
HIRO | ヒロ | Fashion Designer
「楽しいこと」「自由であること」をキーワードに、ファッションの既成概念を打ち破る奇抜なデザインを展開している「HIRO」。ロンドンファッションウィークで高い評価を獲得し、国内外の個性的なセレクトショップやメディアなどから注目を浴び、活動の拠点を東京に定めた今も、感度の高い若者を中心に人気を集めている。今夏、初の直営店「HIRO SHOP」をオープンさせるなど、ますます目が離せない新進気鋭のデザイナーHIROに、彼が創り出す世界観のルーツ、日本のファッションのリアルな”今”について話を聞いた。
Interview:小島直子
Text:原田優輝
ファッションデザイナーになったきっかけを教えてください。
もともとヘアスタイリストがやりたくて、イギリスに渡ったんです。そこから1年間、イタリア人の師匠の下で、コレクションや雑誌などでヘアの仕事をしていました。一方で、洋服もスゴく好きだったので、趣味でリメイクなどは作っていたんです。ある時、たまたま近くの洋服屋さんの人が、僕の家に髪を切りに来たことがあって、そこで製作中の洋服を見て気に入ってくれて、お店に置いてくれることになったのが、ファッションデザイナーになった最初のきっかけです。
その洋服の売れ行きはどうだったのですか?
僕としては、あくまでも趣味でやっているつもりだったから、最初は(売上は)どうでもいいやと思っていたんですけど、意外にバンバン売れていくんですよね。追加注文がどんどん入ってきて、本業よりもこっちの方が忙しくなっちゃって(笑)。そこで、ヘアーの仕事を続けるか、洋服をやっていくかというところでスゴく迷いました。ちょうどその頃、雑誌『THE FACE』で、自分の服が紹介されて、それをきっかけに他の雑誌にもたくさん載り始めたんです。その中のひとつの雑誌なんかは、4ページを自由に使わせてくれたりして、そこでやらせてもらったことなどもかなり反響がありました。その辺りで、洋服の方を真剣にやってみようと決心したんです。
その後は順調に展開していったのですか?
いえ(笑)。いざ洋服をやろうと思っても、その洋服屋以外には取引先がないわけですよね。だから、自分が好きだったロンドンのセレクトショップなどに営業に行ったりもしたんですけど、どこも置いてくれなくて…。雑誌に載せてもらえたのも、変わった服を作っていたから面白がって紹介してもらえていたところもあったんですね。でも、それを実際に着るかというと、なかなか難しかったりするみたいで…。僕自身、完全に独学でスタートしていたから、そういうところをあまりわかっていなかったんです。当時は、パターンのこととかも全然分からなかったので、発想だけで作っていましたし。その時は、「やっぱりもう辞めようかな」とあきらめかけていましたね(笑)。
スタート直後に、いきなり挫折したんですね(笑)。
そうなんですよ。でも、せっかくなので、辞める前に一度ショーをやってみることにしたんです。ロンドンに出てきている人って、これから何かを始めようとしている人が多くて、僕の周りにいた日本人の友人たちも、スタイリストやヘア、プレスなどの仕事をしようとしている人が多かったんです。そういう周りの人たちと一緒に、ロンドンファッションウィークの時期に合わせて、小さなカフェでショーをやりました。その時はまだ、一からパターンを引いて作る程の技術もなかったので、全部リメイクで18体くらいを作りました。音楽は、「ミソスープ」というちょっとアブナい感じのバンドの友人がいたので、彼らに頼んだりして、完全に学生ノリの手作り感満載のショーでした。
ショーの評価はどうだったのですか?
日本のバイヤーさんを始め、かなり色々な人が来てくれました。普段スゴい辛口のジャーナリストの方なんかも、「ロンドンファッションウィークで3本の指に入るくらい良かった」と言ってくれたりしたんです。そのショーがきっかけで、ロンドンのPINEAL EYEというショップと、東京のFACTORYが独占契約してくれました。そこから6シーズンくらいはロンドンで活動し、ファッションウィークの時期にはショーもやっていました。その後、06年に日本に戻ってきました。


