
TAKAHIRO HIDA | ヒダタカヒロ | Artist, Director
昨年10月、Ron HermanとSLOPE GALLERYの2会場で同時開催されたヒダタカヒロの個展「wave + Circle」。そこには、決して派手ではないが、サーフカルチャーという自身のバックグラウンドと真摯に向き合うひとりのクリエイターの素晴らしい作品群が展示されていた。”いま自分ができること”に忠実に向かい合い、試行錯誤を重ねた末に独自の創作スタイルを獲得したヒダは、PUBLIC/IMAGE立ち上げ当初から、さまざまな企画に参画しているディレクターとしての一面も持つ。そんな彼に、これまでの活動や現在の心境などについて話を聞いた。
Text:原田優輝
物づくりを始めるようになったのはいつ頃からですか?
小さい頃から絵は描いていました。でも、だんだん絵よりも体を動かすことのほうが面白くなってきて、しばらく絵は描いていなかったんです。20代の頃は、サーフショップで働いていたんですけど、自分がこれから先やりたいことなどを真剣に考えるようになり、27歳のときにお店をやめたんですね。そしてまず、自分ができることからやってみようと思い、サーフボードのリペアの仕事を始めました。ちょうどその頃から、自分でイラストなどを描き留めるようになっていきました。サーフショップで働いていた頃から、お店のディスプレイやTシャツのグラフィックなどは少しだけやることもあったのですが、本格的に作品を作るようになったのは、お店を辞めて独立してからですね。
その頃はどんな作品を作っていたのですか?
手描きやコラージュしたものを、コピー機にかけてプリントアウトした作品などを、完全にアナログな手法で作っていました。そういうことをやっているうちに、デザインやアートに興味を持ち始めるようになったのが、今の活動につながるきっかけです。

それまではデザインやアートにはあまり興味を持っていなかったのですか?
10代の頃からサーフィンやスノーボード、スケートボードなどのストリートカルチャーが大好きだったので、それに関連するビジュアル表現などは自然に自分の中に植えつけられていたと思います。ただ、特定のアーティストが好きだったりしたわけでもないし、デザインやアートについて深く掘り下げたことはなかったですね。
作品を作るということだけを考えれば、サーフショップで働きながら取り組むという選択肢もあったように思います。なぜあえて、独立してからそのような物づくりに取り組むようになったのですか?
なぜそういう方向に向かったのかは自分でも不思議なんですけど、独立して何かをやることで生計を立てていかないといけないんじゃないか、という強迫観念のようなものがあったんだと思います(笑)。安定だけを求めるなら、ショップをやめる必要はなかったと思うんですけど、まずは自分ができることから始めて、それを糸口にしていきたかった。それで、サーフボードのリペアというものを基軸にしようと考えたんです。


「今の自分がやれること」に忠実に向き合い、物づくりに取り組んでいくという姿勢が、常にヒダさんの根底にある気がします。
そうですね。僕は、まず自分が描きたいものがあって、それを描いていくというタイプではないんです。普段生活をしていかなきゃいけないなかで、表現にも取り組んでいくという姿勢が、自分に染み付いていると思います。もし、10代の頃から本格的に絵を始めていたら、また違う方向に進んでいたかもしれませんが、僕が描き始めたときはもう27歳になっていましたからね。だから当時は、ただ自分の作りたい作品を作っていくということではなく、主にクライアントワークの中で、オーダーに応じて作品を作っていくという方向に活路を見出していこうと考えていました。
当時はどのような仕事をしていたのですか?
しばらくは、身近なサーフィン関係の仕事で受注されるままにイラストを描いたりしていました。ただ、もともと自分がいたサーフィンの世界というのは、海外からの輸入文化だから、結局その真似のようなところに陥りがちなんです。それがだんだんつまらなくなってきて、もっと広い世界に出ていきたいと思うようになったんです。視覚表現のことをもっと知りたいと思うようになり、色んな雑誌を見たり、ギャラリーなどにも顔を出すようになりました。そういうことをしているうちに、針谷(建二郎)くんと出会うんです。それからよく話をするようになり、2004年に、黒田(潔)さん、(鈴木)ヒラクくん、横山(裕一)さん、佃(弘樹)くんたちに話に行って、「PUBLIC/IMAGE」の前身となった「NWBA」というグループ展をやったんです。DJ KENTAROとAFRAのセッションなどもやったオープニングパーティには、1000人近くの人が来てくれました。これが自分にとっては大きなターニングポイントになりました。

