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MAKOTO TANIGUCHI | 谷口真人 | Artist

リアルとバーチャル、三次元と二次元、物質とイメージなどの間に生じる「距離感」をテーマに据え、アニメ少女のモチーフを独自の手法で表現したペインティング・シリーズなどで注目を集めるアーティスト・谷口真人。SNSなどの普及により、リアルとバーチャルの関係性を従来のように二項対立で語ることが難しくなったいま、彼の取り組んできたテーマの重要性がより際立ってきていることは、誰の目にも明らかだろう。激変する時代の変わり目を生きてきた世代だからこそ表現できるリアリティは、いま何を訴えかけるのか? 1月28日まで、清澄白河・sprout curationマーリン・マリノとの二人展「Daughters of the Lonesome Isle 」を開催中の彼に話を聞いた。

Text:原田優輝

アーティストとして活動をしようと思ったのはいつ頃からですか?

もともと大学ではデザインを専攻していて、映像やWeb、編集などアートとは全然違うことをしていました。その後、大学院では芸術系の学科に進み、そこからアート作品としてものを作り始めるようになりました。ひとつのきっかけは、アーティストの落合多武さんの作品を見たことで、その時に初めて現代アートというものを知ったんです。それまでは、いわゆる近代美術しか知らなかったので、知的な遊びの要素も多い現代アートの世界に興味を持ち、勉強をするようになりました。

アートやデザイン以外に興味を持っていたものはありましたか?

2、3歳の頃からアニメが大好きで、ずっと見ていました。自分の世界の捉え方などには、その頃の体験が大きく影響を与えていると思います。当時は、女の子向けの魔法少女ものをよく見ていましたね。実際の女の子よりも先に、アニメのキャラクターと接していたこともあって、生身の人よりもキャラクターの方が自分の中では存在感があったし、今でも色んなものを記号的に捉えてしまったり、アニメの影響は大きいですね。それは作品にもある程度反映されていると思います。

現実世界と仮想世界の間に生まれるギャップや違和感が、谷口さんの創作の大きなテーマになっていますね。

アニメキャラクターや、現実世界と仮想世界という話に限らず、そういったギャップというのは、おそらく多くの人が何かしらのかたちで感じているものだと思うんですね。今であれば、ネット環境におけるコミュニケーションなどでそうしたギャップを感じることが多いと思うのですが、それを具体的に言葉にするとすれば、「距離感」なのかなと最近は考えています。例えば、インターネットだったら、TwitterやFacebookのインターフェースがあって、その先に人が存在しているという感覚がありますが、そういう状況における物理的なものではない「距離感」というのが、表現をする上で僕にとってとても重要なものです。

その「距離感」にはどんな感情が伴っているのですか?

儚さや脆さ、弱々しさという感覚が自分の中にはあります。それは「リアルな人間にどれだけ存在感があるのか?」という問いにつながっています。大学のデザイン科にいた2004年当時に制作した僕の原点とも言える映像の作品があるのですが、ここにその「距離感」や「存在感」といった今に通ずるテーマがすべて集約されているような気がします。これは、会場に書かれた電話番号に来場者が電話をすると、設置された受話器から呼び出し音が聞こえて、壁面に投影された等身大の女の子が電話に出ようとするのですが、プロジェクターで投影された像にすぎない彼女は当然いつまで経っても受話器に触れることができない、という作品です。さっきまでコミュニケートできていると思っていた存在は一体なんだったのか? と感じる一方、受話器を取れないでもがいているキャラクターに再び感情移入してしまうという状況を作りたかったのです。


その後、インターネットが普及し、SNSなどが広まったことで、谷口さんが追求してきたテーマも、より多くの人が明確に感じ取れるようになったと思います。

この作品を作った当時は、特にインターネットのことを意識していたわけではないのですが、普通に生活しているなかで、現実感がなくなっていく感覚や、他人の存在のあり方が変わりつつあるような感覚があったんですね。実はこういう感覚というのは、ネットが普及する前からうごめいていたものだと思うんです。そういう感覚を表現しようと思って作った作品だったのですが、ネットが普及したことで、それがより際立ってきたところはあると思います。

現実感が喪失していく感覚を否定的に捉えるのではなく、自然な状況として受け入れた上で問題提起していく姿勢は、80年代生まれの谷口さんの世代により顕著な特徴なのかもしれないですね。

