
JNTHED | ジェイエヌティーヘッド | Artist
「美少女」や「メカ」などをモチーフにした作品群で、オンライン上のイラスト・コミュニティを中心に、カルトな人気を誇ってきたJNTHED。これまで勤めてきたゲーム会社を出てからは、フリーのイラストレーターとして活躍し、さまざまなイベントにも精力的に参加するなど、活動の幅を広げていた彼が、ついに初個展を開催する運びとなった。開催場所は、カイカイキキギャラリー。所属作家としてのデビュー展に向けて制作に励んでいるJNTHEDを、カイカイキキのスタジオに訪ねた。
Text:原田優輝
昔から絵を描くことは好きだったのですか?
子供の頃からずっとゲームをやっていて、小三の頃からゲーム画面を模写するようになりました。当時のゲームは、単にメモリが足りないから直線で構成されたシンプルな世界になっていただけなのに、子供だからそんなことはわからずに、ゲーム画面の中にこそ究極の世界があるんだと妄想していました。昔から角張った造形が好きで、カウンタックやデロリアンのような、角張っていて遠くまで飛んでいってしまいそうな車なんかが大好きだったんです(笑)。あと、世の中にある曖昧なものに対する批判精神のようなものがあったので、秩序だったゲームの世界に惹かれていたのだと思います。
ゲーム以外で影響を受けたものはありますか?
高校生の頃に「ワイプアウトXL」というゲームをひたすらやっていて、そこで流れていたプロディジーやアンダーワールドの曲の世界観にどっぷり浸るようになりました。その頃から、テクノなどクラブミュージックを聴くようになりました。その後ゲーム会社で働くようになって、クラブにも行くようになったのですが、そこでVJの映像を見ながら音楽を聴いて踊っている時の気持良さや自分の中に取り込んだものを、絵で表現したりしていましたね。


(左) armdroidφ(2008)、(右) OIRAN JUE(2008)

「RANDOM ACCESS MELODY」for AVSS「Reflection of Systems」CD Jacket(2008)
ゲーム会社ではどのような仕事をしていたのですか?
ゲーム会社の中では、やっぱりキャラクターデザインなどの仕事が人気なんですが、僕が一番興味があるのは、システムやフォーマット作りなんです。例えば、RPGで戦闘時に出てくるコマンドのインターフェースやルール付けみたいなものを考えることがスゴく好きで。自分がデザインしたものの中に人々を閉じ込めてコントロールしたり、みんなが遊んでいるところを観察するような感覚が好きなんです。
JNTHEDさんの作品を見ると、それこそキャラクターデザインなど造形的な部分に強い興味を持っているように感じられるので、少し意外な感じがします。
例えば、描き終わった絵にクレジットを入れたり、ロゴを配置したり、トリミングして加工するなど、素材を編集・デザインをしていくことが好きなんです。極端な話、それさえできれば、素材は自分の絵じゃなくてもいいくらい。結局、デザインやインターフェースを作るためには、元になる素材がないとダメで、続けているうちに気づいたらそっちが本職になっていたという感じなんです。

O-BITZ CHAOS ATTRACTOR(2010)

「Gunreel」(2007)
ゲーム会社にいた頃も作品は描き続けていたのですか?
はい。デジタルツールで制作をしていました。作品をネット上で発表するようになると、それを見てくれる人たちも出てきて、そこから徐々に知名度が広がっていったように思います。その後、オンライン上のイラストコミュニティのようなものがメジャーになってきてからは、自分の作品や活動を見られることをより意識するようになり、イベントなどにも出たりしながら、だんだん本気で取り組んでいくようになりました。
JNTHEDさんの重要な活動場所でもあるオンライン上のイラストコミュニティや、それを支えるオタクカルチャー、同人誌文化などについてはどう捉えていますか?
基本的には、オタクがリア充的文化に憧れているという構図だと思います。普通の人たちが普通に楽しんでいるものへの憧れと、「でも俺たちは勝てるぜ」という強がりのようなものが根本にある。冷静にそれを分析していくと、結局自分の甘さや弱さだったりすると思いますが、そこにすら目をつぶってしまっている人がほとんどなんです。僕は、一度負けたことを認めた上で、それでも自分が好きなことをやり続けるためにはどうしたらいいのかということを、そろそろ考えた方がいいんじゃないかと思うんです。彼らには「甘えを捨てるということを受け入れてまで生きる価値があるのか?」という疑問や葛藤があって、みんなその「?」マークを取りたくないだけなんです。今までは僕もそうだったけど、自分に関してはもうタイムアップになってしまったんです。


(左) pixiv girls collection 「future to future」カバーイラスト「Antimario-Ribbonhead」(2009)、(右) Celebrated sword 「KIKU-NO-MOTOYAMA」(c)2010 Konohana Books, Julie Watai All Righst Reserved.


