
AGURISAGIMORI | アグリサギモリ | Fashion Designer
2008年-09年秋冬シーズンに、史上最年少デザイナーとして東京コレクションにデビューした鷺森アグリ。クリエーションそのものよりも、その若さへと話題が集中してしまいがちだった当時から、周囲の声に惑わされることなく、一貫して自己と向き合い、ブランドの世界観を着実に成熟させてきた彼女は、ここ数年、さまざまなコラボレーションワークにも積極的に取り組み、クリエーションの幅をさらに広げつつあるようだ。そんな彼女に、そのバックグランドや創作の源泉、そして現在の心境などについて語ってもらった。
Text:原田優輝
ファッションデザイナーを志すようになるまでの経緯を教えて下さい。
母親がずっとアパレル関連の仕事をしていたこともあり、職業として一番身近だったのがファッションの仕事だったんです。他にも、絵を描いたり、写真を撮ったり、ダンスをしたりと、ひと通り色々なこともやったのですが、それらはあくまでも趣味で、仕事にしようという考えはありませんでした。基本的には何でもやりたいと思うタイプなんですが、その中でも何かひとつ筋が通っているものがあった方がいいなと思っていて、それが私にとってはファッションだったんです。
自分で洋服を作ったりすることもだいぶ以前からしていたのですか?
母親の仕事を少し手伝ったり、遊び程度で自分が着るものを作ったりということはしていましたが、本格的にやるようになったのは、高校を卒業してファッションの専門学校に入ってからです。そこで色々なクリエーションを知ることができて、学んでいくにつれて、服作りの可能性が自分の中で広がっていく感じがありました。


08-09A/W Collection
その後東京コレクションに最年少でデビューされましたが、当時の経緯を教えて下さい。
学生の頃からコンテストなどにはたくさん出していたのですが、自分の近い世代で、スゴいと思う人たちは結構いるんですね。でも、そういう人達でも、自分のブランドを立ち上げようとするとなかなか条件が揃わなかったりして、簡単にはいかない。そういうことを間近で見てきたなかで、まずは少しでも多くの人に見てもらわないと始まらないと感じていたので、最初からショーをやりたいと思ったんです。今考えると甘い部分もかなりあったと思いますが、学校を卒業してすぐにブランドを立ち上げ、それと同時にショーをやりました。最年少デビューということは後で知ったし、気負いみたいなものはありませんでした。幸いなことに母親の仕事の関係で、生地屋さんなど協力して頂ける環境があったというのも大きかったと思います。
学校卒業後、就職という選択肢はまったくなかったのですか?
学校を卒業したてで、自分自身がまだ全然固まっていないような段階で、どこかのブランドに就職したりすると、そこで影響を受けすぎてしまうんじゃないかなという気がして、それが少し怖かったんです。それなら、自分でブランドを立ち上げて、まだ他の人がやっていないことにチャレンジすることの方が、意味があるかなという思いがありました。
ブランド立ち上げ当時から明確なビジョンはありましたか?
それが楽しいという感情でも、逆に嫌だという思いでもいいのですが、とにかくそれに触れた時に無視だけはされない服を作っていきたいというのはありました。あと、当初はテーラードにこだわって企画していることもアピールしていこうとしていたのですが、立ち上げ当初は、話題の方が先行してしまい、純粋に服を評価してもらうのが難しいところがありました。だから、まずはとにかく多くの人に見てもらい、存在を知ってほしいという気持ちでやっていて、そのために何ができるかということを考えていましたね。


2010 S/S Collection
とはいえ、カラーレンジとしては黒が多く、どこか影を感じさせる世界観、テーラードへのこだわりなど、ブランドとしての個性は立ち上げ当初から一貫していますよね。
まず黒い服に関しては、もちろん自分自身が好きということもありますが、それ以上にいまの自分たちが表現していけるラインやパターンという部分をしっかり見てもらうために、あえて色を排除していったところがあるんです。うちのブランドは私とパタンナーのふたりでやっていて、コレクションの時でももっとスタッフがたくさんいる他のブランドと同じような作業を、少ない人数でやらないといけないんです。限られた人手で、まずは自分たちが表現できる部分に集中していくために、色やグラフィックなどは排除して、なるべくミニマルなものを目指していたところがありました。でも、最近は少しずつブランドのラインもできてきたので、カラーも徐々に入れていくようにはしています。
服作りの際にインスピレーションソースになるものを教えて下さい。
絵を見たり本を読んだりして刺激を受けることはもちろんありますが、しっかり咀嚼できないと、ただ圧倒されたり、支配されてしまうだけになってしまうんじゃないかという怖さもあるんです。だから、例えばある絵に刺激を受けたとしても、すぐにそれをコレクションに使うのではなく、自分なりに咀嚼してから出すようにしています。そういうこともあり、むしろ日常の中で人と話したり、街を歩いたりするなかで、色んなものを拾っていけるように心がけています。


