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BATTLES | バトルズ | Musician

「シェイフル」と呼ばれるジャーマン・テクノのユニークなリズム・パターンを取り入れた「Atlas」収録のファースト・アルバム『Mirrored』が全世界でいきなりのブレイクを果たした米国バンド、バトルス。その後のワールド・ツアーを経て、彼らを襲ったのはヴォーカル、ギター、タイヨンダイ・ブラクストンの脱退だった。しかし、その後、3人編成での活動続行を決めた彼らは、ヴォーカリストに80年代シンセ・ポップの先駆者、ゲイリー・ニューマンとミニマル・テクノ・クリエイターのマティアス・アグアーヨ、そして、ブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノとボアダムス山塚アイをフィーチャーした新作アルバム『Gloss Drop』を完成させた。果たして、マス・ロックと形容される彼らの音楽性は、本作でどのように進化したのか? ベーシストのデイヴ・コノプカに話をきいた。

Text:小野田雄


前作から4年。その間の活動はライヴ中心だったと思うのですが、そうしたパフォーマンスの手応えはいかがでした?

まず、『Mirrored』というアルバムは自分にとって成果を出せた、一人前のミュージシャンになったと初めて実感できた作品だった。だから、「自信を持って世界に発信出来るぞ」とは思っていたんだけど、あれほどの反響を呼ぶとは想像していなかった。そして、そのライヴも予想以上に反響が大きくて、興奮したのを覚えてるよ。エキサイティングな体験だったし、あんなに良い反応をもらえたのは本当に最高だった。なにせ、あれだけツアーで世界中を回ったわけだからね。そうした状況に辿り着くまで、ライブで最高の演奏ができるバンドと、スタジオでレコーディングができるバンドの2点を行き来しながら、かなりの労力を費やしたことを思うと本当に感慨深いよ。そして、同時に新曲を書いたり、それをライブで試してみたり、『Mirrored』とそれにまつわるライヴのすべてが素晴らしい、最高の体験だったね。

特に前作は日本で圧倒的な支持を集めたアルバムでしたが、その理由を自己分析すると?

まず、あの作品は実験的であると同時に、タイプの異なる音楽を組み合わせたアルバムだったと思うんだ。そして、「Atlas」のような、一般的なポップ・ダンスチューンとしてアピールできる曲もあったし、何も考えずに聞いて楽しめる、あの曲のおかげでアルバムの間口を広げることができたというか、作品トータルのバランスが良くなったと思うんだ。僕たちの日本人の友人で、エンドウさんという人物がいるんだけど、彼がある時、「バトルズは日本庭園のようだ」と言ったんだ。「日本庭園における計算された物体の配置や間隔などがバトルズの核となる要素と同じだ」って。いい喩えだと思ったよ。結構当たっていると思うし、僕たちの音楽は実験的な音楽として、時に抽象的な部分があるからね。それから、日本の観客は新しいものに抵抗感がないと思うんだ。例えば、日本のアディダスの店に行くと、NYのアディダスでは見られないようなクレイジーで実験的なデザインのシューズやジャケットが並んでいる。そういう日本のリスナーの資質が僕らの音楽と共鳴したのかもしれないね。


そうした前作の成功が、今回のアルバム制作においては大きなプレッシャーになったのでしょうか?

そうだね。前作からの大きな期待があったから、どこから始めて、どこへ向かえばいいか分からなかった。だから、とりあえず、アパートに機材をセットして、毎朝起きたら、まずはコーヒーを買いに行って、戻ってきたら、サウンドの実験を始める。そんな日常的な作業をとにかく記録し続けながら、新しいサウンドのアプローチを模索していったんだ。僕らはループやサウンドを何重にも重ねていくから、そういうトライアルがなによりも大事なんだよね。ただ、ループを作って満足するんじゃなく、それをどうやったら新しいものにできるか。それだけを考えながら延々と作業を続けたんだ。それが制作の初期段階だよね。それが時間の経過とともに完璧な音の彫刻を掘り出すために粗い所を削っていくような作業になっていった。つまり、サウンドの土台となる基礎的なものを作っていく最初の作業から、それを再解析、再解釈していく作業への移行だよね。そうしたレコーディングの過程では、一生に一度しかないようなひらめきもあったし、そうした瞬間と出会うための試行錯誤も楽しかったよ。

ただ、音の彫刻を彫っていきながら、バンドはタイヨンダイ・ブラクストンの脱退に見舞われます。その後の作業はどのように進めていったんですか?