(左)「i know u desire」(2006年)、(右) Princess Kintaro The Origin(2010 / 原案2000)
それが今回の初個展というアクションにつながっていったのですか?
そうですね。これまでは、モラトリアムを抜けてもつまらない荒野しかないんだろうという絶望的な諦めがあったのですが、今は、こうやって変な絵を描いて、それを出力することができたら、実は最高に面白いんじゃないかと思っています。だからこそ、何としてもそれを実現しないといけないという思いで制作に取り組んでいます。展示というのは、ある意味「普通」の行為ですが、作品そのものは絶対「普通」にはしたくない。展示をすることで、作品が普通のものになってしまう場合も多いですが、逆にさらにドライブをかけつつ、仕事としての誠実さもしっかり入れていく。それを両立できる環境を持っているのは、カイカイキキさんしかいないんじゃないかと。
カイカイキキとの出会いについて教えてください。
ゲーム会社を辞めてから、フリーでイラストの仕事などもするようになったのですが、1年も経たないうちに、カイカイキキさんと出会ったんです。村上隆さんの『芸術起業論』は、出版後すぐに買って読んでいて、それをきっかけに、Mr. さんの画集を買ったり、展示を見に行ったりもするようになり、スゴく面白くて救いのある世界がここにはあると感じたんです。いつか自分もそういう活動をしてみたいなと。pixivが主催した「P-1グランプリ」というイベントに審査員として参加した時に、そこに村上さんも審査員として出ていて、そこで初めてお話をさせてもらいました。その後、カイカイキキのスタジオにお邪魔したことをきっかけに、Mr.さんと一緒に初音ミクの絵を描かせてもらうことになり、その時に初めてアナログの作品を描きました。その後の展開としては、小さいものから始めて、徐々に大きな作品が描けるようになればいいなと思っていたのですが、急に夏に個展をやろうという話になりました(笑)。

Nodo Jiman Sapporo! (Feat. Hatsune Miku ) – Tainetsu Virtual Twin Tail MIX, 2011
©2011 JNTHED/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. ©2011 Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. ©2011 CRYPTON FUTURE MEDIA, INC. All rights reserved.

個展のプランについて教えて下さい。
『バイバイ GAME』というのが今回の個展のタイトルです。これまでのモラトリアム状態からの脱却、ゲーム業界を辞めたこと、倍々ゲームでキツくなっていく作業、アートマーケットの売買の世界など、色々な意味を込めたタイトルになっています。特に明確なテーマは設けず、ゲームからスタートし、体制への反発や有り物へのアンチテーゼを原動力に自分が描いてきた世界観を押し出していければと思っています。
お話を聞いていると、既存のものに対する反発や、普通ではないものへのこだわりが強いようですね。
そうですね。ただ、以前は「普通じゃないものとは何か?」ということをよく考えていたのですが、最近はむしろ何も考えずに自然に出てきたものがいいんじゃないかと思うようになりました。本人ですら忘れている部分から勝手に生まれ出てきたものこそが本物のような気もするし、そこには異常さも現れてくると思うんです。だから最近は、自分の中の自動化された部分を信用しています。過去に色々葛藤していたモラトリアム時代のシコリのようなものが僕の中にはあって、それがエフェクターのような役割を果たしてくれるんです。そこにエネルギーを注ぎ込んだ結果出てきたものを、編集していくような感じで作っています。

