
JUN TAMUKAI | 田向 潤 | Video Director / Graphic Designer
可愛らしさと毒々しさ、2Dと3Dを巧みに織り交ぜながら、膨大なカットとモチーフが目まぐるしく展開していくきゃりーぱみゅぱみゅのデビューシングル「PONPONPON」のミュージックビデオ。国内外を熱狂させたこのめくるめく”きゃりーワールド”を演出したのは、先日CAVIARから独立した映像ディレクター、田向 潤だ。CAVIAR時代には、tamdem名義でユニットとして活動していた彼は、今後いかなる作品で人々の目を楽しませてくれるのか? 映像業界期待の新鋭を取材した。
Text:原田優輝
映像に興味を持つようになったのはいつ頃からですか?
もともと美術の授業などで絵を描くことが好きだったので、大学進学の時に美大を受験したんです。スタートが遅かったこともあり2浪をしたのですが、結局美大のグラフィックデザイン科に入りました。映像とは直接関係のない学科だったのですが、少しだけ映像の授業もあって、そこで面白いなと思ったのが最初です。でも、基本はやはりグラフィックだと思っていたので、卒業後は広告のデザイン会社で2年間デザイナーとして働いていました。ただ、デザイナーをやっているうちに、本当は映像がやりたかったのかもしれないと思い、デザイン会社を辞めてキャビアに入りました。そこから本格的に映像を作るようになりました。
キャビアに入った時点では映像制作のノウハウはほとんどなかったのですか?
After Effectsの基本的な仕組みや、Final Cutの使い方がなんとなくわかる程度でした。あとは、音とリンクするような映像を作りたいという漠然とした思いだけがありました。ケミカルブラザーズの「STAR GUITAR」やオウテカの「Gantz Graf」のミュージックビデオを見た時に、それぞれ表現は違うのですが、音にハマっている映像という点では共通していて、それに衝撃を受けたんです。自分もそういうものを作りたいという思いがあったんです。


KAN TAKAGI 「T.I.M.E」Feat. スチャダラパー , VERBAL and LUPE FIASCO
Directed by tamdem
キャビアでは出村拓也さんとともにtamdemというユニットとして活動していましたよね。
はい。ふたりは同じ年齢なんですが、キャビアに入ったのは出村の方が先でした。僕がキャビアに入って少し経った頃に、ミュージックビデオの仕事が会社に来て、それをふたりでやってみればということになったんです。高木完さんが、スチャダラパー、VERBAL、LUPE FIASCOをフューチャリングした「T.I.M.E」という曲だったのですが、そのミュージックビデオをCGで作りました。それを納品する時にディレクター名を決めようということになり、社長(中村剛氏)の提案でtamdemという名前が決まったんです。
tamdemではCGを用いた作品が多かったように思います。
そうですね。もともとグラフィックをやっていたので、映像自体をデザイン的な視点で捉えて作るところがあるので、そういう意味でCGは向いていたのかもしれません。ただ、予算的な問題でCGにせざるを得ないことも少なくなかったし、自分の中ではCGと実写の区別が特にあるわけではないんです。でも、今となってはCGができることは強みになっているなとは思います。例えば、撮影であまりうまくいかない部分が出てきた時に、後でCGを足そうということをその場ですぐに判断できたりするので、それはディレクター兼CG担当の良い点だと思います。あと、先日撮影したきゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんの「PONPONPON」なんかでも、あの分量のCGはなかなか外注できないんですね。イメージを伝えることも難しいし、思いつきでどんどん作りながら考えるということは自分でやるからこそできることですからね。
きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」
この作品以降独立して活動をされていますが、ユニットでやっていた頃とひとりでやっている現在で、何か変化はありますか?
ふたりでやる場合、もうこれ以上アイデアが出ないというところまでひとりで考えたとしても、その後にふたりで話し合うと、自分の中にはなかった新しいアイデアが出てくるんです。単純に作業量も倍になるし、現場などでも何かと便利でした。一方で、ひとりでやると、良くも悪くもアイデアが削られずに尖ったまま形になるんですね。「どう考えてもそれおかしいだろ!」とツッコんでくれる人がいない分、うまく転べば突出したものになる。どちらにも良い面と悪い面の両方があると思います。
きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」のミュージックビデオは国内外で大きな話題になりましたね。
海外でもこんなに反響があるとはまったく予想していませんでした。ドリフネタなんかも入れてますからね(笑)。最初にオリエンを受けた時に、ダンスを入れたいということなどいくつか要望はあったのですが、それ以外は自由に作ってほしいという話でした。この作品に限らず、僕はミュージックビデオというのは、あくまでもアーティストの作品だと思っているんですね。もちろんディレクターたちががんばって作っているわけですが、ファンは特に僕らの存在を意識するわけでもないだろうし、ミュージックビデオもミュージシャン本人が作っていると思っている人も多い気がするんです。だから、そのミュージシャンが作ったものとして見られた時にも恥ずかしくないもの、ファンをがっかりさせないものを作る責任がディレクターにはあるのかなと。特にきゃりーちゃんのデビュー曲だったし、個性が強い子だったので、なるべくそれを出せるような企画を考えていきました。

きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」
アーティスト本人ともコミュニケーションを取りながら作っていったのですか?
そうですね。演出コンテを見せた段階で、きゃりーちゃんの方からも色々アイデアを出してくれて、それも採用しながら撮影していきました。もちろん、要所要所では決まった演出があったのですが、あとはフリー演技という感じで撮影をして、後でCGを作っては乗せてみてということを繰り返して作っていきました。カットごとに違うCGを入れていくことは決めていたのですが、スゴいカット数に大量のCGが乗ってくるというのはやりすぎかな、という不安も少しありました。見ていて不快になるようなレベルにはしたくなかったんです。でも、ここまできたらもうやるしかないみたいな感じでしたね(笑)。
この作品では実写とCGがミックスされていますが、両者の関係はどのように考えていますか?
CGと実写を混ぜる際に、基本的なポイントになるのは、違和感なくその空間にCGがあるように見せたりとか、両者をうまくなじませることだと思うんです。そのなじませ方もデザインだと思っていて、例えばあえてなじませないようにしたり、空間や光の陰影を無視したりすることも、効果的にやれば面白くなるんですね。CGというのは、長い間リアルであることを求められ続けてきましたが、ここ最近はまた違う方向に向かっていますよね。それでもCGは映像を作る道具としてスゴく面白いし、無限の可能性があるので、実写との絡み方というのもまだまだ色々あるだろうと思っています。

T.M.Revolution 「FLAGS」 Directed by tamdem
あえてCGをなじませないという話は、ある種の違和感を作ることでもあると思いますが、そうした要素も田向さんの作品のポイントになっている気がします。
そうですね。ファンの人たちが、サラっと流して見てしまうようなものにはしたくないし、あまりにもそのアーティストらしくなり過ぎてしまっても良くないと思っていて、バランスは意識していますね。もちろん、その違和感がマイナスに働いてしまっては良くないのですが、いつもと少し違う部分を表現しつつ、それがそのアーティストにとっても新しいステップになるような映像にしたいと考えています。きゃりーちゃんの場合も、普通の可愛い子という見せ方にはしたくなかったし、本人のキャラクターも強いので、「見た目は可愛いけど、この子なんなの?」みたいな突き抜けた感じを出したかったんです。さらに、それをずっと見ていられるようなビデオドラッグ的な映像にしようと。
たしかに次から次へと現れるモチーフやモーションをいつまでも見続けてしまうような作品ですね。
動きの気持ち良さというのもデザインだと思うんです。いま思い返してみると、子供の頃に見ていたアニメや、ファミコンなどをしていた頃に記憶に刻み込まれた絵の動き方のようなものが、自分のモーショングラフィックスに生かされているなと感じます。当時のテレビアニメにしても、ファミコンにしても、予算やスペックなどの制限があるなかで、工夫してカッコ良い動きを作っているんですよね。アニメーターの金田伊功さんなんかも、枚数をたくさん描くのではなく、あえて描かないことでカッコ良い動きを作っていて、そういう作り方に惹かれるところがある。例えば、四角い図形が2点間を1秒間で移動するというアニメーションだけでも、無限にバリエーションを作れると思うんです。その中から、シーンに最も合ったカッコ良い動きや気持ち良さを出していくことが、金田さんはスゴくうまい。僕も、音の決め所に合わせて、そうした気持ち良い動きを作れるといいなと思っています。そのために、何度もトライアンドエラーを繰り返しながら、音色や音の強さに合わせたキーフレームのグラフを作るようにしています。
他に最近手がけた作品についても話を聞かせてください。
School Food Punishmentのミュージックビデオを作りました。企画書には「サイバーパンク・シャーマニズム」というフレーズを書いたのですが、楽曲自体が困難に立ち向かっていくというような内容だったんですね。僕の中で困難というのは、正体不明のよくわからないものというイメージがあるのですが、昔の人たちは、そういうものに立ち向かうために儀式などをやっていたところがあると思うんですね。実際にそうした儀式というのは、超自然的な力を求めるだけではなく、みんなで団結して何かひとつのことをやるということ自体に意味があったんだろうなと思っていて、そういうイメージを表現することを心がけました。作品の中で出てくるLEDは、コマデンという会社が独自に開発したパネルを使っていて、音と同期するように事前に僕の方でシミュレーションをしながら光のパターンを作りました。

School Food Punishment「How to go」
きゃりーぱみゅぱみゅの新作も公開されましたね。
ふたつあるのですが、ひとつは、参加者と一緒にミュージックビデオを作るというワークショップを通して作った作品「きゃりーのマーチ」です。ワークショップに来た人たちの勉強にもなるような内容にして、なおかつクオリティも保たなくてはいけないので、なかなかプレッシャーが大きかったですね(笑)。もうひとつは、ファーストシングル「つけまつける」のミュージックビデオです。1本目が強烈なものだったので、2本目も同じ色味や方向性の映像にしてしまうと、きゃりーちゃんのイメージが固まってしまう気がしたので、「PONPONPON」とは真逆の方向性を目指しました。きゃりーちゃんが女王という設定で、デコラティブだけどシックな洋服を着て玉座に座り、2体のライオンに命令をしていくというような内容です。背景はCGで次から次へ変わっていきます。シンメトリーな構図で見せていくというのもポイントでした。
最後に、今後やってみたい表現などがあれば教えて下さい。
ミュージシャンのライブ演出などをやってみたいですね。VJなどをやると感じるのですが、その場限りのライブの映像というのは、ミュージックビデオとは全然違うものなんですね。そうしたライブの場での映像の演出はもっとやりたいと思っています。あと、いまもやっていますがグラフィックデザインも好きなので、そういう仕事も続けていきたいですね。技術的な部分では、4D Viewsを使った撮影に興味があります。専用のスタジオで人物がパフォーマンスをすると、それを周囲に設置してあるたくさんのカメラが全方向から撮影をして、フレーム毎に3Dモデリングしてくれるんです。これを使うと、もはや現場のカメラワークは関係なくなって、後でいくらでも調整ができてしまうんです。日本では使われた事例がまだあまり多くないのですが、これを使うと表現の幅がスゴく広がると思うので、いつか使ってみたいと思っています。
きゃりーぱみゅぱみゅ「つけまつける」
きゃりーぱみゅぱみゅ「きゃりーのマーチ」












