
So Hashizume | 橋詰 宗 | Designer
ブックデザインを始めとするグラフィック・デザインのみならず、Webデザインからワークショップ、イベント企画まで、幅広い活動を展開するデザイナー、橋詰 宗。イギリス留学時代にRoyal Collage of Art(以下RCA)で培われたコンセプチュアルなデザイン思考を、日本の土壌で実践していく彼は、表層的な形作りにとどまらず、人と人をつないでいく仕組み作りを、さまざまなアプローチを用いながら模索している最中だ。建築やプログラミングにも通じる彼の思考は、デザインが持つ意味や価値が著しく変化しているこの時代に、大きな示唆を与えてくれるはずだ。
Text:原田優輝
デザイナーを志したきっかけを教えてください。
僕は広島が地元だったこともあり、海外のデザインを目にする機会というのはなかなかなかったんです。そんな自分にとって当時の情報源は音楽でした。高校生の頃にはレコード屋に頻繁に通っていたのですが、レコードジャケットや海外の音楽雑誌などを見ていて、自分もこういうものを作ってみたいと思うようになったのがきっかけです。また、レコードという媒体やレコード屋というスペースがコミュニケーションのためのツールや場として機能していたという感覚も強く自分の中に残りました。その後、武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン科に進み、伝統的なタイポグラフィなどを学びつつ、自分たちでマッキントッシュが使えるようになった時期だったので、プログラミングによる制作も行ないました。
グラフィック・デザインだけではなく、プログラミングにも興味があったのですね。
その当時、視覚的な効果を比較的容易に表現できる言語が出始めていて、プログラミングとデザインを融合させたような表現が盛り上がっていたんです。それに影響を受けて、いまで言うソーシャル・ブックマークの構造を持つインタラクティブな作品を卒業制作で作りました。当時はすでにインターネットも出てきていて、デザインサイトなどもあって情報を得ることはできたのですが、いまのWebにあるような横につながっていく感覚がなかった。そこで、各個人の情報が相対的に繋がっていく仕組みを作ることに取り組みました。技術的な面などもあり、ベータ版で終わってしまったのですが、今振り返ると、現在の自分の活動の基盤になる作品だったと思います。単にグラフィック・デザインとしてポスターを作るだけでは、クローズドなところで完結してしまうような感じがあって、そうした表層的な部分だけではなく、もっと仕組みそのものを作りたいというのが自分のベースにはあるんです。


mina perhonen「紋黄蝶 2009-2010 Autumn / Winter Collection」
大学卒業後はどのような仕事をされていたのですか?
在学中から印刷物の仕事やアートディレクションをやらせてもらっていて、卒業後にもその活動を継続していました。グラフィック・デザインというと、まずは広告代理店に就職したり、師匠的な人に付くということが多いと思うのですが、自分がひねくれ者なのか、社会への適応性がないのか(笑)、そういうものがしっくりこなかったんです。グラフィック・デザインというある意味主体性が強いものをやりつつ、コミュニケーションを構築するための場も作りたいという自分の方向性はあったのですが、当時はその明確な行き先がなかなか見えませんでした。そんなときに、卒業制作をテレビで放送していただける機会があり、それをとある代理店の方が偶然に見ていて、そこから連絡をもらったことを期に、Webなどのインタラクティブの仕事をフリーでやり、その後代理店のWeb関係の部署に務めたりもしていました。
RCAに留学されたのはその後のことですか?
はい。当時Webの仕事がどんどん動画的な要素を求められるようになってきていたのですが、それは自分がやりたいと思っていたWebが持つコミュニケーションの本質とはかなりかけ離れていた気がしたんです。それで、このタイミングで方向転換しようと思い、昔から音楽が好きだったこともあり、イギリスに行ってみようと。色々リサーチをしているなかで、とあるデザイン誌のイギリスデザイナー特集を見たのですが、そこにはグラフィック・デザインというよりは、コンセプチュアル・アートやワークショップに近いと思えるような表現がとても多かったんです。そこから自分が直感的に面白いと感じた領域横断的な考え方をしているデザイナーたちをピックアップしていくと、その多くがRCA出身者だったんです。それで自分も行ってみようと思ったんです。
実際にRCAに入って、日本のデザイン教育とはかなり違いましたか?
そうですね。まずは学校以前に、身体的にも精神的にも向こうの生活に慣れることで精一杯でした。日本では説明がつかないことがたくさんあるなかで、自分が日本にいる間に色んな制度や決まりごとに無意識のうちにしたがっていたということに気づくことができました。学校の授業もかなり特殊で、大まかなテーマをもとに、自分たちがそれをどのようなプロセスで掘り下げていくのかということがとても重視されるんです。RCAにはすでにどこかで仕事をしていた経験を持つような人たちが多く集まってくるのですが、そうした商業デザインの考え方を一度リセットして、デザインの本質について、それまでとは違う価値観で考えることが求められるんです。専門的なデザインの技術を学ぶというよりも、思考の整頓をして、違う角度から物事を見るための訓練をする場所という印象が強かったですね。また、RCAの中にはバーがあるんですが、そこで出会うさまざまな人たちとのコミュニケーションもスゴく大きかった。バーという空間ではどんなヒエラルキーや差異も無化されてしまう、そんな魅力もありましたね。大学の授業だけではなく、違う文化構造のなかで学ぶという生活自体にも大切なものが含まれているんだと、その時に感じました。

