
SHUTA HASUNUMA | 蓮沼執太 | Artist, Musician
電子音楽家・蓮沼執太が多角的な活動を続けている。CDやLPといったパッケージ音源のリリースのみならず、自らもイベントを企画し、ポッドキャストを毎月更新し続け、ライヴではインスタレーションを含むソロ・パフォーマンス、フィジカルな躍動感を携えた「蓮沼執太チーム」、その単なる拡大版ではなく全く別の音楽を生成していると言っていいオーケストラ編成の「蓮沼執太フィル」と、幾通りものアウトプットを見せる。何より驚くべきは、そのどれもがアイデアに富んでいて、しかもジョイフルな音楽をいつも必ず届けてくれるということだろう。新作について、CDリリースを続けることについて、ライヴ活動について。蓮沼執太の頭の中を探る――。
Text:南波一海
新作『THEATRE PRODUCTS 2011 S/S COLLECTION “CAMOUFLAGE”』はファッションショーの音楽ですが、どういうきっかけで作ることになったのでしょう?
まず僕に来た依頼が、既存のシアタープロダクツのイメージや印象をカモフラージュしたいというようなものだったんです。このファッションショーのテーマが「カモフラージュ」だったんですね。「音楽でもそういうことができないか?」と言われて、「シアタープロダクツっぽい音楽のイメージってなんだろう?」と考えて。シアタープロダクツは過去にノエル・アクショテのCDを扱っていたりしたから、ノエル・アクショテのライヴ・アルバムをシアタープロダクツというイメージに置き換えて、それを僕の音楽でカモフラージュしようと思って作りました。
ノエル・アクショテって割とエクスペリメンタルな人っていうイメージがあったのですが。
そうなんですよね。ぼくもデレク・ベイリーとのデュオ盤とかを持っていてその文脈で知っていたんですけど、他の作品も色々聴いてみたらそうでもないんですよ。結構ポップなこともやっている。シャンソンとか。
今回の作品はサウンド的にこれまでの蓮沼くんの音と大きな変化はあるのでしょうか? アイデアのスタート地点としてはサンプリング/リミックスが出発点になりますが。
制作面で言うと、自分専用のサウンドバンクみたいなものがあって、そこからピックアップして作るというのが、この3年くらい続いているんです。今回はそのサウンドがたまたまノエル・アクショテだったという感じですかね。その前に作った『シャンファイ/快快「Y時のはなし」O.S.T』も、大体のサウンドの元があってそこから再構築していったという感じなので。だから今回は特別新しい試みをした、というわけではないですね。とはいえ、歴史のある音楽、しかもライヴ音源から引っ張ってきているわけだから、音の質感とかは今までと違うと思います。

蓮沼執太チーム・快快『Y時のはなし』アフターイベント at VACANT
ノエル・アクショテのライヴ盤のみが素材なのでしょうか?
そうですね。一枚のアルバムから数曲ピックアップして。ショー自体は、元ネタを流していたら急に僕のリミックスに変わるという風にコントロールしていました。
サンプリングも含んだサウンドバンクから作るようになった経緯を教えて下さい。
音楽を始めた頃は、それこそ音をミクロ的に生成するところから始めていたんです。でも続けていくうちにそういうところから、もっと大きな意味で音楽を考えるようになったんです。そうすると、もうあるものから素材を使って、料理するような感覚で。そういう感覚の方がより広がるんじゃないかと思ったのが最初でしょうか。
では必ずしも音素材そのものから作らなくても良いということですか?
そうですね。もうすでにあるものから。あと最近はしていないんですけど、ずっと環境音を録っていたんです。昔、フィールドレコーディング素材をたくさん使っていたっていうのが大きいのかな。抵抗なく使えるというか。自分がやりたい完璧なイメージに近づけて音楽を作る人もいるじゃないですか。僕はあまりそういう気持ちがない。かといって、そこにこだわっていないわけでもなくて、最初のスタートの時点では、目の前にあるものを使ってもいいと思えるという感じですね。


(左)「THEATRE PRODUCTS 2011 S/S COLLECTION “CAMOUFLAGE”」(2011)、(右)「wannapunch」(2010)
蓮沼くんはコンスタントに作品をリリースしています。この時代にCDを作ることについてはどう思いますか?
そうですね。この作品も『シャンファイ』以来なので、6ヶ月しか経っていませんね。でも考えてみると、ちゃんとしたオリジナル・アルバムは2008年の『POP OOGA』から出してないっていうことをこの前ある人に言われて。そういう意味合いでの(オリジナル・)アルバムを作るのは結構大変かもって思っています。
普段から「オファーがあるからやる」というようなことを言っていると思うのですが、そういったきっかけなしにゼロから作品を作り上げていくということへの関心はありますか?
うーん……。2010年のライヴ・アルバム『wannapunch!』を作ろうっていうのも最初は佐々木敦さんからのオファーだったんですよね。スゴい精力的にガツガツやっているよねって言われるんだけど、タイミング良くオファーが来るんですよ。それに対して一所懸命やっているだけなんですよ。
一つひとつのオファーに対してアイデアを考え、面白くしていこうとするとこうなっているだけだと。逆にオファーがなかったとしたら、蓮沼くんはどんなことをするんだろうというのが気になります。
CDを作るというのは特別なことだと思うんですよ。特別な制作のプロセスのひとつだと思います。それはやはり、僕が音楽を始めた時よりもさらに強くなっている。

