
Film『空気人形』 | 空気人形 レビュー
ある日突然、心を持ってしまった人形が抱く様々な感情や葛藤を、「人間と人形」「生と死」「エロスとタナトス」といった対比とともに描いた是枝裕和監督の最新作『空気人形』。リアリズムを追求してきたこれまでの是枝作品とは趣きの異なるファンタジックなラブストーリーに仕上がっている。
Text:原田優輝
長編2作目の「ワンダフルライフ」(99年)以降、オリジナルストーリーにこだわってきた是枝監督。そんな彼を「原作もの」に向かわせたのは、『自虐の詩』などで知られる業田良家による短編集『ゴーダ哲学堂 空気人形』に収録されたわずか20ページの小品だ。心を持ってしまった空気人形が、自分が好きになった男性に息を吹き込まれるというシーンに、映画的な表現を強く感じたことがきっかけだという。
本編でも、棚から飛び出たクギに手をひっかけ、身体から空気が抜け出てしまう人形(ペ・ドゥナ)に、レンタルビデオ屋の店員・純一(ARATA)が息を吹き込んでいくまでの描写は、最も印象的なシークエンスとして記憶に残る。「息」を介したメタファーとしてのセックスを描き、これまでの是枝作品では見られなかった性的表現に挑んだこのシーンには、何もかも自己完結できる現代社会にありながら、満たされない思いを抱えて生きる人々の孤独感を重ね合わせることもできるだろう。
物語は、古びたアパートで暮らす秀雄(板尾創路)と、彼の同居人兼性欲処理の”代用品”である空気人形のやり取りから始まる。ある朝、突然心を持つことになった空気人形は、外に飛び出し、世界の美しさを体感する。そして、満たされない心を持つ様々な人々とすれ違うなかで純一と出会い、先のシーンを経て、恋に落ちる。その日以来、”一回限り”の人生を生きることを決意した彼女は、心を持ってしまったがゆえに抱く複雑な感情に揺れ動いていく。
そんな空気人形に違和感を抱きながらも、受け入れていく純一や、彼女を取り巻く登場人物たちは、日々の生活に空虚感を覚えながら生きる現代の都市生活者の姿そのものだ。そんな彼らを、是枝は否定も肯定もせず、優しく見つめながら、一遍の美しい映画を紡いでみせた。その寓話的な世界観は、これまでの是枝作品にはあまり見られなかったものだ。だが、その背景には、彼が一貫して追求してきた「人と人とのつながり」を見つめる眼差しが強く感じられる。
また、空気人形の繊細な感情を巧みに表現するペ・ドゥナの演技、常に動き続けるリー・ピンビンのカメラワーク、ワールズ・エンド・ガールフレンドのサウンドトラックなどが、この物語をよりいっそうエモーショナルなものにしていることも、最後に付け加えておきたい。
『空気人形』は、9/26よりシネマライズ、新宿バルト9ほか全国ロードショー。
是枝監督のインタビューは、INTERVIEWページで間もなく公開予定!!

Information
『空気人形』
監督・脚本:是枝裕和
原作:業田良家
主演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路
配給:アスミック・エース
2009 / 日本
(C)2009 業田良家/小学館/『空気人形』製作委員会














