
TECHNO-SHUGEI CLUB | テクノ手芸部 | Art Unit
テクノロジーと手芸という一見対極にある両者を組み合わせてしまう独自のスタイルで注目を集める、かすやきょうことよしだともふみによるテクノ手芸部。そのネーミングセンスからも想像できるように、どこかおかしなその感性から生まれる作品は、非常にユーモラスで、独特のユルさが漂う。展覧会、ワークショップなどのイベントを通じて物づくりの本質を新しい形で提示し、さまざまな分野の人たちを巻き込んできた彼らは、つい先日、自身初となる書籍『テクノ手芸』(ワークスコーポレーション刊)を刊行するに至った。今後ますます注目度が高まりそうなテクノ手芸部の活動の背景に迫るべく、メンバーのよしだに話を聞いた。
Text:原田優輝
テクノ手芸部が生まれたきっかけを教えてください。
僕とかすやは、同じ大学院の研究室で知り合いました。情報技術などを扱う理工系の大学だったのですが、僕らの研究室はその中でも珍しい存在で、インタラクティブアートなどをやっているところだったんです。そこでかすやと一緒に何かをやろうという話になったのがきっかけです。僕は以前から、面白い体験ができるインターフェースを仕事や個人の作品として作っていたのですが、もともとメディアアートやインタラクティブアートというのは、カッコ良くてクールなものが多いんです。そういうものも大好きなのですが、ふたりで何かをやるにあたって、そことは違うものをやろうということになり、今のような活動を始めたんです。
手芸とテクノロジーを組み合わせるという発想はどこから生まれたのですか?
あえて僕たちがやるならどんなことなのか? ということを考えたときに、自分たちの内面を表現するということよりも、もっと自分の母親や、その辺を歩いているおばあちゃんなんかも楽しめるものがいいんじゃないかなと。実際に最近は、コンピュータの研究者の間でも、手作りなどでモノを作るということに新しい仕組みを導入しようと考えている人がいたり、パソコンやプログラミングができない人でも機械が作れるような仕組みを考えようという動きがあったりするのですが、そこで僕たちが考えたのは、手芸を新しい物づくりと組み合わせることで、理系、文系、美術系などの境界を超えることができるんじゃないかということでした。

「まばたきのキツネ」
テクノ手芸部の場合は、研究レベルではなく、実際に一般の人たちを巻き込んでいくようなレベルで、それを実践していますよね。
例えば、電子工作をやる理系のお父さんと、手芸が好きなお母さんなんかが、一緒に何か作れるようになると面白いですよね。僕たちにとって最初の作品は、「テクノ手芸」という言葉だと思っているんです。誰が見てもわかりやすいし、テクノという言葉の古い感じも含め、ユルさや親しみやすさを出したかった(笑)。それを取っ掛かりに、今まで電子工作に興味のなかった人に、「自分でもできるかも」と思ってもらうことで、新しい興味を引っ張ってこれるんじゃないかという考えが土台にあります。「部活」の名を語っているのもそこに関係しています。美術というのは、もちろんマスターピースを作ることが重要ですが、それとは別に、例えば赤瀬川原平さんがやった仕事のように、素人を巻き込んで新聞沙汰にしてしまうようなことに、個人的にはとても興味があるんです。そのためにも、一点物の作品を作るだけではなく、ワークショップなどを通して人を巻き込んでいく活動に力を入れているんです。
実際にさまざまなジャンルの人たちとつながっていっているようですね。
今のところ、色んな分野の人に興味を持ってもらえています。たまに怒られることもありますが(笑)。色んな人たちと関わっていけるのはとても面白いですね。最初に興味を持ってくれたのは、「Make:」という物づくりの雑誌でした。テクノ手芸部を作って、自分たちのサイト上にコンセプトなどを書いただけの段階で、早速連絡をくれたんです。それで彼らがやっている「Make: Tokyo Meeting」というイベントに出させてもらうことになったのですが、これが最初の取っ掛かりになりました。このイベントに出ている人たちは、何かモノを作っているという前提があるだけで、それ以外はまったく垣根がないんです。工芸作家から大学教授までが集まる場に参加できたことはとても大きかったですね。
どんな分野でも物づくりの根本的な喜びや楽しさは共通していますよね。
そうなんですよね。例えば、手芸とメディアアートにしても、モノを作るという共通の楽しみはあるんです。でも、メディアアートの場合は、何か新しい技術を使ったり、発明をしないと評価されないところがあります。その一方で、手芸というのは、型紙通りに作って、そこにワンポイント加えるだけで、自分の作品として愛着が持てたりする。メディアアートのように、「本当にそれはオリジナルなのか?」ということを追求されるところに正直疲れていたところもあったので、テクノ手芸部に関しては、オリジナルということにはそこまでこだわっていません。例えば、すでにあるモノや作品の”フェルト版”を作ってみたりもするし、出所を明らかにしつつ、人の作品をマッシュアップしたようなものも作ることもありますね。

