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Film『シルビアのいる街で』 | シルビアのいる街で Review

女は終わった恋を振り返らないが、男は過去に愛した女にいつまでも囚われるー。
そんな通説を思い出さずにいられない映画が、この『シルビアのいる街で』だ。フランスのドイツ国境に面した街ストラスブールを舞台に、この地で6年前に会った女性シルビアを探して彷徨う青年の、その眼差しがカメラの動きとなって浮遊する。そして観客は、その視線の動きを疑似体験する。

Text:須永貴子


青年はまず、オープンカフェでビールを飲みながら、他の席に座る女性たちを眺め、黙々とスケッチをし続ける。映画時間にして20分。そして〈シルビア〉を発見し、これまた20分間にわたり、彼女の後を尾けていく。
とにかくハンサムな青年と、石造りの美しい古都・ストラスブールのロマンチックな風体にごまかされがちではあるけれど、これは単なるストーキングである。しかも、物語が進むにつれて、〈シルビア〉は本当に存在したのか? この青年はこんなにハンサムなのに、なぜ〈シルビア〉にそんなに囚われているのだろうか? というモヤモヤが沸いてくる。

それにしても、人の視線に自分を同一化させるという体験が、これほどまで飽きないことに驚いた。もちろん多くの人にとってこの作品は、過去の忘れられない誰かを思い出す装置になるかもしれない。しかし筆者にとってこの作品は、見知らぬ街をひとりで彷徨う旅人の感覚を追体験する装置として機能した。

カフェで語らう人々、街中の家具屋、アパートの窓に干された洗濯物、路地を歩く家族連れ、仕事に向かうために路面電車に乗る人々など、その街で生活している人々やその気配を目にするたびに、旅人だから感じられる心地よい孤独が体内に喚起される。
音響デザインもまた、〈シルビア〉を尾けるときは彼女の足音が大きく響き渡り、街の雑踏にも不自然に強弱が付けられてと、青年の心情を表現するものとして、意図的にコントロールされている。それもやはり、旅先で聴覚が鋭敏になるあの感覚を思い出す。
 
監督は、これが日本初公開作となるスペインのホセ・ルイス・ゲリン。ドキュメンタリーのように見せかけた、緻密に計算されたフィクショナルな世界に、観客の感覚を引きずり込む相当なテクニシャンである。そしてこの映画は、冒頭に掲げた通説が指し示す青年の偏執的な視線をフックに、〈映画は旅に似ている〉という本質を表現している。



シルビアのいる街で
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