
TARO HORIUCHI | タロウホリウチ | Fashion Designer
2007年にアントワープ王立芸術アカデミーファッション科を主席で卒業した堀内太郎。その直後から次の展開に期待が高まったなか、一旦彼はパリでの生活を選んだ。その1年が彼をデザイナーとして大きく成長させ、そして2010年春夏シーズン、満を持して自分の名前を冠したブランド「TARO HORIUCHI」をスタートさせた。グレーを基調にした繊細なコレクションは、コンセプチュアルなアプローチだが、理屈を語り出すような難しい服ではない。美しく肌触りの良い上質なコレクションだ。早くも次のシーズンの準備に忙しいという2月某日、注目されたデビューコレクションの詳細から、学生時代のこと、ファッション界の今後にいたるまで、堀内自身の言葉で語ってもらった。
Text:佐々木彩
まずはデビューコレクションのお話から伺いたいと思います。10年春夏シーズンのテーマを教えてください。
「信仰」「時間」「自然」という3つのテーマが基軸になっているコレクションです。宗教では、同じことの静かな繰り返しを重ねるという行為が、頻繁に見られます。また、自然も春夏秋冬の繰り返し。時間も24時間同じサイクルを永遠に繰り返すなかで、その中にある美しさがあり、それを表現したかったということ。具体的なデザインの落とし込みでは、基本的に単調で、グレー自体にインパクトがあるわけではないけれど、生地の違いなどでトーンにも差があり、そのグラデーションや、艶、ディテールもシンプルななかに変化を加えて表現しました。
TARO HORIUCHIとしてブランドを展開する今シーズン、「繰り返しの中にある美しさ」ということをテーマに選んだのは、ブランドコンセプトの宣言でもあるのですか?
そういうイメージも頭の中にあるんですけど、ちょっとした反抗心というか、ファッションに対してもっと違ったことができないかなと考えているんです。最近特に、派手なことをしたもの勝ちみたいな風潮があって安直だと思っていたので、逆に地味にいってみようと。

2010 S/S Collection
2007年にアントワープを卒業後、ニナリッチや、イヴ・サンローランから誘いがあったと聞いています。そのなかでご自身のブランドを立ち上げるに至った経緯は?
ブランドを立ち上げるタイミングとしては、「21_21 DESING SIGHT」での展示(※2007年にJFWの一環で開催された「ヨーロッパで出会った新人たち」展)の後に、ひとつあったと思うんです。出資するからと声をかけて頂いたりもしました。でも、自分としては物足りなかったというか、納得していなかったので始められなくて。それと1回パリに行きたいという気持ちもありました。それで結局、1年間パリに行っていたんです。

2008 S/S Collection at 21_21 DESING SIGHT
パリではどういったことをされていたのですか?
ジョン・ガリアーノや、ドリス・ヴァン・ノッテンのアクセサリーデザインを担当したり、面白いジュエリーを作っているHeaven Tanudiredjaというジュエリーデザイナーの友人がいるのですが、彼と一緒にプロジェクトをやったり、あとはニナリッチで少し働いたりしていました。パリの生活はとても新鮮でしたね。それまでは、ファッション関係の人たちしか関わりがなかったのが、パリに行ってからは、社会学や政治学専攻の人、建築を専門にする人たちと一緒にいることが多く、新しく出会った人たちを通じて、『なんか違う』と思っていた自分のファッションに対する考え方にも解答が見つけられたんです。
その解答というのは何だったのですか?
要はファッションは、服だけじゃないということですね。それからは自分の表現においても、より社会との繋がりを考えるようになりました。デザインのプロセスに、外とのコミュニケーションというレイヤーがひとつ足された感じです。

アントワープ4年生時の作品。
アントワープの卒業コレクションではメンズでしたが、なぜレディスブランドとしての立ち上げになったのでしょうか。
メンズにするかレディースにするか、最後の最後まで悩んだんですよ。実は卒業コレクションが唯一のメンズコレクションだったんです。でもあの時も、女の子も着たいと言ってくれていました。今回もサイズレンジによっては、男性も着られるので、あまり性別は意識はしていないです。周囲にもレディスやりなよって言われたから(笑)、要はどちらを先に始めるかの話でした。最終的には両方やりたいと思っています。
少し遡りますが、10代でロンドンへ渡った後、アントワープでファッションデザインを勉強されましたが、そもそもどうしてファッションデザインだったのですか?
僕自身はアートの学校に通っていて、ずっと写真を専攻していたのですが、本当に(マルタン・)マルジェラが好きだったんですよね。安直ですけど、「こんなのあるんだ」と、スゴく惹かれたんです。
それまでは、写真家になろうというスタンスだったのですか?
模索中だったのですが、淡々と写真を撮っていました。それで、ロンドンのキングストンという大学で、1年間ファウンデーションコースに通っていて、4ヶ月程ファッションも勉強していました。でも、そこは大きな企業系のデザイナーを輩出する学校としては有名ですが、僕の好きなマルジェラと比べたらコマーシャルだと気がついて、「マルジェラが卒業したのだから、ここしかない」ということでアントワープに行くことに決めました。