「wave + Circle」at Ron Herman
これをきっかけに、PUBLIC/IMAGEでもイベントのプロデュースやディレクションなどをするようになったんですよね。
そうです。「NWBA」ではスポンサーを集めなくてはいけなかったので、そこで企業に協力してもらえる仕組みみたいなものについて、針谷くんとずっと話していて。そういう企画を考えて、企業とものを作っている人たちをつなげて、何かを動かしていくという体験がスゴく面白かったんですね。それから、そういうことに興味を持つようになっていったんです。
そうした活動は、ご自身の物づくりにも何か影響を与えましたか?
自分が手がけるクライアントワークにおいても、自分で企画書を作って、やりたい仕事を自ら取りに行くようなこともするようになりましたね。そういう部分でも、「NWBA」や「PUBLIC/IMAGE」での経験はスゴく大きかったと思います。あとは、やはり色々なクリエイターの人たちとつながっていくことができたことですね。2005年くらいからサーフィン関連のDVD制作のディレクションなど様々な仕事をするようになるのですが、そのときにも、PUBLIC/IMAGEのつながりで知り合った人に仕事を頼むようなこともありました。

Works for GREENROOM FESTIVAL
現在はFRP樹脂を素材として用いた作品に取り組んでいますが、この手法に行き着くまでの経緯を教えてください。
それまでに自分が作っていた平面作品は、結局ストリートカルチャー好きで自然と目にしていた、海外の色々なクリエイターなどの影響を強く受けたものだったんですね。それを感じたときに、「自分の本当の個性って何だろう?」という壁にぶち当たったです。ちょうどその頃、自分のバックグラウンドであるサーフカルチャー周辺の表現者の人たちが多く参加しているGREENROOM FESTIVALというイベントに誘ってもらったんです。そういうこともひとつのきっかけになり、自分がこれまでやってきたことに立ち戻るようになったのですが、ある時にサーフボードリペアに使用する樹脂を作品に取り入れている人はあまりいないんじゃないかということに気づいたんです。もともと樹脂というのは、自分がサーフボードのリペアで使っていた素材なんです。だから、作業場の足元にはたくさんそれがあるわけです。「なんで今までこれを使わなかったんだろう」と(笑)。それをきっかけに、もともと線画が好きだったので、線画のように毛糸を這わせたり、規則的に並べたりして、最後に樹脂でコーティングするという今の手法にたどり着きました。
この時に初めて、自身のバックグラウンドを、自分にしかできない技法で作品に落としこむことができたと。
そうですね。この技法を使うようになってから、見る人たちが驚いてくれることがとても増えたし、悩み続けてきたことにひとつの答えが出せたような気がしました。PUBLIC/IMAGEなどで多くの表現者たちと会ってきましたが、そういう経験を通して、やっぱりリアリティのある表現にはかなわないということを強く感じていたんです。そこで打ちのめされながらも、自分を再確認していく作業ができていたのかなと思います。



作品制作の工程を教えてください。
まずは木板にアウトラインを引いてカットします。それをやすりで削り、角に丸みを付けた型を作ります。そこに一度塗装をしてから、糊をぬって1本ずつ毛糸を重ねていくんです。このときは形のことを考えずに、色遊びをしているような感覚ですね。そして、最後に樹脂でコーティングし研磨するというのが大まかな流れです。
色使いもとてもビビッドですね。
僕は普段から自然のものを見る機会がスゴく多いのですが、それが影響していると思います。「自然」と言うと、アースカラーなんかをイメージする人も多いかもしれないけど、実は花、魚、太陽など、自然の発色ってスゴイんですよ。本当に「なんでこんな色しているんだろう?」と不思議に思うくらいなんです。自分が使う色というのは、そこから来ていますね。
10月にSLOPE GALLERYで開催された個展では、その手法もさることながら、作品のモチーフが、ご自身がサーフィンをしているときに見ている風景からインスパイアされているということを聞いて、そこにもヒダさんならではのリアリティを強く感じることができました。
そういってもらえるとうれしいですね。2010年は、ありがたいことにサーフィン周りの人たちや昔から付き合いがある人たちに自分の作品を認識してもらえたし、いま少しブームになっているサーフアートみたいな文脈で注目してもらうこともできました。ただ、2011年は、また違うアプローチで、色んな分野の人たちに注目をしてもらえるような場所で、作品を発表していけたら面白いかなと思っています。やっぱり性格的に、サーフカルチャーの中だけでやっていくというのは物足りなく感じてしまうんです。だから、もっと高みを目指して、自分の作品がどこまで通用するかということに積極的にチャレンジしていきたいですね。


「wave + Circle」at SLOPE GALLERY
















