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KEIICHIRO SHIBUYA | 渋谷慶一郎 | Musician

音楽家・渋谷慶一郎の最新インタビューをお届けする。コンピューターとピアノを自在に往来するライヴ・パフォーマンスはもちろんのこと、ICC無響室におけるサウンド・インスタレーション『for maria anechoic room version』、映画『死なない子供、荒川修作』のサウンドトラック制作、TVドラマ『SPEC』のテーマ曲制作などを手がけ、さらに1月15日からは新イベント「ATAK Dance Hall」をスタートさせるなど、多忙を極める渋谷氏の最近の活動について話を聞いた。

Text:南波一海




ICC無響室の展示『for maria anechoic room version』のお話から伺いたいと思います。元はYCAMの展示ですよね?

最初は『ATAK015 for maria』っていうピアノソロのアルバムです。出した時に、これを中心に何か色々できるなって感じがあって。1回目がYCAMでインスタレーションをやって、(『for maria』を)解体して。2回目は、ICCの無響室+三次元ヴァージョンということです。

展示でも説明がありましたが、『for maria』のピアノの音を素材に組み立てていったということですよね。本当にすべてピアノの音なのでしょうか?

95%くらいはそうですね。チリチリとかドンッとか鳴っているやつは違って、縦方向の音の運動と相性良かったから使ったんですけど。あとはピアノの残響音です。弾いた瞬間のアタックの部分を取り除いて。

音が背後から回ってくる動きなど、体に影響を及ぼすんじゃないか、手で触れられるんじゃないかというくらい、音が立体的になっていたのが驚きでした。

ここまでリアルで動きの精度が高い三次元のサウンド・インスタレーションはあまりないみたいです。ただ、作っている時は大変で。MAX/MSPを開発したIRCAMていうフランスの電子音楽の研究所があるんですけど、そこが作ったSpatっていう立体音響のプログラムを使ったんですね。Spatをここまで使い切った作品というのは多分初めてだったからバグフィックスとか大変でした。つまり、当たり前だけど縦にスピーカーが並んでないと音は三次元にならないじゃないですか。平面にスピーカーを何個も置いても、(左右に)パンで動かしているのが増えているだけでしょ。それは面白くないと思うんです。音がどれだけ動くかとかじゃなくて、空間自体が感じたことない状態を作るというのが重要でしょ。だから、残響状態も音が実際に動いているようにシミュレーションをしてつけていくんだけど、三次元でここまでの精度でというのは実際に開発するときに今回ほど細かく検証していないと思うんだよね、フランスでも。つまりSpatは素晴らしいツールだけど今回初めて発見されたバグが結構あって。「(プログラム上では)こう配置してるのに、なんで音がこう動かないの?」っていうことばっかりだったんですね。で、それを報告して。「一日で直してくれって」ってメールしてもらってバグフィックスしたのを送り返してもらって(笑)。そういうことをやりながら連日作っていったんです。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎+evala《for maria anechoic room version》 「OPEN SPACE 2010」at ICC 2010年10月5日〜2011年2月27日 撮影:新津保 建秀

プログラムレベルでインスタレーションを作っていったということですね。音が縦に動くのがスゴいと思っていて。音っていうのは高い音が上にあって、低い音が下にあるというイメージがあるじゃないですか?

それはやめたいなってずっと思っていたんです。大体、コンピュータベースのサウンド・インスタレーションは10年くらい前から急速に増えたけど、スゴく多いのはドーンっていう低音がウーファーから鳴ってて、チリチリチリって高音が普通のスピーカーから鳴っているというスタイルでしょ。これはオーケストラで、コントラバスが低音を弾いて、フルートとかが高音でピロピロってやってるのとかと構造的には変わらないし、もっと言えばキックが低音でドンドンいってビートを刻んで、ハイハットがチッキッチッキッて鳴っているのとそんなに変わらない。音楽の構造的には、低いものが安定、土台にあって、その上で他の音が遊んでいる。非常に古典的なわけです。それをやめないと、次の段階に行かないというのは前から思っていて。それを変えたいなっていうのがまず一番にあって、filmachineていうのを2006年からやったんです。でもその当時は、世の中は冷たい反応で(笑)。いま、ICCでは連日満員とかのアツいことになっているのに、それとは雲泥の差でしたよ。当時は美術関係者も本当にわずかしかYCAMには来なかったし(笑)。僕は「これはスゴい!」と思ってやってたんだけど。まぁだから、明らかに早すぎた(笑)。だから今回のICCはあのときの雪辱できたという気分もあるんです。

確かに本当に新しいものがでてきた時って、受け入れ難かったりしますよね。

口でいくら説明されてもピンとこないことあるけど、実際行けばわかるでしょ。で、そこがサウンド・インスタレーションの難しいところですよね。音の場合、本当に聴かせないと、もしくはその装置の中に入ってもらわないと、わからないじゃないですか。