山口情報芸術センター(YCAM)「YCAM WORKSHOPS」
帰国してからはフリーで活動を始めたのですか?
はい。最初は向こうで働きたいという気持ちもあったのですが、色々とハードルがあったので、イギリスで学んだ感覚を実践できる場というものを、日本で時間をかけて作っていこうという思いでスタートしました。帰国当初はヨーロッパとのやり方の違いに反発することもあったのですが、ヨーロッパの文化構造や価値観をそのまま持ってきても仕方がないということがわかってくるようになり、例えばクライアントに求められている仕事の内容をいかにとらえ、それをどういう形に落としこむことができるかということなど、コンテクストを読み込む読解力を持って仕事に臨んでいこうを思えるようになりました。
日本のグラフィック・デザインは、思考よりも表層的なスタイルやタッチが重視される傾向があるように感じます。
例えば、戦後の日本のグラフィック・デザイナーが実践してきたことは、それがある種のシンボルや求心力として、経済を盛り上げる大きな役割をはたしてきたと思うんです。そのおかげで日本は敗戦からこれだけ大きな国になれたと思うし、それはグラフィック・デザインの根本的な役割としてあると思います。でも、いまは政治などを見てもそうですが、そうした主体的な価値観というのは崩壊してきていますよね。そのなかで僕がデザインを通してやっていきたいことは、自分の考えを押し出すということよりも、あちら側の視座に立ってみるということ。21世紀に入って、色んなものが細分化してきて、Webなどを見てもそうですが、人と人の関係性にもかつてのヒエラルキーがなくなっていますよね。そうしたフラットな状態のなかでのつながりという部分に、デザイナーが立ち会うことができれば面白いんじゃないかと思っています。デザインが社会の道標になると考えたときに、今は明確なゴールやシンボルを作ってあげることよりも、総体的に動いていけるための敷地作りみたいなことが大切なんじゃないかなと。
そうした思いは、どういったプロジェクトに反映されているのですか?
ブックデザイン、Webデザイン、ワークショップなどのすべてにその考え方があります。例えばブックデザインにしても、装飾的な部分はなるべく入れずに、ページネーションや紙の厚さ、装丁の部分などを通して、本に対する価値認識みたいなものを受け手側が考えていく道標になるようなものが作れたらいいなと思っています。また、グラフィック・デザインの役割が明確に変わってきているなかで、批評性を持たせながらそういうものを作っていきたいという思いもあります。歴史的に見て、議論が担ってきた役割が大きいヨーロッパでは、批評性というものがとても重視されていて、自分もそこに影響を受けています。ただカタチを作るだけではなく、話をする場を持ったり、仕組みを作ったり、批評を書いたりということが、これからは日本でももっと広がっていっていいんじゃないかなと。
日本のデザインには、作り手側にも受け手側にも批評性が欠けていることは確かですよね。
先ほどの話にもつながりますが、僕らの親の世代というのは、戦後復興の中でひたすら前を向いてものづくりをしてきた世代ですよね。そのなかで批評性というのはあまり意味を持たず、次々と新しい価値を創出していった時代です。それで日本はここまで来れたけど、だからこそ抱えることになった問題がいまどんどん出てきていると思います。そこでデザインに何ができるかを考えたときに、話をするということがとても大事だと思うんです。これまでのデザインというのは、今までになかったものを作るという考え方が強かったかもしれないですが、すでにあらゆるものを出し切ってしまったいま、さらに新しいカタチを作ることよりも、すでにあるコマをどういう分節で区切って、再定義できるかということの方が大切なんじゃないかと思っています。
00年代を通してそうしたさまざまな問題が出てくるなかで、それをある意味黙視してきたところがあったと思います。ただ、それがいよいよ表面化してきているのが今の時代なんじゃないかと感じます。グラフィック・デザインにしても、紙媒体の今後が危ぶまれるなかで、ようやくデザイナーが危機感を覚えるようになってきた。だからこそ今、橋詰さんが話されている考え方はとても重要だと思います。
例えば、紙の議論になったときに、紙の話だけをしたり、紙の代わりになる何かを探すということではなく、紙がない状況について考えることが大切だと思うんです。例えば、インターネット上のタイポグラフィのことや、本のページネーションとインターネットの関係といったようなことを別け隔てなく考えていく必要がある。どうしても現場や専門職の議論で語られがちなところがあるけど、もっと色々な文化構造やモデルと照らし合わせて考えることも大切だと思っています。
海外に出たことで、日本の物づくりの強みとして見えてきたものはありますか?
やはり情報収集力と技術力だと思います。イギリスにも置いていないような向こうの本が日本の本屋で普通に買えたりするのは、明らかに異常ですよね(笑)。あと、技術力というところだと、たとえば日本の印刷の技術はヨーロッパとは比べ物にならないほど高いんです。そうした日本の技術力と、ヨーロッパのコンセプトの強さを融合させるようなことをうまくやっていけないかと考えています。知人のデザイナーや編集者らとイギリス人デザイナーを10数名呼んで、「How Very Tokyo」というポスター展をやったこともあります。そこでは、イギリス人デザイナーたちのデザインを、僕が普段より交流の深い富山の印刷所の、素晴らしい技術と知識を持ったプリンティング・ディレクターの方に監修いただき印刷してもらいました。さらに、日本とヨーロッパの価値観や印刷の違いなどについて話すカンファレンスも同時に企画しました。
他にも積極的にイベントやワークショップなどをやっていますよね。
その後も親しい友人たちを呼んで料理を振舞う食事会「deno Trattoria」をイギリスのデザイナー、Åbäkeらと行ったり、Åbäkeの出版レーベルに関するレクチャー、大阪で活動するデザイナー原田祐馬さん、編集者の多田智美さんらと一緒に京都で開催されたアートフェアで、会場だった高級ホテルの一室を本屋にしたイベント「BOOKS HOP」、DIYをテーマにさまざまな作家などを呼び開催したイベント「D♥Y」、写真家の池田晶紀さん、先ほどの原田さん、多田さんらとともに、1時間で撮影からデザイン、製本までをしてあっという間にお客さんに届ける「@ YOU MORE BOOK」など色々やっています。また近日中に「D♥Y」の第2回を、また、とある美術館で与えられた時間と空間といった制限の中で参加者とデザインを実践するワークショップも行う予定です。