人間、どんな状況でも自分にコントロールできない事が起きてしまった場合、「これで良かった」と思える視点を見つけなければならないと思うんだ。何事も起こるべくして起こる意味があるはずだからね。そんな最中にタイヨンダイが脱退して、アルバムを今までとは異なる側面から見直すチャンスを与えられたんだ。当時の僕らはとにかく彫刻を削る作業を続けていたんだけど、ゴールが見えなくて、その音の彫刻が壊れることはなかったものの、粗い部分が削り取れない、そんな状況にハマってしまっていた。そんな時、持ち上がったタイヨンダイ脱退の話は、もちろん僕らを慌てさせたよ。なんせ、バンドとしての自分たちを改めて見直さなければならなかったからね。そのストレスやプレッシャーたるやハンパじゃなかった。でも、僕らを取り巻く状況は、タイヨンダイ脱退という試練を受けて立ち、3人組の新しいバトルズとしてアルバムを作り直そうと決めた時点でポジティブなものに変わったんだ。削っても削っても、これというものが何も見つからず途方に暮れていた僕らは、タイヨンダイ脱退後に息を吹き返した。そして、最終的には全てを組み立て直して、『Gloss Drop』は完成させたんだ。完成したアルバムを前に、過去数年の僕らの身に起こった事に対する後悔は何一つとして浮かんでこないよ。「壁を崩す」っていう表現があるけど、今回のレコーディングにおける僕らは、立ちはだかった壁をすり抜けて、向こう側に出たって感じ。今はそんな気分だね。

メンバー脱退や前作の成功を受けたプレッシャーなど、相当ヘヴィーなシチュエーションだったと思うのですが、完成した作品は、開放的なラテン・フィールが盛り込まれていたり、ハッピーなヴァイブが感じられるアルバムですよね。

そうだね。このアルバムに込められているのは、ここ数年の僕らに起こったことについて、めそめそした気持ちではなく、違う視点から見てみたり、分析したり、何かを見つけようっていうポジティヴな気持ちだね。「こんなに大変だったんだよ」なんていうアルバムは出したくなかった。そんなの聴いて落ち込むだけだろ? 状況的に今回のアルバムはそうなっても不思議じゃなかったんだけど、今聴いてみると、それぞれがため込んだ苦しみやストレスがポジティヴなものに変換されているし、ハッピーで自由な気持ちにしてくれるサウンドにあふれているよね。今回の作品は、作った自分たちにとっても、新鮮な空気を深呼吸した時のような気分になれるアルバムなんだ。僕たちのエネルギーが凝縮されて、ストレスのはけ口でなく理想のアルバムになってほしいっていう思いが込められているし、実際の制作過程で、そうしたストレスが解消されていった結果、残ったのは楽観的で楽しい気分にしてくれるようなサウンドだったんだよ。そして、そこで聴き取れるラテン系のノリは意欲的なリズムのトライアル、僕たちの遊び心から自然に生まれたものだったんだ。


前作のレコーディングは、それぞれのパートのアイデアを壁に貼った紙に書き込んで、それをさらに深く突き詰めていく作業を通じて、作品を完成させたそうですが、今回も同様の作業を経て完成したのですか?

