loading...

PUBLIC-IMAGE.ORG

Creators Dictionary for Realtime Culture

  • PUBLIC-IMAGE.STORE
  • PUBLIC-IMAGE.3D

SOJIRO KAMATANI | 鎌谷聡次郎 | Music Video Director

先日リリースされたオオルタイチ「Futurelina」のミュージックビデオは、もうご覧になっただろうか? アウトサイダーアートをも思わせるプリミティブなタッチで描かれたイメージが次々と展開し、圧倒的な生命力を持って迫ってくるこのアニメーション作品を手がけたのは、若手映像作家として日増しに注目度が高まっている鎌谷聡次郎だ。偏執的とも言える膨大な手仕事を積み重ね、観る者に有無を言わせぬエネルギーを作品に刻み付けていく彼に、映像表現に対する思いを聞いた。

Text:原田優輝

映像制作を始めたきっかけを教えてください。

高校の時にバンドをやっていたのですが、演奏だけでは飽き足らず、家にあったHi8でバンドのミュージックビデオを撮ったのが最初のきっかけです。当時はまだPCも持っていなかったので、Hi8とアイワのビデオデッキを駆使して作りました。それを深夜にバンドの友達の家に持って行ったら、家が揺れるほど大笑いして喜んでくれたんですね。その後もそうした反応があるたびに、自分の中で何かが生まれるような快感があって、映像の面白さを感じるようになりました。

その後は本格的に映像制作を学ぶようになったのですか?

いえ、その時はすでに美容師になるつもりで、美容の専門学校に進むことが決まっていたんです。専門学校では、モデルの髪の毛に墨汁を染みこませて寝てもらい、その痕跡を写真に撮った作品で学内のヘアメイクコンテストでグランプリをもらったりして、どんどん調子に乗ってひとり違う方向に進んでいました(笑)。その後美容師にはなったのですが、やっぱり何かが違うと感じ、すぐに辞めてしまったんです。それで、貯金を持ってひとりでチェコに渡ったんです。


なぜチェコだったのですか?

当時僕は田舎にいたこともあり、情報がほとんどなかったんですね。そんな中でたまたま友人に(ヤン・)シュヴァンクマイエルの存在を教えてもらって、作品を見て衝撃を受けたんです。そういうこともあって、(チェコに行けば)もしかしたら弟子入りできるかもしれないという考えも少しありました。実際は本人にも会えず門前払いになっちゃったんですが(笑)。それ以外は本当に何も考えずに行ったので、着いて3日くらいは泊まるとこすらなくて、野宿をしていました。そうしたら親切なチェコ人が泊まるところを紹介してくれて、アパート暮らしを始めるようになったんです。

そこではどのような生活を送っていたのですか?

結局3ヶ月くらいいたのですが、その間にチェコやハンガリーの色々な場所に行きました。ある時に、プラハの前衛的なイベントスペースを見つけて、夜な夜なそこに通うようにもなりました。そこで色々な表現に圧倒されて、だんだん嫉妬のようなものを感じるようになり、自分も何かやってみたくなったんです。その時に、高校時代に作ったミュージックビデオを友達に見せた時の感覚を思い出して、映像をやってみようかなと。

帰国後すぐに映像制作を始めたのですか?

映像をやりたいという漠然とした思いはありつつも、どう表現したらいいのかわからず、それを模索する日々が続きました。チェコにいた時に、スゴく感動的な舞踏を見たんです。パンフレットを見ても、「フランシス・ベーコン」という単語しか読めなくて、多分そこから影響を受けたということだと思うのですが、舞踏自体は全然意味がわからなくて(笑)。でも、何か胸がザワめく感じがして、それをずっと引きずっていたんですね。自分もそういうものを作りたいという思いから、新しいヒーロー像をテーマにした映像作品を作ったりしていましたね。

それはどんな作品だったのですか?