JNTHEDさんの世界観には、「メカ」や「美少女」というモチーフが欠かせないものになっていますが、これらを表現することはどういう行為なのですか?
昔は色々言いたいことがあったのですが、いまはそこに対する思いもなくなってきているんですよね。おそらく当時は、何も努力もせず成功もしていない自分を受け入れてほしいという甘えやナルシシズム、女の子に対する妄想などに基づいた弱さや悲しさのようなものをアピールしたかったんだと思います。でも、いまはそういう感覚はなく、例えば今回の作品も、単純に昔描いていたものを素材として切り取ってきて、それを編集するようにリミックスしているような感覚がありますね。いま重視しているのは、持ってきた素材の形状やリズムのようなものだったりします。
デジタルからアナログに転向することに抵抗はありませんでしたか?
もし逆にコンピューターを捨てずに甘え続けていたら、40歳くらいまでで終わるだろうなという感覚がありました。当然若い人の方がPCを上手く使いこなせるわけですからね。自分はずっとものを作っていたいし、そうなるともうガチで作っていくところに行かないととダメだなと。アナログの世界では、これまで積み重ねてきたルールや手法がほとんど発揮できないのでスゴくテンパっていますが(笑)、逆にこれまで使ってきたやり方は一切使わないくらいの考えでやっています。唯一デジタルの時と変わらずにやっているのは、ゲーム画面へのこだわりのようなところで、直線的に枠に収めたり、グラデーションによる色の気持ち良さを組み合わせていくような表現ですね。

これまでデジタルとアナログの関係性はどのように考えていましたか?
もともとデジタルで作っていた頃も、CGでいかに手早くアナログの質感を再現するかというところは追求していました。例えば、マスクチャンネルのエンボス機能を使って、ブラシの筆跡が出るようにしたりしてがんばっていたのですが、結局すべてアナログへのコンプレックスなんですよね。やっていくうちに、「俺の方がアナログ感を大事にしてるぜ」というケンカの売り方になっていくのですが(笑)、それはCGをやっている人間の中だけでの争いにすぎないんですよね。そういう経緯もあり、アナログで描きたいという気持ちが芽生えてきたタイミングで、村上さんとお会いできたのも大きかったですね。
実際に手を動かしていくと、物理的な問題も色々出てきそうですね。
単純に大きな作品を描くというだけでもかなり身体を動かすし、ちょっと描いては確認するために引いて見て、さらに写真を撮ってPCに取り込んで問題をチェックし、修正が終わったら報告書を書いて・・・。そんなことをしているうちにあっという間に数時間経ってしまうんです(笑)。あと、お金や場所の問題も大きいですね。画材をはじめすべてのものが物質で、音も出るし、匂いもあるし、お金もかかるし、場所も取る。しかも、最終的には作ったものが売れなければ、それがゴミになってしまう可能性もある。とにかくリスクが大きいんですよね。だから、さまざまな要素をマクロの視点で見ていかないと、コントロールすることができない。PC上であれば、悪い部分だけいいものと取り替えたりできますが、今回はそういう飛び道具的なところに逃げずに、まずは一からしっかり描けるようになろうと。お金も経験値もない僕にとっては、とにかく手を動かしていくことしかないんです。


(左)Evils smug look(2011)、(右)Mechao-R(2011)
絵を描き始める段階から明確な完成図は見えているのですか?
完成図は見えていませんが、絵を見た人がどんな感情を抱き、どういう記憶を残すかというところは明確にイメージしてから絵に落としこんでいくようにしています。僕は、ピカソやブラックのような絵が大好きで、そこにある意味不明さ、反復するパターン、システマチックに自分のルールを管理して、理想的な世界を勝手に描き切っているような自己完結ぶりが楽しいんです。そういう絵を見た時に人が抱くような不可解さや葛藤というものを、僕の作品からも感じてほしい。自分の中には、そういう感情を出力させるための迷路ゲームを作っているような感覚があります。見た人を迷路に閉じ込め、ゲームに参加させ、ミッションを与えて、それを観察したい。そのうちに僕自身もそこに取り込まれて、永遠に答えが出なくなってミイラ取りがミイラになってしまうような、そんな知らぬ間にコントロールされるようなものを、自分でもデザインしてみたいんです。
最後に、まもなくスタートする個展について意気込みを聞かせてください。
今回の展示を見て、今まで僕が描いてきたものに比べて下手になったと感じる人や、以前よりも意味性が薄れたと感じる人もいるかもしれないし、それはある程度予想はしています。でも、今回に関しては、ネットやサブカル文化の中で評価されることは、あくまでも付属的な要素だと思っています。自分がこれまで育ってきた環境に対してそういうことを言うのは良くないかもしれないですが、それでもなお僕がトライしたいのは、プロの意見を取り入れながら、アートの世界でしっかりと売り物として作品を成立させるということなんです。
information
JNTHED初個展『バイバイ GAME』は、8月26日〜9月23日(日・月曜休廊)まで、Kaikai Kiki Galleryにて開催予定。

(左)Oppppppppp Timmmmmmuhhhhhh!!!!(2011)、(右)Princess Kintaro(2011)
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