2011-12 A/W Collection
お話を聞いていると、外からの影響をただ受け入れるのではなく、自分のフィルターというものをスゴく大切にされているように感じます。
例えば、ブランドを10年以上やって自分のスタイルがすでに確立している状態で、何かにインスパイアされた作品を発表するというのはスゴく説得力があると思うし、先輩方がそれをやっているのを見るとカッコ良いなと感じます。でも、私の場合は、まずはもっと自分のコアの部分を固めていかないとダメだと思っているんです。
自分のコアの部分を突き詰めていくことは大変な作業だと思いますが、行き詰ってしまうことはないのですか?
もの作りで行き詰まることはあまりないですね。以前に一度、ブランドとしての落としどころのようなものがわからなくなりかけて、行き詰まった時期はありました。例えば、自分たちがコレクションでやりたかったことをプレスリリースにまとめてお配りをすると、「今回のアグリサギモリはこういうコレクションです」ということが、メディアに出ていくじゃないですか。それを見たときに、「ここが本当に自分の落とし所だったのかな?」と考えてしまい、よくわからなくなってしまった時期がありました。
プレスリリースなどの言葉にまとめていく作業には、そうした危険性も伴いますよね。
そうですね。だから私たちは、なるべく言葉に支配されないように作っていきたいと思っているんです。スタッフとイメージを共有するために、仮のテーマを立てたり、参考になる小説などを読んでおいてもらったりはするのですが、明確なテーマを決めたりはせず、プレスリリースを作るのも、本当にショーが始まる直前だったりするんです。言葉に支配されてコンセプチュアルになりすぎないようには気をつけているし、集中して服作りに取り組んでいけば、最終的にはやりたかったこともにじみ出てくるのかなと思っています。


2011-12 A/W Collection
トレンドを意識することはありますか?
クリエーションの上ではあまり意識しないようにしていますが、普段の生活をしているなかで、自然に刷り込まれている部分はあると思います。でも、それを意識しすぎたり、数字の計算をしたりしながらトレンドを取り入れていくというのは、私たちがやることではないかなと思っています。とはいえ、自分自身の気持ちというのは常に動いていて、それもひとつのトレンドと捉えるのなら、そこには素直にいようと思っています。「これはアグリサギモリっぽくないからやめよう」とか、変な固定概念が生まれて、化石みたいなブランドになってしまうのはイヤだなと。
半年に一度新作を発表していくファッションのサイクルについてはどうですか?
基本的にファッションはそういうものだと思っていますが、例えば、これまで20数年間生きてきた経験のなかから生まれ出たものが、3ヶ月くらいで消費されてしまって、すぐに過去のものになってしまったりすることにモヤモヤすることはあります。そういう思いもあって、もっと長く使ってもらえるものとして「poesies」というステーショナリーラインを、ディウカというデザインチームの田中祟順さんと3シーズンくらい前から始めたんです。あと、ボシュプルメットというブランドでデザイナーをしているyu-yaさんとの「arcmacis」というコラボレーションラインもスタートしました。こちらはファッション、インテリア、食器など、色々なものを柔軟に作っていきたいと思っています。



「poesies」「arcmacis」合同展示会
自分のブランド以外のクリエーションをすることによって、どんなメリットがありますか?
先ほどの話ともつながりますが、自分の外にある要素をインプットしていくだけではなく、自分が洋服以外のクリエーションの場でアウトプットすることで得られるものもあるのかなと感じています。実際にそういうことをし始めたことで、洋服に対する変な重たさのようなものがなくなって、いまは良いコンデションで服作りにも取り組めています。最近は少しずつですが、自分のことを理解してくれている人たちと一緒にものを作ることもできるようになってきて、それによってブランドの間口も広がってきているような気はします。
ファッションのコミュニケーションとしての側面についてはどう考えていますか?
もちろん自己満足という部分も多少はありますが、基本的にファッションはコミュニケーションツールだと考えています。アートと違うのは、作る時に誰かを想像したりするところで、それがファッションの好きなところでもあります。ブランド立ち上げ時から着てくれているリピーターの方が結構多いのですが、それによって自信を持てているところもありますし、そういう人たちにファンで居続けてもらうための最大限の努力はしたいと思っています。「着られるものなら着てみろ」というような作り方はあまり好きではないんです。一着数万円もする洋服を買ってもらうというのはやっぱり簡単なことではないと思うし、そこに対してどれだけ思えるか、尽くせるかということは大切にしています。

2011 S/S Collection
ショーなどのプレゼンテーションに対する意識を聞かせて下さい。
以前は、ファッションショーをやった後に、テーマを聞かれたりするのが苦手だったんです。作ったもの自体よりも、私の考え方の方が大事にされている気がして。それで、プレゼンテーションムービーを作って、そこに私のインスピレーションソースを全部入れて、それを見て何を感じてくれるのかということを試してみたこともありました。最近は、その時々のコレクションで表現したいやり方を取り入れていければいいかなと思っています。ちなみに、来シーズンはショーはやらずに、パリと東京で展示会をする予定です。
パリでの発表も続けているようですが、海外での反応はいかがですか?
服を買ってくれるお客さんのうち、かなりの割合が海外の人なんです。一番初めにオーダーしてくれたのもロスのお店でした。パリには1シーズンに10日くらいしか滞在しないのですが、色々考えさせられることも多くて刺激的ですね。海外だと、「日本ぽい」と言われることもスゴく多いんです。そこは自分としては全然意識していないのですが、「メイドインジャパン」ということは大切にしていて、生地も工場もすべて日本でやっています。
最後に今後やっていきたいことなどを教えて下さい。
もちろんブランドを長く続けていきたいですが、あくまでもそれは買ってくれる人、着てくれる人たちがどう感じるか次第だと思っています。一生もの作りをやっていくつもりではいますが、少なくともファッションをやる以上は受け手がガッカリしないものを作っていく必要があるし、価値のないものを出してしまっては申し訳ないので、毎シーズン驚きと新しい美しさのあるクリエイションを発表していけるように日々努力し続けたいと思います。
Information
アグリサギモリ 2012S/Sシーズン 受注会
日程:11月15日〜20日
時間:12:00〜20:00
会場:BOX ISLAND 恵比寿
東京都渋谷区広尾1-16-3 ルモン広尾 1001号室
※一般来場者も招待状不要で入場可。


(左)10-11 A/W Collection、(右)09-10 A/W Collection













