってしまって、いきなり大きな仕事を任されてもつぶされるだけだと思っていました。だから、メディアに顔を出すことはせず、極力目立たないようにやってきました(笑)。そもそも顔や名前でデザインが売れるという構造がイヤなんですよね。良い仕事をしていれば、メディアも自然と付いてきてくれると思うのですが、「こんなものを作っているからメディアで紹介してほしい」と売り込みをしたり、ネームバリューでデザインを売っている人も少なくないですよね。そういう人たちをこれまでにたくさん見てきたけど、やっぱりそれは本物じゃないなと。
一方で、色々なスペシャリストにも出会われたともおっしゃっていましたが、石浦さんが本物と感じるような人たちはどんな人たちなのですか?
以前に、宇川(直宏) くんやスケシンさん、FAMOUZの神山くん、ヒステリックグラマーのグラフィックをやっていたFishさん、INASTとかと一緒に展覧会をやったことがあって、サンフランシスコ、ロサンゼルス、スウェーデンなどを回ったんです。宇川くんとはその前から知り合いだったんですけど、ずっと一緒にいると、彼がクラブやその周辺のカルチャーを心底愛していることが伝わってくるし、スケシンさんなんかも洋服のことがスゴく詳しくて、ヒストリーも全部わかっている。僕らがグラフィティをやっていた時に、この世界でずっとやっていくならハードコアじゃないといけないと感じたのと同じように、彼らは自分たちのいる世界に対して本当に愛があるし、ハードコアなんですよね。展覧会で一緒に行動していた時、彼らなら人を刺せるんじゃないか、と感じたんですよね(笑)。そういう本物の人たちに出会えたことで、逆に自分たちは普通なんだということを実感した。それなら普通の人たちに向けて作ればいいと思うと同時に、宇川くんやスケシンさんたちの知識量に圧倒されて、ものを知らなければデザインはできないなということも痛感させられましたね。

『V.S. Exhibition』at Parco Museum(2003)
近年力を入れているWebや携帯などのインターフェイス・デザインについてのお話も聞かせてください。
良いインターフェイスのデザインというものが、これまではあまりないように感じていたから、今はそっちをやることに意味があるんじゃないかと思っています。最近では、CDジャケットのデザインなんかも、自分たちが始めた頃に比べて良いものがたくさん出てきているから、以前のように積極的にやっていく必要性はなくなりつつあるように感じています。基本的に僕らがやりたいと思うのは、まだデザインされていない領域のものであることが多いのかもしれません。
Webなどのデザインは、グラフィックとは考え方が大きく変わりそうですね。
そうですね。Webに関しては、特に階層という概念がグラフィックとは違うので、紙の思考だけでは通用しないんですよね。裏側を意識する必要があるので、もっと複雑なんです。ただ、その感覚は割と映像に近いので、応用できる部分も多いです。それよりも大変だったのは、グラフィックから映像に移行する時でした。3D軸や被写界深度という概念をマスターするのに相当時間がかかりましたね。でも、そこで培ったものをグラフィックやプロダクトなどの分野にフィードバックすると、以前よりも面白いものができたりするんです。これまでも常にそういう循環でデザインをしてきています。ただ、3D空間を考えることと、デザインを平面として構成する作業はまったく別物なので、両方を同時にやろうとして混乱することもよくあります(笑)。
最後に、これからの時代やカルチャーに対して、TGB design.は今後どのようなスタンスでデザインをしていきたいと考えているかを教えてください。
原宿カルチャーが全盛期だった頃の消費者というのは、ちょうど自分たちくらいの世代なんですけど、その多くはすでに結婚して子供もいたりして、若い頃のようにクラブに行ったり、お店に並んでTシャツを買うことよりも、自分の家が欲しかったり、子供に何を買うかということを優先に考えている人がほとんどだと思うんです。この経済状況などもあって、今やそれは自分たちの世代だけの話ではなくて、社会全体を取り巻く状況自体も大きく変わってきています。みんな「本当に必要なものは何か?」ということを考えざるを得なくなっていて、昔のようにひとつのカルチャームーブメントというものを信用することもなくなってきていると思うんです。もちろんカルチャーというものは、その時代時代で情熱的に盛り上がる面白いものだし、大好きですけど、これからはそうした変化するライフスタイルを意識しながら、本当に価値があるものは何かということを考えていきたいと思っています。

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