
Sputniko! | スプツニ子! | Artist
メディアアートの世界的イベント「アルスエレクトロニカ」でゴールデン・ニカ賞を受賞する傍ら、エキセントリックなライブパフォーマンスを展開する音楽家としての一面も併せ持つ才女・スプツニ子。数学者の両親を持ち、自身も数学やコンピューターサイエンスを学び、プログラミングを自在に操る彼女は、テクノロジー、ジェンダー、そしてポップカルチャーを交錯させた独自の物語を紡ぎ、それらを音楽、映像、デバイスなどに落としこんでいく。次々と奇想天外な作品を生み出し、見る者を驚嘆させる話題のスプツニ子の正体とは? イギリス・Royal College of Art(以下RCA)を卒業し、日本に一時帰国中の若き女性アーティストに話を聞くことができた。
Text:原田優輝
まずは、スプツニ子さんのバックグラウンドを教えてください。
私の両親は数学者で、おじいさんも兄弟もみんな理系の家族なんです。でも、私は小さい頃から絵が好きだったから、幼稚園の卒園文集に、「大きくなったら絵描きになりたい」と書こうとしたんです。そしたら、お父さんがそれを「医者」に書き直しちゃって(笑)。そういう家庭で、小さい頃から「ドナルドのさんすうマジック」なんかを見せられたりしながら、ずっと理系で育ちました。そのなかで、学者的な「知の探究」みたいなフィロソフィーも親から自然に入ってきていたし、実際数学大会なんかにも出たりしていました。でも、高校生くらいのときから、アート的なものにも関心を持つようになったんです。それで、間を取って、建築かなーとか考えたりしたのですが、それを親に言って怒られたりしていましたね(笑)。
その後大学では何を専攻したのですか?
ロンドンの数学の大学に進みました。それまではアメリカンスクールに通っていたのですが、数学が得意だったので、それをがんばって勉強すれば、飛び級で1年早く大学に入れることがわかって、アートも好きだったけど、それよりも早く大学に行きたいという一心で。大学では、数学とコンピューターサイエンスを学んだのですが、それはそれで楽しかったですね。
アーティスト活動を始めるようになったきっかけは?
偶然大学で音楽の授業を取ったときに、課題として曲を書いたのがきっかけです。それが友達に好評で、ライブもしたらそれもまた評判が良くて。自分でプログラミングも書けたので、一緒に映像とかも作るようになったんです。それで、インタラクティブなビジュアルを作って、自分でパフォーマンスとかもするようになって。その頃に、ローリー・アンダーソンの企画展がICCでやっていて、それを見たことも大きかったですね。社会的なメッセージと強いフェミニスト像があって、それでいてポップで多くの人に伝わるアート。そういう活動をしている彼女に感動したんです。その頃から、自分でプログラミングを書いたり、デバイスを作ったりという理系的なアプローチを取り入れつつ、作品を作るようになりました。
「グーグルのうた」
「アート」と「数学」という一見対極にあるように思えるものが、スプツニ子さんの中で自然に融合していったんですね。
そうですね。数学を勉強していた頃から、自分の興味自体はそんなに変わらないと思うんです。ただ、理系のときは、同じものを10年かけて研究して、ようやくまた次に行けるという感じだったけど、アートの場合、そうやって理詰めでやっていくのではなく、勘を働かせながらもっと感覚的に色々できるんですよね。それは、今の時代感を掴む上でとても大切なことだと思うんです。
その後、RCAに進み、クリティカル・デザインを専攻しました。分野としてはデザインなのですが、私が行ったコースはかなりアートに近いもので、例えば、スーパースタジオとかアーキグラムといった60年代の批評的なデザインの系譜にあるような表現を学びました。
実際にクリティカル・デザインを学んでみて、どのようなことを感じましたか?
例えば、私が作った「生理マシーン、タカシの場合。」とかもそうなんですが、「実際に使える」というのがポイントなんです。ファインアートの世界では、例えば、痛みを絵で表現した作品とかがよくあるけど、それを見ても、「あー、そうなんですか」で終わってしまうと思うんです。それに対して、クリティカル・デザインの場合は、基本的には誰かが使うものをデザインするから、これが実際に使われたときに、周りはどういう反応をするんだろうということを、より直接的に考えていくことができるんです。

