
NOSIGNER | ノザイナー | Design Office
人と空間やモノとの関係性や背景など「目に見えない」部分に価値を見出し、社会に機能する無形のデザインを生み出すことを目指すデザインファームNOSIGNER。空間、プロダクト、グラフィックなど様々な領域にまたがるデザイン活動を展開し、国際的にも高い評価を獲得してきた彼らは、3.11に発生した東北地方太平洋沖地震からわずか2日後に、被災地での生活を助けるさまざまなアイデアを集めるデータベースWiki「OLIVE」を立ち上げ、さらなる注目を集めた。デザインの持つ大きな可能性を信じ、社会との接点を探ってきたNOSINGERの代表・太刀川英輔に話を聞いた。
Text:原田優輝
NOSIGNERを始めるまでの経緯を教えてください。
もともと大学では建築を専攻していました。大学院生の頃に、建築学会の学生団体でイベントを企画したことがあったのですが、その時に色々な建築家を呼んで、「そもそも建築とは何か?」ということをテーマにワークショップをやったんです。そこで、人間にとって建築がどういうものなのかということを考えていくうちに、徐々に人間の認知について興味が強まっていきました。そして、それを自分のもの作りの基本姿勢にしようと思ったことが現在の活動につながっています。もちろん表現の部分も大切だけど、そこでどんなコミュニケーションが起こるかということがデザインの本質ですよね。そう考えていくと、建築のような空間を作るのも、目の前にあるテーブルを作るのも大きな差はないんじゃないかと感じるようになりました。むしろ、人との関わり方が近いプロダクトデザインへの興味が湧いてきたんです。
大学卒業後すぐにNOSIGNERとして活動を始めたのですか?
いえ、最初に自分の事務所を立ち上げた時は、まだNOSIGNERとは名乗っていませんでした。仕事を始めて、デザインについて色々知ったり、考えたりしていくなかで、大きなデザインの可能性というものを感じるようになっていったんですね。デザインというのは、僕らが日々当たり前に何かを理解し、工夫し、編集している力のことなんじゃないかと。その流れの中で何かに価値を与えたり、上手いやり方を見つけていくことがデザインで、それはデザイナーという職業レベルの話ではなく、もっと人間の本能に近いようなものだと思うようになりました。そういうことを実現していけるデザインファームでありたいという思いから、NOSIGNERと名乗り、改めて活動を開始したんです。
NOSIGNERの名前の由来を教えてください。
「DESIGN」という言葉は「SIGN」から来ていて、語源的には「記号化すること」がデザインの意味なんです。でも、自分がやっていきたいと思っていたことは、形そのものを作ることよりも、形を利用して、何か面白いことや素敵な状況を作るような仕事でした。それなら僕は、その「無形のデザイン」を作る人になろうと。それで、「見えないものを作る職業」として「NOSIGNER」と名乗るようになりました。僕にとってデザインというのはイノベーションに近いもので、デザインという武器を使って、社会にどんな仕組みを作っていけるのかというのを自分の課題にしています。

MANIATURE CAMPUS
NOSIGNERという名前からは匿名性も強く感じます。個人名を出していくことにも抵抗があったのですか?
そうですね。誰がそれを作ったかということよりも、「このアイデアに気づいていたらどんなに良かったか」と思えるものが、本当に良いデザインなんじゃないかなと。デザイナーの一番大きな役割は、まだ発見されていないけど普遍化できるような視点を見つけ、それを日常の延長にしていくことだと思うんです。そういうものを作るときに、あえて自分の名前を出すということに抵抗があったんです。OLIVEを始めてからは、チーム戦のために必要を感じて個人名を出していくようにはなりましたが、今も気持ちは変わっていないですね。
作り手の作家性だけに頼るのではなく、広い視野を持って社会と関係していくデザインがより求められている時代になっていると思います。一方で、形を作る部分はデザイナーとして必要な能力でもあります。その辺りの関係性についてはどのように考えていますか?
少なくともひとつやふたつはプロとしてのスキルを持っていなければ、仕事はできないですよね。僕は常々、どんな領域にも疑うべき余地はあり、そこに疑問を投げかけていくためには、ただ間違いを指摘するのではなく、新しいものを作って提示することが一番良い方法だと思っています。形にする力があることで、初めてイノベーションを可視化できるんです。僕は、建築以外のデザインの専門教育は受けていないので、一つひとつ自分で勉強してきたのですが、それもそれぞれの分野で職人たりえないと、本当の意味でのディレクターにはなれないと思っているからです。ただ、ひとつの手法や作家性にこだわってしまうのは、デザインにとってマイナスになってしまう。大切なことは、基準値を高く保ちつつ、同時に広い視野を持つということなんです。選択肢を限定するのではなく、新しい選択肢を提供していくことに、これからのデザインの可能性はあるんじゃないかなと思っています。



