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DUNCAN JONES | ダンカン・ジョーンズ Film Director

アバター』の制作費が2億ドルとも3億ドルとも言われているように、SF映画は、大作になればなるほど、ハリウッドの専売特許と言えるジャンルである。言わずもがな、理由は予算の問題にある。英国の新人監督ダンカン・ジョーンズの作品『月に囚われた男』のバジェットは500万ドル。英国では珍しいSF映画は、その後、世界各国の映画賞で新人監督賞や作品賞を次々と受賞し、日本でもいよいよ公開される。早くもハリウッドに目を付けられ、カナダ・モントリオールで新作『Source Cord』の撮影に入っているダンカン・ジョーンに、Skype取材を敢行。インディペンデント・フィルムにおけるバジェットとクリエイティビティの関係性について、そして彼を語る上で切り離せない「デヴィッド・ボウイの息子」という形容詞の意味合いについても語ってもらった。

Text:須永貴子


このデビュー作で、たくさんの映画賞を受賞していますね。おめでとうございます。これまででいちばんうれしかった賞は?

“次にもらえる賞”がフェイバリットだよ(笑)。だから今(2月中旬)は、BAFTA(英国アカデミー賞)で何か賞をもらえたらいいなと思ってる(結果、見事に新人監督賞を受賞!)。いろいろな映画祭がこの作品を気に入って上映してくれたり、賞をもらえたりと、幸運に恵まれた作品だよね。だって、初めて賞をもらったエジンバラ国際映画祭(最高賞にあたるマイケル・パウエル賞)のプレゼンターがあのショーン・コネリーだったんだよ! ジェームズ・ボンドからトロフィーを渡されたときはかなりうれしかったな。

ビジュアル、ストーリー、テーマのすべてにおいて創意工夫にあふれている、素晴らしいこの作品が、各映画賞を受賞するのは当然だと思います! この作品が生まれた経緯を教えてください。

長いこと広告業界にいて、ロンドンを拠点にコマーシャルの制作などをしてきました。「いつか映画を撮りたい」と思いつつ、実行するのにずいぶんと時間がかかってしまった。やっと撮ることを決めたときはまず、それまでに築き上げた自分のコネクションをどう映画に生かせるか、本当に自分が撮りたいものが何なのか、自分が観客だったら何を観たいだろうか、500万ドルの予算で何ができるのか、そういうことを考えました。

そしてSF映画に行き着いたと。

SFというジャンルにはずっと興味を持っていたからね。この作品で言いたかったのは、「未来が抱える問題は、技術ではなく人間そのものではないか?」ということ。技術は進化するけれど、人間が変わらない。そこに問題やひずみが生じる気がしたんだ。でも、英国でSF映画を撮るのは予算的に難しい。そこで、この作品では少ない予算でも作れるルックスとアプローチ、観客にとって信憑性のあるストーリーを考え出しました。500万ドルのバジェットを、なるべく頭の良いやり方で、費用対効果をマックスで表現できるアプローチをしていったんだ。

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『アバター』くらい(2〜3億ドル)の予算があったらよかったですね。

いや、その場合は、この映画をスケールアップするのではなく、違う映画を作ったよ。だから、この『月に囚われた男』に関しては、「もっと予算があればさらにいいものができたのに」という後悔みたいなものはまったくないんだ。

限られた予算や規模のなかで、最大限の効果を出すために、何を大事にしていますか?

インディペンデントの環境で撮影をする場合は、自分に何ができるのかをしっかりと把握し、それを自分たちの強みと捉えて、企画を作ることが大事だと思います。僕らはまず、この作品を作るにあたってリストを作っていきました。どんなことをやり遂げたいか。どんなことが物理的に可能なのか。どんな俳優が好きで、どの俳優ならアプローチが可能なのか。撮影場所に関しては、自然光の変化に左右される心配をしたくなかったので、ロケーション撮影ではなく、もともと良い関係にあったシェパートン・スタジオにセットを組んで撮ることにしました。制限があるからこそ、完全にコントロールできる環境を整えることが、野心的なことを実現する一番の条件だと思います。

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この映画には、現代の人間が抱える問題のひとつ、絶望的な“孤独感”が描かれています。主人公のサムが一人で月に勤務する期間は3年間という設定ですが、なぜ3年間だったのですか? ちなみに日本では、新入社員が3年勤務すると「会社を辞めたい病」にかかります。

アハハハ!(笑) この映画はSFではあるけれど、僕の個人的な体験も入れ込んでいるんだ。オハイオの大学で哲学を4年間学んだ後、心のどこかで映画作家になりたいとは思っていたけれど、自信がなかったから、テネシー州ナッシュビルの大学院に3年間通ったんだ。成績も良かったし、もうちょっと哲学を続けようと思って。当時のガールフレンドがナッシュビルに行くというから、それに付いていったんだ。でも、環境が変わったらうまくいかなくなってしまって……

よくあることですよね(笑)。

恋愛が終わったから大学院を去るなんて、そんな恥ずかしいことはできないから、ナッシュビルの3年間は、とても孤独だったよ。ナッシュビルはかなり変わった場所だから、英国人の僕はものスゴく違和感を感じたし、大学院でも哲学においてあまりにオタク的だったり、趣味や興味が特化しすぎている人が多くて、誰とも親しくなれなかった。あのときの孤独感を、未来で描いてみたらどうなるんだろう? という試みもあったんだ。

ナッシュビルと相容れなかった反面、自分のクリエイティブに適した都市はありますか?

