
TAKKYU ISHINO | 石野卓球 | Musician、DJ
昨年、結成から20周年を迎えた電気グルーヴ。ここ数年来の活動に一区切りをつけた石野卓球が6年振りにソロ活動を再開。ミニ・アルバム『CRUISE』をリリースした。現行のシーン・トレンドである、ディープ・ハウスに接近したテクノともシンクロする本作は、DJやフロアからのフィードバックを6曲のダンス・トラックに昇華。一般に広く浸透しつつあるダンス・ミュージック・カルチャーの追い風を受けた、ある種の爽快感がこの作品には充ち満ちている。彼のオーガナイズによって、今年で12回目となる屋内レイヴ「WIRE10」の開催を8月28日に控え、変わりゆくシーンの様相とその流れの一端を担ってきた彼の心境を訊いた。
Text:小野田雄
電気グルーヴの活動を経て、6年振りのソロですが、そのためのトラックは空いた時間に作られていたのですか。
うん。時間が空いた時に断片的なメモみたいに作ってみたり、気が向いた時にそれを1曲にまとめてみたり。ただ、作った曲には特に方向性があるわけでもなく、ブルペンで肩を温めてるみたいな感じだったかな。
電気グルーヴの場合、歌で聴かせる構造の楽曲というか、言葉の比重が高い作品世界なのに対して、ソロで、しかもインストとなると、曲作りのアプローチは当然変わってきますよね。
それはやっぱりあって。電気は2年半びっちりやってたので、いざソロをやるとなったら、曲作りの発想が、1番、2番、サビっていう構成に縛られてしまったり、ヴォーカルが入る前提で曲を作り始めてしまったり、あとふざけ癖がついてたりとかね(笑)。だから、ソロのモードを切り替えるのが一番難しくて、作業してはいるんだけど、そのリハビリに時間を取られてしまって、どういうものを作ろうかっていう段階になかなか辿り着けなかったですね。とはいえ、一人の作業なので、煮詰まったら止めるってスタイルでずっとやってたんだけど、気付いたら遊びまくっちゃってて(笑)、切羽詰まったところまで追い込まれてたっていう(笑)。ただ、その頃にはリハビリの甲斐もあったのか、だいぶ電気癖も抜けて、さらには方向も見えて、こうしてなんとかなったっていう。
10年、20年前と比べたら、ダンス・ミュージックを取り巻く環境は好転しているわけですが、CDが売れない時代にあって、ポップス的に打ち出せる電気とは違って、メジャーからインストのダンス・トラックをリリースするということに関しては、どんなことを考えられました?
スタート時点はそういうことも考えてたんだけど、考えたところで売れないものは売れないわけだから(笑)、より売れるものにしていこうっていうアプローチはかなり最初の段階で除外したんですよ。そうなったら、余計な愛想を振りまかなくてもいいわけだから、気は楽になりましたよ。あと、例えば、Perfumeにしろレディー・ガガにしろ、ポップス・サイドからのダンス・ミュージックに対するアプローチはスゴく増えていて、その境界線も曖昧になってるし、ちょっと前と比べたら、ダンス・ミュージックの市民権は確立しつつあるわけだかから、インストと歌ものの差は大きなものであるにせよ、そんなにアヴァンギャルドなことをやっているっていう意識もなくて。だから、作っていても、「この音楽、誰が聴くんだろう」っていうところに陥らなかったし、以前と比べれば、活動しやすくはなっているんじゃないかな。

『WIRE09』より。
今回のミニ・アルバムは、ダンストラックが6曲収録されているわけですが、卓球さんがDJで使いたい曲を作ろうというストレートなアプローチで臨まれたわけですか。
それもあるんだけど、電気で活動していた時期も含め、毎週必ずどこかでDJをやってて、そこでのフィードバックを曲にしたいっていう意識があって。実際、DJではもっと展開が少なかったり、音数が少なかったりするものの方が使いやすかったりするんだけど、それをそのまま自分の作品としてメジャー・レーベルから出すことに意義を感じなくて。だから、自分で作ったそういうツール的なトラックの断片をDJプレイのように1曲にまとめたもの。さらにはそういう曲をアルバムにまとめあげたものが今回の作品になってるわけなんだけど、DJの時にかけやすいかと言えば、それはちょっと違うというかさ。
そうしたフロアからのフィードバックに加えて、今回のトラックはハウス化しつつある今のテクノのトレンドから受けた影響も読み取れるように思います。
実際、最近の自分が好きでかけてるものはハウス寄りのテクノというか、ただガラージというよりはテック・ハウスに近いトラックが圧倒的に多くて。オランダのハウスとかさ、そういうものが多いじゃない?