(左)HIRO 06SS Collcetion、(右)HIRO 06-07AW Collcetion
東京とロンドンでは環境の違いを感じることはありますか?
ロンドンやパリだと、レースにしろ、ボタンにしろ、古い素材が安く手に入ったりするんです。だから、日本ではまず手に入らないマテリアルで洋服が作れるという利点があります。あとは、本物のアートがすぐそばにあって、いつでも見られる環境というのはやっぱり刺激的だと思います。でも一方で、日本にも良いところはたくさんあります。例えば、職人さんの技術というのはスゴいですよね。デニムなどの生地ひとつとっても、やっぱり日本の技術は素晴らしいと感じますし、それは海外にはないところです。海外で一番困るのは服の生産なので、そういう意味で日本の環境は素晴らしいと思います。
日本人のファッションについては、どう感じますか?
日本の若い人はスゴくオシャレですよね。パリやロンドンだと、オシャレをしている人は本当に限られているんです。その点、原宿なんかにいる子はみんなオシャレでスゴいなと感じます。
HIROさんの作る洋服も、そうした感度の高い若者に受け入れられていますよね。
さっきも少し話しましたけど、ロンドンにいた時は服の作り方を知らなかったこともあって、かなりアート的な感覚でやっていました。でも、最近は友達に着てもらえる服を作りたいという思いが強いんです。帰国直後は、みんな「面白い」とか「コンセプチュアルで良かった」などと言ってくれるんですけど、いざ周りを見てみると、だれも着てくれてなくて(笑)。これはマズいと思って、そこからは素材感、着心地なども考えて、発想勝負だけに終わらないような自分なりのリアルクローズを作る方向にシフトしたんです。その頃から周りの友達とかも僕の服を着てくれるようになりました。最近は展示会ベースでやっているので、ショーのために派手な洋服を作る必要があまりないということも、そこに関係しているかもしれません。


HIRO 07SS Collcetion
最近はショーをやることにはあまり興味がなくなっているのですか?
いえ、近い将来やりたいなとは思っています。ただ、東京コレクションの公式スケジュールに入ってやるかどうかは、まだわからないですね。例えば、ロンドンだと、若手デザイナーを支援している機関があって、そこが若手デザイナーのために場所を用意してくれたりして、オフスケジュールのショーでもコレクションの日程表に載せてくれるんですけど、東京でもそういう動きが作れないかなと思っているんです。お約束のように、最前列にバイヤーに座ってもらって、シーズントレンドを意識したビジネス的なコレクションをするのではなく、そことは全然違うものがやりたい。そのためには自分ひとりではどうしようもないところがあるので、他のブランドとも協力しながらやっていきたいなと考えているところです。
先日、新宿のセレクトショップ「CANDY」で開催したエキジビションもそのような想いから生まれたものなのですか?
そうですね。もともと交流があった19のブランドに参加してもらい、それぞれが考える世界観を自由に表現してもらいました。反響もスゴく良くて、国内外から様々なリアクションがありました。毎回展示会やショーをやって、次のシーズンに入って受注会をやるというサイクルだけでは楽しくないから、横のつながりを大切にしながら、何か別のこともやっていきたいんです。例えば、90年代に起きた裏原ブームにしても、横のつながりがあったからこそ、一気に盛り上がったわけですよね。今の東京には、そういうカルチャー的な盛り上がりがあまり感じられないから、自分たちがそういうものを作りたいなって思うんです。色んな人とモノを作っていった方が絶対楽しいし、何倍もの力が生まれるんですよね。

HIRO Exhibition『I am BLiND』2009
HIROさんのインスピレーションソースについて教えてください。
もともと僕は、スケーターカルチャーとか、パンク、ハードコア、メタルなどの音楽に影響を受けてきたので、洋服を作る時も、自分が通過してきたそういうカルチャーが発想の元になることが多いです。例えば、「次のシーズンは、80年代の○○というスケーターというところから広げていこう」ということも多いです。デザイナーはみんなそうだと思うんですけど、若い時に興味を持って触れてきたものが自然と蓄積されていて、その都度その引き出しを開けながらモノを作っていくというところがあると思います。自分の場合は、ストリートカルチャーから色々なことを感じ取って生きてきたから、やっぱり作るものも自然とそうなってしまうんですよね。だから逆に、自分が通ってきていないようなエレガントな洋服を作れと言われてもできないし、それはまた他のデザイナーさんの役割だなと思っています。


