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TAVITO NANAO | 七尾旅人 | Musician

昨年9月に発表したやけのはらとのシングル「Rollin’ Rollin’」が、世代や性別、ジャンルを超えた圧倒的支持を集めた七尾旅人。歌とギター、そしてビーツを駆使しながら、荒れ果てた風景を踏み越えてきた彼が新しい10年の始まりの年に新作アルバム『billion voices』をリリースした。フリーフォームな弾き語りとスウィートなソウル・フィーリング、そして様々な“声”を溶かし込み、劇的な変化を遂げた本作を前にして、しかし、彼はデビュー当時と変わらぬひたむきな思いを語ってくれた。2010年、デビューから12年目を迎えた七尾旅人はいよいよ多くのリスナーに発見されようとしている。

Text:小野田雄

出る出ると言われて長かったアルバムがようやく完成しましたね。まずはおめでとうございます。

ありがとうございます。でも前作から感覚的にはあっという間でした。だいたい月に8本くらいライヴをやって生活の糧にしているんですけど、音楽活動に付随するもろもろをすべて自主でやっていると、レコーディングの時間も限られてくるので、実質制作に当てていたのは1年足らずかな。メジャーで仕事している人からすると、インディー・ミュージシャンのリリースサイクルの長さを不思議に思うらしいんだけど、人間としての成長と前進を確実に刻み込みながら創作し続けるならば、3年に1作くらいが自然かもしれません。外タレとかそうでしょ? ただ、入りきらなかった良い曲が死ぬほどあるので、またすぐ作りたいですけどね。今後、リリースは増えると思います。年1くらいで出せればなと。

そう思えるようになったのは?

10代、20代の頃は色んなことを正確にやりたいっていう欲求が強かったし、しんどくない制作はやる意味がないだろうっていう部分で、負荷の高さを求めていたんですね。だって、この世の中にはすでにレコードがいっぱいあるわけだし、過去には天才がいっぱいいたわけじゃないですか。そこで俺なんかがしゃしゃり出て音楽やるんだったら、何か相当苦しいことやらなきゃいけないって、10代、20代は強くそう思っていたんです。3枚組で出した前作の『911FANTASIA』はそのピークですよね。その前に、イラク戦争と宗教をテーマに2年かけて『さいはて』という2枚組を作っていて、ほとんどできていたんですけど、あまりにも危うい内容で、完成させることができないまま、とうとう頓挫してしまうんですよ。その代わりに作り始めたのが『911FANTASIA』なんですね。だから、世間から見ると、寡作家っていう印象かもしれないけど、曲自体は、毎日1、2曲作っているし、実はそんなことないんですよね。だから、これからの活動でその印象は払拭していきたいですね。

七尾旅人七尾旅人

多作家ゆえに、今回のアルバムは内容をコンパクトにまとめることがひとつのテーマとしてはあったと思うんですが。

そうですね。それ以前の作品が大作になったのは、そうする必然性が自分の中にあったから。僕はデビューがわりと早くて、90年代に同世代のミュージシャンはほとんどいなかったと思うのですが、自分が見た90年代と先輩ミュージシャンが見ていた90年代の間には大きな隔たりがあると思っていて。たとえば、阪神大震災とかオウム事件に何歳で出会うかによってインパクトの質が違うじゃないですか。そういう意味で、自分が見た景色にフィットする音がないなと思ってたし、スルーされてしまっているものが多すぎるなと感じてた。だから、これまでの作品は、どうしても作らなきゃいけないものだったんです。そりゃ僕だって、ホントは45分くらいのポップなアルバムが一番好きですが(笑)。僕は実は変わってません。日々、粛々と作り続けていく中で、ゆっくり前進してきたのだと思います。なので、「これまで変則的な作品を出し続けていたのにポップになりましたね」って言われるのはちょっと違和感ありますね。

そりゃ、人間は成長するものだし、変わる部分も当然あるだろうけど、ファースト・アルバム『雨に撃たえば…! disc2』から一貫しているのは、旅人くんって、1曲のなかでも歌い方を変えたり、色んな人を登場させたり、色んな人の声を反映させているっていうこと。今回の『billion voices』も色んな人の生活や色んな人の声を共鳴させているし、その点は変わってないですよね。

『billion voices』っていうタイトルはまさにそういう意味なんですよ。今って、ネットメディアが興隆して、検索すれば、知らない国のいろんな立場の方の歌がすぐに聴けちゃうじゃないですか。自分には色んな人の色んなリアリティの声が聴きたいっていう強い欲求があるので、今の状況を極力、肯定的に捉えたいのです。そういう様々な声に影響を受けながら今回のアルバムが出来たんですよ。で、歌手として多様な発声をしていくことは、確かにファースト・アルバムからやっていることで、それは今のネットメディア云々とは関係なく、演者としての衝動があるからなんですけど、おそらくは日常生活のなかで無意識に色んな声や情報がすり込まれているからでしょうね。それは分裂症とか大した話ではなく、人は皆そうだと思うんですよ。人間の個っていうものは、間テクスト性というか、様々な情報の集合として成立しているわけですけど、それが自分の場合は歌手だから、声となって顕在化して来るっていうことだと思います。

七尾旅人七尾旅人

声ということでいえば、「Rollin’ Rollin’」しかり、「どんどん季節は流れて」しかり、ポップ的な発想でソウルフルなヴォーカルを自覚的に聴かせていますよね?