体験込みというか。サウンド・ファイル(を聴いてもらうの)だけではダメですもんね。

ダメダメ。あと、最近考えているのは三次元でたくさんスピーカー使って音の運動をすべてコンポジションするっていう方向と、もうひとつ、まったく逆で電気も使わず、しかし音響的にもアーキテクツも面白いサウンド・インスタレーションができるんじゃないかということなんだけど。もちろんアルヴィン・ルシエみたいな話じゃなくて。当然、人が弾いてるとか太鼓叩いたり、笛吹いてるとかじゃないですよ(笑)。これは多分来年取りかかかって再来年くらいに発表できそう。繰り返すけどこれは自然回帰とかじゃ全くなくて(笑)、スゴく実務的な欲求なんです。というのもアートセンター以外でインスタレーションやってほしいっていうオファーがあると、常に「電源容量大丈夫か」とか、「スピーカー何個借りられるか」とかって話になる。単にそれがダルいというのがあって(笑)。インスタレーションって元々は美術のものだから、美術館とかギャラリーとかいわゆる美術の場所でやることが多いわけじゃない? だったらもうちょっと美術の環境、フォーマットに即して考えたものがあってもいいかなと思ってて。しかし単なるビジュアルインスタレーションを作るっていうのは僕はあまり興味がないから、音でできることを考えてます。あとやっぱり、スピーカーって壊れるじゃないですか。電気で動くものは壊れる。だから、壊れないもので、音響を自動生成可能な作品で作るっていうことに最近興味あります。

渋谷慶一郎

「filmachine(2006)」 渋谷慶一郎+池上高志 写真提供:山口情報芸術センター

続いて『死なない子供、荒川修作』のお話を聞かせて下さい。まず制作期間はどのくらいだったのでしょうか。

1週間だったんですよね(笑)。もちろん別の日にピアノのレコーディングをしたりしているけど、本当に全体をフィックスしていく作業は1週間しか時間がなかった。1日12時間とか13時間とか働いて、駆け込んでフィックスさせた感じです。映画のミックスダウンするスタジオでもずっと試行錯誤していて何とか間に合った。スゴい集中力だったと思います、我ながら(笑)。

制作にあたって何か指示はあったのでしょうか?

今回はないです。できたものに対して何かっていうのはあるんだけど、「メインテーマはこうしてほしい」みたいなことは一切なくて。映画にしては珍しい。ただ、最近そういう仕事が増えてるんですよ。お任せで、好きなようにやってくださいというのが。しかも、これは映画じゃないけどチケット売れてないから宣伝してくれって追加オーダーをされるとか(笑)。お任せどころじゃないっていうのも増えている(笑)。

(笑)。指示があまりないというのは、渋谷さんの作品や音楽を理解してくれているからですよね?

監督は僕の作品をよく知っていたからじゃないかな。あと、荒川さんと僕は多少交流があったんですよ。そうそう、監督は実際に三鷹のあの住宅(三鷹天命反転住宅)に住んでいたんです。

そうなんですか!

そう。だからこの映画は濃いんですよ、現場の荒川色が。作りながら、「これはカルト・ムービーになるなぁ」と思っていて(笑)、カルト・ムービーらしく、カルト・ムービーを強化する方法で作るしかないなと思いました。

映画の中で、荒川さんが普通の感覚を覆すようなことを次々言っていく感覚と、渋谷さんの音楽のあり方がまさにシンクロしていたと思います。

結構迷ったんだけど、ノイジーな要素とピアノの要素があるじゃないですか。ピアノの要素が少ないと、もっと分りやすくトガッた映画になると思うんだけど、それだと観ないと思うんですよ。簡単に言うと、DVD買ってもう一回観ようって気にならない。で、それはあまり面白いことじゃないなと思ったんです。これはもっと本質的にカルト・ムービーだから、音楽でそこまでアンダーグラウンドに潜らせるよりは何か時々見たくなる、思い出すというほうがいいなと思った。それと、図らずして亡くなった時期と映画の発表が重なったから、荒川修作っていう人の記憶と記録という意味でこの映画が最も引用されるのは最初から決定的だったから、そういう時にセットになるような音楽があればいいなあと思って最初の曲は書いたのね。音は記憶と密接だから。

ピアノとノイズの使い分けというのはあったんでしょうか?

