loading...

PUBLIC-IMAGE.ORG

Creators Dictionary for Realtime Culture

  • PUBLIC-IMAGE.STORE
  • PUBLIC-IMAGE.3D

Film『ソフィアの夜明け』 | ソフィアの夜明け Review

日本では、なかなか劇場公開されることのないブルガリア映画。監督や俳優の名前を挙げられてもピンとくることはほぼないだろう。そんなブルガリア映画から、第22回東京国際映画祭(09年)で最優秀男優賞、最優秀監督賞、そして最高賞のサクラグランプリを受賞した『イースタン・プレイ』が、『ソフィアの夜明け』とタイトルを変え、劇場公開される。

Text:須永貴子


伏し目がちにタバコを吸う姿。長い手脚を持て余しながら猫背気味に街を歩く姿。上半身裸でジーンズを腰履きし、ベランダにたたずむ姿。本作の主人公イツォを演じたフリスト・フリストフは、監督の古くからの友人だという。監督はアーティストとして活動をするフリストフと数年ぶりに再会した際に、フリストフがいかに人生に絶望しているのかを知り、彼にインスパイアされて本作の脚本を執筆。主役のイツォ役を本人にオファーすると、フリストフは快諾したという。台詞などなくても、ただそこに居るだけで観客を魅了するフリストフ。彼自身に備わったポエティックな反骨に由来する存在感は、職業俳優には絶対にかもせない。

映画はとてもシンプルだ。画家として成功するという夢をほとんどあきらめている兄イツォ38歳と、親への反発からギャングに片脚をつっこんでいる弟ゲオルギ17歳。明るい未来を思い描けずに苦しんでいる兄弟が偶然、数年ぶりに再会する。そのことがきっかけとなり、少しだけ晴れ晴れとした表情になってエンドロールを迎えるというストーリー。映像はスローモーションや細かいカット割りをせず、ソフィアの風景も、家族の食卓も、暴力も、ドキュメンタリーのように、ありのままをカメラが捉えていく。
ドラッグ中毒でメタドン治療中のイツォは、朝からビールを飲むような生活をしており、自分に夢中の恋人に対しても愛情はほとんどないように見える。彼はあるきっかけで出会ったトルコ人女性ウルシュに惹かれていき、彼女の前向きなエネルギーによって、忘れていた何かを取り戻していく。

わずか2時間弱の作品なのに、登場人物の過去と未来を濃密に感じさせてくれる本作。回想シーンもなければ親切な説明があるわけでもない。それなのに、イツォが「どんな思いで生きてきたか」「どんな気持ちで未来に向かうのか」が手に取るようにわかるのである。
イツォは絶望から抜けだした。この映画に出演したことで、フリストフも抜け出すはずだったことは作品の出来映えから明らかだ。しかし、映画のクランクアップ直前にフリストフは、不慮の事故で死んでしまった。この悲劇が皮肉にも、ブルガリアから届いた青春映画の傑作を伝説化する。


Information

RELATED