
MAKOTO OOZU | 大図まこと | Cross-stitch Designer
刺繍の一技法であるクロスステッチを用い、様々なモチーフをポップに表現する大図まこと。ファミコンなどの8ビット・グラフィックからの影響を感じさせるタッチと、グリッドという規制の中で表現をするデザイン的な感覚は、カウズなどの海外クリエイターにも高く評価され、国内外で急速に注目度が高まっている。「刺繍できないものはない」とばかりに、キャップやTシャツ、時計など様々な素材をキャンバスとし、刺繍の新たな可能性を模索する彼に話を聞いた。
Text:原田優輝
もの作りを始めたきっかけを教えてください。
小さい頃から工作をしたり、絵を描くことは好きでした。ただ、それを将来の仕事にしようとは思っていなくて、大学では文学部に入りました。その後卒業間近になって、就職のことで色々迷ったりしたのですが、結局どこにも就職することができなかったんですね。それで、バイトをしながら、ずっとやっていたイラストを描いたりということを続けていたのですが、たまたま手芸関係の仕事をしている友人から、イラストを手芸に流用できるんじゃないかと言われ、試しに始めてみたんです。
実際に手芸をやられてみていかがでしたか?
やっぱり「手芸は女性がやるもの」という認識があったので、最初は興味なかったんです。でも、実際に手芸屋さんとかに行ってみると、見たことのない材料がいっぱいあって。それが画材屋さんにいくような感覚に近くて、スゴく魅力的に感じたんです。それからしばらくは、酒屋さんで働きながら、手芸をやっていたのですが、次第にそっちを仕事にしたいと思い始めたんです。それで、手芸店に就職して、そこで少し売り場に立たせてもらって、その後は手芸関係のイベントの企画などをするようになりました。そこで作家さんなんかと話をしていると、やっぱり自分も作りたいという思いがどんどん強くなっていって。でも、そのための時間を割くことが難しかったので、会社を辞めて、今のような活動を始めたんです。ちょうどその頃に伊藤存さんなど、アート系の刺繍作品を見たりしたこともあって、そういうものもカッコ良いなと思っていました。
その頃から現在のようなクロスステッチの技法を使われていたのですか?
最初は、編み物をやったり、ミシンをやったり、色々なことを試していました。編み物も刺繍も、技法がとにかくたくさんあるんです。それをひとつずつ習得していくのが単純に面白かったですね。大人になるまでまったくやったことがなかったので、スゴく新鮮でしたし。ただ、自分がイラストを描いていたことも関係があると思うのですが、そうしたものを編み物では直接的に反映させることが難しかったんです。一方で、刺繍というのは、基本的にはチャコペンなどで下絵を描いて、それをなぞっていく感じなので、イラストをそのまま変換することができたんですね。刺繍の技法がたくさん載っている本を買って、1ページ目から全部真似していったんですけど、そのなかで一番しっくりきたのが、クロスステッチだったんです。
クロスステッチのどんなところが魅力だったのですか?
クロスステッチ、カウントステッチと呼ばれている技法は、限られたマス目の中でデザインしていくやり方なんです。だから、出来上がりもカクカクした感じになったりして面白いと思ったし、技法的にも、単にバッテンに刺繍していくだけなので、専用の布を使えば素人でも簡単にできるというところもとっつきやすかったですね。
活動を始めた当初は、どのような場所で作品を発表されていたのですか?
ブログに載せていました。そうしているうちにイベントに誘ってもらうようになったりして。やっぱり、男が刺繍をやるって珍しいじゃないですか。それに僕は身体もデカイし、単純に目立つということもあったと思います(笑)。あと、例えば、同じモチーフでも、男性が作るものと、女性が作るものでは変わってくると思うんですね。そういう男性独自の感性みたいなものが、今のところ喜ばれているような気もします。変なものを作って怒られてしまうこともあるんですが(笑)。

刺繍のモチーフは、それまでにイラストで描かれていたようなものをそのまま転用していたのですか?
基本的にはそうですね。刺繍の本とかを買ってみても、やっぱり花とか可愛らしいモチーフが多くて、自分がやりたいと思う図案ってなかなかないんですよね。それなら、自分がそれまでやっていたことを反映させた方が、自分なりの面白いものが作れるんじゃないかな、と。
昆虫や動物等のモチーフや、ファミコン世代の8ビット感覚を感じさせるものが多いですね。
昆虫モチーフは、一冊目の本のために昆虫の標本を作ったのが最初ですが、単純に自分が好きなものというところが大きいですね。ファミコンに関しては、実は子供の頃、僕の家では買ってもらえなかったんですよ。だから、友達の家でゲームを見ては、それを自由帳に写したりしていましたね(笑)。その反動もあってか、高校生になってからバイトをして、色々買い占めました。そういう影響もやはりあると思います。
グリッドの中で作っていくクロスステッチという手法や、ホームページ上でリリースされているオリジナルフォントなど、大図さんのもの作りには、「デザイン」的な感覚が感じられます。
そうかもしれないですね。アートという意識はあまりありません。他の刺繍技法を使えば、もっと無制限に作ることができるのですが、クロスステッチはグリッドという規制の中でデザインをしないといけない。そういうところが面白いんです。あと、ホントに僕はマス目好きで。ついついタイルとかにも反応しちゃうんですよね(笑)。ただ、今後はもっとクロスステッチだけではなく、色んな技法を試していきたいとは思っています。
大図さんの作品は、依頼されて作るものが多いのですか?
