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Film『アイム・ノット・ゼア』 | アイム・ノット・ゼア Review

20世紀を代表するアーティスト、ボブ・ディランの伝記映画『アイム・ノット・ゼア』。2時間そこらの映画では、語り尽くすことが到底不可能とも思えるこの“生ける伝説”を描くために、トッド・ヘインズ監督が挑んだアプローチは、誰もが想像しなかった驚くべきものだった—。

Text:原田優輝

これまでに、ボブ・ディランをテーマにした映画は数多く企画されてきたが、本人の許可が下りることはなく、ドキュメンタリー作品を除いては、映画化が実現したものはなかった。
今回、そのディランをついに頷かせるに至った『アイム・ノット・ゼア』は、俊英トッド・ヘインズ監督が、ディランの人生におけるそれぞれの局面を体現するキャラクターたちを、女優(!)ケイト・ブランシェットを含む6人の俳優たちに演じさせるという前代未聞のアイデアから生まれた作品だ。

「詩人」「無法者」「映画スター」「革命家」「放浪者」「ロックスター」というディランの6つの「顔」が、時間を超越し、ひとつの物語のなかに混在するという設定を通して、観客はディランが歩んできた波乱に満ちた道のりと多様性を追体験することになる。そして、ストーリーの進行とともに、徐々に立ち上がってくるボブ・ディランという人間の核心—。

この作品が秀逸なのは、ひとりの偉大なクリエイターの本質に迫っていくことで、図らずも、個人の枠を越えた「ひとりの人間の人生」というものが、いかに変化に富んだものであるかということを、如実に物語っているところにあるように思える。
人生のある場面に立ち会った時、「もしあの頃の自分だったら…」という考えを巡らせた経験は、きっと誰にでもあるはずだ。
「あの頃」の自分と「今」の自分—。そこには果たしてどれほどの違いがあり、その「変化」は何によってもたらされたものなのかー?

アーティストの「伝説」に頼るばかりで、創造性に乏しい伝記映画が蔓延するなか、斬新なアプローチで文脈を塗り替えようとする本作は、観客のイマジネーションをどこまでも広げてくれる傑作だ。


アイム・ノット・ゼア
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