「Utrecht deno Trattoria」

「BOOKS HOP」
そうしたイベントを積極的に展開している理由を教えてください。
たとえば、食事会をやるにしても、刻々と色々なことが起こっていくんです。その面白さや大切さというのがあるし、一緒に食べたり飲んだりしながら語らう空間を共有するというのもとても大切だと思っています。また、自分が普段デザインで関わっている本にしても、「BOOKS HOP」のようなイベントで掛け率などを考えながら、交渉して本を仕入れたり、店頭でそれをプロモートしたり、自分たちがなぜこういうプロジェクトをやっているのかを、何も知らない人たちに説明したりすることで、いままでと全然違う形で本を認識できたりする。本の仕入れ、食材の調理法、装丁の台割、プログラミングなど、これらは自分のなかではすべて同じことなんです。要は今まであったものをどう組み合わせるかという編集的な視点で、いかに仕組みを作っていけるかということを大切にしたいんです。それによって自分だけではなく、参加する人たちにも新しい道や価値観が見えてきたらいいなと思っています。
選択肢や可能性が広がってきた時代だからこそ、デザイナーがこれから先何をしていけるかということも問い直されていると思います。
何を、どう使って、どれだけ作るかということが、より試される時代になったんだと思います。例えば、これだけテクノロジーが進化しているからといって、すべてがペーパーレスに向かうということではなく、紙を使うことでより強い訴求力が持てるシチュエーションやアプローチもある。それにもしかしたらもっと古い概念や技術が新しいコミュニケーションを生むかもしれない。そんな状況のなかで、限定的な考えのなかでしかデザインが行えない、というのは厳しいと思うんです。思想家や料理家、DJといった職業の人々の編集的な実践には学ぶところが多いと思いますし、それがデザインに必要とされるようになってきたのがこの時代だと思います。そんななか、これから先に具体的にデザインの領域でどのように実践できるのか、僕自身模索している最中なんです。本来デザイナーと言われる人は、バラバラしているものをうまくまとめてあげることで統率を保っていく職種でもある。そこでこれからは取り扱う要素を色彩や形態だけではなく、歴史や概念も含め横断的に実践していければと思っています。
Information
橋詰が運営に携わる体験、共感型の新しいイベント「D♥Y」の第2回が、10月30、31日に渋谷・ディクショナリー倶楽部で開催される。Booth / Stage / Workshop / Kitchen / Chat の5つの要素で構成され、多数のクリエイターらが出演、出店する予定。詳細はこちらから。


Åbäkeによるレクチャー 「ダン・ド・リオン は タンポポ なの」















