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KATSUHITO ISHII | 石井克人 | Film Director

本作に出演した俳優たちが「ずっと石井監督の作品に出たかった」と口を揃える映像作家、石井克人。日本国内のみならず世界が注目する才能は、『闇金ウシジマくん』などで知られる漫画家・真鍋昌平の同名コミックをもとに劇場版長編映画『スマグラー おまえの未来を運べ』を完成させた。『鮫肌男と桃尻女』を彷彿とさせる世界観へ原点回帰しつつ、エンターテインメント性とクオリティ、そして作家性も兼ね備えたこの最高傑作が生まれた経緯を石井監督に聞いた。

Text:須永貴子

石井さんが原作とキャラクターデザインを担当したアニメーション『REDLINE』から、漫画原作の実写映画『スマグラー おまえの未来を運べ』を監督するまでの流れを教えてください。

流れ的には、『REDLINE』が完成したあたりから打ち合わせが始まりました。当時僕は、友だちや『REDLINE』のアニメーションスタッフから「鮫肌みたいなトーンの映画がまた観たい」と言われていたこともあって、アニメっぽさのある実写アクション映画の脚本を書いていたんです。だけど、規模が大きすぎて「無理だなあ」と思っていたところに、妻夫木(聡)さんで映画を作りたいという話をいただいた。予算があまりかけられないから規模が小さくてR指定でもいいけれど、えぐみのある映画にしてほしいという話だったので、「スマグラー」なら条件のなかで面白いものが撮れると思って提案しました。日常のなかに怪物を描けるストーリーを探してたんですけど、「スマグラー」はドンピシャでした。怪物に対峙する主人公を通して社会的なことも描けるし、怪物のビジュアル的な面白さも描けるし。

『REDLINE』をやったことで、アニメっぽさのある実写をやりたかったんですね。

はい。『スマグラー おまえの未来を運べ』のアクションシーンはすべて小池(健)監督にコンテを切ってほしかったんですけど、予算とスケジュールの都合上できませんでした。ただ、いちばん最後のアクションシーンで背骨(安藤政信)が壁や天井を逃げ回るCGは、原画を全部小池監督に描いてもらいました。「尺がそれほどないので、なんとかなりませんか?」とお願いしたら「いいですよ」と。

背骨の動きは人間を超越して強烈でした。本作におけるアクションシーンの位置付けはどういうものでしたか?

アニメっぽくやりたいというのと、背骨をある意味ヒーローとして描きたいという意図がありました。というのも、妻夫木さんが演じる主人公の砧と背骨の関係において、背骨の存在が大きければ大きいほど、クライマックスシーンでの砧のある行動で感動が生まれるから。逆に言えば背骨をちゃんと描かないと、話の推進力が生まれない。


脇役ですが、背骨が重要だったんですね。

そうですね。背骨に関してはギリシャ神話で神々が戦うようなイメージで描いてみようと思っていたんです。この映画には4つのアクションシーンがありますが、最初の背骨の戦闘シーンには仮編集の段階で『機動戦士ガンダムUC』のメインテーマ(※澤野弘之作曲。オーケストラによる壮大なオリジナルスコア)をつけていたくらいで(笑)。ゴジラやSF大作のように、ものすごく大きな空間で大男が戦っているイメージでした。だからスローをやってみたいというのもあった。スローに関しては、小池さんがポイントでスローを使うところも好きだったし、先輩である(中島)哲也さんが『告白』で多用したハイスピードカメラの映像がきれいでカッコ良かったという要因もあって使ってみました。

石井さんはこれまで、ハイスピードカメラを作品で使うことはありましたか?

映画ではたまに使いましたけど、こんなに多用したのは初めてです。フィルムのハイスピードカメラはロールをギャーッと回して撮るのでフィルムがとんだり、露出を計っても間違えたりと、性能的な問題から使いたくても使えなかったんです。『茶の味』では幸子のシーンで使ってみましたけど、やっぱり3回くらい撮り直すはめになりました(笑)。その場でチェックができないから、ポイントでしか使えなかった。でも、ファントムカメラ(デジタルのハイスピードカメラ)なら撮ったものをすぐに見られるし、何度も撮り直しができる。完成度の高いスローが、低いリスクで撮れるんです。

アクションシーンをハイスピードで撮る効果とは?

漫画やアニメみたいな感じが出ますよね。この作品は割とコメディというか、ちょっと笑える感じで撮りたかった。ツバが飛ぶ感じとか、白目になる感じとか、面白いなって。あとはスローで撮っているのに、その人の俊敏さが出る面白さもあると思いますし。


アニメーションの要素は主にキャラクターや作品の世界観の構築に反映されると思いますが、実写映画におけるアニメーション的な想像力をどう考えていますか?

もともとアニメが好きなので、実写をつくる際に、「アニメが好き」という自分の特性を活かさないことには、観ている人もぜんぜん面白くないだろうなと思うんです。その特性が作品に出て初めてつくらせてもらえるというのもあるので、そこは常に意識しています。今回はアニメーションは出てきませんが、小池さんに手伝ってもらってつくった背骨のアクションは、アニメ的なものが実写的にわりとうまくはまったかなという気がします。

漫画やアニメっぽさもありつつ、映画的なシーンもあり、その両輪がうまくかみあっている作品ですよね。そのために意識した部分はありますか?

