
EDGAR WRIGHT | エドガー・ライト | Film Director
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)ではゾンビ映画、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)ではポリス・アクションと、既存のジャンル映画にオリジナルの映像センスで挑んできたエドガー・ライト。映画への偏愛や趣味性の高いサウンドトラックのセンスから、“英国のタランティーノ”とも称される彼の最新作は、ブライアン・リー・オマリーのコミックを原作にした『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』だ。プロモーションのために来日したエドガー・ライト監督に話を聞いた。
Text:須永貴子
『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のために、08年に来日したときには、すでにこの企画は動いていたんですね。
実を言うと、この企画には『ホット・ファズ』よりも前に着手していたんだ。04年に『ショーン・オブ・ザ・デッド』の試写会をロサンゼルスで開催したときに、「これを映画化してみないか?」と、第1巻が出版されたばかりの原作を渡された。1ヵ月続いた全米の宣伝ツアーを終えて、英国に帰る飛行機の中でやっと読んで、すっかり虜になりました。原作者のブライアンに連絡を取りながら06年には一稿を仕上げていたんだけど、そこから『ホット・ファズ』にかかりきりになって、この作品に戻ってきたのは07年の夏。着手してから公開まで、6年以上かかってしまった。でも、そのおかげで主人公のスコット・ピルグリムを演じたマイケル・セラを起用できたんだ。
というと?
スコット役は誰がいいかなと思っていた時期に、アメリカのテレビドラマ「ブル〜ス一家は大暴走!」を見て、「スゴいうまい子がいる!」と思ったのがマイケルだったんだ。ただ、当時彼は15歳だったので、スコット役には若すぎた。そこからクランクインまで約6年かかったおかげで、マイケルがスコットを演じるのにぴったりの年齢になったんだ。

『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』
そのスコット・ピルグリムが、好きになった女の子ラモーナの元カレ7人と、まるでビデオゲームのように戦うアクションシーンがこの映画の大きな見所ですね。
ブライアンはスコットのことを「頭の中で映画のヒーローになっているヤツ」と表現している。僕の目線はそれを映画化することだった。20代の登場人物たちが人生で経験してきたことは、ニンテンドーと共に過ごした膨大な時間に完全に影響を受けている。だからこの映画の中では、些細な対立が、死闘によって解決される。ラモーナは新しいボーイフレンドであるスコットに、7人の元カレが次々と決闘を挑むという呪いをかけられている。高嶺の花をめぐってこれまで多くの男たちが幾多の困難を乗り越えてきたけれど、スコットも新しい彼女をゲットするために文字通り戦うことになるんだ。
撮影に5ヵ月もかかった理由のひとつに、僕が自分でアクションを監督したということがあるんだ。普通はアクション監督を立てて、アクションシーンは別のチームが撮ったりするものなんだけど、今回は俳優が自分でアクションをする比重が多かったこともあって、自分で演出をしたかったんだ。
1つの格闘シーンにおよそ何日かかりました?
VFX処理を入れる前の純粋な撮影だけでだいたい10日くらいかな。ゲームで言うラスボスにあたるギデオン(ジェイソン・シュワルツマン)との格闘シーンが最長で、約2週間かかりました。あそこはピラミッドのようなセットを組んで、その頂上にあるあまり広くはないスペースで4人が戦っているから、スタントの振り付けも大変だったんだ。
監督がこの原作ものを引き受けた理由として、アクションシーンを演出できることが魅力だったのですか?
アクション映画、特にマーシャル・アーツが大好きだから、間違いなくそれがひとつの理由です。あと、主人公のスコット・ピルグリムが友だちとバンド活動をしているという設定なので、音楽を映画の中にたくさん盛り込めることも、音楽ファンとしては魅力だった。加えてコメディ、ロマンス、ファンタジー、青春映画の要素もある。それらを1本の映画でやれることにやりがいを感じたんだ。

『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』
アクションシーンの参考にした映画はありますか?
二人目の元カレ、アクション俳優のルーカス・リー(クリス・エヴァンス)と戦うシーンでは、ジャッキー・チェンにオマージュを捧げています。今回、アクション指導をしてくれたブラッド・アラン(スタント・コーディネーター)とチャン・ポン(格闘コーディネーター)は、ジャッキー・チェンやジェット・リーと仕事をしてきた人たちなんだよ! アクションシーンのコンセプトにおいては、ミュージカルを参考にしています。突然感情を歌い出すミュージカルのように、この作品のなかでキャラクターたちは突然バトルを始めてしまう。そういう意味では、ボブ・フォッシーものも参考にしているといえるかな。僕らはこの作品をミュージカル風アクションの意味で“ファイトジカル”、ジョン・ヒューズ的青春コメディとカンフーの合体の意味で“ヒューズ・フー”と呼んだりしていたんだ。
監督のオリジナリティは、編集と音が織りなすリズムにあると思います。アクション・シーンでももちろんのこと、例えば、ヒロインのラモーナがトイレで手を洗ったり、主人公のスコットが靴を履いて家から出たりといった他愛のない場面でも、編集と音でリズムを作ることで、監督らしさが刻まれて、印象的なシーンに変わる。だから、ゾンビもの、ポリス・アクションもの、そして本作と、ジャンルが変わろうが原作ものだろうが、「エドガー・ライト作品」になっているように思います。
まさに、編集のリズムには一貫したこだわりを持っていると思う。ディテールとリズムは自分が執着する部分でもあって、映像の完成型をイメージした上で、その日に何を撮るかを全部細かく準備してから撮影に臨むんだ。撮った素材を編集してくれる編集者たちとも、常に密接に作業をしているよ。『ホット・ファズ』で編集をしてくれたクリス・ディケンズは後に『スラムドッグ$ミリオネア』の編集でアカデミー賞を獲っているし、今回編集をしてくれたジョナサン・エイモスとポール・マクリスもこの作品でアメリカ映画編集者協会賞にノミネートされた。これだけ時間をかけて一緒に仕事をした人が注目されることは、僕にとってもうれしいことなんだ。

