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AYAKO HISHINUMA | 菱沼彩子 | Illustrator

CDジャケットなど音楽関連のイラストレーションを中心に、雑誌への作品提供、セレクトショップとのコラボレーションなど、幅広く活躍する菱沼彩子。ブラックミュージックからの影響を強く感じさせながらも、独特のユーモアセンスと、キュート&コズミックな”キャンディポップ”感が絶妙にミックスされた作風で、今急速に注目度が高まっているイラストレーターのひとりだ。国内のミュージシャンから、あのジェレミー・スコットまで、多くのクリエイターからも支持されている菱沼ワールドの秘密に迫った。

Text:原田優輝


絵を描き始めたのはいつ頃からですか?

子供の頃から描いていましたね。でも、自ら進んでというよりは、絵を描くのが好きだった母親から色鉛筆と紙を渡されて、それで描くようになったんです。その頃は、女の子や花、動物など子供らしい絵を描いていました。当時描いていた絵を親がファイリングしてくれていて、最近それを見直す機会があったのですが、スゴく面白かったです。4ページくらいの絵本や、オチがない4コママンガとかを描いていたり(笑)。

それ以降も絵はずっと描き続けてきたのですか?

高校生くらいからはヒップホップに影響を受けて、グラフィティの真似をノートに描いたりもしていました。でも、美大受験の時に、受験勉強としてデッサンを描いたりするようになってからは、自ら進んで絵を描くということをパタリとしなくなりました。美大では、就職先が一番多いという理由でグラフィックデザインを専攻しました。でも、その頃は自分が何をしたいかということが明確じゃなくて…。美大に入ってからしばらくは、誰に見せるでもなく描いていた小さい頃のように、純粋に絵を描きたいという欲求も特になくなっていました。

菱沼彩子

そこから抜け出すきっかけは何かあったのですか?

3年生の頃にイラストレーションの授業を選択したんです。その授業では、毎回出される課題に沿って絵を描いて、それをみんなで見せ合って講評したりしていたのですが、正直自分の絵を人に見せるというのはスゴく苦痛でした。でも、授業が終わった後、先生がまだ教室に残っている時に、先生にだけ見せた絵を褒めてもらえたりして、そこから徐々に自分の絵が描けるようになっていったんです。

その時に見せた絵はどのようなものだったのですか?

実は高校の時からずっと夢日記をつけていたんです(笑)。ヒップホップの黒人アーティストとかが夢に出てきて、例えばDJプレミアにサインをしてもらうとか(笑)。夢で見た一番面白いシーンを文章と一緒に絵日記のように描いていました。もともとそれは人に見せるためではなく、完全に個人的なものだったんですけど、その先生に見せてみたら褒めてもらえて。それで、「これでも良いんだ」と思えるようになったんです。普段はそんなに面白いことは浮かんでこないんですが、夢だとたくさんそういうことが起こって(笑)。

その頃から今の菱沼さんの作風は確立されていったんですね。

そう思います。その後、大学を卒業してからは、しばらくタワーレコードでPOPやディスプレイ等を制作する仕事を2年くらいやっていました。その頃から並行して、クラブイベントのフライヤーを作ったりもしていました。そんなことをしているうちに、少しずつイラストの仕事が増えていったという感じですね。タワーレコードで働いていた時から、CDジャケットのアートワークを手がけたりすることもたまにあったのですが、特に去年くらいからは、CDの仕事なども急に増えてきましたね。でも、結構まわりの環境に恵まれてきたところが大きくて、まだまだもっとがんばらないと、という感じなんですけどね(笑)。

菱沼彩子

絵を描く時のインスピレーションソースとなるものを教えてください。

やっぱりまずは音ですよね。そこからイメージを膨らませていくことが多いですが、本当に思いつかない時なんかは、色んなものをとにかく見まくります。こないだも全然描けない時があったのですが、ピカソの展覧会を見に行ったら、その日にいきなり描けました(笑)。その絵は、全然ピカソっぽくはなかったのですが、やっぱり考え込んでいるとどんどん堅くなってしまうから、そういう時は人の作品を色々見たりして、「こんなものでも良いんだ」と思えることが大切だったりするんです。あと、フライヤーを作る時なんかは、自分のなかでストーリーを作って、その一場面を描くということも多いです。例えば、4年くらい続けている「HEY MR. MELODY」というマンスリーイベントのフライヤーでは、毎回「季節感」をテーマにしているのですが、まずその月ごとのイメージを言葉で箇条書きしていって、そこからストーリーを空想して作っていっています。