「HK Gravity pearl」
そうしたデザインへの考え方を象徴するような仕事があれば教えてください。
大阪に和泉という人造真珠の産地があるのですが、そこにある人造真珠メーカーHK(はく)と一緒に「Gravity pearl 」という新素材を作りました。最初は、ジュエリーブランドを作ってほしいという依頼だったのですが、そこにはあまり可能性を感じられなかったので、素材自体をブランド化していくというアプローチを提案しました。人造真珠というのは、言ってみれば天然真珠のコピーなので、そのままでは本物には勝てません。でも、素材のポテンシャルを読み解いて、人造真珠にしかないアドバンテージを見つけてあげることができるんじゃないかと思い、人造真珠の中に磁石を埋め込み、ブレスレットやリングなど自由に形が変えられるアクセサリーを作りました。
素材自体の魅力を再発見し、そこから新しい可能性を引き出していくという考え方ですね。
はい。人造真珠も中国などとの低価格競争で苦しんでいる産業です。でも、他の業種と比べれば価格競争力がないわけではありません。だからこそ、新しい視点を与えることで、状況を変えていけるようなデザインを考えていきました。また人造真珠化の加工では、かなり高度なことをしているのですが、職人さんたちと一緒に方法を考えながら挑戦していくことで、プロジェクトが活性化され広がっていくところがあるんです。NOSIGNERの最初の仕事も、徳島木竹工業協同組合の職人さんたちとのプロジェクトだったのですが、そこでも職人さんたちと話しながら作っていくことで、得られるものがすごく多かった。デザインというのは、個人でやるものというよりも、知恵を出し合って育てていくものだと考えています。徳島のプロジェクトは、現在も「AWA」という家具シリーズとして継続的に進行しています。こちらの仕事でも、これまでの木工産業の領域を拡げていくことで、新しいビジネスモデルまで作っていけるようなデザインを心がけています。


AWA FURNITURE COLLECTION
3月11日に起きた大震災の後、すぐに立ち上げられたOLIVEについても話を聞かせてください。
もともとは、プログラミングの世界で一般化している「オープンソース」という概念を、プロダクトの分野にも適用しようとして進めていた「オープンソースプロダクト」というプロジェクトが原型になっています。建築家やプロダクトデザイナーというのは、自分で最後まで形を作るわけではなく、設計図を作ることが仕事です。その設計図、つまり「ものの作り方」自体はシェアができるはずなのですが、多くのデザインはいま、企業が利益を生み出す仕組みのひとつにとどまってしまっているから、なかなかそれができていない。でも、僕が信じているデザインというのは、もっと大きなものなんです。人間の生活のために、色んな領域のデザインがもっとオープンになることで、例えばデザイナーではない人が、自分の部屋にピッタリ合うテーブルや椅子を作ることだってできるはず。そういうアイデアを収集する場所として、「オープンソースプロダクト」というものを、3年前くらいから考えていたんです。


「OLIVE」
OLIVEのコンセプトや仕組みにも、同じ考え方があるのですね。
そうですね。「オープンソースプロダクト」を進めているところで今回の震災が起こり、これを実地でやる必要性が出てきたんです。情報や物資が不足するなかで、身の回りにあるもので生き残るための知恵が必要になっていて、そこにデザインが貢献できるなら、躊躇している暇はないなと。それで、ペットボトルからお皿を作るアイデアなどをアップし始めたのですが、いざ始めてみると、色んな人がアイデアを出したがっていることがわかりました。OLIVEには、さまざまな個人や団体が、翻訳、イラスト、校正などで継続的に関わってくれています。だから、あまりNOSIGNERがやっているということを言いたくはなくて、僕らはあくまでも編集作業に徹しているという感じです。
社会の中に新しい仕組みを作るという意味では、これもNOSIGNERのデザインと言えるのではないですか?
現在OLIVEは4ヶ国語に翻訳されていて、印刷版、携帯電話版も作っているのですが、色んな手段で被災者にリーチできるものを作るという部分は、たしかに僕らのデザインです。ただ、OLIVEに関しては、自分たちがデザイナーとして関わっているという意識はあまりないんです。自分たちが偶然プロダクトやグラフィックのデザインをしていたからできた部分は大きいですが、OLIVEにとってデザインは道具であり目的ではありません。



「OPEN SOURCE PRODUCT」
普段から続けていたことが、結果として「自分たちにできること」に自然とつながっていったということですね。
そう思います。社会の中でデザインが果たせる役割を考えてみると、色んな選択肢が出てきますよね。それを実現させるためにはなるべく色んな武器を持っていた方がいい。それを総動員して問題を解決するということが、僕らのやっていきたいことなんです。
物事を解決したり、良い状況にしていくことをデザインと考えるなら、やれることはたくさんあるはずで、それは職業関係なくできることですよね。それらは実際に試してみないとわからないことも多いだろうし、失敗してもいいんです。OLIVEもそうですが、とにかくまずは投げてみて、それを選んでもらうというスタンスでいいと思っています。
これからは、デザインをより身近に考えられる環境も必要なのかもしれないですね。
デザインとはデザイナーだけが作るものだけじゃないという前提で、みんながデザインに接していけるようになるといいですよね。デザインというのは、言語と同じようなものだと思うんです。それによって何かを伝えるだけではなく、疑問を投げかける力もある。色々なことが変わらないといけないという状況が見えてきたときに、デザインなら具体的なものを作ることで、そこに疑いを投げかけられる。例えば、原発問題で既存のインフラのあり方を批判することよりも、安くてカッコ良い風車を自分の家につけて、それで電力をまかなえるようになるならそっちの方が具体的だし、それこそがデザインだと思うんです。そういうトライアルはデザイナーだけでなく誰がやってもいいし、失敗したとしても、そこから次のトライアルが始まればいいんです。そういう失敗できる状況を作っていくことも、これからのデザイナーの役割なのかなと思っています。

「SYNAPSE Vol.2」