今回もその手法を試してみたんだけど、なぜかしっくりこなかったんだ。最初は3人が同じスタジオのブースに集まって、一緒に演奏しながらアレンジしていこうっていうことになったんだけど、その後、もっと集中力を高めようということになって、それぞれが別の部屋にこもって作業することにしたんだ。そして、出てきたアイデアを3人で持ち寄って、それをパソコン上でバンドアレンジに昇華していったんだんだけど、要するに壁に貼った紙からパソコンに移行したということだね。作業をデジタル化したことで、進行は飛躍的にスムーズになったよ

バトルスの音楽は、曲のストラクチャーを常に意識させますよね。たとえ、それを壊す場合でも、あなたたちの音楽はストラクチャーを意識した解体作業であるように思いますし、今回、採用したハードディスク・レコーディングではデスクトップに映し出されるタイムラインがストラクチャーを意識した作業を容易に、そして更なる進化へと導いたのではないかと思うのですが。

全くその通りだね。今回はそれぞれが持ち寄った楽器のファイルを重ね合わせて、さらにそれを部分的に動かしたり、ループさせながら、絶えず曲のストラクチャーを変化させていったんだ。その作業は3人で一度に演奏するより、コンピュータを用いた方が遙かに簡単だし、いつもとは異なるアイデアも生まれてくるからね。例えば、3曲目の「Futura」では、僕が9つのパーツを提示したんだけど、イアンも9つ、そして、ジョンは9つのビーツを持ち寄って、それをエンジニアと一緒にパソコン上でバンド・アレンジへと組み上げるにあたって、パーツのつなぎとなる部分をジョンのドラムで補ったんだ。それから4曲目の「Inchworm」では、まず、僕がベースを弾き続けた2時間のジャム・セッションを4分にチョップしたんだけど、そのベースのループにエフェクトをかけ続けて、それが曲中でどんどん変化していくような音源を提示して、そこにジョンがビートを加えて、さらにイアンがメロディを付けたんだ。そうやって、今回はコンピュータの可能性を最大限に活用したってわけ。とにかく遊び心を忘れずに、やりたいことがあったら何でもやってみようっていうことがテーマとしてあったし、そうした状況で自分の潜在能力を最大限に引き出すことも常に意識したよ。


レコーディングは前回に引き続き、ロードアイランドのマシーン・ウィズ・マグネット・スタジオで行われたんですよね。このスタジオはギャラリーが併設されていたり、非常にユニークな場所だとうかがっているんですが。

そうだね。メイン・エンジニアのキース・ソウザが立ち上げたスタジオで、ライヴルームのなかにコントロール・ルームを設けて、その中で彼が作りたいと思う音を作れるように間取りが計算されているんだ。そして、ギャラリースペースは巨大なものが2つあって、そこではエキシビジョンが行われているんだけど、ライヴルームともつながっている空間なので、インパクトの大きい音をレコーディングしたかったら、全ての空間を開放して、そこに立てたマイクで響きの良い音を録音することもできるんだよ。そして、今回のようなレコーディング手法では、通常、バンドが渡した素材をエンジニアの論理に従って編集したり、エフェクトをかけたりするんだけど、今回のキースは、まず僕らの音を録ったら、それをプロツールスに入れて、その音を分解し直して、そこにエフェクトを加えたり、エンジニアリングの作業を行ったことで音質も素晴らしいものになったと思う。そんなわけで彼と彼のスタジオは、今回のアルバムにおいて、ホントに欠かせない重要な要素だと言えるね。そんな彼のスタジオに、僕らは6ヶ月間寝泊まりしたんだけど、その滞在中にスタジオで飼う子犬を買ったり、毎日、大酒を飲みながらの本当にイカレた作業だった。だって、スタジオに入った時は40度近くあって、Tシャツと短パンだったのに、スタジオを出た時は、吹雪のなか、マフラーにジャケットっていう冬服だったんだぜ!

はははは。そして、今回の作品はフィーチャーされているヴォーカリストのラインナップも実にユニークですよね。特にゲイリー・ニューマンの起用には本当に驚かされました。

元々はジョンとイアンがゲイリー・ニューマンのファンだったんだけど、参加してもらうヴォーカリストについて考えていた時、思いっきり夢のような人物を挙げていくなかで、彼の名前が出てきたんだ。とはいえ、いくら何でも参加してもらうのは無理だろうと思っていたんだけど、渡した曲を彼がスゴく気に入ってくれた上に、彼のマネージャーがバトルズのファンだってことを知ったときはうれしかったね。ただ、ヴォーカルのレコーディングはほとんどの曲が完成した時点で、誰がどの曲に合うかを選んで進めていったし、複数のボーカリストをフィーチャーしつつも、全曲にボーカルを付けるつもりはなく、要所要所に散りばめ、後はインストを聴かせたかった。また、そういったヴォーカル曲もバランス良く聴いてもらいたかったから、カズ(・マキノ)やゲイリーのようなボーカリストとポップな面を試してみながら、(山塚)アイやマティアス(・アグアーヨ)のように予想がつかないことをやりそうなヴォーカリストにもお願いしたんだけどね。


ちなみに今回のレコーディング期間はどんな音楽を聴かれていたのですか?