最近手がけた仕事をいくつか教えてください。

七尾旅人さんとやけのはらさんの「Rollin’ Rollin’」のジャケットを手がけたのですが、これはミュージックビデオとジャケットが連動した仕事でした。ミュージックビデオの撮影時には、現場でこういう絵にしようということを皆で考えたりして、スゴく楽しかったですね。あと、鎮座DOPENESSの「100%RAP」のジャケットも、鎮座さんと、デザインをしてくれたW+K TOKYO LABの人たちと一から考えていったのですが、最近はこのようにチームで作っていく機会が増えています。そのような時は、アイデアもみんなからたくさん出てくるし、楽しいですね。学生の頃は、どちらかというとグループ作業がキライだったんです。自分の思い通りにならないと、もうどうでもよくなるというか、どうしても本気になれなくて(笑)。でも、最近はスゴく楽しいし、効率も良いんですよね。ひとりでやっていると、「ホントにコレで良いのかな?」といつも思ってしまうんですが、アーティストや他のスタッフと一緒だと、例えば、色ひとつ決めるにしても、どっちが良いかをすぐに確認できたりしますしね。

菱沼彩子菱沼彩子

イラストを描く時に、一貫して大切にしていることがあれば教えてください。

依頼してくれた相手に喜んでもらえたり、満足してもらえるものを作りたいとは思っています。いつも描いていると、「ホントにこれで満足してもらえるのか?」とか、スゴく不安になっちゃうんです(笑)。自分の中で「こういうものを描きたい」というものが常にあるわけではないので(笑)、色々細かく指示してくれたり、明確なテーマがあった方がやりやすかったりします。あと、私はシリアスなものやカッコ良いものは描けないので、クスッと笑ってもらえるようなユーモアを入れるように意識しています。カッコ良い絵をサラっと描ける人を見ていると、スゴくうらやましくもあるのですが、私がそれを真似しても仕方ないですし、そもそも性格的にストレートに描くことができないんですよね(笑)。学生の時もそれでずっと絵を描けなかったところもあって。だから、夢日記にしても、単にDJプレミアの絵を描くことはできないけど、夢に出てくるDJプレミアなら面白く描けるかなという意識があったんです。

最近は仕事でアーティストのイラストを描くこともあると思うのですが、今はもう抵抗なく描くことができるのですか?

うーん、どうですかね。ただ、例えば、Public/image.の連載「B SIDE」なんかは、毎回すんなり描けていましたし、スゴく楽しかったですね。やっぱり、そのアーティストをそのまま描けと言われると困ってしまうところは未だにあるのですが、この時は毎回インタビューに同行して、その時の話を絵に盛り込んでいたので、イメージが沸いてきやすかったんです。やっぱり何かそういう取っ掛かりは欲しいんですよね。

菱沼彩子菱沼彩子

やはりどこかでフィルターというか、ワンクッションが必要なんですね。

そうかもしれないです。直球じゃないものしかできないんですよね(笑)。例えば、大学の卒業制作の時に、アルミホイルでアクセサリーを作ったんです。これは、2PACのCDジャケットに映っていたジャラジャラしたアクセサリーを見て、「これをアルミホイルで作ろう」とひらめいたのがきっかけで、段ボールを切り抜いたりして本物みたいに作ったんです。B-BOYの友達をモデルにして写真まで撮って、その写真とアクセサリーを展示しました。「本物も作ればいいじゃん」とたまに言われるのですが、別に本物が欲しいと思ったことはないし、そういうものをデザインすることにも興味はないんです。紙でできているというところが私にとっては面白くて、そういうもので人をビックリさせたり、笑わせたりすることが好きなんです(笑)。

人に絵を見せることが苦痛だったという学生時代の悩みはもう克服されたようですね。

そうですね。今はやっぱり自分の絵を見てもらいたいと思います。あ、でも、未だに初めて人に見せる時とか、入稿データを送って相手の返事が来るまでは、ドキドキしますよ(笑)。

菱沼彩子

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