蓮沼執太チーム+山口崇司(d.v.d)+三浦康嗣(□□□)+ほうほう堂 at 渋谷O-nest
最近はオリジナル作品を作るというモードにはない?
単に作る時間がないというのが普通の答えですけどね(笑)。あとは、ダウンロードが流行る流行らない以前にCDの価値は高いですよ。音楽家が活動していく上でのCD、レコーディング作品という価値はどうしても高いんだけど。それが売れなくなってくると、それは作品が持っている芸術的価値が低くなっているわけじゃないんだけど、やっぱり活動の中でも均質化されてしまうんですよ。そうすると「ライヴか? レコーディングか?」みたいな二元論になっていくんですけれど。そうすると音楽をしていて何が面白いんだろうという風になる。CD作品を作るのが楽しいのか、ライヴしている瞬間が楽しいのか。僕はやっぱり演奏家気質じゃないと思うんです。もちろんライヴは楽しいけど、例えば10人編成のフィルなんて僕以外はほぼプロですよ、演奏の。そういう方たちと僕とでは、演奏に対する意気込みは違い過ぎる。とはいえ、ああやってイベントを作って、集めてコンサートをするとか、ああいうことも制作のひとつだなってやっと思えるようになってきました。「音楽からとんでみる」(※蓮沼主催のイベント)もそうだし。もっと作家がCDとか単なるライヴではない音楽の楽しみ方を作れるような時代にはなってきたなと思っています。
具体的にそのCDとかライヴではない機会というのは?
それこそファッションショーの音楽とかですね。純粋に共同作業としての音楽を作れるようになってきたと思います。
CDやいわゆる普通のライヴ以外の方向でも蓮沼くん自身のなかで制作と同じような楽しみ方を見つけられるようになったということですか? CDの価値が高かったら多分ずっとレコーディングしていると思うんです。そういう行為はせずに。自分のプライオリティはあるにせよ、世間一般で相対的にCDの価値が下がっているから、他でも面白いことをやろうと思うのでしょうか?
やろうという気になっている。それは僕の中での環境と僕以外の外の環境の交差がもちろんあるんですけど。だからその分もっと多様でいいと思うんです。CDとかダウンロードというソフトのフォーマットひとつとっても。色々あった方がより楽しめるんじゃないかな、と。

Perfomance at HARAJUKU PERFORMANCE+

Perfomance at SPECTACLE IN THE FARM
今年1月の蓮沼執太フィルのVACANTでの公演は、ご自身としても手応えがあったと思います。フィルの今後について話を聞かせて下さい。
フィルは自分にとって特別なものでいいという編成なので、例えばロック・バンドのようにフィルで地方遠征に行くぞ、みたいなことは考えていないんです。本当に年に1回とか。
さっきの話ではないですが、フィルにオファーがあったらどうします?
どうでしょう。ただあの編成は本当にスケジュールを合わせるのが大変なんです。実はですね、フィルだけじゃなくて蓮沼執太チーム(※5人編成のバンド)も大変なんですよ。皆プレイヤーとして引っ張りだこだから。だから、ここ最近はチームのライヴもできていないんです。オファーがあってもスケジュールが合わない。けどそれも受け入れるべきだと思っています。メンバーに無理矢理スケジュールを合わせてくれということはしたくないし、しない。
もっとやりたいとは思わないですか? ミュージシャンとしてライヴするのは楽しいとか、気持ち良いとか普通にあるわけじゃないですか。
楽しいですよ。ライヴって例えば1時間だとするじゃないですか。そうするとその1時間の中でギュッと楽しい。それだけ感動のダイナミクスがあると思うんです。でも作品の制作にしても、例えば1ヶ月間の制作期間だとすると、そのなかに緩やかに感動があるんですよ。それが1時間にギュッとなったら同じくらいの感動なんだと思います。だからどちらも同じかなと思っています。


蓮沼執太フィル・ニューイヤーコンサート2011 at VACANT
フィルが録音に発展するということは考えていないのですか?
それは考えていないですね。でも、実はあのライヴはDSDで録音しているんですけど。今のところCDとかは考えていないです。ただ、CDとかそういうアウトプットじゃない発表の仕方はあるのかもしれない。
それは配信ということ?
いや、例えば上映とかですね。見る側も聴く側もがんばるようなことをしても面白いかなと思っています。
最後の質問です。今後はどうしていこうと考えてますか?
まだなにもないですよ(笑)。(将来の展望を持っていると)本当に勘違いされるから、連載とかして定期的に自分が何を考えているかとかを発表していきたいくらいですよ。やりたいこと……、それこそCDとか配信とかライヴではないアウトプットは確実にあって、そういうことを実践されている方もすでにいるけど、それも僕なりにできると思っているから、そういうことを探っていきたいですね。そういう場も徐々にだけど整ってきたし。ポッドキャスト(「ウインドアンドウインドウズ」)だって純粋に音楽の楽しみ方のひとつだと思っています。メディアが複雑化、多様化しているからこそ色々試せる場がある。それを自分なりに使おうと思っています。
「THEATRE PRODUCTS 2011 S/S collection “Camouflage”」は、4月27日にTHEATRE MUSICAよりリリース予定。
Event Infromation
4/2 「MOTアニュアル2011」サウンドパフォーマンス with 八木良太 at 東京都現代美術館
4/3 「SonarSoundTokyo」 パフォーマンス at STUDIO COAST
4/9 「ANIMA シャガール Release Party」蓮沼執太チームライブ at O-nest
4/16 パフォーマンス at VACANT

「ウインドアンドウインドウズ」公開収録 at SuperDeluxe

Perfomance with Lyota Yagi at 無人島プロダクション