ピアノを付けるところは最初に決めて。あと、ここは音付けて欲しいっていうのが何ヶ所かあって。でも、今はピアノだろうとノイズだろうと1回コンピューターに入れるじゃないですか。だから、そんなに違いはないです。そもそも僕はピアノとコンピューターで作った音の境界がそんなにないんです。『for maria』っていうのも古い言葉で言うとすごく音響派的なピアノのアルバムだし。

そうですね。超アコースティックではあるけどれ、実は超ハイテクノロジーという。とはいえ、『for maria』以降の渋谷さんは、ピアノに関して大らかになっているというか、遠慮なく使うようになってきているのかなと思うんです。

それはライブの出演も多くなったしとかっていうこと? ライヴに出るのはスゴい簡単で、人前で演奏しないと音楽家として成長しないんです。人前でやると、スキルじゃないんだけど何かが更新されていくのがわかる。だから、特にピアノに関してはやった方が自分のためになるなと思って結構やってます。もうひとつが、DSDがあるから。あれだけ面白いテクノロジーがラップトップ方向のデジタル・ミュージックでは出てきてないんですよ。単純にDSDで自分の音を聴いた時にバーンと立ち上がるイメージに対する驚きやある種の感動っていうのものを、デジタルでやるのがスゴい困難になってきている気がする。やりがいある問題設定なんだけど。

渋谷慶一郎 渋谷慶一郎

そういうこともあり、ご自身の興味がピアノに向いているということですね。

ピアノに向ってますね。『SPEC』の音楽もそうだしね。あれもDSDで録りました。

『SPEC』の音楽は完全にピアノ作曲ですよね?

ピアノソロっていうオーダーだったんです。録音はZAKさんです。新宿のグリーンバードで3曲くらいを一日で録りました。

何バージョンくらいあるんですか?

メインになるようなテーマを作ってくれって最初に言われたので作って。それをちょっと不安なシーン用にアレンジしてほしいっていうのがひとつと、あと僕が自分から提案したのは、その不安なバージョンに電子音を足したバージョンです。それで合計3曲ですよね。あと、スゴく悲しいシーンの時のためにピアノ・ソロの曲を作って下さいって言われて。この時点で、プロットも読んでいないし、主演女優すら途中まで教えてもらえなくて、漠然と「悲しいってどんなだろう?」とか思いながら(笑)、自分の中のストックを引っ張り出して作ってみた。そういえば、その悲しいシーンのを作るときはちょっとだけ頭の中にADELEがあったんですよ。あのスゴく売れたアルバムね。あれは悲しすぎて家で聴けないからアルバム持ってないんだけど、YouTubeとかでよく聴いてた時期があった。それの影響とかもあったりして、「Ballad」って曲を作りました。あとはテーマをストリングスオーケストラ用にアレンジしました。これも聴いてほしいです。iTunesにあるし。

渋谷慶一郎

撮影:新津保 建秀

これだけ仕事のオファーがある中で、ご自身で取捨選択をされているのでしょうか? というのも、率直に、どれも面白いお話が多いと思うんです。

選んではいるんだけど、スゴく選んだりはしてないんです。もちろん、業界のドンがバックについてて仕事を送りこんでくれるとかじゃないです(笑)。頼んでくれる人がいるというだけです。あと、僕は手を抜かないからかな。例えば、『SPEC』の不安なバージョンに電子音を付けるっていうのは、すごく分りやすく言うと作ったからといってギャラが上がるわけじゃないんです。こっちから提案してるわけだし。でも、色んな意味であった方がいいなと思ったからやる。これは関わるもの全てに言えることなんだけど、せっかく頼まれてるわけだから、僕ができる範囲でプロジェクト自体を面白くしたいとは思っています。

カルト映画からテレビドラマ、インスタレーションやピアノ・ライヴと、渋谷さんにはとても広い振れ幅がありますが、立ち位置や発信の仕方というのをご自身の中で意識している部分はありますか?

こういう仕事は、自分からやりたいって言ってできるものじゃないから、来るもののバランスがいいっていうのがある。立ち位置とかは意外なほど考えていないです。というかそういうこと考える暇がない(笑)。あと、自分を飽きさせないのは大事ですよね。来年はインスタレーションの海外のツアーが多いんですけど、そうすると全く逆の振れ幅のことがやりたくなるんですよ。例えば、今挙がっているのは、宇野(常寛)君の「AZM48」っていう小説があって。それを『思想地図』の創刊イベントに合わせて実写版で映画化してるんですよ。村上隆さんと茂木健一郎さんと堀江貴文さんが出演するという。製作総指揮が東浩紀で、僕が音楽って狂ってるでしょ(笑)。で、東君から エンディングに、「for maria」みたいな泣ける曲をタダで作ってくれって言われて(笑)。で、そんなことできるわけないから、ボーカロイド、つまり初音ミクで新曲作るから、東くんが作詞して、それをエンディング・テーマにしようって提案してやることになった(笑)。それをシングルでリリースしようと思っていて、今はレコード会社を募集しています(笑)。

今後の予定を教えて下さい。インスタレーションの他に作品のリリース予定などはあるのですか?