目の前にそういう状況があれば、それを受け入れて生きていくしかないというところに立っているところはありますね。例えば、僕はアニメ好きですが、そうした二次元の世界に感情移入してきたいという欲求があるわけではなく、あくまで全部ひっくるめて現実の一側面として捉えていきたいです。

そうした感覚が反映されているのが、アニメの少女キャラクターをモチーフにしたペインティング・シリーズだと言えそうですね。

冒頭でも言いましたが、かなり小さい頃からアニメを見ていたせいか、キャラの方が生身の人間よりも自分の中では存在感が強いということが多々ありました。もちろん生身の人間とキャラクターは別物ですが、存在感という点で考えるとそういうことがあった。このシリーズは、先にお話しした映像作品の後に作ったんですが、問題意識は引き継がれています。アニメキャラクターの絵を始めに描き、それをどんどん繰り返していくと絵の具の厚みが増し、こちらの意に反してそのキャラクターが物質になっていってしまうという想像上のパフォーマンスが元になっています。せつなさや儚さと共に、どこか現代の人間存在の現実感を考えさせることにつながっているような。そういう感覚を持つ現代人たる私の自画像のような要素もあるのかもしれません。この作品は自分にとってここで話したような様々な物事や感情や幼少期の記憶を思い起こさせるとても複雑な作品に思えます。

今回展示されているラメで作られた新作についても聞かせてください。

去年の夏に動物園に遊びに行った時にホームビデオで撮影した映像のキャプチャ画像を、透明な糊でキャンバスに印刷して定着させ、その上からラメを振りかけ、像を出現させています。絵に近いところでは見えづらいのですが、少し離れたり、斜めから見たりすることで像が見えてくるんです。自分にとってこの夏の思い出はとても楽しいものだったのですが、日本全体には震災以降の非常事態という状況がありました。自分にとってそれはどちらも現実であるはずなんですが、そのふたつが非常に乖離したものに感じられ、混乱していました。空はこんなに青く晴れわたっていて、自分には幸せな時間があふれているのに、一方ではとてもひどい事が今も起こっている。崩れた現実を作り直すのに必死でした。そんな中、自分が生きている毎日に”今、この瞬間”というものがあるのだということに、生まれてはじめて気づきました。それは、自分にとって唯一確かな現実だと信じるに足るものでした。そしてそれは記憶として私のうちに残り、生きていく足場となる大切なものだと感じました。しかし、そうして見つけた現実は、美しく光り輝いて見える一方で、自分以外の人間にとっては捉えどころのない、とてつもなく脆くはかないものにすぎないのだと思いました。自分にとっての現実。他人にとっての現実。この作品でそのふたつを表現しようと思ったんです。


アニメ少女のペインティング・シリーズ同様、個人的に大切なものとの「距離感」がテーマになっているようですね。

誰もが持っている「自分にしか見られないもの」というのを、どう表現して伝えていくかということは常に考えていますね。一方通行なものではない、作品と作家の関係性、作品と見る人の関係性を考えていきたいと思っています。

話は変わりますが、谷口さんはいわゆるホワイトキューブのギャラリーではない場所での展示にも積極的に取り組んでいますね。

そうですね。ランプハラジュクという洋服屋さんでリトゥンアフターアワーズの山縣良和さんと一緒にウィンドウで展示したり、その前に個展をしたSUNDAY ISSUEも現代アートのスペースではないです。美術だけでなく、例えばデザインやファッションに興味を持っている人たちが見ても何かしら意味があるものにしたいという思いから、こうした場所で発表したところがあります。 僕は、いまある問題に向き合うためのリアリティを持っているという意味で、日本人にとっても救いになるような表現ができたらと思っています。だから、色々な人に見てもらうことで、自分の作品がそういう存在になり得りうるかどうかということを知りたいという思いもあるんです。

最後に、今後チャレンジしてみたいことなどがあれば教えて下さい。

これからはもっと作品と見る人の接触点を増やしていきたいと思っています。例えば、キャンバス画などのタブローというのは、壁画などと違って持ち歩けるものであるにも関わらず、実際に多くの人は壁にかけてある状態で鑑賞します。それでは、絵画というものが持っている可能性の一側面しか生かされていないように感じます。作品を見る場所や行為の意味でもまだ色々と可能性があるのではないでしょうか。作品自体のテーマが大きくブレることはないと思いますが、そうした作品の見せ方や活動の方法などもっと色々考えていきたいですね。



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