自覚的というか……おしゃれ!みたいな書き込みを見るたびに、ちょっと違和感もあり(笑)。思ってもみなかった人から褒められたりもして、微妙にモテてるんだとしたらありがたいのですが、それだったら24歳くらいまでにモテたかったですね(笑)。そういう人には『9.11FANTASIA』を聴いて欲しいです。というのは冗談ですけど、俺はああいうソウルフィーリングを持ったポップスがめちゃくちゃ好きで、ジャズ狂だった親父がたまにかけてた邦楽が山下達郎さんとかだったので。こういう楽曲はデビュー前からよく書いてたんですけど、『911FANTASIA』が終わるまでは、あえて後回しにしてただけですよ。

ただ、そういう曲をやけのはらくんやドリアンくんといった仲間と作れるようになったこと。それから、「1979、東京」や「私の赤ちゃん」みたいな現在や未来を肯定的に捉えられるようになった旅人くんのメンタルは確実に成熟へ向かっていますよね。

「私の赤ちゃん」は22歳の頃に書いた古い曲ですが、「1979」は確かに30歳にならないと書けなかった曲ですね。肯定性みたいなものは、実は最初期の作品にもあったと思うんですよ。どれだけ世情が暗くても音楽的に前進し続けたいという強い気持ちがありましたから。10代で業界に入って以来、「レコードはもう売れない」「新しい音楽は出てこない」といったような暗い言説しか聞いて来なかったので、それに対しては反発心があった。今もその気持ちは続いていて、大勢と格闘技セッションをし続けるイベント百人組手をやったり、作り手個々のWebからまったく新しい作品を売れる仕組み、DIY STARSを作ったりしました。若くて新しい才能の援護射撃になるようなものを作ってみたいんですよね。いま時代は閉塞感しかなかった季節を抜け始めているというか、最近少しクリエイションの現場は明るくなってきている気がする。皆がだんだん21世紀初頭というパラダイムに慣れてきて、新しい身体感覚を楽しめるようになって来てるように思うんですよ。

その話はファーストの頃から言っていましたね。当時言ってたのは「ゲーム・コントローラーのボタンが増えたことだけでも身体性が変わって、新しい表現が生まれるはずだ」っていうこと。

そんなこと言ってました? 懐かしいな…。今だったら、iPadみたいなマルチ・タッチや、Wiiのような振り回すスタイルでしょうか。(笑)

七尾旅人七尾旅人

それにデビュー当時から「僕は子供に向けて歌ってるんです」とも言っていました。

なるほど変わらないですね。同じようなことを言ってるんですけど、いい具合に年月が経って、やっと当時から言ってたことが伝わりやすくなってきてるんでしょうね。もしかすると音楽を通じて新しい身体性をどう提供していくのかっていうことが、自分の一番やりたいことなのかもしれない。歌で色んな声を出すこともそうだし。即興に取り組む理由の一因もそれです。新しい身体感覚を提供するっていうのは、実はミュージシャンの大きな役割のひとつなんですよ。例えば、ヒップホップが登場する前と後では、若者の身体感覚はまるで違うはずだし、言語感覚から何から全部変わる。ある時代の中で人々の渇望が頂点に達した時、新しい形の音楽がぱっと出現するんだけど、今度はその新しい音楽が、発展の過程で、人々の身体感覚を一段階上に引っ張り上げるんですよ。そういう音と人の相互関係が面白くて音楽を続けてるところは確かにありますね。あ、でも、話しているうちにさらにいろいろ思い出してきた(笑)。そう、10代のとき言ってたのは、言葉じゃなくて、歌で皆が喋るようにしたいんだっていうこと。地球がそんな星になればいいと。それは暗喩として言ってた部分もあるんですけどね。当時は誇大妄想を抱えたガキとしか捉えられていなかったけど(笑)、今でもその気持ちは変わってませんよ。

自分の未来に関しては?

ファーストから『911FANTASIA』までは作品を作り終わったら死んでもいいと思って制作していたんですけど、今回は作っていて、そんなことは全く思わなかった。なんていうか、今はあれもしたいし、これもしたいっていう欲望の固まりなんですね(笑)。生きる気マンマンというか。完成まで紆余曲折ありましたが、驚いて頂けるような良い作品にできたのではないかと思ってます。有言実行できるように、あえて言葉にしますが、ここから先も駄作を作るつもりはないし、ありとあらゆることをするつもり。10代、20代に強く思っていたことはある程度やったので、これからはせっかく30代になったことだし、フットワーク軽く、楽しみながら進んで行きたいですね。

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