普段、レコーディングの時期は他の音楽は聴かないようにしているんだ。モチベーションが下がったりするし、色々考えすぎてしまう時もあるからね。そんななかでも、ピンク・フロイドの『Ummagumma』は良かったな。意外に思うかもしれないけど、ピンク・フロイドは大好きだよ。ただし、初期の作品に限っての話だけど(笑)。あとはレコーディングが終盤に近づいてきた頃、カニエ・ウェストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』が出たから、それは結構聴いていたね。あとは今回の作品がセカンド・アルバムということで、色々なバンドのセカンド・アルバム、特にトーキング・ヘッズの『More Songs』は面白いなと思って楽しみながら聴いていた。後は、トム・トム・クラブとか(笑)、グレイス・ジョーンズの『Island Life』、それとKompaktみたいなダンスミュージックに『Ultimate Break & Beats』みたいなブレイクビーツのコンピレーション、オハイオ・プレーヤーズの「Love Rollercoaster」が入っているようなファンク系のコンピレーションなんかだね。

テクノといえば、前作の「Atlas」はジャーマン・テクノがグラム・ロックから拝借した「シェイフル」(シャッフル・リズム)を再びロックフィールドに引き寄せた、画期的なアイデアの曲でしたよね。今回、ダンスミュージックから受けたインスピレーションは何かありますか?

相変わらずダンス・ミュージックのビート・アプローチやループ感に関しては意識的だったんだけど、今回は同時に生演奏出来るライヴミュージックを目指してもいたから、そうした試行錯誤は今回の特徴だよね。例えば、1曲目の「Africastle」なんかは、ハウスっぽいリズムでありつつ、3つのベースラインをフィーチャーしてるし、4曲目の「Inchworm」はレゲトン・ビートを意識したりとかね。

それから、5曲目の「Wall Street」のベースラインはグランドマスター・フラッシュの「White Lines」を彷彿とさせますね。

ご名答(笑)。あのベースラインは僕のフェイヴァリットなんだ。ちなみに「Ice Cream」のベースフレーズはニーナの「99 luftBallons」っぽいし、ビートはJAY-Zの「Can’t Knock The Hustle」みたいだよね。今回のレコーディングは論理に基づいた作曲を行いながら、同時に記憶の奥底に眠ってる、そういうフレーズを引き出したり、「あ、このフレーズはあの曲っぽいな」と思わせる色んな要素を意識的に盛り込むことも大切だった。だって、今のリスナーは色んなジャンル、古いものから新しいものまで幅広く聴くだろ? だから、世界の6大陸のもとになったパンゲア大陸のように、僕らは色んな音楽要素を一つにまとめたパンゲア・ミュージックを作ったってわけさ(笑)。

そして、そんなアルバム一枚から受けた印象として、アルバム・タイトルの『Gross Drop』に象徴されているように、例えば、リップグロスのような、ある種の女性的な柔らかさが作品から感じられました。いかついバトルズの3人がこういう感覚を表現しているところが非常に興味深いですね。

前作はループやエコーをヘヴィーに使った結果、ダークで角ばった金属的なイメージの作品だったのに対して、今回は、丸くて軽やかな、もっとハッピーで自然体な作品にしたかったんだ。男性的なイメージから離れて、ソフトで繊細な、女性的なタッチも出したかったし、それでいて、洗練されすぎてなくて、もっと踊りやすく、心で感じられるアルバムにしたかったんだよ。そして、結果として前作以上にこの作品は僕たちの感情を表現しているんじゃないかな。なんせ夏から冬にかけて、頭がおかしくなりながら、3人とも前作以上に延々と感情を注いで作ったアルバムだからね(笑)。

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