
ARUPACHI KABUTO | あるぱちかぶと | Musician
これをラップと呼んでしまっていいものかどうか。ロービートにのる高速ラップですさまじい文字量をたたきこむ。その内容は、まさに”歌詩集”と呼ぶにふさわしい佇まいのブックレットが示している通り、文学的だ。ポエトリー・リーディングとも共鳴するような流麗なフロウは、どこか物悲しさすら感じさせ、物語性に富んだリリックが、彼のストーリーテラーとしての才能を伝えてくれる。和の心と独特の言葉使いを駆使し、遅れてきたリリシスト・あるぱちかぶとが、満を持して登場する。
Text:大草朋宏
今回がファースト・アルバムになりますが、どのような作品を目指しましたか?
最初は特にテーマを設けていなくて、純粋に「作品集」のような形にしたいと思っていました。でも、レコーディングを進めていくうちに、だんだんアルバムを通したテーマが自分のなかで生まれてきました。「あるぱちかぶと」というキャラクターを自分から引きはがして、他者化していく作業をやろうと思ったんです。
「他者化」というのは、自分を俯瞰したかったということですか?
俯瞰というよりは、完全に別人格になってしまうというか。過去に作った曲というのは、どうしても今の自分の気持ちとは違ってきたりするんです。それに、曲に込めるメッセージを突き詰めて考えていると、だんだんイヤになってくるところがあるんですよ。新しいモノを見つけても、それがすぐにチープに見えてきたりする。それならいっそのこと、最初から一旦イヤになってしまうように自分に仕向けようと思って作っていきました。

Photo:Tadamasa Iguchi
『◎≠』というタイトルはどういう意味ですか? 記号のようですが。
これは「マールカイキ」と読ませていますが、まず「回」という漢字の角を丸くしてマルカイ。カタカナの「キ」を逆にしたものを付けてマルカイキ、伸ばしてマールカイキですね。意味としては、二重丸とノットイコールでアンビバレンスを表現しています。二重丸で肯定しつつも、ノットイコールで否定。
それが他者化にもつながるんですね。あるぱちかぶとさんのなかで、「アンビバレンス」とは何ですか?
12曲目の『シバシノ別レ』という曲で、僕とあるぱちが別れて、言い合いをするという曲があるんです。そして、いちばん最後の『日没サスペンデッド』という曲で、自分のなかで結論を出しています。自分からあるぱちを引きはがしてみたらどうなるかっていう曲。いざ自分から“あるぱち的”なものを引きはがそうとしてみても、結局自分の感受性に振り回されてしまい、元の自分にすがってしまうんです。
ラップが特徴的で、息つく暇がないほど情報量が詰め込まれていますよね。言葉自体は聞き取れるけど、ライヴなどで一緒に歌ったりできない感じですよね。
一緒に踊ったり、手を上げたりはできないんですよね。自分のなかでは日本語ラップというのは、音楽というよりは別の表現方法と思っています。だから、ライヴでのお客さんとの一体感というのはあまりイメージしていないですね。
ラップも音や楽器のパートのひとつに過ぎないという考え方の人もいますよね。
普通の文章を朗読して、聴いてくれるかといったら飽きられてしまうと思うので、そういう意味では、ラップという形として最低限、リズムや調子で飽きさせないようにしたいとは思っています。

Photo:Tadamasa Iguchi
ここまでの情報量を一気に吐き出すことで、それがある種のリズムやメロディを構築するところもありますよね。それに古典的でもある独特の言語感覚や文体が、さらに引っ掛かりを持たせていると感じました。
落語が好きなんですよ。落語はなぜ同じ話を何度も聴けるのかというと、その時々のリズムや抑揚があるからなんです。ラップで言う「パンチライン」が落語にもあって、それを話すための積み上げだったりするんです。
アルバムに収められたフロウは、とてもなめらかで、流れが美しいと思います。でも、以前にリリースした『大震災』の頃はライミングも固いし、もっと「ヒップホップ的」だったと思います。
確かに『大震災』の頃は、ヒップホップに縛られていましたね。だんだん自由に作れるようになってきました。16小節、フック、16小節、フックという形式も無視しているし。
自由な形式は、語りの部分からも感じられました。例えば、『完璧な一日』は語りから始まるし、『カラシニコフ』はほぼ全編が語りっぽいですよね。
曲を作っていると、「空白」がもどかしくなるんです。ラップをたたみかけた後に、ブレイクがあると急に冷めちゃう感覚があります。トラックが続いている間は、なるべく空白を埋めたい。だからこれだけの量のリリックになってしまったと思うんですけど(笑)。普通の形式を壊して新しい構成にしようと思っていたので、その表れでもあると思います。
リリックのテーマはどのようなところから生まれることが多いですか?
日常生活を送りながら、これを歌詞にしたいなって思うことが多いですね。生活のなかでモヤモヤしたものをまとめます。自分にとって歌詞を書くという行為は、日常で抑制されていることのはけ口的な部分があって。普段の生活では言っちゃいけないことだったり、友達に愚痴を言うようなことを、僕の場合はラップにしています。日常にたまっているものがないと、僕の場合は曲作りできませんね。
リリックは「一人称」で書かれるのではなく、登場人物がいたりしますが、その意図は?
自分の伝えたい核のメッセージを箇条書きにして散文のように伝えるよりは、ストーリーを作って最後に結論を出すほうが力強いと思うんです。

Photo:Tadamasa Iguchi
今回の初回盤には、歌詞カードというには立派すぎる冊子が付いていますね。
僕の場合はやっぱりまずは歌詞ありきなんです。ライヴでも歌詞を聞き取れるようにしているし、わかってもらえてなんぼだと思っています。だから、とりあえず読んでほしいという思いから、このようなブックレットを付けることにしました。
では最後に、ユニークなアーティスト名「あるぱちかぶと」の由来を教えてください。
僕は、Eccyと出会ったことで本格的にラップをすることになって、名前を決めようということになったんです。その時、たまたまキョンシーにハマっていたんです(笑)。『幽幻道士』という映画に出てきた呪文が「あるぱちかぶと」だったんです。その語感が気に入りました。ヘンテコな名前を使おうと思っていたので、ピッタリでした。特に意味はないんです(笑)。
ストーリー性が強いリリックと、記号性の高いアルバムタイトルやアーティスト名のバランスも面白いですね。
それもアンビバレンスの表現かもしれません。

Photo:Tadamasa Iguchi