自分の体にアルミホイルを巻きつけて、うどんを口にくわえて走るだけで世界を救う「うどんマン」というヒーローに扮した映像作品でした。完成してから、当時いたアパートの住人を集めて見てもらったのですが、みんなポカーンとしていて(笑)。そうやって悶々としていた頃に、友達にオオルタイチさんのCDを貸してもらったんですね。それを聴いた時に、「これだ!」と感じたんです。やっていることとか音の質感とかはスゴく変なんだけど、なぜかポップで、聴く人の扉をこじ開けて、その中で好きなことをやっている感じがしたんです。それで、一方的にシンパシーを感じて、映像を作ってみようと思ったんです。


当時はオオルタイチさんとは面識はなかったのですか?

即興的なライブを見たことがあったくらいで、面識はありませんでした。映像も頼まれたわけではないので、予算も当然なくて。そういう事情もあって、ひとりでも低予算で作ることができるアニメーションをやってみることにしたんです。いざ作り始めてみると、スゴく大変だったのですが、楽しくて止まらなくて。2ヶ月くらいで「Beshaby」という曲のミュージックビデオを完成させました。

アニメーション制作の経験はまったくなかったのですか?

はい。パラパラマンガ的な感覚で、一枚ずつ絵を描いて、それをデジカメで撮るということを、納得がいくまで繰り返していきました。それを知人を通じて本人に渡したら、電話がかかってきて、スゴく良かったと言ってくれたんです。そこで道が開けた感じはありましたね。

すでにこの作品から、鎌谷さん独自のタッチによるアニメーションが展開されていますね。

単純に絵が下手というのが大きいですが(笑)、縄文土器のようなプリミティブな質感と即興性は目指しているところでもあります。あと、昔からアロイーズ・コルバスというアウトサイダーアートの作家が大好きなんです。普通表現というのは外に向けて発信していくものですが、彼女の場合は、個に固執して内面に入り込んでいくことで、結果的にそれが裏返って、宇宙に繋がっている気がして、それが自分にとって衝撃的だったんです。それまではひとつのものに執着すればするほど、世界は狭くなると思っていたのですが、逆に固執するからこそ世界は広がっていくんじゃないかと。だから、「Beshaby」では、「なくしそうなものをなくさないために走る金色の男」というテーマだけに執着して作ったんです。ちなみに、実はこの作品にも、例の「うどんマン」が出てくるんですよ(笑)。

「走る金色の男」というテーマはどこから引き出されたのですか?

曲自体に疾走感があって、後半には畳み掛けるような展開もあったので、そこから発想していきました。ただ、いつもそうなのですが、一度テーマを決めると、3つくらい展開のポイントを設定するだけで、あとは自分でも描いてみないとわからないところがあるんです。例えば、「Hamihadarigeri」のときも、最初はモノクロで作る予定だったのですが、製作中に体を壊して、入院してしまったんですね、その時にカラフルな金魚が僕に頬ずりをするという夢を見て、急遽カラーに変えました(笑)。ちなみに、この作品のテーマは、「無限に続く戦いを終わらせるためにかわいいことを想像するレフリー」でした。そんな感じでいつも行き当たりバッタリなので、その時々の僕の心象風景がモロに作品に出ちゃっていると思います。


5分前後の作品の中に、鎌谷さんの膨大な制作と生活の時間が圧縮されているのですね。

そうなんですよ。それこそアニメーションは一秒作るのに1日かかるようなこともありますからね。そういう意味では、アニメーション作品が自分の記録になっている部分もあると思います。

1本のミュージックビデオを作るためにどのくらい原画を描くのですか?

