
D[di:] | ディー | Artist / Illustrator
デビュー作『ファンタスティック・サイレント』、マンガと小説を融合させ、新たな表現方法を確立した『キぐるみ』で、一躍注目を集めたD[di:] 。その後も、小説、イラスト、絵画、ファッションなどさまざまな分野を横断し、カテゴライズ不能な活動を展開してきた彼女が、今年でデビュー10周年を迎えることとなった。一見ファンタジックでポップに見える外面と、それに包まれた狂気や痛み。相反する要素を同居させ、シニカルでリリカルなD[di:]ワールドを紡いできた彼女に、これまでの活動を振り返ってもらった。
Text:原田優輝
物づくりを始めるようになったきっかけを教えてください。
絵を描くのは昔から好きでした。幼稚園の頃からジブリが大好きだったのですが、うちにはビデオがなかったので、いとこに借りた「ラピュタ」や「ナウシカ」のサントラを聴きながら、イメージを思い浮かべて絵を描いたりしていましたね。ジブリのアニメをコマ割りしたビジュアルブックのようなものもあって、それを見ながら「トトロ」をひたすら模写したり(笑)。あと、これはジブリとは別なのですが、ヨーロッパの民話に登場する「ノーム」という三角帽子をかぶった小人の精霊がいるのですが、それも好きでした。私は北海道出身なのですが、『秘密のノーム』という絵本の舞台になっているロシアと風景が似ていたこともあり、ホントにひとりでノームを探しに行ったりもしていました(笑)。その辺が私の原体験だと思います。
絵を本格的に学ぶようになったのは?
ジブリに入りたいと本気で思い始めて、中学生の時に美術部に入りました。その時から油絵を始めて、町で一軒だけある絵画教室にも通うようになりました。高校でも美術部に入って、そのまま美大に進みました。ただ、その頃にはジブリのことはすっかり忘れていました。アニメーターという仕事は大変というイメージが強かったし、自分が監督をやらない限り、題材が選べないなかでひたすらアニメーションを描くということになりそうな気がして、それはちょっと無理かなと。
美大に進んだ当時は、どのような作品を作っていたのですか?
宗教画などで使われるテンペラ画という技法で、大きな板にマンガを描いていました。そのときは、「鳥獣戯画」のマンガ版のようなものを描きたかったので、テンペラで風化したような質感を出したかったんです。その作品に取りかかり始めた頃に、『ダ・ヴィンチ』という雑誌の人に見てもらう機会があり、そこで「未来のマンガ」をテーマにしたコーナーに載せたいから、あと2ヶ月で仕上げてくれと言われて(笑)。そこからは学校にも行かずにひたすら描いていきました。

『ファンタスティック・サイレント』(2000)
マンガというスタイルを絵画に取り入れた理由は?
その頃、マンガ家のアシスタントのバイトでやっていて、面白いなと思っていたんです。だから、宗教画という高貴とされているジャンルをあえてマンガで描いて茶化してみようという思いがあったんだと思います。だから最初は、周りのみんなが抽象画とかを描いているなかで、テンペラでマンガを描くというイタズラをしているような感じでした。途中からはそんなこと関係なくなっていったのですが(笑)。しばらくそういう作品を描いていたところ、『COMIC CUE』の当時の編集長が本にしないかと言ってくれて、『ファンタスティック・サイレント』という本ができました。その頃に、『SFマガジン』という雑誌の仕事も来て、「これでもうやっていける!」と思い、大学を辞めちゃったんです。その『SFマガジン』の仕事は毎月1カットだけで、ギャラも数千円しかなかったのですが(笑)。
その後に発表された『キぐるみ』では、小説とマンガを融合させたスタイルで注目を集めましたね。
きっかけは、『文藝』という雑誌のインタビューでした。その時になぜか小説を書かないかと言われたんです。もちろん小説なんて書いたことないし、「何を言ってるんだろう?」と思ったのですが、私には、月に数千円の仕事しかなかったし、時間もあったので、やってみることにしたんです。それまでずっと絵を描いてきた人間が小説を書くというのは、どういうことだろうと考えた時に、いわゆる挿絵のようなものを描いてもしようがないと思ったんです。それで、文章の間に入ってくる印象的なセリフや登場人物の顔などを絵にしていったんです。
もともと文学や物語には興味があったのですか?
小学生の時はよく絵本などを読んでいたのですが、『長くつ下のピッピ』とか、海外の翻訳物が好きでした。日本の文学などは全然読んでなかったですね。日本のものは、場所や設定、考え方など色々なものが近すぎる感じがして、読んでいても異世界に飛ばしてくれるような感覚がなくて。だから、例えば、登場人物が「マチコ」より「キャサリン」の方が、全然知らない人の話として、むしろ感情移入して読めたんです。