そしてサウンドトラック! ものスゴいメンツが揃っていますが、すべて監督がリストアップしたんですか?
僕とナイジェル・ゴッドリッチのコンビネーションによるものだよ。ナイジェルが連れてきてくれたベックが、劇中に登場するスコットのバンド「セックス・ボム・オム」の曲を、物語の展開に合わせて書き下ろしてくれたんだ。あと、僕はコーネリアスの大ファンだから絶対に参加してもらおうと最初から決めていて、5&6番目の元カレであるDJカタヤナギ・ツインズ(斎藤慶太、斎藤祥太)がプレイする曲を作ってもらった。原作がカナダのトロントが舞台だったから、カナダ出身のバンド、メトリックやブロークン・ソーシャル・シーンにも劇中に登場する他のバンドの曲を書いてもらった。ダン・ジ・オートメーターにオファーしたのは、以前に会った縁から。その他、原作に登場する曲に加えて、僕の好みでブルートーンズやT・レックス、フランク・ブラックの楽曲を使ったんだ。最高だよね、このサントラ(笑)。
最高です! ただ、映画においてはその最高の楽曲をフルに使うことはできませんよね。監督独特の編集によって、ある意味、ズタズタに切って使うこともある。音楽を愛する監督にとって、それは遊んでいる感覚なのか、それとも罪悪感を伴うものなのか、気になります。
音楽と映像を編集する作業は、ものスゴく楽しい作業だよ。サントラでフルバージョンを聴いてもらえるから、罪悪感は、まあ、ないかな(笑)。この映画の出来映えには本当に満足しているけれど、楽曲をフルでかけられる編集ができるならどんなに幸せかなって思うよ。ベックやメトリックの曲のようにフルバージョンで録音してあるけれど一部しか使えていないものに関しては、ちゃんとDVDに入れたいなと思ってるよ。
昔からコーネリアスのファンなんですよね?
うん。ライブにも10回近く行っているし、08年に来日したときには直接会ってこの映画の楽曲をオファーもしました。コーネリアスが担当したのは、カタヤナギ・ツインズがプレイする音楽で、劇中で、ベックが楽曲を作ったセックス・ボム・オムの曲とライブハウスでまさに対決する。コーネリアスが『Fantasma』で初めて欧米で紹介されたとき、「日本のベック」という表現のされ方だったんだ。全然違う音楽なのにね(笑)。だから今回、自分の中では「BECKとJapanese BECKの対決が実現した!」と楽しんだよ。

『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』
本作で、監督は初めてカナダで撮影をしていますね。
原作の舞台がトロントなんだけど、とにかく細かくトロントの様子が描かれているんだ。ビックリするくらいリアルなロケーションを使って、ファンタジックな物語が展開している。ディテールが細かいことは僕にとってありがたい贈り物だった。それを発射台にして、自分らしさを加えていった感じかな。
作品と撮る場所の関連性についてはどう捉えていますか?
その作品の舞台がどこかによるけれど、インターナショナルな映画作りにはトライしていきたい。そういう意味ではヒッチコックのように、自分のビジュアルやユーモアのセンスといったパーソナリティや、文化的なアイデンティティを失わない映画作りをしたいと思っています。
監督は、スティーブン・スピルバーグの監督作『タンタンの冒険/なぞのユニコーン号』に共同脚本として参加するなど、映画界の“勝ち組”街道を歩いているように見えます。『スコット・ピルグリム』で言えば、元カレ軍団のラスボス、ギデオン的存在に近づいている。でも、監督の作品は、世間とちょっとズレていたり、ダメさをもった人間が主人公だから魅力的です。今後、勝ち組の映画を作るようになってしまうのではないかと心配です……。
アハハ(笑)。僕が生まれ育った街は『ホット・ファズ』を撮影した土地なんだけど、本当に田舎だったんだ。しかも裕福な家で育ったわけでもないし、映画界になんのコネもなかったしで、若い頃の僕は、ギデオン的な存在を敵と見なすタイプだった。最近はありがたいことに映画を撮る環境に恵まれてきているけれど、だからといって、自分の根っこの部分は変わらない。これからも、どこにでもいるような人間が、意外性をもって勝ち上がっていくような、アンダードッグの物語を撮りたいと思ってる。自分自身、そういう作品に何よりも惹かれるからね。
Information
『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』は、4月29日よりシネマライズ他にて全国順次公開。