今回、WIRE10に出る2000andoneなんか、ミニマルなモダン・ディープ・ハウスなんて言われてますもんね。
あれとか素晴らしいもんね。彼がやってるハウシーなビートっていうのは昔からあったものなんだけど、音の置き方とか距離感は現代的なものになってるでしょ。あと、ガラージ的なねっとりした感じがなくて、カラっとしてる。それが今時のムードというか、毎週DJやってれば、そういう影響は出てくると思うし、逆にその影響を切り離すことの方が難しいというか。


(左)『CRUISE』(2010 / Ki/oon Records)、(右) 『WIRE 10 COMPILATION』V.A.(2010 / Ki/oon Records)
今回のミニマルめなトラックは、音の解像度が高いというか、音の間とか奥行きが特徴的ですよね。
それは具体的に言うと、80年代に派手な音作りが流行った時、デジタル・リヴァーブが出始めて、みんなこれ見よがしに使っていたじゃない? その反動なのか何なのか、その後のハウスとかヒップホップとか、アンダーグラウンドから出てきたダンス・ミュージックとリヴァーブは相性が悪いものだったんだけど、最近になって、それがまた変わってきて、空間をびっちり埋めるんじゃなくて、リヴァーブで奥行きを作るアプローチが当たり前になってるよね。それはリヴァーヴの解像度が上がったとか、クラブの音響が良くなったことで、リヴァーブを使って表現した音の奥行きが現場でも再現出来るようになってきたことも要因としてあるよね。その反面、最近は初期のシカゴ・ハウスを聴いたり、DJでもよく使ってるんだけど、そっちは奥行きがなくて、のっぺりしてて、今のミニマルとのマッチングもまたいいんだよ。そういうプロダクションのトレンドも時代ごとにあるからね。
さらに今回はあちこちに声ネタが散りばめられていますが、特に4曲目の「Hukkle」では巻上公一さんの声ネタ「SARUSUBERI」をサンプリングされてますよね?
95年にジョン・ゾーンのレーベルから、声だけの一発録りで作った『Kuchinoha』っていうアルバムが出てるんだけど、ここ最近、巻上さんと親交があって、久しぶりに聴き直したら、瞬時に声色を変えて、男から女になったり、おじいさんから赤ん坊になったり、ホント強烈だったのね。だから、お願いして、今回使わせてもらったんだけど、電気グルーヴがやったように、ヴォーカルがそこにいるっていう音像を今回も使いつつ、そのヴォーカルに意味がないことがなにより重要だった。他の曲で使ってる声ネタは、ヴォーカルというより、パーカッションに近い使い方だよね。そうやって声をパーカッションのように使うことによって、ある種の親しみやすさと人工的な質感を出すことができるというか。つまり、声の親しみやすさはあるんだけど、実際にそこにいて、その人が声を発しているという使い方ではなく、明らかに機械に取り込まれて、トリガーされて鳴ってる記号みたいな感じ。そういう相反する効果が結構好きなんだよね。
6曲目の「Y.H.F.」で使ってるサンプルというのは?
これはね、短波ラジオで流れてるけど、ずっと数字を言ってるだけのスパイ用乱数放送ってあるじゃない? それだけを集めた4枚組のCDがあって、出す方も狂ってるし、それを全部聴くと完全に狂うんだけど(笑)、そのCDをたまたま手に入れて聴いてたら、“Yankee Hotel Foxtrot”っていうフレーズをずっと言ってる音源があまりに良くて。それをトラックにハメこんだらぴったりきたから使ったんだけど、“Yankee Hotel Foxtrot”で調べてみたら、アメリカのロック・バンドでWilcoっているでしょ?
彼らのアルバム『Yankee Hotel Foxtrot』で同じフレーズ使ってますよね。
そうそう。そのフレーズを無断で使ったっていうことで、Wilcoが訴えられたらしくて、怖くなって使用許諾を取ったんだけど。でも、それもスゴい話だよね。だって、短波放送を録っただけのCDだし、盗品に値段付けて店に並べてるみたいなものじゃない?(笑) ただ、その乱数放送の意味のなさ、意味はないけどムードがあるところがスゴく好きだから、この曲で使ったんだけどね。

『WIRE09』より。
そうしたダンス・ミュージック以外の音楽からインスピレーションを受けることは多いんですか?