「D♥Y」
つい先日も「D♥Y」に参加されていましたが、ワークショップなどのイベントは、どのような感じでやっているのですか?
テクノ手芸部の作品は、展示やメディアで紹介されたものだけを見ても、よく分からなかいところがあるみたいで、実際にやってみたらどうなるんだろう? と興味を持ってくれる人が結構います。ただ、毎回対象者や持ち時間などが違うので、それに応じてオーダーメイド的に内容を変えています。例えば、小学生が参加するようなイベントであれば、危険性の低いキットを作ったり、美大生が参加するような場合は、市販のさまざまな部品をドッサリ置いて、作りたいものの設計図を各自に描いてもらい、それをもとにどの部品を使えばいいかなどを僕らがアドバイスしながら、一から作っていくこともあります。
テクノ手芸部のワークショップには、かなり幅広い層の人たちが集まりそうですね。
そうですね。理科だと思ってくる人も、家庭科だと思ってくる人もいます(笑)。大概、電子工作のワークショップなら男の子ばかり集まるだろうし、逆に手芸の場合は女の子が来ると思うのですが、僕たちのワークショップでは、男女比はだいたい半々ですね。電子工作をするつもりで来た男の子や、手芸だと思って来た女の子も、いざ始めてみると、みんな集中してビッチリやっていきますね(笑)。僕らがワークショップで教えたことをもとに、みんなが勝手に色んなものを作っていくのがとても面白いです。あと、某美大で自発的に「テクノ手芸部」ができていたりして、知らないうちに部員が増えていたりするんです。そういうときは「しめた!」という感じです(笑)。
作品制作のお話も聞きたいのですが、おふたりの間では役割分担はあるのですか?
特に分業はしていません。最初にこういうものを作ろうという話をしてから、その時々でどちらかが手を動かしては駄目出しなどをして完成させていくことが多いです。ただ、何も話さずにいきなり作り出すということはなく、これは今やるべきかどうかということなどはちゃんと話し合っています。電子回路やプログラミングはかすやの方が詳しかったりするので、基本的には向こうが主導権を持っていて、クオリティがあまり高くなさそうなものは僕が作った作品であることが多いです(笑)。

「LEDとフェルトのブローチ」
作品を作る上で大切にしていることがあれば教えてください。
まずひとつは、例えば素材感をしっかり出したり、手芸的な要素が分かりやすく表現できているかというところですね。あまりハイアートっぽくはならないように意識しています。いくらがんばってもならないとは思いますが(笑)。あと、難解なコンセプトはいらないのですが、かといって単に可愛いだけではなく、一筋縄ではいかないような変な感じや気持ち悪さというのも大切にしています。その辺のバランスは考えていますね。展示のときはコンセプチュアルな表現もしますが、作品一つひとつはなるべく無害な感じでいきたいなと(笑)。
確かに作品のモチーフは動物などの愛らしいものが多いですね。
そうですね。「テクノ」側の部分では、プログラミングを書き込んだマイコンを使ったり、色々やるときもありますが、「手芸」側の部分は常に誰にでもできることだけで成立させています。またそれとは別に、テクノロジーの中に可愛らしさを見つけることも好きなんです。人工物が動物のようにがんばって仕事をしているところが面白いなと思うことがある(笑)。それで最近、ブロードバンドルーターの形をしたぬいぐるみが、LEDでただ光るだけという作品を作ったりもしました。
テクノロジーの部分にしても、「光る」「倒れる」などシンプルな挙動に落とし込まれていることがほとんどですよね。
技術を詰め込んだメディアアートのような作品にするつもりはないんです。極力シンプルにして、その中で面白さや可愛さ、気持ち悪さなどを表現していくような、ある意味拍子抜けするテクノロジーの使い方をしたいんです。手間をかけて歩くロボットを作るんじゃなくて、ただ転ぶだけのロボットを作ることが面白い(笑)。その辺は自分たちの「見立て」次第だと思うんですが、僕らの作品には、変なテクノロジーの使い方というのが共通しているところだと思います。

「気を引こうとして転ぶキリン」
先日リリースされた初の書籍についても教えてください。
普段理工書を中心に作っている出版社から出すこともあって、僕らの作品の作例などを中心に、電子回路やツールなどを紹介していくようなハウツー本になっています。最初は可愛い表紙で、動物の作品がカラー写真でたくさん見られるようなビジュアル本を意識していたのですが、いつのまにか濃い内容になっていました(笑)。でも、ハウツーだけではなく、僕らの他に手芸と電子的なものを結びつけるような活動をしている人を紹介したり、テクノ手芸の面白さについてコメントをもらったりもしているので、200ページを超えるカオスな内容の本になっています(笑)。
最後に、今後やっていきたいことなどがあれば教えてください。
昨年12月にもやったのですが、本も出版されたことですし、また新たに展覧会をやりたいですね。あと、これまではワークショップの度に手作りのキットを作って配ってきたのですが、そういうものを市販できるようにしたいんです。実際に電子工作をやろうとすると、なかなか難しい部分があったりするんですよね。だから、このキットの話もそうですが、裾野を広げていくためには一工夫が必要で、それをやっていくために、変な物づくりをしている色んな分野の人たちと意見交換をしたりしているんです。色んな大学やアーティストの人たちと、新しい物づくりの道具や素材を伝えるための展示をやろうという話なんかもしているので、その辺も徐々に進めていきたいですね。例えば手芸にしても、かなり行き詰まっている現状があるので、物づくりの本質を取り入れた新しい「作る」ということを実践して、それを広げていけたらいいなと思っています。

『テクノ手芸』(ワークスコーポレーション)












