
AR 3 Bros. | AR三兄弟 | Creative Unit
PCや携帯電話等を通して現実世界を見ることで、対象に電子情報が付加されるAR(拡張現実)という技術が注目を集めている。今から20余年前、鳥山明が「ドラゴンボール」で描いた「スカウター」を実現可能なものにしてしまう、夢と可能性が詰まったこの先端技術は、実用化に向けた模索が様々なレベルで繰り返されている。そんななか、ARを用いた作品制作、イベント企画・出演、映画プロモーションなどのプロジェクトを次々と手がけ、ARを”カジュアル”に世に広めているのが、今回紹介するAR三兄弟だ。NHK「天才てれびくんMAX・ビットワールド」でのAC部とのコラボレーション、「東のエデン 劇場版」におけるARシステムを用いたプロモーション展開など、あらゆる素材、人、メディアまでをマッシュアップする話題のトリオ(長男・川田十夢、次男・高木伸二、三男・小笠原雄)に話を聞いた。
Text:原田優輝
まずは3人の出会いから教えてください。
長男(以下長):僕は、2001年に某メーカー内にクリエイティブチームを立ち上げ、そこで広告、デザイン、システム開発、映像制作、プログラミングなど幅広くクリエイティブ全般をやっていました。その後、同じ部署の後輩として、2005年に三男の小笠原が、2006年に次男の高木が入ってきました。もともと彼らも映像や音楽が得意だったので、この3人で何かできないかと考えるようになったんです。それから、従来のミュージックビデオとは違うプログラムベースの映像表現などを追求するようになって、一般のコンペで賞を頂いたりするようになりました。
ARに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
長:ある記事を通して、セカイカメラのプレゼンテーションを見たのが最初です。それまで、Webやゲーム開発などを通して、ユーザーインターフェ―スをいかにシンプルに、ワンクリックを省略していくかを考えていたのですが、セカイカメラはワンクリックに限らず、色々な行為を省略していたんです。カメラを覗いた先に映像や情報があるというのは、それまでのQRコードや「続きはWebで」的なものまで省略できているということですよね。僕の好きな劇作家の言葉に「劇的とは省略すること」というものがあるのですが、まさに劇的な技術革新の時代がやって来たと感じました。それで、ARでできることを色々考えるようになり、「今日からAR三兄弟をやるから」とふたりに伝えたんです。
三男(以下三):いきなり「やるから」と言われて始まった感じでしたね(笑)。
AR3Bros episode-iii | twitter & WebScouter & Hatena & RPG & AR from ar3bros on Vimeo.
AR三兄弟 第三話「風の谷の三丁目のRPG」
AR三兄弟の活動においても、「省略すること」が重要なキーワードになっているのですか?
長:そうですね。例えば、僕も以前音楽をやっていたのですが、音楽を作って、それをいかに届けるかということを考えた時に、すぐにそれが届けられるのが一番いいじゃないですか。そう考えた時に、ライブハウスでライブをやったりという選択肢ももちろんあるけど、そこに足を運んでもらうためには色んなプロセスを踏まなくてはいけない。それをもっと省略できないかと思っていたんです。例えば、カメラをかざすだけで自分が作った音楽が聴ければいいし、そうした色んなプロセスの省略によって、作り手の表現にダイレクトに届いていくんじゃないかなと。僕たちは、音楽やアニメーション、ゲームなども作っていて、それぞれに作りたいものがあるんです。まずはそれを伝えていくためのプロトタイプから作り、そこに表現も乗せていくというアプローチは、まだあまりやっている人がいないんじゃないかなと。
AR三兄弟は「マッシュアップ」もひとつのキーワードに掲げていますよね。
長:はい。「マッシュアップ」という言葉自体は、かなり古くから使われていますよね。ただ、例えばWeb業界に限ると、プログラムをマッシュアップするだけというか、スゴくインスタントなものが多いんですよね。でも、そもそもマッシュアップする素材はプログラムだけじゃなくて、現実世界のオモチャかもしれないし、新聞や紙かもしれない。もっと色んなものを組み合わせた方が可能性は広がるはずなのに、プログラムだけをマッシュアップしてクリエイティブと言ってしまうところに違和感を感じていて。素材を選ぶことからクリエイティブは始まっているわけで、その幅をもっと自由にしていきたいんです。だから、自分たちは意識的に映画、テレビ、ラジオなどにも顔を出しています。メディア自体もマッシュアップしたい。そういうダイナミックなマッシュアップをする人たちはあまりいないような気がしているので、自分たちがそれをやっていくことで新しい文化が生まれればいいなという思いでやっています。
AR三兄弟ならではのアプローチとして意識していることはありますか?
長:僕らは自分たちでイベントを企画することも多いんです。以前、Twitter上でのやりとりがきっかけで、登山をすることになったのですが、そこに色んな業種の人たちが50人くらい集まったりしたし(笑)、「AR忘年会」を企画して、そこで普段壇上に上がらないような人たちにも「AR宴会芸」を披露してもらったりしました。こういうイベントを通して人とつながることで新しいプロジェクトが生まれることも多いです。そういう意味では、人もマッシュアップの素材というか、ひとつの起点になるんです。今の自分たちのアプローチとしては、こういうイベントをきっかけに誰か出会ったり、何かを見つけたり、新しいことを知り、それを素直にカタチに落とし込むという流れが多いかもしれません。