描き方によっても変わるのですが、毎回原画だけでダンボール箱がいっぱいになりますね。やっぱり手描きの場合は、描けば描くほどパワーが出る。例えば、直立不動の男を見せるにしても、1枚1枚積み重ねていくことで、揺らいでいる感じを出したいんです。僕はアニメーションをあまり静止画としてはとらえていなくて、なるべく精霊の宿った生物のようなものとして見せたいと思っています。もうひとつこだわっている部分としては、深みを出すために、原画はスキャンせずに、ライティングをして自分でデジカメで撮影しています。例えば、「挨拶をされたら誰でも気持ち良い」をテーマに作った「Futurelina」でも発光させたライトボックスの上に原画を置いて撮影をしました。それによって、インクが滲み出ているようになり、自分が求めていた質感を表現することができたと思います。


質感へのこだわりは相当強そうですね。

もともとノイズ感というか、荒れた感じの質感が好きなんです。勘違いされやすいのですが、別にヘタウマのようなものを目指しているわけではなくて。TICHYという自作のカメラで女の人ばかりを撮っているチェコのアーティストがいるんです。彼の写真は、ピントも合っていないし、スゴく荒れた質感なのですが、そういう感じがスゴく好きで。テクスチャはハッキリしていないんだけど、「女性を撮る」というテーマに固執しているから、やりたいことは伝わりやすい。そのなかで好き勝手なことをしているからこそ、理解できるような理解できないような不思議な表現になっている。自分もそういう表現をしたいなと。

事前にクライアントやミュージシャンと打ち合わせはするのですか?

仕事にもよりますが、オオルタイチさんとやる時などは、コラボレーションという意識が強くて、僕の好きなようにやらせてくれるので、打ち合わせはせずに、完成するまで一切見せないんです。やっぱり初めて見せた時の反応というのが一番大きいし、それを見たいというのが僕の映像制作の根底にある。だからといって、その反応を予想して作るようなことは苦手なので、とにかく超本気で何かに固執して作っていく。そうすることで生まれる面白さもあるのかなと思っています。

映像と音楽の関係性はどのように考えていますか?

映像を作る時は、その曲の緩急やテンションの高低を重視します。そこに映像を合わせていくのか、むしろ逆に外すのかというところから考えていきます。ただ、たまに微妙に映像と音がズレているにも関わらず、不思議とシンクロするような瞬間があって。それを僕は勝手に「キャメル効果」と呼んでいるのですが(笑)、そういう予期しないところで生まれるビックバンこそが映像を作る醍醐味だったりするんです。たとえば、アニメーションになることで、一枚一枚描いているときには気付かなかった不思議な動きが生まれたり、実写の場合にしても、天候や撮る側、撮られる側の意思によって、意図しないところでいかようにも変わっていくところが面白いですね。

今お話に出たように、実写のディレクションも手がけていますよね。

別にアニメーションだけにこだわっているわけではないんです。アニメーションには常にゆらぎのようなものがほしいと言いましたが、実写でもその意識は同じです。実写の場合は、単に撮るだけでも、そこに流れている空気のようなものが映るので、それはスゴく面白いですね。あと、アニメーションの時には考える必要がなかったライティングや役者の動き、ファッション、ヘアメイクなど、色んなフィルターが入ってくるので、発見もスゴく多いですし、その辺はアニメーションとは全然違う面白さだと感じます。アニメーションのようなパーソナルな表現も大事ですが、実写の方が出せる場所は広いし、その分影響力もあるので、そういうものももっとやっていきたいと思っています。

最後に、今後やってみたいことなどがあれば教えてください。

映画はいずれやってみたいですが、今はまだ2時間分の物語が自分の中にはないんです。だから今のところミュージックビデオくらいの尺がちょうどいい。でも、ミュージックビデオは音楽ありきなところがあるので、逆に完全にオリジナルな作品も作ってみたいなと思っています。実写でも自分のスタイルを確立していきたいですし、実写とアニメーションの隔たりを感じさせないような表現もやってみたい。あと、最近全然動かないアニメーションというものを作ってみたいんです。何も動かないにも関わらず、1000枚くらいの原画からできているアニメーション。見せ方次第では、ファッションなどと相性の良い表現ができるんじゃないかなと思っています。


DICTIONARY

RELATED