そうですね。今は年1冊ペースで刺繍本を出させてもらっているので、そのために作品を作ったり、最近では、ワッペンを作ったり、文房具やTシャツのデザインをやらせてもらったりと、その都度もらった話を試行錯誤しながらカタチにしています。まだまだできることは色々あると思うので、これからも色々な業種の人とやっていきたいですね。仕事は随時募集中です(笑)。
Tシャツやキャップ、バッグ、時計など、本当に様々な素材に刺繍されていますよね。
通常、クロスステッチなどの刺繍の作品は、額に入れたりすることが多いんですね。でも、それだけではつまらないので、色々な素材にやっています。自分は手芸の会社に勤めていたこともあるから特に感じるのですが、手芸人口って本当に少なくなっているんですね。手芸メーカーや手芸関連の出版社もどんどんつぶれてしまっています。そういうこともあって、これまで何百年も続いてきた編み物や刺繍の伝統的な技法を、今の若い世代はわからなくなっているんです。僕はクロスステッチしかやっていないからあまり大きなことは言えないですけど、自分の作品を見て少しでも興味を持ってくれたらうれしいなとは思いますね。
ワークショップなども精力的にやられているようですが、やはり色々な人に刺繍に触れてもらいたいということが、活動のモチベーションにもなっているようですね。
そうですね。先ほども言いましたが、手芸には色々な技法があって、本当に面白いんですよ。だから、これまで培ってきたそうした技法をそのまま伝えていきたいんです。僕がやっていること自体、別に新しいことではなくて、ヘタしたら何百年も前からある技法を使っているわけです。それを見て、懐かしいと思う人がいたり、逆に新しいと思う人がいる。どちらにしろ、自分が何かのきっかけになれればと思っています。以前にIIDで展覧会をやったのですが、その時は手芸とは全然関係のない人がたくさん来てくれたんです。やっぱり手芸店だけで展示をしていても、どうしても限られた人にしか見てもらえないところがあるので、そういう機会には積極的に参加していきたいなと思っています。
ワークショップではどのようなことをやられているのですか?
毎回、時計やバッグなど、刺繍するものを変えていて、僕も一緒に作りながらやっています。完成品をみんなに持って帰ってもらいたいので、基本的には誰にでもできる範囲でやっています。僕が刺繍を始めた時は、運良く母親や友人など教えてくれる人が周囲にいたのですが、そうじゃない人も当然いると思うんですね。そういう人たちに直接指導することで、手芸人口が増えていってくれたらいいなと。ただ、イベントとかをやると、僕が持ってきた既存の作品を欲しいという声が結構多くて。でも、完成品はどうしても時間がかかっているものなので、市販のプロダクトと比べると、どうしても高くなってしまうんですね。そこがはがゆいところではありますね(笑)。


ワークショップより。
相当手間がかかりそうですよね。その制作行程についても教えてください。
まずは、フリーハンドでイラストを描きます。それをPC上でグリッドに置き替えて、構図等を確認します。小さい作品であれば、PCを使わずにそのままドット絵に置き換えることもあります。それから刺繍を取りかかるという感じです。ただ、PCの画面上だけではわからない色のニュアンスなどもあるので、その辺は刺しながら調整していきます。これは僕の悪いクセなのですが、最近は絵を作る段階で、刺繍のことを考えてしまうんです。でもその段階で、「色数は少なくしよう」とか余計なことを考えてしまうと、どんどんつまらない作品になってしまうんです(苦笑)。その辺はしっかりやっていかないとなと思っています。
最後に、今後の予定などを教えてください。
また新しい手芸本を作っています。詳しい内容はまだ言えないのですが、「街」をテーマに色々なものを作っていけたらいいかなと漠然と考えているところです。もうあまり考えている時間はないのですが…。手芸本を作る時は、やはり実際に刺繍をする人のことを第一に考えて作っています。そうしないと単なる自己満足の「作品集」みたいになってしまうんですよね。そういうものは、手芸をやらない人には評判が良いのですが、実際にやる人からすると不親切ですよね。一方で、そういう本には載せないような作品も、自分が新しい技法を試したい時などに折りを見て作っています。
その辺の表現と需要のバランスも難しそうですね。今後、作家活動に専念したいというような思いはないのですか?
まだ今は、とにかく面白そうだと思ったものを色々作っている感じです。まだまだ成長中なんです(笑)。ただ、フリーで活動するようになってから気付いたのですが、この業界は、スゴく安い値段で仕事を受けたり、作品を売っている人が多いんですね。それは、需要が極端に少なかったり、これまでの業界のしきたりのようなものも関係していると思うのですが、せっかくこれから面白いことを新しくやりたいと思っている人がいても、それが仕事にならなければやっぱり離れていってしまいますよね。こういう話をすると、生意気だと言われるのですが、そこは戦いでもあるんです。
大図氏によるワークショップ『ヘンプで作る腕時計 H-SHOCK!!』が開催決定。また、9月からは、毎月第2土曜にIID世田谷ものづくり学校で定期的にワークショップを開催する予定。