そうだね。毎週末、大音量で聴いてるわけだから、家ではあまりダンス・ミュージックを聴かないんだよね。それ以外のものを聴いてビックリしたいし、DJを始める以前からその点は重要視していて、相変わらず山のように買ってるんだけど、特にヴァイナル・オン・デマンド(ジャーマン・ニューウェイヴの再発レーベル)にはツボ突かれまくって、年会員になっちゃって。あそこもヒドくて、いらないレコードまで買わせて、全部買うと7インチ付けますとかさ。買ったはいいけどクレジットカードの決済がすごいことになってるし、明らかに聴かないだろうレコードがガンガン送られてくるし(笑)。あと、最近だと南アフリカのシャガーン・エレクトロが面白かったね。(ポンチャックの)李博士、(デジタル・クンビアの)ディック・エル・デマシアド、あとガバ・テクノに続く、ジャガーン・エレクトロ(笑)。でも1年後に聴いてる自信はないっていう。あとはマンチェスターのムスリムガーゼね。俺、全然知らなかったんだけど、インダストリアル・ミーツ・中東って感じで、どこに連れていきたいんだ、この音楽って感じで(笑)。うちらみたいな欧米のポップスから入った人間では思いつかない機材の使い方をしている音楽には衝撃受けるし、逆に近いものだとパクってバレるじゃない? だったら、パクりようもない遠いものを自分の中にエッセンスとして蓄積した方が健全というかさ。
そんなアンノウンなリスニング体験を極めつつ、どこか爽やかさが感じられる今回のジャケットは卓球さんが撮影されたそうで。
そうそう。趣味で写真を撮ってるとかでは全然ないんだけど、熱海の初島に行く船の中でカモメにやるエサ用のかっぱえびせんを売ってて、カモメもエサをくれることを知ってるから、尋常じゃない数のカモメが怖いって思うくらい寄ってくるのね(笑)。その様子をたまたま持ってたデジカメで撮った3年前の写真なんだけど、今回のジャケット・デザインをどうしようか考えながら写真のライブラリーを見てて、なるべく抜けのいいもの、あまり密室的じゃないもの、それでいて、写真で中身を表さないものってことで、この写真を選んだんですよ。
抜けの良いものっていうポイントはどういうことなんですか?
過去のソロって、スタジオにとにかくこもって人間の限界に挑戦するような感じで作業をすることが多かったんだけど、それだと面白い方向に転がることもありつつ、かなり時間がかかるし、煮詰まった時に抜け出すのが結構大変なんですよ。だから、今回は昼間からスタジオに入って、晩ご飯前には終わる感じで、煮詰まる前に切り上げるようにしてたんですけど、それが春先だったこともあって、スゴく気分が良く、抜けが良くできたんですね。だから、このアルバムのムードを象徴するっていう意味と、あと夏っていうこともあるしね。

『WIRE09』より。
このミニアルバムに続いて、フルアルバムも控えているそうですが。
…という話なんだけど、実はまだ全然決まってなくて(笑)。というのも、もともと今回、フルアルバムを出す予定だったんですけど、6年空いてのフルアルバムだと身構えてしまうし、現段階ではあれもこれも盛り込んだものよりも、DJの蓄積を形にしたかったんで、ミニアルバムを出すことにしたんですよ。ただ、それだけだと会社が心配するんで、「もちろん、その後はフルアルバム出すんで、まずはミニアルバムで!」って言ったものの特にプランがあるわけではなく(笑)。まぁ、でも、夏はフェスとか色々あるんで、それが終わったあたりから始めようと思っていますね
8月28日には、今年で12回目となる卓球さんオーガナイズの屋内レイヴ「WIRE10」が開催されます。個人的にはハード・トンが楽しみなんですけど(笑)。
ははは。現代のディヴァイン、ヴェネチアのマツコ・デラックスね。色んな意味で今回観ておかないと、もう1回観られるかどうか分からないよ(笑)。あと、毎年「今年の見所はどこですか?」ってインタビューでよく質問されて、その都度、「今年初めて出る人」って答えているんだけど、今回初出演の面子にしても、ハード・トンからアレックス・バウまで、全然違ったりするから一概に見所は言えないというか。
テクノって言っても、色んなタイプのテクノがありますからね。
そうそう。ポップスからアプローチしたテクノではなく、クラブ・ベースのテクノ。それは99年に始めた時からずっと変わらないんだけどね。WIREでの遊び方に関しては、特に制約がないというか、ロック・フェスなんかも好きなんだけど、ロック・フェスと違うのはもっと自由なところ。いつフロアに入って、いつ出ていってもいいし、曲の予習も必要ないしね。あと、最近思うのは、1人で来ないっていうこと(笑)。1人で行くとつまらないというか、それ以前にキョドるでしょ(笑)。で、キョドってる自分に対して、 「いま、俺、キョドってねえかな」って思って、またキョドるでしょ(笑)。友達がDJしてる小箱だったら、1人で行っても友達がいるってことはあるんだろうけど、あれだけデカい会場でまるっきり一人だと疎外感も桁違いだからさ(笑)。それだったら、上っ面の付き合いの友達でも、やっぱり2人以上で行った方が絶対いいと思う。もちろん、1人で行った者同士が知り合うこともあるんだろうけど、2人くらいでいた方がナンパじゃなくても声かけやすいでしょ。だから、1人で行かないっていうのは重要かもしれない(笑)。
Infomation
石野卓球ミニアルバム『CRUISE』は、キューンレコードより現在発売中。また、今年で12回目を迎える石野卓球オーガナイズの屋内レイヴ『WIRE 10』は、8月28日に横浜アリーナで開催される。











