
SHUGO TOKUMARU | トクマルシューゴ | Musician
前作『EXIT』のときは、科学者を模したアーティスト写真だった。そこには音のマッドサイエンティストたるトクマルシューゴの特徴がうまく表現されていたと思う。しかし、新作『『PORT ENTROPY』では、そのマッドさはコクとして曲に溶け込み、長く煮込んだ煮物のように、良いアジになっている。一聴すると、ポップで美しいハーモニーが心地良いが、何度も聴けば聴くほど、その裏に秘められたただならぬムードを感じるのだ。これまでの活動を集約するような、本人も認める“傑作”について聞いた。
Text:大草朋宏
これまでの3枚のアルバムの延長上にあるようで、そこからさらに進化しているように感じました。アルバム制作はどのようなプランでスタートしたのですか?
今までの総括をするような作品を作りたいと思いました。このスタイルでやりたいと思っていたことは、3枚で完結した感じがあったんです。一度、3枚の良いところを抜き取ってまとめてみて、さらに突き詰められれば、いろいろなことに発展していけるかなと。
制作はどのように進みましたか?
前作『EXIT』が終わった時点から、次の作品への曲作りを始めて、今回も50〜60曲くらい作りましたね。最初からアルバムの形も、曲の形も見えていたんですが、今回はそれを具現化する作業が大変でした。

(c) Mosaic Music Festival
大変だったのは、突き詰める部分ですか?
そうですね。いったん突き詰めてしまえば、誰もできないようなものになるだろうなっていう感覚はありました。今は簡単に音楽が作れちゃうけど、ここまでやれる環境を持っている人もなかなかいないだろうし、こういう感じの音楽を突き詰めている人もいないだろうと思います。
時間をかけて、じっくりと突き詰めたんですね。
じわじわと組み上がって完成するのが好きなんです。ゆっくりと大切に育てると愛着もわく。基本的な作曲や録音はすぐできるんです。でも、例えば文章でいうと「ココに句読点をつけるか? つけないか?」ということをやっているのが好きです。
“曲を作っていること”自体が好きなんですね。
楽しいです。入り込んでいますね。そう考えると、結果的にアルバムに入った曲は、曲作りのときに楽しかった曲ですね。いい曲でも、作っていて楽しくなかった曲は入れてないです。

Photo:Takeshi Suga
いつもたくさんの楽器や音モノを使用していますが、今回はいくつくらい使いましたか?
数えてはいないんですが、今までで一番多いかもしれない。
今作はシンプルな楽曲が多いので、それは意外です。いきなりの転調なども少ないですよね。
あえて余白を残しましたね。ギュウギュウの完璧なものにするのは避けようと思って。もしかしたらここに何か入るかもしれない、というところもそのまま残してあります。あえて抜いた音もありますね。実際はすスゴく複雑なんですけど、あからさまに複雑にはしないようにと。
複雑だったり難しいことを簡単に見せることが、一番難しいですよね。ただそれができたという部分が、ひとつの終着点に来たという実感ですか?
そうかもしれない。これ以上のことは、たぶんもう思いつかないです。シンプルさを保ったまま、かつ時間をかけるというのは、なかなかやらないし、相当難しいことです。

(c) Mosaic Music Festival
ただ、トクマルさんの曲は、1回では気づかない音があって、何回も聴くと新しい発見があったりする。まるでスルメみたいです。
今回は特にそうしたかったんです。正直言って、自分のために作っている部分が大きくて、自分を引っかけようとしていますね。かなり際どいラインです(笑)。だから自分的には大満足。
自分が聴きたい音楽を作りたい?
それが一番純粋な衝動だし、本当のオリジナリティだと思う。“人の真似をしない”ことがオリジナリティだとは思わないんです。自分を思い返してみると、反骨精神というよりも、自分にフィットする音楽がないから作りたいというところが原点でした。

(左)『PORT ENTROPY』(2010/P-VINE RECORDS)、(右)『EXIT』(2007/P-VINE RECORDS)
ところで、歌詞は夢日記から引用しているというのは有名なお話ですが、まだつけているんですか?
はい。夢日記をつけると、現実と夢が混ざって面白くなるんですよね。自分をまやかすというか。後で見ると、忘れている夢がほとんどですね。「こんな夢見たっけ?」みたいな(笑)。それで歌詞が思い浮かばなかったときに、夢日記から拝借すればいいやと思って引用し始めました。基本的には曲のイメージにピッタリ合う言葉をあてはめていく作業ですね。
歌詞はいつも、意味があるような無いような、不思議なストーリーを構築していますよね。今作では特に、メロディやボーカルが前に出ていると思ったので、より歌詞のイメージが強く感じられると思いました。
あまり歌詞が強すぎるのも良くないかなと思っているので、いつも強すぎず弱すぎずな言葉のチョイスを心がけています。口ずさめるけど、歌詞の意味はよくわからない、ってくらいがちょうどいいライン。意識しすぎないくらいで、スッと入るようにしたい。
では最後にお聞きします。今作で、一旦総括したということですが、これからはどのような方向に進む予定ですか?
やりたいと思っていることはいろいろあります。まだ詳しくは言えませんけど、ソロとは違う感じで、今までやっていないことです。すべての可能性をオープンに考えています。
VMC Station ID「GRIN•GRIN」 by トクマルシューゴ × 本郷伸明
Information
トクマルシューゴ最新アルバム『Port Entropy』は、P-VINE RECORDSより発売中。