アントワープ3年生時の作品。
アートとファッションの融合という思いは、今もどこかにあるのですか?
ええ。何か面白いことをやろうといつも考えています。僕の父親は美術商で、スゴく影響を受けていて、写真やポスターのグラフィック、ムービーも作ったり、インスタレーションもやったりもしています。
DMやカタログを拝見しても、かなりコンセプチュアルですよね。
アントワープで相当トレーニングされていますから(笑)。「自分を掘る」という作業を叩き込まれました。自分を表現するということは、自分の根底をどう見せるかということなんです。
「自分を掘る」というのは、具体的にはどういう作業ですか?
自分の興味はもちろんですし、どこで生まれたかとか、身体的なサイズとか、すべてです。人と違うものを作りたいとなった時、何が一番の差かといえば、「自分」という個なので、そこをどうやって深く見つめて、掘りさげられるかが勝負ですよね。

2010 S/S Collection
普段どういうところからインスピレーションを得ていますか?
社会に対する思いですね。パリに行ってからというわけではないですが、ココ・シャネルのファッションと社会的な事柄とを関連づけたスタイルをスゴいと思うようになりました。そうしたら、色々な社会に対する自分の解答もしくは、問いが自然とインスピレーションになっていきました
そのために社会に対しては常に意識的にアンテナを張っているのですか?
自然に生活していて目についたら、気に留めておく。それをどんどん自分の中にためておきます。本や映像などもやっぱり集積させていって、いざ創る時にその中から興味を持てるものをピックアップするという感じです。
ファーストコレクションは、中性的で、ニュートラルな印象を受けました。
自分がイメージする女性像が男らしかったり、その逆もあるのかもしれません。年齢や性別で問うのではなく、自らの確立された価値観や意識を持った方、豊かなやさしい知性を持った方に向けてに作りたいと考えています。性差という意味でも、私はあまり男女の差を意識する事はありません。いま、男性観や女性観というものは、精神的意味において、近づいているのではないかと思っています。フェミニズムや男性主義のように個々の性別を主張し合うのではなく、お互いを理解し合い、認め合った上での精神的共感や、ある意味達観した柔らかな知性にインスパイアされることが多いです。
そして、東京から発信しているにも関わらず、東京らしさというものを感じるわけでもなく、どこにも所属していない感じがして、そこがスゴく面白いです。日本人でありながら、10代をロンドンで過ごしたという経験も関係しているのでしょうか。
それはあるかもしれないですね。でも、本来自分が好きな精神性は、やっぱりスゴく日本的だと思います。経験と嗜好が中和されているのかもしれないですね。でも、どこかに所属しないと大変というのはありますよね。売るのが難しいじゃないですか(笑)。

2010 S/S Collection
最初から東京でやろうと考えていたのですか?
日本の方が、サポートしてくださる人が多いんですよね。やっぱり自国のクリエイターを優先するものですから。例えば、パリの工場で、同じ金額を持っているフランス人が来たら、そちらを先に取り扱うでしょうし、そこはしようがない話ですからね。なので、自然と日本に戻ったというのはあります。パリに対する憧れや執着も特になかったですし。
今後は、海外への展開も意識されていますか?
そうですね。この前もNYのバイヤーの方からコンタクトがあって、どうやって見せようか悩んでいるところです。海外の方が富裕層の幅が圧倒的に厚いので、中国やアメリカなどへの展開は考えています。日本は基本的に中流の社会なので、なかなか難しい部分もあるんです。でも、今回は挑戦の意味でも、あえてプライスゾーンをかなり上げました。そういうドメスティックブランドがあってもいいと思うし、今の段階ではまだ市場がない分、自分で切り開けたらいいなと考えています。
堀内さんには現在のファッションシーンをどのように見られていますか?
大変だけど、面白いと思います。僕自身もどんどん上を向いて、品質がとても良く、長く着られるものを作りたいですね。これからは、中途半端なものがどんどん消えていくんじゃないかなと思っています。


シーズン毎のコレクション発表と同時に、別のプロジェクトも立ち上げたそうですね。
「パーソナル・ラグジュアリー」というテーマで、ジュエリープロジェクトをやっています。「自分でチョイスすることがラグジュアリー」という概念を提案したいと思ってスタートしました。今回は、荒川で拾ってきた石を、展示会でたくさん並べました。その中からお客さんが選んだ石に18金をはめ込んで、新しいプレシャスを提案しました。
堀内さんの考えるラグジュアリーとはどういうものですか?
ラグジュアリーとは、精神的なものだと思います。自分が信じるものに価値があり、それ自体がラグジュアリーなんじゃないかなと思います。精神を満たしてくれるもののが重要だと思います。今、時代は、これまでのシステムが崩壊して、次の時代の指針を探している段階ですが、重要なのは精神の充足なんじゃないかなと思っています。