ずっと延び延びになっているんですが、『ATAK000』っていう僕のファースト・アルバムに新曲を2曲追加してリマスターして、来年の前半中に出す予定です。それと、ATAKから刀根康尚さんの凄まじいものが出ることになっています。万葉集4516首を一字一句音響化したCD-ROMと、それ全部聴くと2000時間以上かかるんですけど(笑)、そこから僕が12曲60分くらいに抜粋して音楽CD用にフル・マスタリングしたスペシャルCDと、刀根さんが書いた47ページのテクストと、刀根さんの家にある古本に直筆で1から500までナンバリングしてもらったものが全部入ったボックスが来年早々に出ます。世界500部限定です。その後は夏頃にライヴ盤が出るかもしれないです。NHKのラジオ番組でやったライヴがDSD録音で残っているから、それを聴き返して、良かったらリリースしようかなと思っています。来年はレーベル活動をもっとやりたいですね。再来年がATAK10周年なので、それに向けてリリースを着々としていきたいなという感じです。それから、僕が音楽をやった養命酒のCMがオンエアされていて、映像はチームラボというものスゴいメンツになっています。それと、やっぱりライヴに来てもらいたいですね。「ファンです」とか言って、最近はライヴもCDも聴いたことがない人がいますからね(笑)。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎+池上高志 Live at HARAJUKU PERFORMANCE PLUS 2010 撮影:新津保 建秀

ライブの予定の方は?

1月15日に、「ATAK Dance Hall」っていうイベントを代官山UNITでスタートさせます。これはうまくいけば「ATAK NIGHT」のようなイベントシリーズになると思っていて、完全にクラブ・フロア対応で最新型のダンスミュージックを提案します。簡単に言うと、僕とevala君が初めてラップトップのデュオを組んで3時間ライブをやるということなんですが(笑)、二人ともかつてないくらいビートとかフロアにフォーカスして準備を進めています。ビートというかGIRDのかけ合わせと音響的なレイヤーが相互作用するようなことは実は可能で、この前の「HARAJUKU PERFORMANCE + 2010」でやったライブの方向性をさらに押し進めたいと思っています。というのも最近、フロアが受動的になっていると思っているんですね。簡単に言うとチキチーチキチーみたいな分りやすい記号ナシでも狂ったように踊れるというのは可能なのにそうなっていない。2007年のATAK NIGHT3くらいまではフロアで興奮して脳が沸騰しつつ、自分でビートを探すみたいなことが起きていた。

ビートを探す?

ビートを探すっていうのは大事なんです。「リバティーンズ」の連載でも書いたけど、今の音楽の問題点は家で聴くと笑っちゃうようなダンスミュージックが多いということで、例えばクラップがパンッとか鳴っているようなリズムトラックで盛り上がっているようなのはリビングで聴いてたら笑っちゃうでしょ。つまりクラブミュージックがリスニングで機能しない。逆にリスニングで面白いようなものはクラブのサウンドシステムでは満足に鳴らないという棲み分けが定着している。でも、ポピュラーミュージックまで射程に入れると、新しい音楽のスタイルはダンスミュージックからしか生まれないのは明らかです。だからフロアの音楽が保守的だと音楽が更新される可能性は減るんですね。だから「これがビートですよー」っていう分りやすい提示がなくても踊れてカッコイイっていう音楽を作るのはスゴく大事だと思っていて、それはビートが複雑性や快楽性と矛盾しないという状況でもあるのね。ビートを探したくなるっていうくらいの内容を持った音楽がエンターテイメントになっていてみんな踊り狂えるっていう状況は必要なんです、音楽にとって。これはもちろんデジタルミュージックにとってもだけど。この辺はATAKの大きなテーマですね今年の。

それが「ATAK Dance Hall」というイベントタイトルにも繋がっているわけですね。

そうそう。だから楽しみに来てほしいです。あとこのイベントはチケット2000円にしてその代わり、ディスカウントやゲストを一切ナシにしてもらったんです。日本はチケットが高いというのもあって、関係者はタダみたいなのが普通になってるけど、これは結構例外的なんです。大体、コンサートやる度にゲストリストとか作るのが面倒で仕方ないし、あんなことを一番忙しいライブ前にやっていること自体が不毛なので(笑)、クラブイベントくらいそういうのはナシにしたいと思って。なので、踊り初めということでみなさんいらしてほしいです。スゴく混みそうだから早めの入場推奨します(笑)。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎+池上高志 Live at HARAJUKU PERFORMANCE PLUS 2010 撮影:新津保 建秀




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