(左)HIRO 08SS Collcetion、(右)HIRO 08-09AW Collcetion
シーズンテーマなどは、毎回最初に設定されますか?
以前は先にテーマを決めて、そこからどんどん広げていました。でも、僕の場合、そのやり方をしてしまうと、コンセプチュアルな方向に進みすぎてしまうんです(笑)。それで結局着られないものだったりとか、何年か経ったら飽きられてしまうようなものを作ってしまう傾向があって…。もちろん、テーマが明確だからこそ一貫性や強さも出てくると思うんですが、今はあまりそういう気分ではないんです。もう少し自由に、シンプルに、自分や友達が着たい洋服を作りたいというモードなので、あえてカチッとしたテーマは決めないようにしているんです。ただ、例えば、糸、素材感、グラフィックとか、何かしらひとつは全体の筋を通すようなものは入れています。要は、あまりコンセプチュアルになりすぎないようにしたいということなんですよね。
今シーズン(09-10A/W)のコレクションについて教えてください。
アメリカのバンド「MINOR THREAT」がインスピレーションソースになっています。ボロボロのTシャツとショートパンツに、VANSのスニーカーを合わせているようなスゴくロックな感じのバンドです。「酒を飲まない」「ドラッグをやらない」「女をやめる」っていうバンドの三大原則みたいなものがあって、そのマインドが以前から大好きだったんですよ(笑)。今回は、「MINOR THREAT」のワードローブを自分なりに作ってみようと思ったんです。だから、スウェットやコットン、モダールなど着心地の良い素材を多く使っていて、アイテムとしては、デニムやライダースが多いですね。


『swastika eyes』(09-10AW Collcetion)
近年強まってきている「ファストファッション」という流れについては、どのように考えていますか?
そういうブームがあるからこそ、その対極で自分の感覚を思いっきり表現しているブランドは、逆にチャンスなのかなと感じています。現に取引先も毎回増えています。多少値が張る服でも、そこにしかないものを作っていれば買ってもらえると思うんです。本当にファッションが好きな人というのは、オリジナルが詰まっているものを、常にアンテナを張って探しています。そういう人たちは、ショップの店員さんとかから、その服の良さやデザイナーの想いを聞いて、そこに価値を見出して、高いお金を出して買ってくれたりするんです。そういう本当に洋服が好きな人たちに向けて作っていきたいという思いは強いですね。
8月には恵比寿にショップもオープンしましたね。
はい。スゴく狭い場所なんですが(笑)。HIROの他にも「JUVENILE HALL ROLL CALL」や「BALMUNG」など、いくつかのブランドの洋服をセレクトしたショップです。彼らとは、展示会とかも一緒にやっているんですけど、考え方がメチャクチャ似ているんです。もちろん作っているものも素晴らしいし、尊敬し合っている仲だから、今回はぜひ一緒にやりたかったんです。他のショップにはない品揃えにしたかったので、ほとんどのアイテムをこの店のための一点ものとして作ってもらっています。自分の洋服に関しても、展示会で出しているものとは違う、ここでしか買えないものを並べています。「ファストファッション」へのアンチじゃないですけど、価格や流行というところとは違う、洋服そのものの本当の価値というものを追求したいという思いがあるんです。価格帯はそんなに低く設定していないのですが、本当に好きな人たちが受け取ってくれればいいなと思っています。
SHOP INFORMATION
HIRO SHOP
Address:東京都渋谷区恵比寿4-10-13 ニュー明和マンション207
Tel:03-3323-6967
OPEN:13:00〜20:00 (土曜日、日曜日のみ営業)