「生理マシーン、タカシの場合。」
そうした物づくりを通して、どういうことをしていきたいと考えていますか?
人を突き動かしたり、焦らせたり、困らせたり、エネルギーを出させたりすることが好きなので、作品を通してそういうことができたらと思っています。あと、作品制作をしていくなかで、自分が素直に感じた疑問を解明していくというプロセスも好きです。例えば、「カラスボット☆ジェニー」とかもそうですし、アートというフィールドで、自分の好奇心を追求しているところもありますね。
スプツニ子さんの作品は、ジェンダーがテーマになっているものが多いですね。
それだけをテーマにしたいというわけではないのですが、自然とそういうものが出てくるんです。それは、自分の中にあるパンク精神みたいなところと関係しているんだと思います。例えば、未来に遺伝子を残すということを考えた時も、「なんで(女性の)身体的、精神的犠牲がこんなに大きいの?」と思ったりするんです。女性は年に1人しか子孫を残せないのに、男の人はがんばればいくらでも残せるじゃないですか。そういうところへのいらだちのようなものがあったり、そもそも女性の身体は誰のものなのかというところに興味があって、自然とそういうものが作品のテーマになることが多いですね。
「コドモを作る機械」
日本の場合、そうしたジェンダーやフェミニズムの問題に踏み込んだ表現があまり歓迎されない風潮もあるかもしれないですね。多くの女性アーティストが、「カワイイ」「ガーリー」という文脈に回収されてしまっている感もあります。
そうですね。でも、私はそういうタイプではないんです。むしろ、そういうものをおちょくったりするのが好きです(笑)。でも、若い女の子のファンの割合が多いので、それはスゴくうれしいですね。「ガーリー」でもなくて、ちゃんと勉強してがんばってる女の子たちというの日本にもたくさんいるんだけど、年齢とか性別で不利になってしまう現状があって、みんなモチベーションがあまり高くない。そういう子たちには、きっとロールモデルのような存在が必要だと思うんです。私もローリー・アンダーソンやミランダ・ジュライの2人をロールモデルにしていて、そのふたりの生き様に自分を向かわせようとしていました。ちょっと偉そうですけど、作品だけではなく、私の存在自体がそういうロールモデル的なものになれたらいいなと思っています。女の子でも勉強してアクティブに活動すれば、パンクなことができるんです!
日本特有のポップ感のようなものも、スプツニ子さんの作品に見られる要素だと思います。
そういうポップ感やカオスのようなものは、私たち日本人が見慣れているもので、それが自分たちの言語なんです。だから、それを使って、社会にメッセージを投げかけていくような作品を作るのは、アーティストとして正直なことだと思うんです。「アート」と言うと、スノッブなイメージがあって、例えばRCAでも、ミニマリストのような表現をする人は多かったのですが、自分の中にはそういう言語はないんです。東京で育っている人たちは、そういうカオスでポップな言語に囲まれているわけだから、そういう作品を作った方が、見る側も受け入れやすいと思うんです。私は、自分のフィロソフィーを多くの人に伝えられればそれでいいので、そうなるとアートの世界だけではなく、場合によってはそれが音楽でもファッションでもデザインでもいいと考えています。
日本におけるアートの根付き方は、イギリスなどと比べてだいぶ違いますよね。
日本には、娯楽がたくさんあふれているからこそ、アートへの関心が薄いんだと思います。イギリスの場合、「他に行く所もないし、美術館にでも行こうか」みたいな感じなんです(笑)。そう考えると、他に楽しいものがあふれている日本のアーティストには、ライバルがたくさんいるんです。そういう意味では、例えば、明和電機さんが「オタマトーン」とか、アートをプロダクトとして売っているというのはよくわかるんです。それが、明和電機さんなりの日本と欧米のシステムの違いに対するステイトメントだと思うんです。日本は、ハイアート的な作品は成立しにくいというのはあると思うんですが、ポップアートをやる環境としては最高だと思うんです。だから、私も超ポップに楽しんで作りたいなと(笑)。


(左) 「カラスボット☆ジェニー」、(右)「寿司ボーグ☆ユカリ」
ちなみに、イギリスで作品を発表していたときには、どのような反応が多かったのですか?
やっぱり「日本的」と捉えられることが多いですね。私の作品にはだいたいキャラクターがいるのですが、それをみんな面白がるんです。キャラクターがいて、映像があって、イラストがあって、マシンがある。ひとつの物語から色々なアウトプットがあるというのを、日本のアニメーションやキャラクター文化とリンクさせて見る人が多いみたいです。実際に、キャラクターや物語など、日本のマンガ・アニメに見られる描写やフィクション性を意識的に取り入れた「ドラディカル・デザイン」というものをRCAの修士論文で提唱しました。あ、それと、オタクとかアニメ好きが集まる向こうのコミケみたいなものに呼ばれることも多かったです(笑)。そこで、「本場のJ-POP!」みたいな感じで紹介されたり(笑)。船上コスプレパーティで、400人くらいの前で歌ったりもしました。
作品のエンターテインメント性というのもかなり意識されていそうですね。
はい。いま世の中やインターネット上に、これだけ面白いものがあふれているなかで、人の集中力が持続する時間はどんどん短くなっていると思うんです。だからこそ、作品を作るにしても、面白くてすぐに引き込めるものじゃないといけないと勝手に思っています。例えば、私は「モンティ・パイソン」とかが好きなんですけど、あれはスゴく面白いだけじゃなく、皮肉もかなり込められていて、考えさせられますよね。そういうものが好きなんです。以前に私が作った「ちんこのうた」なんかもギャハハな感じではあるんですけど、実はそこに自分なりの皮肉も込めていたりする。まぁ、勘違いはされやすいですけど(笑)。


「チンボーグ」
そのほかに作品を作る上で大切にしていることなどがあれば教えてください。
作品を作る上で、私はいつも最初にそのテーマに通じた科学者の人とかに会ったりして、リサーチをするんです。RCAに入る前は、「感性」と「テクノロジー」の融合とか言って、思春期的な作品を多く作っていたのですが、最近は自分から離れたところで作品を作りたいから、そうしたリサーチをやっています。一般の人が、私の感情や個人的な見解に興味を持ってくれるとはあまり思っていないんです。もちろん、作品を作っていると、結果的に自分というのはにじみ出てくるんだけど、なるべく自分から離れたところで作るようにしています。
今後の予定などがあれば教えて下さい。
10月末から東京都現代美術館の「トランスフォーメーション」という展覧会に、「生理マシーン、タカシの場合。」を出品する予定です。他にもイギリスのギャラリーでの展示の話などがいくつかあるのですが、この辺はまだ固まっていない感じです。
これからは日本を拠点に活動していく予定ですか?
それもまだ決まっていないんです。いまはどこが一番作品を作れる環境なのかを探っている状態です。でも、本音を言うと、東京に住めるなら住みたいんです。食べ物もおいしいし、ロンドンよりポップカルチャーが面白いですから。でも、もう学生じゃないし、お金を稼がなきゃいけないので、これから先どうやっていこうかなと模索中です(笑)。
「Bunny Tree」