「AR忘年会」より。
最新テクノロジーを用いて何かを作ろうとすると、どうしても技術に寄りがちになる部分があると思うのですが、AR三兄弟の場合、「技術」よりも「人間」が前に出ているイメージがあります。
長:そうですね。Webやプログラミングなどのクリエイティブが、もっと世に出ていっていいんじゃないかという思いがあるんです。そのためにもあえて顔を出すということを表現としてやっていくことに、スゴく意味があるんじゃないかと思ったんです。「カッコ良いね」と言われるのではなく、いかにスベらずに「面白いね」と言ってもらえるか。それが僕たちの基本姿勢なんです(笑)。
三:ARは、まだそんなに浸透していないところもあるのですが、面白いもの好きの人たちが、どこからか聞きつけて集まってきてくれたりというのは結構ありますね。
「東のエデン 劇場版」でのARを使ったプロモーションもかなり話題を集めましたね。
長:実はそれまで「東のエデン」は見ていなかったんです。でも、こうやってARの作品を作っていると、色んな人が「東のエデン」や「電脳コイル」とかを見るように勧めてくれるんです。今回は、パルコさんから「東のエデン」の展示をやりたいから何か手伝ってもらえないかと、軽いノリで言われたのがきっかけです。それで「東のエデン」を全部観たのですが、もう面白くて。その時に、このアニメの中のシステムを現実世界に持ってきたらスゴく面白いんじゃないかと思い、その日のうちにシステム設計なども考えて、企画書を作ったんです。その後、完成披露試写会の舞台挨拶の合間の15分くらいで、神山(健治)監督にアイデアを話しました。そうしたら、「これホントにできるんだ。じゃあ、やろう」という感じで(笑)。

「東のエデン 劇場版」エデンシステム概念図
その時点で神山監督は、ARに関しての知識はどの程度あったのですか?
長:そんなには知らなかったみたいです。「AR」という言葉も後で知ったようですし。でも、逆にそれはスゴイですよね(笑)。このプロジェクトには、もうひとつのキーワードとして、「ARG(代替現実ゲーム)」という概念があるんです。これは物語世界と現実世界の境界をぼかして、物語世界のものを現実に持ってきてしまうという考え方で、海外の広告プロモーションやプロダクト展開の手法で使われ始めているものなのですが、そういう話を以前に何かの間違いで呼ばれた「ARG」のシンポジウムで聞いて(笑)。それで、今度は概念のマッシュアップだと思い、取り入れることにしたんです。
この「東のエデン」もそうですが、古くは「ドラゴンボール」など、ARを知らないクリエイターたちが、未来に抱くイメージとして無意識にそれを描いてきたように、とても夢のある技術だと思います。ただ、これから先はそれをどう使っていくのかが大切になってきますよね。
長:ハードの進化を待たないとできないことも結構あるんです。ただ、最新技術は時とともにどんどん進化していくと思うし、そこもフォローしてはいきたいのですが、一方で「遅れゆくもの」にも興味があります。例えば、今自分たちはARを作動させるために、マーカーを使っているのですが、本当はもうこれも必要ないんです。でも、あえてマーカーを入れたTシャツを着ることでアホっぽく見える(笑)。ARの最新技術を、最新のまま見せてもなかなか理解されにくいので、まず面白いと思えるもの、ハードの進化を待たなくてもできることのなかで、新しさを追求していきたいと思っています。
Eden of the east vol.1 from ar3bros on Vimeo.
新しい技術が出てくると、どうしても実用化の話に向かっていくわけですが、面白いのはそこだけではない、と。
長:最先端でカッコ良くて、ピカピカしているメディアアートのようなものもいいんですが、それをやる人たちは他にもいるので。自分たちにしても、裏ではわからないことの積み重ねだったりはするのですが、なるべくスベらないで、面白いと言われたいんです。時にはカッコつけたいこともあるのですが、そこはグッとこらえて(笑)。最近、AR関係の学者さんに会う機会も多いのですが、そういう人たちに「よくやってくれた」と言ってもらえたりするんです。それはスゴくうれしいですね。
三:プログラムもオープンソースのものを使っていて、タダでスゴイ体験をさせてもらえているので、その恩返し的なことができるのはうれしいですね。
今後もARにこだわっていくのですか?
長:どうなんでしょう。でも、たとえARという技術が今後どうなろうと、そもそも「AR」というのは「拡張現実」という意味なので、広く捉えれば色んなことができると思っています。例えば、弁当のおかずを増やすということもARかもしれないですし(笑)。…次男、最後くらい何かしゃべった方がいいんじゃない?
次:特にないです…。
(一同笑)

作品制作の前に作ることが多い手描きのラフスケッチ。システム設計などが書き込まれている。