漫画を読む感覚で映画を観てほしいなという意図はありました。今までだったら割と意味のない間を意図的に作っていたんですけど、今回はチャッチャカ観てほしかったので、CM的な編集をしました。余計な間や、役者さんの溜めをざっくり切ることで、とにかくストーリーを転がすことを心がけました。

本作では、背骨ともうひとり、ヤクザの河島のキャラクターが立っていると思いました。いわゆる敵役ですが、どんなことを考えましたか?

河島はいわゆる”ラスボス”ですし、後半に戦う相手なので、背骨以上にインパクトがないと面白くないなと思いました。背骨がスタイリッシュなので、河島はおしゃれじゃない感じ、土着的な感じにアプローチしたかった。原作でもふんどしを履いていましたし。髙嶋政宏さんは「この役は僕にしかできない!」とかなり喜んでいて、河島の役作りに必要なことを取材して、細かい部分まで提案してくれたんです。「それはおもしろい!」といろいろ差し替えました。

監督のイメージに、演者の工夫をプラスする?

そうですね。アニメーションは監督のイメージの再現ですけど、実写は監督だけのイメージで作ってしまうと、自分が観客の場合でも、いろいろと読めてしまってつまらないじゃないですか。ある程度、俳優に任せた方が、意外性のある面白いものになると思うんです。まずはポイントを描き込んだキャラクター画みたいなものを見せて、それをベースにキャラクターを作ってくれればいいなと思って。ただ、俳優やキャラクターによって、どこまで任せるかは変えます。こちらのイメージしたものをギチギチに演じてもらう場合もあれば、キャラクター画を無視して好きにやってくださいと丸投げすることもあります。


『スマグラー』の撮影は4週間という短期間で行われたとは思えないクオリティですが、苛酷だったんじゃないですか?

1日20時間くらい働いて、みんなボロボロでしたよ(笑)。「これじゃスタッフが死んじゃうよ!」とプロデューサーに訴えましたね。

石井さんはCMディレクターとしても仕事をしていますし、日本映画界にどっぷり浸かっているわけじゃない。だからこそわかる、日本映画界の問題点、改善すべき点はなんだと思いますか?

単館系で頑張ってきた、世界中にファンのいる監督たちが隅に追いやられて、テレビ局のディレクターばかりが映画を撮る状況とか、厳しいなあと思います。オリジナリティのある作品を世界に輸出したいと国として戦略化しているのに、いちばんお金を持っているテレビ局や大手の映画会社が「売れりゃいい」みたいな姿勢で、クリエイターをまったく後押ししないし、育てようとしていない。戦略と実体がまったく相容れていないんですよね。そもそも、国が何もしなさすぎ。政府が作った「クールジャパン」のCMって「エヴァンゲリオン」が使われているけれど、あれは誰からも一銭も助けてもらってない自主映画ですからね。国は、自分たちが何もしていないこと、後乗りしているだけということに気付いて、何ができるのかを考えていかなといけないと思います。


映画とCMの両方をやるメリットはどこにありますか?

機材と人間関係ですね。CMをやると最新の機材や技術にも詳しくなれるし、いろいろな役者にも出会える。スタッフに関しては、CGやアニメーション、特撮など、いろいろな人たちの得意不得意を知ることで、映画を撮るときに適材適所でお願いすることができる。基本的に、映画もCMもずっと同じスタッフとやっているので、一緒に経験値を上げていって、それを作品に活かすことができていると思います。

ちなみに、さきほどご自分の特性は「アニメーション好きが作る実写にある」とおっしゃいましたが、つまりそこが武器ですよね?

そうですね。多分ですけど、みんなそこを求めているんじゃないかなと思います。

ということは、サービス精神を持って作品を作っているんですね。

基本的に、喜んでもらわないと作っていて面白くないタイプなんです。ただ、『ナイスの森』なんかはサービス精神を忘れて好きなことをやりすぎちゃったかな、という作品なんですけど、海外に行くと、『ナイスの森』について熱く語る人が多くてビックリします。今回、「スマグラー」でトロント国際映画祭に行ったときも、だいたいみんなの好きな作品は『ナイスの森』『茶の味』『鮫肌男と桃尻女』なんです。「スマグラー」は単なる最新作扱いというか(笑)。本当に独特なもの、オリジナルなものを観たがっているんだなというのは、海外に行くと強く感じますね。


ところで、クエンティン・タランティーノ好きで知られる石井監督ですが、最近、他にも気になる映像作家はいらっしゃいますか?

ポン・ジュノとかかなあ。ポン・ジュノ先生は、全作スゴいです。ハズレなしという意味ではある種、宮崎駿先生に近いですね。画コンテを描いているわりには画コンテを感じさせない。それは(マーティン・)スコセッシ先生もそうで、それに比べると自分はまだまだ未熟だなと思います。あとはクリント・イーストウッド先生。基本的にテストもやらずにさりげなく回してカット、という撮り方をする。老練かつ、2〜3ヵ月であのクオリティの作品を撮っちゃう速さ。そこはすごく勉強になるというか、どうやったらどういう風に撮れるのかなと思います。

進行中の次回作はありますか?

大友(克洋)さんを中心に作っているオムニバスアニメ映画のうち1本の原作と監修をやっています。あとは、来年の春休みに“自主ドラマ”を撮る予定です。1話15分くらいの朝ドラ的なサイズをワンクール分、自主的に、『がんばれ! ベアーズ』的なノリで撮ってみようかなと思っています。

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