『キぐるみ』(2009)
実際に文章を書くようになって、何か発見はありましたか?
それまでの私は、まともに人としゃべることができなかったんです。例えば、「この作品どう思う?」と聞かれても、「かわいいですね」くらいしか答えられなかった。そんな感じだったから、人見知りも結構ひどくて。でも、文章を書くようになってからは、自分がどういうことを考えていたかというのがわかるようになってきたんです。それで、『キぐるみ』を書き終えた後くらいから、人と話ができるようになってきたんです。それまでは人の話を聞くだけだったのですが、その頃から自分でも話せるようになってきて。私にとって、人になるためのリハビリのようなものだったんでしょうね(笑)。
その次に発表した『ドニー・ダーコ』でも、テキストとマンガをミックスしていますね。
自分が文章を書くということに対するコンプレックスを補うツールとして、絵があったんです。その頃は、絵があった方が読む人も想像しやすいんじゃないかと思っていたところもありました。でも、文章を書いた後にネームを切り始めて、また絵を描いて、PCで組み直すという作業工程が複雑だったこともあり、だんだんそのスタイルで作品を作ることに対して、腰が重くなってきてしまったんです。それで、『ファイアースターマン日記』や『銭湯の人魚姫と魔女の森』など、文章だけで表現することにトライするようになっていきました。

(左)『ドニー・ダーコ』(2002)、(右)『銭湯の人魚姫と魔女の森』(2008)
ヴィジュアルと文章の関係性をどのように考えていますか?
特に初期の作品は、まずはヴィジュアルでわかりやすくインパクトを与えたいという思いが強かったんです。でも最近は、例えば可愛らしいネコの絵があるんだけど、話の内容は全然可愛くないとか、そういう一見わからないようなバランスが面白いなと思うようになりました。
先日リリースされたばかりの『夢の中ならキミはやさしい。』も、そのような側面を持っていると思うのですが、この作品が作られた経緯を教えてください。
これはもともと、共同通信の書評に入るイメージスケッチとして描いていた絵がもとになっています。私は絵を描くときに、なんとなくストーリーも作っていくことが多いんです。そのストーリーを思い出しながらテキスト化して、イラストと共に掲載した連載を『野性時代』でやっていたのですが、それらをまとめたのが、今回の書籍です。この作品は、私にとって、ヒーリング的な部分が強いですね。「なんでコイツはこんなに可愛いのか?」ということを考えながら描いていくことで、自然と癒されるんです(笑)。

『夢の中ならキミはやさしい。』(2010)
この作品のように、Dさんの作品には、動物や人形などのキャラクターが多く登場しますね。
私は、子供の頃にあまり友達がいなくて、ぬいぐるみと話をするなど妄想癖があったので、たぶんその延長だと思います。動物や人形と話をするというのは、自分のなかにある独占的な欲望なんです。アニメの世界でも、主人公としか交信ができないキャラクターとかってよくあるじゃないですか。(動物やぬいぐるみが)こういうふうに思っていたらいいなというところから話を膨らませていくことは多いですね。
5月には、「ファイアースターマン日記」の文庫版もリリースされるそうですね。
はい。これは、「ファイアースターマン」というマンガのキャラクターになりすまして、サイト上の交換日記の返事をするというバイトをする女の子の話です。これを書いた当時、メールなどをはじめ、人と人とのミュニケーションがどんどん過密になっていて、でもその一方で希薄さというのもスゴく感じていたんです。「ファイアースターマン」というキャラクターも、みんなが「かまってもらいたい病」になってしまっていたから、それを一手に引き受けてくれる交換日記のシステムがあったらいいんじゃないか、というところから生まれました。ただ、当時からだいぶ時間も経っていて、環境も色々変わってきているので、その辺は少し修正しました。最近、Twitterなんかをやっていると、みんなの「見てもらいたい欲求」は、さらに肥大化していっているように感じます。でも、私は、すべての情報がダダ漏れになっていく感じは正直怖いなと感じます。

『チェルシー』(2009)
そうした社会の空気感に対して、作品を通して問いかけをしている部分も大きそうですね。
『キぐるみ』の頃から一貫しているのは、「スゴく生きづらい世の中だけど、ちょっと裏から物事を見て、こんな考え方ができたら少し気持ちが楽になるかもしれない」というようなことなんです。あと、私自身ホントにろくな目に遭っていないので(笑)、そういうふうに消化していかないと忘れられないんですよ。一度作品として出してしまえば、もうそれは忘れてしまってもいいような気がするんです。そういう”墓”の立て方をしているんです(笑)。
今年で活動10周年を迎えましたが、これまでの活動を振り返ってみて、どのようなことを感じていますか?
色んなことをやったなと思いますね。でも、今が一番楽しい。最近、やっと自分なりのツールの使い方がわかった気がします。これまでは文章と絵を合体させたり、ハードの部分に負荷をかけないと、良いものは作っていけないんじゃないかと思っていたけど、いまはその呪縛から解き放たれて、もっとソフトの部分に集中することで、良いコンテンツが提供できるんだと考えられるようになりました。言葉には言葉の力が、絵には絵の力があるというのが、ようやくわかった10年という感じです。
Information
『夢の中ならキミはやさしい。』(角川文庫)は、4月25日発売。 『ファイアースターマン日記』(角川文庫)は、5月25日発売。また、現在オフィシャルホームページにて、活動10周年を記念したWeb展覧会『YOUR MAGICAL GARDEN』を開催中。

(左) 『夢の中ならキミはやさしい。』、(右) 『ファイアースターマン日記』