ナッシュビルを離れてから過ごしたロンドンは、故郷だから、もちろんリラックスして過ごせる場所。今は、『Source Code』(ジェイク・ギレンホール主演、2011年全米公開予定)という新作を撮っているんだけど、そのためにモントリオールに引っ越したんだ。でも、どこか仮住まいという感覚なので、撮影が終わったら、腰を落ち着ける場所を探さないとなあ……と思っているところ。そんなこともあって最近、自分が住みたい場所や、仕事をしたい場所について考えることが多いんだ。ロサンゼルスは業界の中心地だから、選択肢として有力だけど、家族が暮らしているニューヨークも捨てがたい。実は、小さい頃から父に何度も連れて行ってもらったことのある東京も大好きで、何年か住めたらいいなと思っています。

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お父様の話が出ましたが、父親がデヴィッド・ボウイであることのメリットとデメリットを教えてください。こういう質問をされることがすでにデメリットだと思いますが……。

いやいや、そんなことないよ(笑)。非常にクリエイティブで、興味深い人間と一緒に暮らして育つことができたのは、自分にとって幸運だったと思う。僕はやりたいことを見つけるまでに時間がかかってしまったけれど、彼は時間とスペースを僕に与えてくれた。つまり、辛抱強く待ってくれたし、いざ僕が動き出したら興味をもって、サポートしてくれたんだ。デメリットはやはり、彼が成し遂げたことがあまりに大きいから、非常に高い基準値で比べられてしまうこと。もちろん、同じレベルに行ければ問題ないけれど、そうじゃない場合、周りの人たちが「デヴィッド・ボウイの息子」と期待しているだけに、がっかりさせてしまう。そうならないためにも非常に努力しないといけない、というのはあるよね。

とても仲が良さそうですが、反抗期はありませんでしたか?

たぶん、彼には予想もつかないような方法で反抗してたよ。いや、想定内かな(笑)。僕は音楽にまったく興味がなくて、スポーツやコンピュータ、ゲームばかりしてたんだ。だから、“非ロックンロール”な生き方で反抗してた感じかな。

でも、『月に囚われた男』のスコアは最高でした! クリント・マンセルに依頼した理由は?

ダーレン・アロノフスキーの映画を観て、クリントのファンになったんだ。『月に〜』の編集を始めた頃、まだ作曲家を決めていなかったので、アロノフスキーの『レクイエム・フォー・ドリーム』と『ファウンテン 永遠につづく愛』で使われたクリントのトラックをいくつか仮で当てていたんだ。プロデューサーから「音楽はどうする?」と言われたときに、「こういうのがいいなあ」とその映像を魅せたら、「じゃあクリント・マンセルにオファーしてみよう」ということになった。クリントは脚本と、ある程度編集した映像を観て、僕たちのこの小さな映画を気に入ってくれて、OKしてくれたんだ。

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クリント・マンセルとはどのように仕事を進めていきましたか?

やると決まったら、すぐに作業に入ってくれたのがまずありがたかった。やりとりは、たとえば僕が「このシーンにはハードなものよりも子守歌っぽい音はどうだろう?」と提案すると、それをヒントにまた新しいアイデアを出してくれるという関係だった。やりとりはMP3がメインだけれど、なるべく彼が住むロスに行くようにもしたよ。スコアができあがってからは、それをシーンに当てていくんだけど、あるシーンとシーンの音を入れ替えるとまた違う効果が生まれたし、彼はそれを許してくれた。才能があるクリントと仕事ができて本当にラッキーだったし、とても楽しかったよ。

『Source Code』は『月に囚われた男』とシリーズですか? 3部作という噂もありますが。

『Source Code』は……「ザ・ハリウッド・フィルム」だよ(笑)。パーソナルな英国のインディペンデント・フィルムとは作り方がまったく違うから、現場で学ぶことが多くて、いい経験になっているよ。たしかに、『月に〜』はシリーズ化できたらいいなと考えています。自分のキャリアにおいて、この世界観や時代設定を何度も使いたい。登場人物は同じとは限らないけれど、未来の月が出てくることを、唯一の共通点にしたいですね。

映画作家としての今後の展望は?

SF以外にも撮りたい作品はいろいろあるけれど、自分の企画の場合、ファイナンスを付けられるかどうかが問題です。もしかすると、自分の企画のファイナンスを得るポジションに立つために、自分の企画ではないものを何本かやる必要があるかもしれない。個人的なプロジェクトと、個人的な自由を得るためのプロジェクトを、両立していくことになるんじゃないかな。

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